質問コーナー

著者紹介

渡辺 哲也
【国立特別支援教育総合研究所教育支援研究部主任研究員】
人間の音声知覚・触知覚の研究、福祉工学の研究開発に従事。 特に、視覚障害者のコンピュータアクセスを中心としたヒューマンインタフェース技術に興味をもつ。最近は、 障害のある学生の支援、特別支援教育と脳科学にも取り組んでいる。

特別支援教育総合研究所 渡辺先生 近影

Q.質問

 発達障害とはどんな障害ですか? 発達障害のある学生はどんなことに困っており、それに対してどんな支援ができるのでしょうか?

A.回答

発達障害とは?
 発達障害者支援法施行規則(平成17年4月)では、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害と定義しています。知的な発達の遅れはないものの、聞く・読む・計算するなど特定の能力の著しい困難、注意力の散漫、衝動性・多動性、他人との関わりの形成の困難、興味関心の幅の狭さなどの特徴が見られます。

困ったことは?
 発達障害のある学生は、次のような問題を抱えます。

学業面の問題

  • 講義内容をノートに整理できない。
  • レポートのまとめ方が分からない。
  • 講義や作業に集中できない。

行動面・生活面の問題

  • 約束の時間をよく忘れる。
  • 講義時間・部屋などが突然変更になると混乱する。
  • 相手の都合や様子にかかわらず、自分の興味事について話し続ける。
  • 人の話を字義通りに受け取る。

    このような行動面・生活面の問題が原因で、友人ができない、他の学生との間でトラブルを起こす、就職活動がうまくいかない、といった問題が生じます。

支援の内容
 既に取組を始めている大学・高専では、以下のような支援が効果を挙げてきました。

学業面で

  • 板書などは、図や矢印等を使って、流れをわかりやすくする。
  • ボランティアの学生が個別にレポート作成を支援する。

    行動面・生活面では
  • 手帳等を使った予定管理について助言する。
  • 談話室を設け、パニック時などに学生が落ち着ける場所を準備する。
  • 質問・相談時には、はじめに時間を規定する。
  • ソーシャルスキルトレーニングを実施する。

共同研究「高等教育機関における発達障害のある学生の支援に関する研究―評価法の開発と教職員への啓発―」

共同研究
 国立特別支援教育総合研究所は、日本学生支援機構と共同で平成19年度から2年計画で標題の研究を進めています。その研究内容を紹介します。

発達障害のある学生に関するこれまでの調査研究
 平成17年5月に、全国の大学・短大・高専を対象として発達障害のある学生の有無と支援状況を尋ねました。回答校は797校(回収率62.7%)、そのうち229校で、過去5年間に発達障害のある学生の相談がありました。平成16年度の相談実績に絞ると、来談者のうち高機能自閉症の学生の数が157人と最も多く、そのうち53人に医師の診断がありました。
 平成18年5月に日本学生支援機構が行った障害学生の修学支援に関する調査では、回答校は1167校(回収率93.8%)、医師の診断のある発達障害の学生数は127人でした。その中で高機能自閉症等は94人でした。
 いくつかの大学・短大・高専では、発達障害のある学生の支援を既に開始しています。一般的な面接相談以外の取組として、学内関係者向けの理解・啓発事業、保護者・医療機関など学外関係者との連携、模擬面接やソーシャルスキルトレーニングなどの就職支援、学内での居場所作りなどが見られました。一方、ボランティア学生やラーニングセンターなどによる個別の学習支援、試験時間・環境の配慮といった学業支援を行っている機関はまだ多くはありません。

研究の目標
 学生本人はもちろん、保護者・教職員・学生といった周囲の人間が発達障害について正確な知識を持ち、支援が必要であると理解することが支援の実施には欠かせません。しかし、関係者全員が必ずしもそのように理解できていないことが現在の最大の課題です。
 そこで平成19年度から始めた研究では、(1)学生の自己理解を促すための「学業・生活上の困り具合自己チェックリスト(仮)」の評価と改良、(2)教職員を対象とした発達障害に関する理解・啓発セミナーの開催、に取り組むことにしました。

困り具合自己チェックリストの評価と改良
 チェックリストの第1試案は、既に刊行した報告書『発達障害のある学生支援ケースブック』の付録に掲載しているものです。これは、これまでに収集してきた事例や、国内外の他のチェックリストを参考に試作したものです。研究協力機関となっている大学・高専で試用して頂き、発達障害のある学生の発見と自己理解に有効かどうかを検証中です。
また、この自己チェックリストをもとに、学生相談室や保健管理センターの専門家が発達障害の判断に活用するためのチェックリストの作成も検討しています。

理解・啓発セミナー
 発達障害のある学生支援に関する理解・啓発セミナーを年2回実施します。
理学や工学など理系の学部等では、発達障害に関して正しい知識を持つ人はまだ多くはありません。そこで、そのような学部等の教職員を対象として、シンポジウム「理系の学部等における障害のある学生の支援」において、発達障害のある学生の担任経験について佐世保高専の堂平先生にご講演頂き、平成19年度の第1回セミナーとしました。参加者からは、勉強になったという意見を頂いています。
 第2回は、発達障害をテーマとした日本学生支援機構主催の第7回障害学生修学支援セミナーです(平成20年3月開催)。本研究所は共催者として協力し、『発達障害のある学生支援ケースブック』から具体的な事例を紹介するとともに、自己チェックリストについて説明します。
平成20年3月掲載