学生が示す困難の例

 発達障害のある学生が就職活動時に示す困難の例として、「自分がどのような職業に就きたいかはっきりしない」「自分の適性がわからず、現実的でない職業を希望する」「就職に対する意欲はあっても何度も面接試験で失敗するため、落ち込んでしまいやる気をなくしてしまう」「就職活動の手順がわからない」「履歴書が書けない」などがあります。

就職に向けた支援の例

 大学での支援の例としては、履歴書、願書の作成の仕方を教えたり、面接の事前練習を通常よりも丁寧に何度も行なったりすることなどがあります。障害について自己認識がある場合には、学内の図書館やパソコン関連の外注業者など学内で実施するインターンシップを提供したり、特例子会社(障害のある人を採用している子会社であるが、一定の要件を満たして親会社に雇用されているとみなされ、親会社の実雇用率として算定できるようになっている会社)におけるインターンシップの機会を提供したりする例もあります。このようなインターンシップの機会に加えて経験したことを振り返る機会をもつことは、本人が働くということを意識したり、自分の向き不向きを判断したりすることができる重要な機会となります。
 その他にも大学在学中のアルバイト経験を、社会に出る前の準備として活用することがあります。ただし、学生によっては接客が苦手であったり、手順が複雑な作業やいくつもの作業を同時にこなすことが要求される職種が苦手なこともあり、どのような仕事を通して働くことを体験するのかいうことを考慮して、学生の特性を考えたアルバイトの内容を選ぶことが必要となります。アルバイトを続けること、トラブルがあった場合やアルバイトを通して気づいたことなどを一緒に整理しながら、自分に合った職業を考えるような相談も必要になるでしょう。
 対人関係であまりトラブルを起こすことがない場合には、家庭教師や塾の講師のアルバイトをすることによって、自分と同じような特性をもつ子どもたちを担当し、子どもたちにわかりやすい教え方を考える過程で自分自身の特性に気づき、前向きになる例もあります。重要なことは、自分の特性を理解し、それを受け入れ、特性に合った職業選択を行なうことができるように支援することです。

書店でのアルバイトのイメージ

就職活動でスーツを着たイメージ

障害者手帳の取得

 本人や家族が障害として認識している場合や、相談の過程で障害について自身が理解した場合には、「職業リハビリテーション」の活用や、障害者手帳を取得することで就職につながった例もあります。発達障害のある学生が取得することができる障害者手帳は、現在のところ「療育手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」の2種類あります。大学在学もしくは卒業ということから考えると「精神障害者保健福祉手帳」を取得する例が比較的多いと考えられます。このような手帳を取得することにより、一般枠での就職だけでなく、障害者枠での就職が可能となります。「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、一般の民間企業で2.0%、特殊法人や国・地方の公共団体では2.3%の障害者雇用率達成義務(身体障害、知的障害については雇用義務。精神障害の場合は、義務ではないが、身体障害、知的障害を雇用したものとみなされる)が課されています。また、障害者手帳を取得することによって、特例子会社に採用された事例もあります。
 しかしながら、本人や家族が発達障害として認識していない場合には、本人や家族の思いや葛藤を受け止め、相談に応じながら長期的なスパンでの自立を考え、支援を行なうことが必要となる場合もあります。通常大学では、就職課やキャリア・サポートセンターなどの部署で、大学生が職業を選択するための相談を行ないますが、必要に応じて医療機関や発達障害者支援センターなどの外部の専門機関と連携できる体制や、大学の中の特別支援教育や障害者福祉を専門とする教員、学生相談を担当するカウンセラーなどとの連携が求められます。

発達障害者の雇用に関する現状と利用

 「障害者の雇用の促進等に関する法律」には、 障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介などの措置を講じ、その職業生活における自立を図る「職業リハビリテーション」を推進することが示されています。ここで示されている「職業リハビリテーション」については、障害者手帳等を取得していない発達障害のある人も、「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難」な場合と認められる場合は、支援の対象となります。「職業リハビリテーション」には、以下の内容が含まれます。

職業評価:就職の希望などを把握した上で、職業能力等を評価し、就職して職場に適応するために必要な支援内容、方法等を含む、個人の状況に応じた支援計画(職業リハビリテーション計画)の作成。

職業指導:就職活動を円滑に実施できるように、適切な職業選択を行ない、職場で安定して働き続けられるように、相談や助言を行なう。

職業準備支援事業:職業リハビリテーション施設や事業所における作業支援、事業所見学や職業講話等の職業準備支援講座、その他通勤指導等を通じて、就職や職業生活を可能としていくための職場のルール、作業遂行力、適切な態度等基本的な労働習慣の体得及び、職業に関する知識を修得するための支援。

 障害者雇用を支援する機関には、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、発達障害者支援センターなどがあります。ハローワークや発達障害者支援センターを通して、必要に応じた機関とつながることが必要です。
 厚生労働省が平成26年3月31日に告示した「障害者雇用対策基本方針」によれば、「発達障害、難病等に起因する障害、高次脳機能障害等障害が多様化してきている中で、障害者を雇用に結びつけ、職場に定着させるためには、地域の福祉、教育、医療等の関係機関と連携しながら、個々の障害者の障害の特性及び職場の状況を踏まえた専門的できめ細やかな人的支援を行なう必要がある」こと、障害種類別の配慮事項として、「発達障害又は、難病等に起因する障害、高次脳機能障害等により長期にわたり職業生活に相当の制限を受け、または職業生活を営むことが著しく困難な者については、個々の障害の状況を十分に把握し、必要に応じて障害に関する職場の同僚等の理解を促進するための措置を講じるとともに、職場内の人間関係の維持や当該障害者に対して必要な援助・指導を行なう者の配置、障害状況に応じた職務設計、勤務条件の配慮等を行う」ことなどが示されました。
 現在ハローワークでは、発達障害も含めて、障害特性に応じたきめ細かな職業相談を実施するとともに、福祉・教育等関係機関と連携した「チーム支援」による就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援を実施するように求められています。
 また、障害者試行雇用(トライアル雇用)事業、若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラムなどの各種事業、地域障害者職業センターや社会福祉法人等に配置するジョブコーチや、事業主が自らジョブコーチを配置して支援する「ジョブコーチ支援」なども発達障害を対象として実施されています。

自己理解や必要なスキルへの対応

 本人への就職への意識付けや自分の適性などに関する課題については、就職が現実的なものとして意識される4年生から始めても遅いと考えられます。大学等、もしくはそれ以前の段階から、将来の社会での自立を踏まえた取組が必要です。
 なお、基本的な公共のマナーや、年齢や立場に応じたコミュニケーションの仕方、自分の苦手なことや得意なこと、また苦手なことに対する対処スキルを学んだりすることを通して、自身の障害についての理解を深め、自分に必要な支援を説明することなどは、働くことを考えたときに必要となります。
 また、周りの人が不快に思わない程度のおしゃれや、身だしなみも大事な要素になります。このような内容については、在学中の早い段階から学生相談等の相談の過程を通して取り組んでおくことが必要でしょう。

就職支援のポイント

  • 就職の時期にのみ必要な支援と、早い段階から進めておくことが望まれる支援の両方がある。
  • 本人や家族の障害に対する理解を深めていくことが必要となる。
  • 本人の特性に応じて本人が自分に合った職業を見つけられるように支援する。
  • 場合によっては、障害者手帳を取得したり、職業リハビリテーションを利用する。そのためには、地域のハローワーク、地域障害者職業センター、発達障害者支援センター等の機関とつながっておくことが必要となる。

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