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紛争の防止、解決等のための基礎知識(2)大学等における主な課題2-3

2.高大連携

【引継ぎの円滑化】

障害のある生徒の大学等への進学を促進するため、出身校(特別支援学校高等部、高等学校等)と密接に情報交換を行なう必要があります。

支援情報(支援内容・方法等)の引継ぎ

・出身校が作成した個別の教育支援計画等の支援情報に関する資料等を活用し、効率的な教育支援内容の引継ぎを図る
・支援情報の引継ぎは本人の意向を最大限尊重し、個人情報保護の観点からも、本人を経由して行なう

【情報発信】

・障害のある入学希望者等からの問合わせを受け付ける相談窓口等の整備を図る
・相談窓口や、入試時、入学後に受けられる支援内容について、生徒や保護者、特別支援学校高等部や高等学校の教職員に幅広に発信する
・必要な支援を適切に提供することによって才能を開花させたモデルケースについて積極的に発信する
・情報発信にあたっては、障害学生本人や関係者の個人情報保護の観点に留意する

なお、学生によっては、入学後に、自己選択・決定、コミュニケーション等の機会の増加により、障害による困難・不適応が顕著になる可能性もあるため、こうした学生への支援の対応を進める必要もあります。

事例講評

障害のある学生の支援において、「高大連携」は極めて重要です。しかしながら、障害のある学生自身の権利保障という観点から高大連携を考える、そこには注意すべき点が複数あります。

まず、高大の連携において、修学についての合理的配慮に関する情報の引き継ぎを、高校または特別支援学校との間で、大学が円滑に行なうことは確かに重要です。しかし、そこで本人の意思の尊重と確認が伴わないままに、支援に関する方向性を先回りして決めていくことは行なってはなりません。加えて、保護者や支援者の意思を大学が直接受け取って、本人抜きに物事を進めることも避けるべきことです。大学進学後は、高校までと異なり、授業の選択ひとつとっても、学生本人の自己決定によって決められていきます。またその機会を通じて、本人が自己決定の重要性を学んでいくことが、大学教育の存在意義の一つでもあります。「まだそうした準備が整っていない学生ばかりなのでは」という声が聞こえてきそうですが、だとしたら本人を差し置いた先回りを第一義とするのではなく、本人が決めていくことを尊重して待つ姿勢は大事ですし、また本人が意思を決めたり考えを巡らせる機会を支える働きかけはできるはずです。

そもそも、国連の障害者権利条約に立ち返れば、条約が成り立つまでの障害者運動の中では、「当事者参加」や「意思決定」を尊重することが権利保障の重要な要素とされてきました。そこで唱えられたのは「Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」というスローガンでした。障害に関する歴史を振り返れば、そこには善意や保護、思いやりの名の下に、本人の決定が奪われてきた過去があり、そのアンチテーゼとして、障害者の権利保障の制度が作られてきたことを、障害学生支援に関わる人々は背景として知っておく必要があります。大いに迷いながらも独り立ちしようとする若者の姿は、そのあり方が尊重されて然るべきことなのです。

また本来、本人の意志を尊重し、自己決定の機会を支えることは、大学に進学する以前の、高校やそれ以前の教育段階でも重要なことです。ところが、高校から大学への移行期には、自立に向けて、大きな転換がいくつも存在する点で、やや様相が異なります。自らの将来の希望に照らして大学や学部学科を選ぶこと、保護者の元から離れて新しい土地で自分らしい生活のあり方を作ること、場合によっては、障害者年金など福祉的な資源を保護者の管理から移行し、自らの裁量で福祉資源を活用することなど、大きな転換に当たることだけを考えても、枚挙に暇がありません。それにもっと小さなことで言えば、夕食に何を食べるかを日々自分で決めなくてはならないことも、小さな、しかし大切な、自己決定の出発点です。このように、高大の移行の時期は、自分自身が今後どうありたいのか、そこに障害のある学生本人が目を向け考える、特に重要な時期となることに違いありません。そして、それらの転換は、障害があるゆえに他の学生たちとは異なる体験となったり、他の学生たちのように参考となるモデルを見つけていくことに、難しさがあることも、障害学生支援では踏まえておくべきことです。移行期において、自身に障害のある障害学生支援室の教職員がいたり、大学の障害のある先輩学生たちがいて、当事者の立場からの視点を伝えてくれることは、新しく進学する学生たちが将来を考える上で力強い助けとなるでしょう。

高大連携での支援の引き継ぎや、学生生活のスタートの支援においても、上記に挙げた視点を大切にすることが大学の障害学生支援には必要ですし、こうした変化が高大の移行期に学生一人ひとりにおとずれることや、進学後にはそれまでの教育段階とは異なる障害学生支援という営みがあることを、大学側から広く情報発信することもまた、障害学生支援において大きな意義のある取り組みです。また、ここまでには自己決定について軸足を置いて述べてきましたが、もっと具体的に、大学に進学すると得られる具体的な配慮の内容について情報提供し、それを高校やそれ以前の教育課程に在籍している時から情報として得られることは、障害のある児童生徒本人が、将来の学びや社会参加に向けて夢を広げるために大きな助けとなりますし、その周囲の教員や保護者が、障害のある児童生徒の可能性を見る視線にも、肯定的な変化を与えるものとなる点で、重要なことです。

3.就労支援

【キャリア教育】

障害学生はロールモデルを周辺に見つけづらい状況に置かれているため、早い段階から多様な職業観に関する情報や機会の提供を行なう必要があります。
・職業観の涵養や自らの障害特性、適性の理解に資する学内プログラムの提供
・学外において障害に配慮したインターンシップやアルバイトを行なうための支援

また、障害学生は、一般枠、障害者枠、福祉就労等、一般の学生に比べて特殊性の高い就職活動を行なうため、就職支援のための取組や関係機関間でのネットワークづくりの促進が必要です。

学内

修学支援と就職支援を担当する部署、障害学生支援を行なう学生課などとの間で連携を促進する

学外との連携

・ハローワークや地域の労働・福祉機関など就職・定着支援を行なう機関と連携を強化する
・インターンシップや就職先となる企業・団体との連携を図る
・大学等におけるガイダンスや説明会、出張相談等を共同で実施するなど、大学間での連携を図り、ノウハウや情報の共有を図る
・支援の引継ぎにあたっては、障害学生本人の意向を最大限尊重するとともに、個人情報保護の観点からも、本人を経由して行なうこと

事例講評

卒業後の就労は、障害学生のみならず、すべての学生にとって、人生における重大事であり、生活様式の大きな転換期です。日本型の雇用慣習と、それに伴う形で作られてきた新卒採用の仕組みには「採用時に職務内容が定義されないため、どのような能力が必要とされるかが不明瞭」、「常用雇用では、ひとりの個人を期間の定めなく長期的に雇用することが前提となっているため、社内での多様な職務への配置転換や転勤、職務内容の変更等に伴い、将来的に何らかの問題があるかもしれないという予期不安が採用時に働きやすい」といった特徴があります。誤解を恐れずに言えば、何らかのできないことが明確にある(機能制限がある)のが障害者です。必要とされる能力が不明瞭であることから合理的配慮が求めにくく、採用側の予期不安にさらされやすいことが、彼ら彼女らが採用される際の大きな壁となっています。また、このような慣習から生まれた社会通念は、採用以前の実習の段階でも、「将来の雇用場面では配慮が得られないであろう」ことなどを理由として、実習生にも柔軟な配慮を容認しない形で、障害者の参加を排除する障壁となって立ち現れます。

結果として、これまでの日本の雇用制度においては、障害者を長期的に常用雇用化するための取り組みとして、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度により定められた法的強制力が大きな影響を与えてきました。1976年に法的義務化されたこの制度は、日本における「障害者雇用」のあり方を構築するエンジンとなってきました。一方で、上記のような通常の常用雇用のあり方と、障害者が働く上で必要となる配慮ニーズの間にはギャップがあり(2016年まで、合理的配慮は法的権利保障がされてこなかった)、結果として、通常の常用雇用の枠組みの中に障害者を包摂していく形ではなく、障害者のための特別な雇用の形態や雇用の場を作る取り組みが主流派を占めてきました。常用雇用における「総合職」に対して、異動や転勤、昇進がないか、または何らかの制限のある「一般職」にあたるような枠組みとして障害者雇用の仕組みをつくる企業もあれば、「特例子会社制度」と呼ばれる制度を利用して、障害者雇用率の充足のために、障害者を多数集めて雇用する子会社を作る企業も生まれました。

もちろん、これらの取り組みは障害者の雇用拡大において重要かつ肯定的な影響を持ってきました。特に、職務を構造化・細分化して、特別支援学校在籍時からの職業訓練と接続することで、特定業務を遂行可能な生徒を育て、雇用に接続してきたここ十数年、知的障害者の雇用が大きく伸びたことは疑いのない事実です。また、食事や排泄などの身体介助を必要としない程度の肢体不自由のある人・車椅子ユーザー、内部障害のある人の雇用は、障害者雇用率の年々の上昇から、売り手市場になっている状況があるといっても過言ではないでしょう。

しかしながら、一方で、障害者雇用率制度は、障害者の雇用参加の形をステレオタイプ化し、制限してきたという負の側面があることも否めません。高等教育に進学し、他の学生たちと同じ教育課程で専門的な学びを修めた障害学生たちが増える将来を想像すると、障害学生支援に関わる教職員は、いわゆる「総合職」への参入障壁に、障害学生たちが苦慮する状況に出会い続けることは間違いないでしょう。大学で発達障害や精神障害などが疑われるが、診断や障害者手帳の取得に至っていないグレーゾーンの学生数が増えている現状から、障害の認定を得ることを本人が望むかどうかについて、適切な情報提供をしながら、意思決定を支える支援(または地域でのそうした福祉的支援に対する接続、ソーシャルワーク)も必要となっています。

こうした新しい社会状況と、戦後および高度経済成長期に形成された伝統的な雇用慣習との衝突に、これからの大学での障害学生支援およびキャリア支援の担当者は立ち向かっていく必要がありますし、障害者のこれからの働き方について、大学が企業や地域社会との連携を構築するなど、プロアクティブな態度で望む必要があるでしょう。これまでに存在しなかった雇用のあり方を、大学が地域と連携して作って行くことも、大学の地域貢献として望まれていることでもあります。

障害のある学生は、一般的に言って、周囲の低い期待と、父権主義的に他者により決められた道への誘導に常にさらされています。ここ数十年で構築されてきた障害者雇用の枠組みへ、障害学生を安易に誘導していることにならないか、個々の学生の現実的な状況を勘案しながら、また何より、学生本人の希望と意思決定に寄り添いながら、担当者個々人は悩みながら進んでいくことになるでしょう。

障害学生の視点から見ると、雇用における差別禁止と合理的配慮が障害者雇用促進法の改正によりすべての企業に対して義務化された今、権利保障の観点から、自らの障害に関しての合理的な説明を行ない、自らに必要となる配慮を雇用主に対して求めていくセルフ・アドボカシー(自己権利擁護)は、今後、欠かせないものになっていきます。日本社会、特に雇用場面に、権利主張を敬遠する文化社会的背景があるかもしれません。しかし、必要な配慮を誰かが決めて用意してくれるのを待つだけではなく、自分自身の信念に基づいて周囲に求め、希望する道を自らの意思で進んでいくことも必要です。就労の段階に至るまでに、在籍する大学の障害学生支援のスタッフとの対話の中で行なってきたように、互いに建設的に配慮のあり方を決めていく柔軟な姿勢を涵養しておくことも望ましいことです。

さらに、卒業後に自分がどのような生活を営みたいか、その中で雇用をどう位置づけたいかについて、多数派の学生たちがたどる道に進むことだけにこだわらず、広い視点から考える機会も必要でしょう。「こうあるべき」という視点だけではなく、障害のある先輩たちがどのような暮らしや働きをしているかについて知ったり、障害に限らず、多様な働き方をしている人々がどのように暮らしているのかを知ったりと、多様性に触れる機会に参加して、自らの今後のありようを考えていくことは、人生のどこかで大きな壁に出会ったときに、絶望や諦め、哀れみといったものの見方を離れて、その壁にどのように向き合い、その後の人生を過ごしていくかを考える基礎にもなるはずです。

大学におけるキャリア支援の対象の中に、上記のような社会的状況を生きる障害のある学生も、社会的な成功に向けて歩む学生の一人として考慮に入れ、彼ら彼女らを支えることができる態度と体制が早期に育っていくことが望まれます。

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