質問コーナー

著者紹介

中島八十一
【国立障害者リハビリテーションセンター 学院長】
プロフィール
1976年順天堂大学医学部卒業
1985-86年ベルギー王国ブリュッセル自由大学脳研究部門出向
1987年順天堂大学医学部神経学講座講師
1994年国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所室長
1997年国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所部長
1998年東京大学大学院教育学研究科教授(併任)
2006年国立身体障害者リハビリテーションセンター学院長
2008年国立障害者リハビリテーションセンター学院長
 ※組織改編に伴う名称変更

中島先生 写真

Q.質問

  高次脳機能障害とはどんな障害ですか? 高次脳機能障害のある学生はどこで診断でき、どのようなことに困っていますか?

A.回答

高次脳機能障害とは?
 医療・福祉の分野には国立障害者リハビリテーションセンターが中心になってまとめた行政的な高次脳機能障害診断基準があります。器質的脳損傷に基づく記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害をもつ人と定義しています。この診断基準を用いて障害者手帳の発行や支援サービスの利用がなされています。

困ることは?
 症状のうち記憶障害は忘れる、覚えられないといったことです。注意障害では講義を始めすべての事に集中できず、また長続きしません。遂行機能障害では段取りを自分ではできず、1日の予定すら他人に依存します。ひとつのことにこだわることも目立ちます。社会的行動障害では感情のコントロールができずに突然怒り出したり、反面落ち込んだり、無欲状態になったりもします。これらの症状がさまざまに入り組んで現れます。半数以上の方で自分がそのような症状をもっていることを正しく認識できない病識欠如の状態にあります。また、半身麻痺などの身体機能障害を併せもつ方が60%程度います。

どこで診断を受けられますか?
 各都道府県に高次脳機能障害支援拠点機関があるので、そこで相談すれば良いでしょう。
高次脳機能障害の方は知能指数が平均以上のこともありますので、知能テストだけでは判断できません。何よりも専門医の診断が重要です。

高次脳機能障害支援施策の現状と展望

 厚生労働省は平成18年度から高次脳機能障害支援普及事業を実施しています。その事業の要点は、人生の中途で高次脳機能障害をもつに至った方に医療から福祉に切れ目なく円滑に支援を継続し、重症度に応じた最終目標点に到達させることにあります。つまり、適切に支援すれば就学や就労が可能な方たちに、就学や就労を目標とする支援をすることです。
その仕組みの中核にあるのが、都道府県ごとに設置された高次脳機能障害支援拠点機関であり、地方における支援ネットワークの中心になります。その拠点機関には支援活動を実施する支援コーディネーターが配置されています。診断を希望する方には適切な医療機関を紹介し、また就労に必要な訓練の実施機関を紹介するといった相談支援事業とともに、地域での普及啓発や研修にも係っています。
現実にこのような支援サービスを利用することにより、リハビリテーションにより生活の自立が可能なレベルの方たちのうちの51%が就労や就学が可能になったという報告があります。一方、利用しなかった場合は17%に留まっています。
現在、就労についてはどのような支援をすれば良いのか、誰がそれを担当すれば良いのか比較的明確になったことと比べると、就学についてはその支援方策はまだ十分に整理されていません。6歳以上20歳未満の高次脳機能障害をもつ方のうち、支援により学校に戻れそうな方が日本全体で7,000人から8,000人はいると言われています。すると大学生に相当する年齢層でも1,000人のオーダーで高次脳機能障害をもつ方がいることになります。この中には、学生生活の途上で高次脳機能障害になった方たちと高次脳機能障害をもちながら入学する方たちの2群が含まれます。
高次脳機能障害支援普及事業では地域の支援ネットワークの中に、学校にも加わっていただくことを進めていることもあり、中学校や高校の先生方の関心が次第に高まっているところです。高次脳機能障害をもちながら入学する学生については、高校生活でどのように対応したかといった成功体験とも言える指導歴が大学に適切に手渡されるような仕組みがあればとても役立つだろうと考えます。大学生活の中で高次脳機能障害をもつことになった方では、医療機関は言うまでもなく、支援拠点機関と連絡を密にし、生活の中でどのような支援をすれば学業の継続が必要であるかきちんと評価することで支援方法が決定します。
具体的な支援方法は2点に分けられ、高次脳機能障害者への教育支援と学業を継続するために必要な生活支援ということになります。前者の高次脳機能障害者の特性に応じた教育支援については、すでに取り組んでいる大学を中心にして標準的な教育支援マニュアルが構築されることが望まれます。後者の生活支援についてはすでに公表されている高次脳機能障害標準的社会復帰・生活・介護支援プログラムに則って実施することができます。
今後の望ましい展開としては、医療・福祉関係者が教育関係者と密接に連携を取ることにより、高次脳機能障害をもった学生が適切に教育を受け、それにより身に付けた知識と技術を利用して自立した生活を送り、就労できるよう多方面からの支援を可能にすることです。現実に高次脳機能障害者が支援を受けながら働いているという事例が少なからずあることから、就学についても関係諸氏の強い連携による支援が求められます。

平成22年04月掲載