学生の理解の視点

 発達障害のある学生は、自分自身が感じている困難や思ったようにうまくいかない思い(自己不全感)、戸惑いなどを適切に論理立てて他の人に説明することが苦手なことが多く、そのために不適切な行動をとったり、周囲とトラブルを起こしてしまうことがあります。このような場合、まず、支援担当者は、本人がなんらかの困難さや不全感を抱いているのかもしれないという視点を持つことが大切です。どうしても周囲はそうした不適切な行動を示す学生を問題のある学生として捉えがちですが、そうした不適切な行動を示す学生自身が困難を抱えており、不全感や戸惑いを抱いていると捉え直すことが必要です。
 また本人に希望する支援内容を尋ねてみても、本人自身がどのような支援を望んでいるのかうまく説明できないかもしれません。この場合、短期的には周囲の関係者から情報を収集し、本人の困難さやストレスの原因を推定して適切な環境調整を図る必要があります。一方で、その困難さやストレスが今後も生じることが予想されるような内容であれば、本人の同意のもとに、他者に支援を要請するためのスキル(支援要請スキル)を指導していくことも長期的に必要な支援といえます。
 ただし、ここで問題となるのは本人が自分自身の障害を理解していない場合や、障害を認めることに抵抗があるような場合です。こうした場合、無理に障害名や診断名を本人に告げて理解させようとするよりも、具体的に現在生じている問題や本人が感じている困難や不全感を取り上げて、それを解決するための方策を「一緒に考えていこう」というスタンスを取ることの方が有効だといえます。無理に本人に障害を納得させようとしても、かえって反発したり、支援担当者との関係が悪化してしまう危険性があります。むしろ具体的に現在生じている問題とその解決策を一緒に考えていく作業を続けていくことで、徐々に自己理解を促進させていく指導が可能になると考えられます。

対人関係の困難さの理解と支援例

 学生生活で発達障害のある学生が感じる困難さの一つに対人関係の困難さが挙げられます。例えば友人ができにくく、休み時間や食事時に一緒に過ごす仲間がいないために、学内に居場所がないと感じてしまうといったことが考えられます。またコミュニケーションの不適切さから会話相手の気分を害してしまい、周囲から孤立してしまうという問題もあります。このコミュニケーションの不適切さは実習や演習、あるいは課外活動といったグループ活動でもトラブルの原因となり、本人のストレス源となることがあります。本人は悪気がある訳ではないので、何故自分が孤立してしまったのか理解できないかもしれません。しかし、周囲は本人に問題の原因があると考えてしまうため、本人を理解しようとする者が現れず、本人はますます周囲から孤立してしまうかもしれません。
 こうした問題に対しては、一つの支援策として、本人の障害を周囲に公表し理解を求めるという方法が考えられます。当然、この方法は本人の同意が必要不可欠であるため、周囲が勝手に行なうことは許されません。本人が同意しない場合には絶対に行なってはいけません。また、公表したとしても本当に周囲から理解が得られるかは全くの未知数です。場合によってはますます本人が孤立してしまうかもしれません。公表に際しては本人の同意はもとより、周囲の雰囲気が本人の障害を受け入れてくれそうなものかを慎重に見極める必要があります。
 一方、本人の孤立感を低減させるためには本人のことをよく理解してくれる者が大学内にいることが重要となります。例えば障害学生支援担当の教職員の他、学生相談等のカウンセラーなどによる心理カウンセリングなども有効でしょう。また、本人が気持ちを落ち着け、安心して空き時間を過ごすことができるように、学内に休憩室等の居場所を提供することも有効な支援だといえます。

予防的対応の重要性

 発達障害のある学生への支援で必要なのは「問題があったら対応する」というスタンスではなく、「問題が起きていないか確認する」という予防的スタンスだといえます。そのためには定期的に面接を行ない、本人に問題が生じていないかを常に確認する必要があります。問題が深刻化してしまうと本人が大学に出てこなくなってしまったり、自宅や下宿に引きこもってしまうかもしれません。このような状態になると、本人と連絡を取るのが非常に困難になります。そうした事態を避けるためにも、なるべく早期に問題の芽を摘むようにしておくことが大切です。定期的に本人との面談を継続し続けることで、例えばカルト宗教や詐欺の被害にあっていないかを確認したり、一人暮らしをしている学生であれば、ゴミ出し等で近隣とトラブルが生じていないか、あるいは食事や健康管理等が適切に行なわれているかを確認することができます。

通学等への配慮

 通学に際して、電車に乗ることができないと訴えてくる発達障害のある学生がいます。こうした訴えに対しては、身体障害の学生と同様、自動車通学の許可や、専用駐車場の確保といった支援が考えられるでしょう。この点に関しては、大学の実状に応じて支援策を検討していく必要があります。

学生生活上の支援における留意点

  障害学生支援担当の教職員や学生相談等のカウンセラーといった学内の専門家以外にも、ゼミの指導教員や授業担当教員、あるいは所属学部の事務職員が、直接的に本人と関わる者として必要に応じて本人との面談を進めていくことになります。ただし、こうした発達障害の専門的知識を有しない教職員が本人と関わる際には、一人で問題を抱え込まないように注意しなければなりません。もちろん、他の教職員に丸投げをすることも避けなければなりませんが、担当の教職員一人での対応が困難な場合には、学内の専門家に直ちに相談して対応策を検討すべきで、場合によっては学生をそうした学内の専門家に紹介して並行して支援を行なっていくということも大切です。特に発達障害のある学生の中には、学内の相談機関の存在を知らない、あるいは相談の仕方がわからない学生もいるので、情報提供は重要な支援になります。
 また、学生生活上の支援における課題の一つとして、どこまでを大学が支援すべきかという問題があります。発達障害に関わる問題をすべて大学が対応するのは事実上不可能ですし、修学支援という観点からも逸脱しているかもしれません。従って、ゼミや実習といった授業等の正課活動において人間関係や学生生活といった面で問題や困難が生じている場合には、修学に関連する問題として大学が支援について責任をもって行なうこととし、一方、自宅や大学以外での日常生活における問題については、学外の専門家や発達障害者支援センターなどの外部専門機関を紹介するといった対応を取ることも考えられます。
 しかしながら、生活支援を「周囲とのコミュニケーションにトラブルが生じることへの支援」という観点から見れば、就労支援とも関連する部分もあり、一概に外部機関に委託することが正しいか意見が分かれるところでもあります。むしろ、支援を担当するのは学内か学外かと二分法で考えるよりも、お互いの相談機関が連携をとりつつ支援を進めていく形を考えた方が、より建設的だといえます。
 なお、部活動やサークルといった正課外活動については、あくまでも学生の自主活動であるという観点から、大学が責任をもって障害のある学生への支援を行なうということに対して様々な意見があり、現在検討が進められています。ただし、部やサークルといった学生団体が障害を理由に入会を拒否するようなことはあってはならず、そうした問題が生じた場合には、大学側は学生部等が中心となって、学生団体側を指導する必要があります。むしろ大学側は本人や学生団体と相談しながら、どういった活動や支援が可能なのかを一緒に考えていくことが求められます。

保護者との連携

 発達障害のある学生を支援する上で欠かせないものの一つに保護者(家庭)との連携があります。入学が決まった段階から事前に本人の特性やそれまでに受けてきた支援内容に関する情報を入手しておくことによって、大学生活において予想される困難さを回避・克服する手だてを考えることもでき、授業が始まってからの本人の様子について保護者から聞き取りを行なうことで、支援がうまくいっているのか確認することができます。また的確な支援を行なうことによって、保護者とも信頼関係を構築していくことができます。もちろん、一度信頼関係を構築したとしても、継続的に連絡や情報交換などをしていかなければ、その関係を維持し続けることはできません。大学側が納得して行なっている支援でも、保護者の側に説明が行なわれていなければ、誤解や不信感を抱かせてしまう恐れがあります。そのためにも、継続的かつ定期的な連絡と情報交換は非常に大切なことと言えます。
 もう一つ、保護者との連携で必要なこととして、自らが所属する大学の合理的配慮の枠組みについて説明し、理解を得ておくことが挙げられます。高校までに特別支援教育の枠組みで支援を受けてきた学生や保護者は、同様な支援の継続を求めてくることがあるかもしれません。しかしながら、大学における支援は特別支援教育の枠組みで行なわれるものではなく、合理的配慮の枠組みで行なわれるものです。従って、あくまでも支援は他の学生と同じやり方ではその学生の学ぶ権利が保障されないと思われる点について実施されるものであると理解してもらう必要があります。この点について保護者には丁寧な説明を行なわなければならないといえるでしょう。

学生生活における支援のポイント

  • 本人が不適切な行動を示す場合には、本人自身が困難さを感じているのだと周囲が理解する。
  • 本人がうまく自分の状況を説明できない場合もあるので、周囲から情報を収集するなどして、適切な環境調整を図る。
  • 継続的な面談を通じて、日常生活でなんらかの問題が生じていないかを確認する。
  • 周囲への本人の障害の公表は、本人の同意を確認すると同時に、その影響も含めて慎重に検討する。
  • 学内に空き時間を過ごすための本人の居場所を提供する。
  • 学内の教職員は問題を一人で抱え込まないようにし、必要に応じて学内の専門家と連携をとりながら支援を進めていく。
  • 生活支援については就労に結びつく部分もあるため、外部専門機関との連携をとりつつ進めていく。
  • 正課外活動に対する支援については、「障がいのある学生の修学支援に関する検討会第一次まとめ」においても今後の検討課題とされている。しかしながら、どのような活動や支援が可能なのか、できる限り一緒に考えていく。
  • 保護者との連携では合理的配慮の枠組みを説明し理解してもらう。

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