コミュニケーションに障壁の生じやすい聴覚障害のある学生が充実した大学生活を送るためには、周囲の人的環境整備が不可欠です。ノートテイクやパソコンノートテイクを担っていく学生達の支援コミュニティの形成はもちろん、これをとりまく学生や教職員にも広く障害について知ってもらい、理解を促進する活動を行なっていきたいところです。また、学内のみならず、他大学や学外の関係機関・団体と連携して、より豊かなネットワークを生成・保持することも、環境整備の充実につながります。

教職員の理解

 教職員への理解啓発としては、講演会やシンポジウムを開催したり、パンフレットを配付するなどの試みが考えられるでしょう。聴覚障害のある学生の支援に必 要なのは、何も聴覚障害のある学生と直接関わりを持っている学部の教職員だけではありません。たとえ、他学部の教職員であったとしても、異分野の専門性を もつ先生方とのつながりが新たな発展を生み出すかもしれないので、ぜひ広く啓発していくと良いでしょう。

支援学生・周りの学生の理解と成長

 経験豊富な支援学生は頼りになる存在ですが、聴覚障害のある学生が置かれている脆弱な立場への意識づけや支援活動に伴う責任については、常に喚起していく 必要があるでしょう。また、支援に直接関わっていない学生に対する理解啓発も重要です。障害のある学生の存在を知り、ともに生活する経験を持つことは今後 の成長にとって大きな意味を持つことでしょう。学生向けの活動には以下のようなものがあります。

障害を体験するキャンプの実施
 アイマスクや車いすを使い、1泊の宿泊研修で障害の疑似体験を行なう。往復の移動時間を含め長時間疑似体験を行なうことで、障害に関する新たな見方を発見する。あわせて障害のある学生ともゆっくりと時間をかけて語りあうことで、障害についてのより深い理解を共有する。

障害学生支援に関する勉強会の開催
 ノートテイカーやパソコンノートテイカーの養成講座とは別に、同じ学部の学生や他学生を対象に支援についての勉強会を開催する。学園祭等の場で企画を立て、広く活動を知ってもらうのも良い。

大学間の連携

 一旦、学内で支援コミュニティを形成しても、年によって支援を必要とする学生がいない期間が生まれることもあるでしょう。特に小規模大学の場合は、こうし た傾向にありますが、次に支援が必要になった時のためにも、願わくば常に支援を提供できる体制を維持したいものです。特に、聴覚障害のある学生の支援に必 要なスキルは、養成に比較的時間を要するため、その技術の維持や継承も課題になります。
 支援学生の安定確保と技術の維持のために、近隣の大学 と 相互支援のための協定を結ぶことは、この課題に応える一つの方法です。必要に応じて学生を相互派遣(遠隔通信による支援含む)したり、交流をすることは、 支援学生のモチベーションの維持、そして活動の活性化にもつながるでしょう。

大学間の協働連携に関する協定書の例(抜粋)

○×大学学生支援センター(以下「甲」という。)と△□大学学生サポートセンター(以下「乙」という。)は、障害学生支援についての交流を促進し、相互協力を行い、支援活動の促進を図るため、次のとおり協定を締結する。
(目的)
第1条 本協定は、甲乙双方が障害学生支援に関する事項について相互に協力し、もって相互の活動の発展に寄与することを目的とする。
(相互協力事項)
第2条 前条に基づく相互協力の内容は、以下のとおりとする。
(1)障害学生支援スタッフの派遣に関すること。
(2)障害学生支援スタッフの交流に関すること。
(3)障害学生支援スタッフ育成に関すること。
(4)その他、障害学生支援に関すること。

学外機関との連携と地域通訳の活用

 初めて聴覚障害学生支援に直面する大学や学生にとって、地域の関係機関との連携と活用は非常に心強いものです。特に、支援のノウハウがない大学は、手話通訳やノートテイク、パソコンノートテイクといった通訳技術の養成やスタッフ確保に大変時間がかかります。地域のリソースを活用する方法を知り、連携をとっておくと良いでしょう。また、大学で孤立しがちな聴覚障害のある学生にとっては、同じ障害のある当事者とのつながりは非常に重要です。聴覚障害学生懇談会など同年代の学生と交流ができる団体はもちろん、聴覚障害者協会や特別支援学校(聴覚)など、幅広い世代の当事者と関わりを持つことで、自分に自信が生まれ積極性が出てくるものです。こうした情報は聴覚障害のある学生自身も知らないことが多いので、ぜひ一緒に情報を収集してください。
障害学生支援あるいは聴覚障害学生支援に特化した情報発信を行なっている機関として日本学生支援機構(JASSO)や筑波技術大学、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)等があります。大学における支援体制構築のバックアップを行なっていますので、支援に関してわからないことがあるときにはぜひお問い合わせください。

<学外機関一覧>

日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク
(PEPNet-Japan)
筑波技術大学に事務局を置く全国ネットワークで、聴覚障害学生支援について豊富な実績と経験をもつ大学・機関で組織されている。ウェブサイトでは支援に関するコンテンツも多数配信。
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)
筑波技術大学 聴覚・視覚障害のある学生を専門的に受け入れる全国で唯一の高等教育機関。聴覚障害のある学生の教育に関するノウハウを有しており、一般大学における支援についても相談に応じている。
筑波技術大学      
聴覚障害者情報提供施設・手話通訳等派遣センター等 手話通訳やノートテイク(要約筆記)、パソコンノートテイク(パソコン要約筆記)の派遣や字幕付きビデオの作成等を行なっている機関。聴覚障害のある者の生活全般に関わる専門的な知識提供が可能。
市区町村障害福祉課・社会福祉協議会等 各地方自治体の障害者福祉やボランティア活動を統括している機関。手話通訳やノートテイク( 要約筆記)、パソコンノートテイク( パソコン要約筆記)の派遣を行なっている場合もあり。
聴覚障害学生懇談会 聴覚障害のある学生の当事者団体で、全国レベルの組織の他、各地域で個別に作られた組織も存在する。日常的な交流の他、合宿や支援をテーマとした講演会などの企画も行なっている。
聴覚障害者協会 各都道府県や市区町村で活動を行なっている聴覚障害のある当事者の組織。「一般財団法人全日本ろうあ連盟」と「一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会」がある。それぞれ各都道府県に傘下団体が組織されており、さらに地域によっては市区町村レベルの聴覚障害者協会が設置されている。
特別支援学校(聴覚) 聴覚障害のある児童・生徒を教育する学校で、全国に100 数校設置されている。他に通常の学校の中に設置された特別支援学級(難聴学級・きこえの教室等)もある。
日本学生支援機構
(JASSO)
高等教育機関への支援を目的とする独立行政法人。大学等における障害のある学生の修学環境の整備・充実が図られるよう、障害のある学生の修学支援に関する調査研究を行ない、様々な情報を提供している。

※地域通訳を活用する際の注意事項
学外機関等で通訳等派遣を活用する際は、「事前の申し込み」「派遣費用の準備」「聴覚障害のある学生の情報提供」「通訳内容の情報提供」「主催者(または話者)との調整」等が必要です。余裕をもって準備をしてください。


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