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第27回 紛争の防止と解決

「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第27回 紛争の防止と解決

第27回は、障害学生支援にあたる方々が紛争の防止と解決を考える際に依拠すべき基本的な視点を考えます。このテーマについてはワークショップ形式で検討します。参加者は教員や支援担当者です。

検討課題

  • 紛争の概念
  • 紛争の防止
  • 紛争の解決
  • 障害の社会モデル


参加者紹介

法学部教員Aさん
法学部教員Aさん
支援室職員Bさん
支援室職員Bさん
コーディネーターCさん
コーディネーターCさん

紛争とは

ファシリテーター
ファシリテーター

障害者差別解消法が2016年4月1日に施行されてから2020年度の末で丸5年となります。この間、高等教育機関において紛争を防止・解決することに関心が高まっていますが、紛争の概念がよくわからないという声もよくきかれます。

紛争の防止と解決については、障害者差別解消法第14条に言及があります。本条は「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。」と定めています。もっとも、そこでいう紛争の防止、紛争の解決がどのようなものであるかは必ずしも明確ではありません。
まず紛争の概念から考えていきましょう。

法学部教員Aさん
Aさん

これまで障害学生支援の実践において「紛争」という言葉を聞くと、例えば裁判などの大きな揉め事をイメージされる方もおられたと思います。しかし、紛争は裁判沙汰である、というのは紛争の一面のみを強調したものです。紛争は、裁判に至らないような小さなものから、それこそ裁判で争われる大きなものも含みます。
「紛争」の概念は、両当事者が「対立した状況」で、自己の利益の実現のため、相互に要求と拒絶を行なっているプロセスである、と理解できます(六本佳平『法社会学』有斐閣、1986年)。

支援室職員Bさん
Bさん

「対立した状況」、「相互に要求と拒絶」というのは、どのようなことを意味していますか。

法学部教員Aさん
Aさん

「対立した状況」とは、例えば学生がエレベーターを設置してもらいたいと考えているのに対して、大学はエレベーターを設置したくないと考えている状況です。つまり、エレベーターの設置をめぐり、学生と大学に両立できない欲求がある状況です。このような「対立した状況」は一般によくあることです。
そのような「対立した状況」で、相手方に対して直接的に働きかける行為が行なわれると、「紛争」が発生することがあります。つまり、「対立した状況」で、学生がエレベーターの設置を大学に要求し、大学がその要求を拒絶するなど、相互に「要求」と「拒絶」をしているプロセスが「紛争」です。

紛争の防止とは

支援室職員Bさん
Bさん

「紛争」とは両方の当事者が対立して要求と拒絶をしているプロセスだということですね。「紛争」は当然、防止すべきですし、解決されるべきものですよね。

コーディネーターCさん
Cさん

「紛争」はただ防止されればそれでよい、というものではないと思いますよ。例えば、ある障害のある学生が、大学等と「紛争」になるのが嫌で、合理的配慮の要望そのものを躊躇し控えてしまうこともあるかもしれません。そうすると、「紛争」は発生しないことになります。つまり、「紛争」を防止するために、障害のある学生に対して、自分自身のためだからといって自助努力を求め、よほどのことでないかぎり合理的配慮を要求しないよう指導することもできるわけです。

支援室職員Bさん
Bさん

なるほど。たしかにそんなふうに「紛争」を防止してしまったら、障害のある学生をとりまく社会的障壁取り除かれない、つまり除去されないままになってしまいますね。

法学部教員Aさん
Aさん

そうです。障害者差別解消法は、大学等に対して、障害のある学生をとりまく社会的障壁を除去することにより、障害のある学生と障害のない学生との間の機会平等を確保することを求めています。そのため、障害のある学生が社会的障壁に直面して不利益や各種の制限を抱えているかもしれないのに、合理的配慮をなるべく控えるよう指導することは、この法律の趣旨に反します。
大学等において障害のある学生をとりまく社会的障壁には、物理面・情報面・認識面・態度面・制度面のバリアなど様々なものがあります。そこには合理的配慮のための建設的対話を妨げるバリアも含まれます。障害者差別解消法の下で、「紛争」の防止を進めるためには、そのような社会的障壁をあらかじめ取り除いておくということが重要となります。これは障害者差別解消法第5条の「環境の整備」(事前的改善措置)です。
各種の社会的障壁を取り除くことで、障害のある学生が平等な教育機会を享受しやすくなり、障害のある学生への偏見が解消され、学内の建設的対話も円滑に進むようになれば、それだけ将来の「紛争」も防止されやすくなるからです。

紛争の解決とは

支援室職員Bさん
Bさん

「紛争」の防止では社会的障壁を取り除くという視点が重要だということがよくわかりました。では、「紛争」の解決はどう考えたらいいですか?

法学部教員Aさん
Aさん

同様に考えていいでしょう。「紛争」解決の要点も、障害のある学生の平等な教育機会の享受を妨げる社会的障壁を取り除くことが重要となります。
「紛争」の防止で述べたことと同様、「紛争」はただ解決されればそれでよい、というものではありません。例えば障害のある学生が合理的配慮を要求した場合に、教職員の態度やスキルに難があり、もしも学生がその状況を苦痛に思い、納得しないままに、合理的配慮の不提供を我慢し諦めた場合にも、「紛争」がなくなったという意味では、「紛争」は解決されています。そのような「紛争」の解決は、やはり社会的障壁を除去するという観点からは妥当ではありません。

コーディネーターCさん
Cさん

「紛争」の解決でも社会的障壁を取り除くことがポイントになるということですね。教育機会の平等を確保するためには、あらかじめ社会的障壁を除去しておくことによって、紛争をできる限り防止しておくべきだけれど、その上で、現実に発生してしまった個々の「紛争」を解決する場合も、社会的障壁を取り除くという適切なやり方で行なう必要があるということを意識しておかなくてはいけませんね。

障害の社会モデルとは

法学部教員Aさん
Aさん

社会的障壁の問題性を強調する視点は「障害の社会モデル」と言われています。障害者は生活を送る上で様々な制限を経験していますが、その原因を障害者の機能障害のみに求めていく視点(「障害の医学モデル」)がこれまで支配的でした。しかし、障害者差別解消法は、その原因として社会的障壁の問題性を強調する視点(「障害の社会モデル」)を採用しています。

支援室職員Bさん
Bさん

では、「障害の社会モデル」という視点から紛争の防止と解決を考えたら、高等教育機関は障害のある学生の要望をすべて受け入れるべきなんですか。

法学部教員Aさん
Aさん

必ずしもそうではありません。障害者差別解消法の下では、例えば過重な負担があれば、配慮の不提供は認められます。教育の本質を変更する配慮や、大学の本来の業務に付随しない配慮も提供する必要はありません。
つまり、大学等は、その本来の業務に付随する範囲で、教育の本質部分を変更しない限りにおいて、金銭面等の過重な負担がない場合に、教育機会の均等化のために、障害のある学生の意向を最大限尊重して合理的配慮を提供する義務を負っています。個別具体的な事案について、その義務を果たす際には、「障害の社会モデル」という視点に依って立つことが求められます。

ファシリテーター
ファシリテーター

いかがでしたでしょうか。紛争の防止と解決は、多くの大学等に共通する課題です。今回は、大学等で紛争の防止と解決の制度を整備する際に、どのような視点が基本的に重要となるか、を考えました。本コラムが、各大学等での取組の一助となれば幸いです。


参考情報

終わりに

ファシリテーター(女性)
ファシリテーター(男性)

平成30年度にスタートした本コラムは、今回が最終回となります。皆様からご提供いただいた事例を元にしつつ、架空の事例やワークショップを舞台に、大学等における障害のある学生に関する紛争の防止・解決等に役立つ情報等を様々なテーマで綴ってまいりましたが、参考にしていただけたでしょうか。
障害者差別解消法が施行された平成28年当時と比較すると、合理的配慮とその提供についての理解はずいぶん広まってきたと思われますが、合理的配慮の提供は、障害のある学生個々について、その都度、個別に検討し模索し続ける必要があるため、今後も、支援現場の皆様は、その都度、様々な問題や障壁に遭遇され、時に紛争につながりかねない状況が起きることもあるかと思います。そんな時に、本コラムの存在を思い出していただき、ご参照いただけましたら幸いです。

イラスト:copyright c 2008 kids.wanpug all rights reserved

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