質問コーナー

著者紹介

【富山大学保健管理センター准教授・学生支援センター アクセシビリティコミュニケーション支援室(発達障害学生支援担当)】
長年、自閉症児教育に従事。学生相談を担当して15年になり、発達障害学生の支援も行なっている。通常学級における発達障害児のインクルージョン教育に関わり、最近では、発達障害児・者のコミュニケーション教育に関する研究にも取り組んでいる。

西村先生 写真

Q.質問

発達障害学生への修学支援方法はどうすればよいでしょうか?

A.回答

 発達障害には、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)という三つの特性があり、診断のある学生もおりますが、未診断の学生が在籍していると思われます。ここでは、『発達障害としての支援が必要であると総合的に判断される学生への支援』という前提でお答えします。

支援のコアを作る
発達障害学生の場合、個別的で多様なニーズを的確に捉えた支援を行う必要があり、そのような支援を可能とする専門的知識を有する支援者が重要な存在となります。困ったときに支援をするというよりも、定期的に学生と支援者が話し合う機会を作り、一緒に対処法を考え実行していく支援スタイルが効果的です。そのために、大学内に発達障害学生がアクセスしやすい窓口を兼ねた拠点が必要になります。
大きくまとめると、次の三種類のサポートができる体制が必要です。
(1)実質的な修学上のサポート:障害特性による困難さは多岐に渡るので、入学直後から開始されることが望ましく、実質的な支援としては、履修やスケジュール管理、実習、グループワーク、レポート作成、卒論、就活など修学に関わる全般的な事柄が挙げられます。支援内容・支援方法は障害特性に応じて、個別的であることに注意しなければなりません。
(2)心理的サポート:新しい環境による緊張感や新奇な場面での精神的混乱もあり、心理面のサポートが必要になる場合があります。保健管理センター等との連携が必要です。
(3)心理教育的サポート:自分自身の困難さを認識し自己理解を進めながら、将来的な自立を目標とする心理教育的サポートが必要です。

サポートチームの形成
障害特性による困難さは、学生生活のあらゆる局面で表面化してくるため、学生に関わる人々がそれぞれの立場で支援に関わる必要があります。当該学生に関係する教職員と支援者がチームを形成し、様々な問題に対する支援策を話し合います。配慮事項は個々の学生によって異なるので、支援方針は構成員の合意を得ながら進めていく必要があります。心理面のサポートでは保健管理センターとの連携、日常生活に関するサポートでは保護者と連携していく必要性も出てきます。就職支援では、キャリアサポートセンターや地域の専門機関と連携する場合もあります。このように、さまざまな立場の人が支援に関わるため、支援目標によって必要な関係者をつないでサポートチームを形成し、支援をアレンジしていく支援コーディネーターが重要な役割を担います。

富山大学アクセシビリティ・コミュニケーション支援室の取り組み

支援体制
アクセシビリティ・コミュニケーション支援室(Hub for Accessibility and Communication Support:H-A-C-S)は、身体障害学生支援部門(Disability Service Office)とトータルコミュニケーション支援部門(Total Communication Support Initiative:TCSI)の二部門から構成されています。H-A-C-Sは、「アクセシビリティ」と「コミュニケーション」の両方のサポートを担いつつ、全学的な障害学生支援の“Hub”(ネットワークの結節点)として機能することを目指しています。同時に、富山大学が大学構成員に提供しているWebサービスである、PSNS(Psycho-Social Networking Service)を活用し、「オフ(対面)」と「オン(インターネット)」を調和させ、全学的支援体制(ユニバーサル・デザイン)を充実することを目標にしています。

取り組みの特徴
1.トータル・コミュニケーション・サポート(TCS)
ここでは、トータルコミュニケーション支援部門(TCSI)と取り組みについてご紹介します。富山大学における基本的なコンセプトは、「トータル・コミュニケーション・サポート(TCS)」であり、支援対象者が発達障害の診断を持つ、持たないにかかわらず、全てのコミュニケーションに関わる問題を支援することを特徴としています。私たちは、「発達障害大学生の多くは、特定の能力が欠如しているのではなく、むしろ能力の発達に何らかの不均衡な部分をもった人達である」と考え、特性を「矯正」するのではなく、彼らのユニークさを生かすような支援を目指すことが大学における発達障害学生への支援として重要な姿勢であると考えています。TCSIでは、保健管理センターやキャリアサポートセンターと連携しつつ、サポートチームの結成し、コーチングやカウンセリング、心理教育的アプローチの提供など、学生のニーズに対応した個別的な支援を行なっています。支援の出発点はそれぞれの学生ごとに異なり、支援ニーズも変容していきますが、私たち支援者は支援の目標を「自分の特性を理解し、自分自身を表現すること」に置き、丁寧に対話を続けていきます。
2.チーム・サポート
学生だけではなく、学生を支援しようとする教職員や家族へのメタサポートを行なっています。学生本人、指導教員や担当事務職員、家族、専門スタッフによるチームを形成して支援を行なうチーム・サポートを重視し、合理的配慮の探求を目指す対話と実践のサイクルを通じて継続的な支援を行なっています。
3.シームレス・サポート
大学在学中の学生のみならず、大学へ進学を希望する高校生を対象とした高大連携や、大学卒業後の社会参加のためのキャリア支援を含むシームレスなサポートを視野に入れて活動を行なっています。

理解啓発活動

  • TCSI のパンフレットを発行し、新入生に配布するとともに、教職員や地域の関係機関に配布しています。
  • FD・SD研修会を毎年開催し、理解啓発を行なっています。
  • 発達障害理解のためのe-ラーニングコンテンツを作成し、学内外から視聴できるようにしています。
  • 発達障害に関する公開講座を毎年企画し、理解や支援のあり方に関する当事者参加型の研修を行なっています。

他大学へのメッセージ
 発達障害学生の支援ニーズは、個々の特性やこれまでの生活歴によって大きく異なります。また、所属する学部学科の特色に よっても支援方法は異なってきます。「教職員のための障害学生修学支援ガイド」を参考にしながらも、個別的な対応に関しては、「障害学生支援ネットワー ク」の相談事業を活用して、大学の特色を生かした支援体制を進めていくとよいでしょう。
私たちは、発達障害のある大学生が学びやすい環境を作るこ とにより、大学全体が変容する機会になると考えています。つまり、一人ひとりの人間が、それぞれに違った世界を認識し、多様性をお互いに認め合うことに よって、各自がそれぞれのユニークさを活かすことが可能になります。また、学び方の違いや学ぶプロセスの幅を受容することによって、どのような認知様式を 持つ学生に対しても、十分な教育と豊かな学生生活を実現する機会が与えられます。このような環境は、特定の学生だけでなく、すべての学生にとって、より学 びやすい場となるに違いありません。発達障害大学生への支援が、大学教育全体の質を向上させる機会となるといえるのではないでしょうか。

平成22年3月掲載