「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第24回 合理的配慮のモニタリングと調整(2)

コーディネーターBさん

第24回は、「合理的配慮のモニタリングと調整」の第2回目として、モニタリングと「建設的対話」の継続について考えます。このテーマについては、ある私立の中小規模大学の障害学生支援室に絞って、そこでのケーススタディを体験していただくワークショップとなっています。どういったモニタリングが求められ、どういった調整がなされるのか、会話形式で考えてみましょう。

検討課題

  • 合理的配慮のモニタリングと建設的対話の継続

登場人物紹介

ディレクターAさん

Aさん:支援室・ディレクター……40代男性
この大学の障害学生支援室の責任者です。学部所属の教員の兼任なので、障害学生支援が専門ではありませんが、支援室の業務には意欲的です。

コーディネーターBさん

Bさん:支援室・障害学生支援コーディネーター……30代女性
この大学の支援現場の取りまとめをしています。障害学生支援に対しての経験は豊かで、専任として実質的な差配をしています。

支援スタッフCさん

Cさん:支援室スタッフ……20代後半男性
支援のスタッフとして勤務しています。一方で大学院に通っていますので、事務職員と学生の双方の立場がわかります。障害学生支援を勉強中です。

学生ボランティアDさん

Dさん:支援室・学生ボランティア……20代前半女性
この大学では学内で支援者養成の研修をしており、その受講生です。障害学生支援をテーマに卒論を書きたいとのことで、よく支援室に顔を出しています。

モニタリングと建設的対話の継続

なぜ、モニタリングが必要か?…(1)合理的配慮における「主体性」

コーディネーターBさん
Bさん

前回は、モニタリングとは何か?その必要性と重要性について考えました。今回は、「モニタリング」をすることでどういった良い効果があるのか、「建設的対話」の継続という観点から考えてみましょう。

学生ボランティアDさん
Dさん

なぜ、多くの学校で「モニタリング」は制度化されていないのですか? 通常のヒアリングや「アセスメント」とひとくくりにされてきたからですか?

コーディネーターBさん
Bさん

それもあるんですが、もっと大きな理由は、やはり、その必要性が理解されていなかったことにあるんでしょうね。例えば、日本学生支援機構(JASSO)が各大学向けに実施した調査結果では、「モニタリング(フォローアップ)」を行なっていない理由として、
「配慮内容について,その後問い合わせがないため」
「配慮内容を事前に合意できているため」
「本人来室時のみ施設利用に係る配慮を行なっており、恒常的な支援はしていない」といった回答が挙げられていたようです。

支援スタッフCさん
Cさん

なるほど……、配慮を企画した時点で本人から意見を聞き取っているので、その後に本人から特別な意向がない場合は「モニタリング」をする必要がないと考えられているかもしれませんね。でも、支援が順調に進んでいたり、学生本人が何もいってこないからといって、本当に「モニタリング」は要らないと言えるのでしょうか。

ディレクターAさん
Aさん

あれ、でも、ちょっと待ってください。合理的配慮はそもそも、障害のある学生本人からの申告があって、行なわれるものですよね? 本人が言い出さなければ、自主性を重んじてあえて「モニタリング」をしないほうがいいということはないですか。

コーディネーターBさん
Bさん

いえ、原則として、全ての合理的配慮において「モニタリング」はされるべきだと思います。支援が一見、順調に見えるからこそ、支援者や教員が気づかない問題があり得るのではないでしょうか。支援を受けている側の学生にとっては、受講中に気がついた問題点をなかなか言い出しにくいということがあり得ます。むしろ、学生が自分の意志を反映できる機会を増やし維持すると言う意味でも、「モニタリング」などの支援のフォローは積極的にされるべきでしょう。

学生ボランティアDさん
Dさん

そういえば、以前、学生向けの支援研修で、Bさんが、「合理的配慮の主体性」が重要だとお話しされていましたね。そもそも支援を受ける側は、支援の質や内容を言い出しにくかったりするんですよね。

支援スタッフCさん
Cさん

そうですね。サービスをする側もサービスを受ける側も主体的に意見をいう機会を作ることが、重要なポイントだと思います。「モニタリング」は、そのきっかけになりますね。

ディレクターAさん
Aさん

「言われたことだけやる」のではなく、やっていることの過程もしっかりフォローすることで、支援を受ける側も積極的に内容改善に関わっていけるんですね。




モニタリングと建設的な対話…(2)合理的な配慮の「公平性」

学生ボランティアDさん
Dさん

「モニタリング」はとても重要なんですね。それならどんどん、それこそ支援の度に毎回「モニタリング」をした方がいいのでしょうが、実際には難しいですよね。支援室は人手も少なく常に業務オーバー状態ですもんね。

コーディネーターBさん
Bさん

「モニタリング」の困難さは人員や時間の不足だけではありません。授業担当の教員の中には、支援室の「モニタリング」を負担に感じる先生もいらっしゃいます。

支援スタッフCさん
Cさん

先日、発達障害の診断を受けている学生から、「試験問題とレポート課題について、多数の媒体で提示されたり、曖昧な表現があって理解しにくいので明確に伝えて欲しい」という依頼を受けたので、担当の先生に事情を伺いに行ったのですが……。

コーディネーターBさん
Bさん

ああ、ありましたね。少し、先生と意見の違いが出てしまいましたね。

支援スタッフCさん
Cさん

そうです。先生はいろいろな表現を用いるのは授業の特性だし、多様な媒体を使うのは他の学生の利益にもなる。そこで使用を控えるなどの配慮をすると、他の学生の不利益となり、不公平になるのではないかとのお考えでした。

学生ボランティアDさん
Dさん

「モニタリング」していく途中で、障害のある学生の要望が担当教員の考えとかみ合わないこともあるんですね……。

コーディネーターBさん
Bさん

支援の経過と結果を詳細に評価する「モニタリング」は、時に障害のある学生と教員との立場がぶつかるようなコンフリクトを生むことがあります。自分がどう学ぶかに関わる障害学生にとってはもちろん、専門家としてその授業の内容に全面的に責任を持つ教員にとっても、それぞれ自分の観点からの意見がしっかりあることは、むしろ当然だということもできるでしょう。

支援スタッフCさん
Cさん

私としては、相談を受けた障害のある学生の立場にたって考えてしまいますが、担当の先生のおっしゃることもよくわかります。支援室は、障害のある学生と担当教員との間に挟まれる立場になってしまうこともありますね。

ディレクターAさん
Aさん

実施前にせっかく合意できた合理的配慮なのに、「モニタリング」するといくつものすれ違いやコンフリクトが浮かび上がってしまう。授業をする教員としても支援室の職員としてもやりきれなかったりするんじゃないですか?

コーディネーターBさん
Bさん

いえ、そんなことはありません。コンフリクトというとそれを避けた方がいいのではないかという恐れを抱きがちですが、教える側と教わる側のコンフリクトは悪いことばかりではないんです。むしろそれが授業の内容を改善するきっかけになることもあるんですよ。

支援スタッフCさん
Cさん

先程の例もそうでした。最初は先生のご意向と学生の思いがすれ違っていたのですが、先生の言い方を変えていただくのではなく、指示情報を具体的に板書していただくというだけで、障害学生のわかりやすさは随分改善されました。きちんとご相談してみれば、お互いの意見の違いを埋めることができるということがよくわかりました。

学生ボランティアDさん
Dさん

確かに、ちょっと黒板に書いていただいたり、プロジェクタに投影していただけるだけで、ずいぶんわかりやすさが違うんですよね。

支援スタッフCさん
Cさん

はい。授業の一般的な内容とは別に、教材の所在や今後の予定、さらには課題内容や締切などのスケジュールや特に成績に直結する情報は、単純明快に表記していただくことにしました。例えば授業の最初に「今日はテキスト何ページ、配布PDFの何ページ、さらにYouTubeのリンクと、最後にGoogle Classroomで課題が出ます」と配布資料やスライドなどで表示していただくだけで、障害のある学生も問題なく多様な媒体について行くことができるようになりました。

ディレクターAさん
Aさん

ちょっとした工夫だけで、これまで行なっていた授業を変更することなく合理的配慮が実現したわけですね。学生自身だけでなく、先生にとっても良い結果になることもあるんですね

コーディネーターBさん
Bさん

「モニタリング」を通してコンフリクトを解消することが、授業や教育環境をより建設的に改善することに繋がる例はいくつも見受けられます。「モニタリング」はそのきっかけを得る機会でもあるといえます。このような「建設的対話」を実現するような「モニタリング」が求められます。

支援スタッフCさん
Cさん

今回の例でさらによかったのは、このようにスケジュールや課題の情報を事前・事後に文字表示する工夫が、障害のある学生だけでなく、他の一般の学生にもとても好評だったという点です。今回の配慮は障害のある学生だけに実施する必要がありませんから、先生から授業全体に対して表示してもらうことになりました。

ディレクターAさん
Aさん

教員にとっては、1人に対してやるのも全体に対してやるのも負担は変わりませんからね。

支援スタッフCさん
Cさん

そうです。一般の学生は、授業中に多様な媒体を使用することや口頭での課題指示に、ついていけなかったわけではないのですが、文字で示されることでよりわかりやすくなり、授業の進行や目的を事前に知ることで理解を深めることができるようになったようです。

ディレクターAさん
Aさん

障害のある学生のための合理的な配慮が一般の学生に対しても提供されることは、逆に障害のある学生に対して不公平になってしまったりはしないのですか?

支援スタッフCさん
Cさん

いえ、「文字情報で提示する」という今回の配慮内容は、全体に対して良い影響がある上に特定の障害学生の状況に大きな改善を促すので、むしろ教育環境全体を改善し公平性を高めている例だということができます。

学生ボランティアDさん
Dさん

「モニタリング」によって、対立を協働に変えていく姿勢が大事ということですか。まさに「建設的対話」ですね。

コーディネーターBさん
Bさん

配慮の「モニタリング」ばかりか配慮実施そのものが公平性を妨げかねないと感じる先生方もまだいらっしゃいますが、的確な配慮と「モニタリング」は、障害の有無に関わらず、つまり学生を選ばずに授業を実施できるようになるという効果が期待できます。「建設的対話」を続けることで授業全体の改善のきっかけを、学生も、そして教員も得ることができるわけですね。
では、次回はこのテーマの最終回、合理的配慮の連携と持続性について考えます。


参考情報

JASSOの専門テーマ別セミナーの記録がまとめられています。最新の知見に基づく資料を入手できます。

同じくJASSOが委託した調査研究です。本コラムでは十分触れられなかった、学生本人による評価についての貴重な研究成果です。

公益社団法人全国脊髄損傷者連合会がまとめた報告書です。本コラムで触れられなかった通学という観点ですが、モニタリングの必要性が豊富な観点から言及されています。

国立情報学研究所がCOVID-19による大学のオンライン化のために、2020年に開催したシンポジウムの記録集です。障害学生への情報保障でも参考になる情報が集められています。

Judit Kormos, 2017, “Assessing the Second Language Skills of Students with Specific Learning Difficulties”, The Second Language Learning Processes of Students with Specific Learning Difficulties, Routledge.
配慮、アセスメント、モニタリングの関係が簡潔にまとめられています。

ご意見募集

本コラムへの感想、ご意見等を募集しています。以下のメールアドレス宛てに「ウェブコラム第24回について」というタイトルでお送りください。
メールアドレス:tokubetsushien【@】jasso.go.jp
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次回予告

第25回「合理的配慮のモニタリングと調整(3)」は2月24日公表予定です。

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