Q1 聴覚障害について教えてください

耳の中には、外の音声情報を脳に送るための四つの部位(外耳、中耳、内耳、聴神経)があります。どれかの部位に障害があると、外の音声情報が「聞こえない」又は「聞こえにくい」という現象が起きます。一口に聴覚障害と言っても様々です。

伝音難聴 外耳と中耳に障害があり、音が小さくなったように聞こえにくくなる
感音難聴 内耳や聴神経などに障害があり、元の音声情報がぼやけたり歪んだりしたような聞こえ方になる
混合難聴 両方に障害がある

などです。片耳だけ聞こえにくい人、両耳とも聞こえにくい人などもいます。

聴覚障害の程度は、デシベルdB」という単位を用いて表します。0デシベルは、障害のない成人の聴力の平均を表しており、数字が大きくなればなるほど聴覚障害の程度が重くなります。また、聴覚障害があると音がゆがんだり途切れたりすることが多く、補聴器や人工内耳を用いても明瞭にきこえるわけではありません。

聴力の状態は学生によって異なり、障害の程度のみで学生の抱える困難を一握することは難しいですが、一般的には聴覚障害の程度が重くなるほど視覚的な手がかりが重要とされます。
ただし聴覚障害の程度が軽い場合でも、ビデオの音声やマイクを通した音声などは聞き取りづらいこともあるため、何か困っていることはないか学生本人に尋ねてみるとよいでしょう。

Q2 聴覚に障害があるとどのようなことが制限され困難が伴うのでしょうか

音が小さくなったように聞こえにくくなる伝音難聴は、補聴器を装用することで正常な聞こえ方に近くなる可能性がありますが、感音難聴の人が補聴器を用いても音声情報がぼやけたり歪んだりしたような聞こえ方になる場合が多く、特に重度の場合、元の音声情報が何なのか見当を付けることは困難です。このように補聴器を装用しても効果が少ない場合があります。

軽度、中等度の場合でも、特定の子音(K、S、T等)が聞き取りにくい、また、きれいに話せても、会場の条件(広さ、静かさ、話者の位置関係など)がよくないと自力での聞き取りが難しくなる場合があります。健聴者が、大勢の人がいる場面で一斉に発言したり、雑音が入り混じったりする場面で話す場合、聞き取りが低下します。

健聴者との音声会話が成立しにくい状況が日常ある場合、聴覚障害者の中には、その困難は自分の聞こえだけが原因と考えて自分を否定的に見たり、周囲の配慮に対しても自分のニーズを確認できない場合があります。

このように、聴覚障害者の聞こえ方は、聴覚障害の種類(伝音難聴、感音難聴、混合難聴)や程度(軽度、中等度、重度など)だけでなく、本人の知識・経験や、会話状況(対話、集団会話、騒音のある場での会話、講演など)、周囲の人々の配慮の仕方などの条件でも変わって きます。また、聞こえなくなった時期によっても影響が異なってくると言われています。

Q3 聴覚障害学生にはどのような配慮が必要でしょうか

健聴者とコミュニケーションをとる際のニーズや方法は、聴覚障害学生一人一人異なります。
これは、前述のように、聴覚障害学生の聞こえ方(聴覚障害の種類や程度)の他に、聞こえなくなった時期や教育環境などによっても影響を受けると言われています。例えば、すべての聴覚障害学生が手話によってコミュニケーションを行なっているとは限りません。
一方的に先入観を持つことは避け、聴覚障害学生のニーズを確認して、コミュニケーション方法を選択するようにこころがけましょう。

Q4 補聴器について教えてください

補聴器は、聞こえそのものを100%保障するのではなく、あくまで補助的なものとお考えください。聴覚障害学生にとって、補聴器の装用による聞こえの効果は、聴覚障害の種類・程度や会話環境などの条件によって変わります。
補聴器を装用している場合でも、聴覚障害学生と音声で話すときは、次の点に注意しましょう。

◆聴覚障害学生が聞き取りやすい位置で、ゆっくり、文節を区切って、はっきり話す
聴覚障害学生は、通常の速度で途切れなく話されると、聞きもらしたり聞き間違ってしまうことがあります。いつもよりゆっくりと、はっきりと口を動かすように話すよう心がけましょう。
近距離で大きな声で話すと、聞き手は話し手の声が割れたようにかえって聞き取りにくくなります。手振りや身振り、表情も交えて話すことで伝わりやすくなることもあります。

◆視覚的な手段(読話、筆談、手話など)を補助的に活用する
話し方を工夫しても、話の内容や意図を十分に理解することが困難な場合は、読話、筆談、手話などの視覚的手段も併用してください。

Q5 読話(読唇)について教えてください

聴覚障害者が、話し手の口唇の形や運動のパターンを読み取りながら、前後の文脈やその場にある情報も取り込んで、相手の言いたいことを推測する手段です。ただし、日本語には「イク・キク」「タバコ・タマゴ」のように音は異なっても口唇の形や運動は類似する言葉がたくさんあることや、慣れていない人の口の形は読み取りにくいなどの問題点があるため、正確に読み取れるわけではありません。
聴覚障害学生が読話も使って聞く場合は、お互いの顔を合わせるようにし、明るいところで、近距離(1メートルから2メートル程度)で話しましょう。また、話し方は前述したように、ゆっくりと文節を区切って、はっきりと口を動かしてください。

Q6 筆談(文字メディア)について教えてください

筆談の方法としては、紙やホワイトボードに書く方法、パソコンで入力した文字を見せる方法、パソコンや携帯電話でメールやチャットをする方法があります。話す内容をすべて筆談したり、会話の内容が複雑で難しかったり読話や聞き取りでは通じないと思われる場合にキーワードや重要な事項を書いて理解の確認を取ったりします 。

Q7 聴覚障害学生への支援にはどのようなものがありますか

聴覚障害学生も健聴の学生と一緒にその場に参加できるように保障することが大切です。ここでは、聴覚障害学生が講義の内容を把握するために利用する情報保障の手段について説明します。

◆ノートテイク
聴覚障害学生に対する講義保障として最も使われる通訳方法です。
1コマの講義に2名のノートテイカーを配置するのが一般的です。2名以上の聴覚障害学生が同じ講義を受講する場合は、OHCを使う例もあります。

◆手話通訳
現在は、入試の際の面接試験、入学式や卒業式、論文発表会などで利用する傾向があります。リアルタイムに近い状態で通訳ができます。基本的に、1コマ90分の講義に2名の手話通訳者が必要です。

◆パソコン通訳(パソコン要約筆記・パソコンテイク)
パソコンで話者の音声情報を入力し、画面に表示したりスクリーンに映し出したりして伝える方法です。手書きであるノートテイクと比べて、情報伝達量が多くなります。

注意事項
上記の対応で情報保障が十分とは限りません。授業形態により手段を変えたり、組み合わせて対応する場合もあります。また、大学の講義は、教員が口頭で専門用語等を説明することが多くあります。通訳者が音声情報を伝えきれない場合もあります。
特に、授業担当者の側からの配慮(講義の概要、専門用語に関する資料の提供、授業中の話し方など)は、通訳者の負担軽減や情報保障の質や量に大きく影響します。こうした環境が整備されることは、上記の情報保障が有効に活用される上で不可欠なことと言えます。

なお、上記の情報保障手段については、「教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)」に詳しいので、併せてご参照ください。

Q8 聴覚障害学生支援に関する出版物等の情報について教えてください

聴覚しょうがい学生支援 教職員のための手引き
※宮城教育大学ホームページよりダウンロードできます。上記の回答ではかなりの部分を参考にさせていただきました。

また、市販されている図書として次のような出版物があります。
■図書「一歩進んだ聴覚障害学生支援―組織で支える
著者: 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク聴覚障害学生支援システム構築・運営マニュアル作成事業グループ
編者:金澤貴之・大杉豊  出版:生活書院 (2010年)

■図書「大学ノートテイク支援ハンドブック
編著:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク情報保障評価事業グループ
出版:人間社 (2007年)

■図書「大学ノートテイク入門
著者:吉川あゆみ・太田晴康・広田典子・白澤麻弓
編集協力:関東学生情報保障者派遣委員会 出版:人間社 (2001年)

■図書「聴覚障害学生サポートガイドブック
監修:齋藤佐和 著者:白澤麻弓・徳田克己  出版:日本医療企画 (2002年)

■図書「難聴児・生徒理解ハンドブック―通常の学級で教える先生へ
編著:白井一夫・小網輝夫・佐藤弥生  出版:学苑社 (2008年)

■図書「きこえにくいお子さんのために -聴覚障害サポートハンドブック軽度・中等度難聴編-
編集:全国早期支援研究協議会 (2007年)

Q9 PEPNet-Japanについて教えてください

■日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)は全国の高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生の支援のために立ち上げられたネットワークで、事務局が置かれている筑波技術大学をはじめ全国の大学・機関の協力により運営されています。高等教育支援に必要なマテリアルの開発や講義保障者の養成プログラム開発、シンポジウムの開催などを通して、聴覚障害学生支援体制の確立及び全国的な支援ネットワークの形成を目指しています。

■活動内容
◆聴覚障害学生支援体制の確立
1.共同研究による聴覚障害学生支援技術の開発
2.聴覚障害学生に対する支援実践の蓄積とモデルの構築
3.聴覚障害学生支援に関する情報の蓄積

◆支援・情報ネットワークの形成
1.地域の中核となりうる大学・機関間の連携強化
2.地域ネットワークの形成
3.全国の大学・機関に向けた情報の発信・支援

詳細は、PEPNet-Japanホームページをご覧ください。

また、PEPNet-Japanホームページ内には、聴覚障害学生を支援していくために必要な知識や情報をトピックごとに1枚ずつのシートにま とめたTIPシート(アメリカのNETAC作成版と日本版)、より詳細な聴覚障害学生支援FAQ等々のコンテンツが充実しています。

Q10 外国語で行なわれる授業の情報保障については、どのような対応の方法がありますか

語学に限らず情報保障の難しい授業では、担当する教員の協力が不可欠です。
まずは教員と話し合いの時間を持ち、どのような参加の方法が可能か一緒に考える機会を持ちましょう。その上で、ノートテイクやパソコンノートテイクなどの情報保障を配置する場合には、できるだけ語学に長けた支援者を授業に配置したり、留学生や帰国子女・語学関連の学部に在籍している学生などにノートテイクを依頼します。教員を通して支援ができそうな学生を紹介してもらうのもよい方法でしょう。
また、訳文や外国語文など話される内容が決まっているようであれば、前もってレジュメなど文字情報にしておくと、授業中に読んでいる箇所を指し示すことができるので効率的です。この際、レジュメに行番号をつけておくと、どこを読んでいるのかを伝えやすく、より効果的に活用できるでしょう。このほか、ヒアリングや英会話など聴覚の利用が必須となる授業では、筆記中心の授業に代替する場合が多いですが、大学によってはマンツーマンで指導したり、聴覚障害学生専用クラスを設ける例も見受けられます。学生が聴力を利用して聞き取っているのであれば、希望に応じて英語の発音を書いたり、レジュメに『カナ』をふったりしてもよいでしょう。

Q11 ノートテイク(文字)の場合とパソコン要約筆記を外注した場合の経費はどれくらいかかりますか

手話通訳やパソコン要約筆記など情報保障者の派遣にともなう経費は、各自治体によって異なります。これら情報保障者の派遣は、通常、各県に設置された聴覚障害者情報提供施設や聴覚障害者福祉センターあるいは市町村の福祉課などで行われていますので、金額を含めて問い合わせてみるとよいでしょう。一般的には、一人あたり時給1000円~3500円ぐらいのことが多く、はじめの1時間が5000円、以降1時間ごとに1000円などの謝金体系が定められています。
このほか、自治体によっては派遣費謝金や交通費以外に物品(パソコン、延長コード、ノートテイク用のペン、テキストのコピー代等)の準備や費用を求められることがあります。

Q12 大学院における聴覚障害学生の受け入れについて教えてください

講義形式の授業では、学部と同様ノートテイクなどの情報保障を担う支援者を配置することで対応が可能です。しかし、ゼミなどディスカッションが重要になる場面では、パソコンノートテイクや手話通訳など、よりリアルタイムに情報保障が可能な手段の確保が求められています。加えて授業内容を十分に保障するためには、大学院レベルの知識を持つ支援者の配置が不可欠です。したがって、ノートテイカーの確保が困難な場合も予想されます。また、大学院では「研究」も重要な要素です。このため、授業とは別に、教員からの指導場面や研究上必要となる実験・分析などの場面にも支援を求める声があります。

Q13 来年度から難聴の学生が入学する予定ですが、授業中の支援として、どのような方法が考えられますか

まずは面接を行ない高校までの支援内容や本人のニーズを聞く必要があります。その上で、ノートテイク(筆記による通訳、パソコンを使って行なうパソコンノートテイクもある)、手話通訳、補聴援助機器の利用、座席指定など、どのような支援を行なうかを検討することが必要です。
聴覚障害学生の多くは高校まで支援を受ける機会が得られず、本人も自分に必要な支援方法を知らない場合があるので、できれば実際の大学授業を見学してもらいながら、どのような支援方法があり、大学ではどのような対応ができるのかを具体的に提示できると良いでしょう。学内に支援ノウハウがない場合には、交流のある障害学生支援を行なっている大学や障害学生修学支援ネットワーク(JASSO)拠点校にご相談いただくとよいかと思います。
長期的な展望を持って支援体制を組み立ててゆくことが望ましいですが、すぐに資金や人員確保が難しい場合には、まずは教員の話のポイントを書き取ってもらうサポーターをつけることからスタートすることも大事な一歩です。支援内容を固定してしまわずに、本人の要望を聞きながら、授業形式や先生の意見などをふまえて、支援内容を調整してゆくと、より状況に即した支援になるでしょう。