平成19年12月
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)政策企画委員会

1.大学等を取り巻く環境と機構の学生生活支援事業の在り方

(1) 高等教育機関の現状

我が国の18歳人口は平成4年度をピークに減少し、平成19年度における大学・短期大学進学率は53.7%で、過去最高に達している。ユニバーサル段階の 高等教育が実現している中で、大学、短期大学及び高等専門学校(以下「大学等」という。)に在籍する学生の能力、適性、知識、興味、関心などが多様化・複 雑化している。
 また、就業構造の変化や技術革新等の進展などに伴い、社会人の再教育に対する需要が拡大し、特に大学院レベルにおいては、様々な経験・経歴を有する幅広い年齢層の社会人学生も増加している。
 大学等を取り巻くこのような時代的背景から、今後は個人が自己啓発を図りながら、より一層豊かな人生を送ることを目指して、多様な生涯学習の需要が高ま る傾向にあることなどもあり、誰もがいつでも自らの選択により学ぶことができる高等教育の「ユニバーサル・アクセス」の実現が求められている。
 以上のような状況から、今日の大学等には多様な学生が在籍し、その学習・生活面に関する実態やニーズも多様化・複雑化している。一方、現代の学生に多く 見られる傾向として経験や価値観も異なる学生同士がお互いに触れ合い、刺激し合うことができる多様な体験の場がキャンパスにあるにもかかわらず、クラブ、 サークル活動などの集団生活を避け、趣味やアルバイトなどの個人的活動を重視する傾向にある。
 さらに、高度情報化社会の急速な進展が生身の人間関係を希薄化させる一つの要因とも重なり合って、相談相手がいない学生や他者とうまくつきあえない学生などが増加傾向にあり、大学等では学生相談件数も増え続けている状況にある。

(2) 学生生活支援事業の在り方

このような状況の中で、大学等では、学生に高い付加価値を付けて社会に貢献できる人材を養成するという大きな役割を担って、その実現に向けて様々な取組が 行われている。例えば、学生の意識に関するアンケート調査や学生による授業評価などの実施、修学環境の改善、学生支援に関する教職員の意識改革、学生相談 に関する教職員のスキルの向上など、多様な取組を展開している。
 このため、日本学生支援機構(以下「機構」という。)は、次代の社会を担う豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資するため、大学等の学生等に対す る支援業務をリード・サポートする中核機関として、社会の変化や時代の要請、大学等における修学、相談、就職等の実態などを的確に把握・分析し、大学等の 学生支援担当教職員に対する研修や学生支援情報の収集・提供に関する学生生活支援事業の一層の充実を図り、その役割を十分発揮することが必要である。
 また、機構は、大学等における学生支援機能の充実を図ることを目的とした各種学生支援に関する活動の推進についても、国及び関係機関とより一層連携して 支援していくことが求められる。文部科学省が実施する「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」の審査及び評価業務に機構が関わることも、大学 等の学生支援に関する業務に対し有意義なものである。

2. 学生支援担当教職員に対する研修

大学等に入学してくる学生が多様化する中で、友人関係、学習、就職、心理・性格などについての悩みを抱える学生が年々増えている。また、学習意欲が減退し て学業不振、不登校、休学する学生も少なくなく、学生の学習・生活の両面にわたり多様な相談対応、そして量的増加が大学等の課題となっている。
 このような状況を踏まえ、大学等においては、学生相談センター、キャリアセンター等の専門組織を設置するほか、きめ細やかで丁寧な学生対応ができるようクラス担任制、オフィス・アワー、ピアサポート等の支援体制を充実し、学生の様々な悩みや問題に対応している。
 特に「学生中心」の大学等づくりを目指すという観点から、学生と接する機会が多い教員や学生支援を担当する事務職員には、学生支援全般に関する意識改革 がこれまで以上に求められている。加えて、大学等の人的資源の活用という面から、学生に適切な指導や助言ができる専門的な知識・能力を備えた人材の育成が 必要となっている。
 このため、機構は、次のような取組等により、大学等の学生支援を担当する教職員の知識や技術等の習得によるスキルアップに、より一層寄与していくことが必要である。

(1) 研修の質の向上への検討

現在行っている研修事業については、学生や大学等の現状やそのニーズに応じたテーマを設定するとともに、研修のカリキュラムやシラバス等の改善を図ってい くことが必要である。また、一方で、研修事業を効率的・合理的に実施することが求められており、現在行われている研修分野を基盤としつつ、重点化を図るこ とも必要である。
 このため、研修会等における参加者からのアンケート結果をはじめとして、大学等におけるニーズを十分に把握した上で、外部の有識者等を含む委員会を設置し、研修の質の向上に向けた検討を行うことが必要である。

(2) 研修への参加促進と成果の提供

研修への教職員の参加を促進するためには、ホームページで提供する研修情報を一層充実させることや、機構の業務に関する大学等への説明会、機構が実施する 各種研修会など可能な限りの機会を活用し、機構が実施する研修の必要性について、大学等の理解を深めていくことが必要である。
 また、研修成果を取りまとめた報告書は、情報の共有化のため、研修に参加できなかった大学等に対しても、個人情報の保護、並びに研修会等の運営にも配慮の上、ホームページ等で速やかに情報を提供することが求められる。

(3) 研修企画のノウハウの提供

大学等が個別に、学生支援に関する研修を企画・実施することも少なくないことから、これまで機構において蓄積してきた研修企画に関するノウハウを有効に提 供するため、機構が大学等に職員を派遣し、研修プログラム等のコーディネートやコンサルティングを行う機能を更に充実することが必要である。

3. 学生支援情報の収集・提供の充実

大学等が新たな学生サービスを提供する、あるいは学生支援に関して改善・見直しをする上で学生支援等に関する情報の収集が不可欠である。情報化社会がます ます進展する中で、必要とする情報を、いかに早く、正確に収集することができるかが新たな取組や支援を行うための大きなポイントとなる。
 このため、機構は、学生支援情報データベース、月刊誌「大学と学生」等において、次のような取組を行い、大学等の学生支援活動全般に資するため、より有益な情報を収集・提供することが必要である。
 また、全国の支部・事務所においても、地域単位で行う研修会等で大学等から意見や要望を聴取し、常に大学等のニーズにあった新しい情報を提供し続けることが求められる。

(1) 学生支援情報データベースの定期的な見直し

学生支援の取組、学生支援担当窓口、学生支援に関する調査統計・白書・答申、及び大学等における個別の活動状況等に関する情報提供を行っている学生支援情 報データベースについては、そのアクセス状況や利用者である大学等の教職員に活用度・利便性に関する調査を行い、その結果を分析し、情報提供コンテンツの 見直しやシステムの再構築を検討・整備することが必要である。

(2) その他の情報提供

「大学と学生」では、多くの特色ある学生支援に関する論文や事例紹介等を提供しているが、機構の研修等で得られた知識や成果が大学等の現場において活用さ れた取組事例なども、「大学と学生」で紹介することも有益と考えられる。そして、テーマによっては大学等側からの視点だけでなく、学生、企業などの視点か らの考えや期待を取り入れることも検討する。
 また、学生支援情報データベースにおいては、「大学と学生」の論文や事例紹介等について、著作者の許諾を前提に閲覧対象者を限定して情報提供を行ってい るが、今後は、様々な取組事例等を広く社会に提供・普及することも必要と考えられるため、一般公開に向けた必要な取組を進め「大学と学生」の活用を更に高 めることが求められる。
 さらに、全国の支部・事務所においても、学生支援の重要性とそれに対する機構の事業の役割について、大学等に対してだけでなく、地域社会に対しても広く情報を発信して理解を求めていくことが必要である。

4. 障害学生への修学支援

我が国の高等教育に関する施策を見ると、中央教育審議会から「我が国の高等教育の将来像」の答申(高等教育のユニバーサル・アクセスの提言)、発達 障害者支援法の制定(大学等における適切な教育上の配慮の規定)、教育基本法の改正(障害の状況に応じ教育上必要な支援の規定)など、障害者の高等教育に おける修学環境の整備が喫緊の課題となっている。
 一方、大学等における障害学生の修学支援は、障害学生を受入れた大学等の判断により、独自の支援策が提供されているが、ノウハウを持たないまま修学支援 を行っている例も見受けられる。また、大学等の一部の熱心な教職員によって必要な支援が行われているとの指摘もある。
 このため、機構は、教育の機会均等の保障及び障害学生の受入れ促進を図る観点から、次のような取組を行い、すべての学生にやさしい大学づくり、障害学生の社会自立・参加に貢献していくことが必要である。

(1) 障害学生修学支援ネットワークの促進

 高等教育機関における障害学生の修学支援は、これまでの機構の取組と相まって、高等教育機関はもとより、社会的な関心も高まりつつあり、大学等における取組も徐々に進んできている。
 今後、障害学生の修学支援に積極的な取組を行っている大学が取り組んできた障害学生修学支援ネットワーク事業(相談、研修、研究促進)の成果や実績を踏 まえ、機構が実施する学生支援関連の研修や、学生支援情報データベース等を活用し、個人情報の保護に十分配慮しながら、障害学生の修学支援に関する情報を 幅広く提供することで、大学等の障害学生修学支援体制の整備に寄与していくことが必要である。

(2) 新たな支援方策の調査研究

障害学生の修学支援を巡る課題は多岐に渡っているが、社会全体における取組が遅れている障害への対応については、高等教育機関における取組を率先させると いうことではなく、社会の理解の深まりや取組に平行して検討していく必要がある。とりわけ、近年、発達障害のある学生に対する支援については、高等教育機 関においても喫緊の課題となっている。
 そのため、障害学生修学支援ネットワークの拠点校や協力機関、障害者施策に係る専門的な研究機関等と連携し、新たな支援方策の調査研究を進めることが必要である。

(3) 障害学生修学支援の取組に対するリード・サポート

初等中等教育段階に比べ、高等教育機関における障害学生の受入れ及び修学支援は、まだ緒についたばかりである。特に大学等の組織的な受入れ体制や障害学生 の修学支援にかかわる財政面などが課題としてあげられている。もちろん機構だけでこれらの課題をすべて解決することはできないが、今後、高等教育機関をは じめ、文部科学省及び関係機関においてもこれらの課題がさらに検討、対応されるよう、機構は、上で述べてきた調査研究や情報提供などを通じて、障害学生の 修学支援の取組を今後より一層リード・サポートしていくことが強く期待される。

5. さいごに

今回は、学生の多様化など大学等を取り巻く環境の変化を踏まえ、機構が取り組むべき「学生支援担当教職員に対する研修」「学生支援情報の収集・提供の充 実」「障害学生への修学支援」について意見を取りまとめた。機構においては、大学等の学生等に対する支援業務をリード・サポートする中核機関であることを 改めて認識し、各々の事項について、この意見の取りまとめを踏まえ、具体的な改善・充実に努めることを期待する。


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