「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第25回 合理的配慮のモニタリングと調整(3)

コーディネーターBさん

第25回は、「合理的配慮のモニタリングと調整」の最終回として、合理的配慮と対話・連携の持続性、そしてその発展性について考えます。このテーマについては、ある私立の中小規模大学の障害学生支援室に絞って、そこでのケーススタディを体験していただくワークショップとなっています。どういったモニタリングが求められ、どういった調整がなされるのか、会話形式で考えてみましょう。

検討課題

  • 縦軸と横軸を視野に入れた合理的配慮のモニタリング
  • ポストコロナ(COVID-19)のオンライン教育とモニタリング

登場人物紹介

ディレクターAさん

Aさん:支援室・ディレクター……40代男性
この大学の障害学生支援室の責任者です。学部所属の教員の兼任なので、障害学生支援が専門ではありませんが、支援室の業務には意欲的です。

コーディネーターBさん

Bさん:支援室・障害学生支援コーディネーター……30代女性
この大学の支援現場の取りまとめをしています。障害学生支援に対しての経験は豊かで、専任として実質的な差配をしています。

支援室スタッフCさん

Cさん:支援室スタッフ……20代後半男性
支援のスタッフとして勤務しています。一方で大学院に通っていますので、事務職員と学生の双方の立場がわかります。障害学生支援を勉強中です。

学生ボランティアDさん

Dさん:支援室・学生ボランティア……20代前半女性
この大学では学内で支援者養成の研修をしており、その受講生です。障害学生支援をテーマに卒論を書きたいとのことで、よく支援室に顔を出しています。

縦軸と横軸を視野に入れた合理的配慮の調整

モニタリングの発展・縦軸と横軸…合理的配慮の「持続性」

コーディネーターBさん
Bさん

前回は、合理的配慮のモニタリングと建設的対話の継続について考えました。今回は、合理的配慮をどのようにして持続していくかについて考えましょう。

学生ボランティアDさん
Dさん

前回、「モニタリング」を通した「建設的対話」が重要なことはよくわかりました。時間をかけて丁寧に「モニタリング」を続けていくのがいいんでしょうが、長く対話に繋げていくのも大変そうですね。

ディレクターAさん
Aさん

そもそも、支援室は人手不足ですしね。

支援室スタッフCさん
Cさん

先日もひとつ、解決に苦労した例がありました。依頼した学生は、発達障害の傾向があり、場面緘黙の疑いがあって、授業で先生から当てられたり意見を求められたりする場合に、どうしても発言が難しく困っていました。

ディレクターAさん
Aさん

外国語や実習・実験などは、ディスカッションやグループワークが求められることも多いですが、そういう授業ほど学科によっては必修科目になっていますからね。そのような相互交流を重視する科目で、コミュニケーションができないというのは、成績にも関わってきそうですね。

支援室スタッフCさん
Cさん

ただし、口頭での発話に困難があっても、板書やノートへの筆記、パソコン、スマホでのタイピングはできそうだったので、Bさんのコーディネートによって、授業によっては、そのようなデジタル機器によってサポートする可能性を検討することになりました。

学生ボランティアDさん
Dさん

でも、授業によってはスマホやパソコンの使用が許されていないものがあります。1人だけ使っている学生がいるというのはなかなか理解されない気もしますが。

コーディネーターBさん
Bさん

デジタル機器の使用の場合は、その必要性をきちんと説明してから導入する必要があります。そのため、まずはパソコンやスマホではなく、支援室で用意している筆談ボードや専用のコミュニケーション用の機器を用意することになりました。ただ、実際に使うところまではいかなかったみたいです。

ディレクターAさん
Aさん

うーむ、教員の立場からは、1人だけ筆談ボードでという環境では、なかなかディスカッションを進めにくいですね。むしろ2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応として進んだリモート授業の方が対応が楽そうですが、実習など、授業によってはリモートに向いていなくて、対面で積極的にディスカッションをしたいものも多いですね。

支援室スタッフCさん
Cさん

先程の例は、授業がZoomを使って行なわれたことで、チャットを使ってのディスカッションが可能になって、だいぶ改善しました。他にもGoogle Meetなど、リモート会議システムは、大学でもどんどん導入されていますね。これらは、チャット、ブレイクアウトルーム、さらに画面共有などの使用法を工夫することで、コミュニケーションに課題を抱える障害のある学生にとって、ディスカッションに参加しやすくなったりしているようです。一方で、知らない人といきなりブレイクアウトルームに分けられてしまうなど、逆にハードルが上がったという意見も聞きました。

コーディネーターBさん
Bさん

大学全体の設定によって機能がうまく使えなかったりしている例もあるようです。これらのネットワーク・システムを活用する効果は、障害のある学生にとっても大きいものがありますが、設定変更は担当教員だけではなく、情報システム部門の担当領域が出てきます。教員の方で設定変更できてもやり方がわからないということもあります。これからの合理的配慮は、教員や支援室だけでなく、情報システム部門の積極的な支援が不可欠といえます。

学生ボランティアDさん
Dさん

それこそ、先ほどのパソコンやスマホでの筆談も、学生全員がタブレットを使用していたら改善できるのではありませんか?

コーディネーターBさん
Bさん

そうすると、そのような備品、設備を用意できていることが理想ですから、情報システム部門だけでなく、設備や建物の管理部門の協力も必要になってくるかもしれませんね。当初の合理的配慮では関係してこなかった担当部局とも、「モニタリング」の結果、幅広く協力していくといった「横軸の連携」が求められているともいえます。

ディレクターAさん
Aさん

これらの工夫は教員の積極的な参加が不可欠なので、FD研修などで常にノウハウを深めるようにしています。教員としても、全員がタブレットを使ったり高速で多機能なリモートが可能な環境は、それが使いこなせるかはともかく理想ではあるんです。でも、授業は色々、先生の理想も色々で、環境整備の話を言いはじめたら、いくらお金があっても足りません。しかもどうしても、学生全体ではなく少数の障害のある学生のためとなると、どの程度の資金を、という話にはなります。

学生ボランティアDさん
Dさん

なるほど……、先生の理想、学生の理想、支援の理想、言い出したらキリがないですね。学生向けの支援研修では、「合理的配慮の継続性」について、一回限定だったらできるが学期に渡っての支援は問題があるという話がありました。理想があっても、それが継続的に実現可能かは考えないといけないということですね。

コーディネーターBさん
Bさん

合理的配慮は先例になるものですから、「今年はできるけど来年はできなさそう」といった配慮案は、そもそも無理があるといえそうです。その意味で、時間的な縦軸を踏まえた「継続性」は、経済面や人材面の面からも、とても大事ですね。ただその観点は、支援室など一つの部門のみで判断されるものではありません。情報システム部門や設備管理部門の「横軸の連携」によって、長期的にも実現可能になるものはあるでしょう。

支援室スタッフCさん
Cさん

そういえば、先の場面緘黙の学生も、「事前にシラバスにグループワークの記載があったり、発言が授業への参加度の評価に含まれるといった記述があれば、相談のしようがあった」と話していました。「モニタリング」前に把握できれば、当初段階での連携が図れたかもしれませんね。

コーディネーターBさん
Bさん

シラバスの記載は、おそらく教務部門などの担当ですね。シラバスへの合理的配慮に関する記載のルールを設け、徹底しておくことで、授業実施前に効率的に配慮案を考えたり、障害のある学生の履修計画に活かしたりすることができるもしれません。ここでも「横軸の連携」が活きそうですね。

支援室スタッフCさん
Cさん

そういった連携で、できることを改善していくことで、デジタル化などコストのかかる環境構築を効率的に提案できれば、大学全体としても改修に踏み切りやすくなるかもしれませんね。

ディレクターAさん
Aさん

教員の側も、相互交流が重視される時代だとしても、急に発言を強いることなく、心の準備も可能なプレゼンテーションを検討したり、段階的にインタラクションに誘導するなど、できる工夫は残されていそうですね。これも「連携」の活性化の一つといえるかもしれませんね。

コーディネーターBさん
Bさん

大学全体から見れば小規模な障害学生支援室だからこそ、障害のある学生本人との建設的関係はもちろん、周りとの建設的関係を構築しなければ、支援を持続できません。視野の広い「モニタリング」が、そのきっかけとなります。

学生ボランティアDさん
Dさん

安定的な配慮を継続するためにも、縦にも横にも視野を広げた「モニタリング」が必要というわけですね。

ポストコロナ(COVID-19)の配慮とモニタリング…合理的配慮の「本質性」

学生ボランティアDさん
Dさん

ここまで考えてくると、合理的配慮の「モニタリング」というのは、障害学生支援だけではなくて、授業の工夫や環境改善など、教育全体に関わってくるように思えます。

ディレクターAさん
Aさん

確かに、これまで「モニタリング」の中で求められてきた、授業の改善、環境面での連携、学生の自主性の尊重など、教員の立場からすると、いずれも障害学生支援というよりは、どんな授業にも関係する観点だと言えます。

コーディネーターBさん
Bさん

「建設的な関係」もあらゆる場面で求められていると言えるかもしれません。特に「モニタリング」は、障害のある学生個人に合わせていく合理的配慮の企画段階にも増して、丁寧に状況をつかみ効果を論じていく段階ですから、高等教育全体に求められるものと変わりませんね。

支援室スタッフCさん
Cさん

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)下で進む大学のオンライン化だからこそ、という例も、最近ありました。オンライン授業で、Zoomなどの会議システムでリアルタイムに実施する科目を、難聴の学生が受講していたのですが、「モニタリング」によって、どうしても音声が聞き取りにくい点が残ることがわかりました。「モニタリング」と並行して、音質の改善からはじめ、自動字幕やパソコンテイクでの情報保障を試していったものの、なかなかフィットしませんでした。そこで障害のある学生、担当教員、支援室、さらには会議システムを担当する情報部門など話し合って、「タイムラグ受講」という配慮を実施することになりました。

学生ボランティアDさん
Dさん

それはリモート授業ならではの支援なんですか?オンライン教育での「モニタリング」というと、カメラやセンサーでの監視空間といったイメージでしたが、実際はだいぶ違うんですね。

支援室スタッフCさん
Cさん

そうなんですよ。オンライン授業は、リアルタイムで実施される場合も、会議システムによっては自動的に録画する機能があります。本学では、この機能を利用して、授業当日にネットワークやパソコンの不調で聞くことができなかった人のために、できる限り録画しておいて回線が安定している時間でも見たり復習したりできるようにしているんです。

ディレクターAさん
Aさん

⼀昔前は、授業を録画して見られるようにするなんて、技術的・コスト的にハードルが高いと思われていたんですが、あっという間に可能になりました。録画で保存されるのに消極的な教員もいましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、ムードが変わりましたね。

コーディネーターBさん
Bさん

そうなんです。その録画された授業の音声を支援室で文字起こし(トランススクリプト化)すれば、難聴などで聞き取りにくい学生に、文字情報として提供することができます。学生はそれを見ながら遅れて受講することで、すべての音声を視覚情報に変えて学習することができるわけです。

支援室スタッフCさん
Cさん

当日の授業が録画データとして整備されるのに2日、私たちスタッフがそれを文字起こしするのに4日、約1週間遅れで、録画データを元に情報保障された授業を受講できますが、課題提出を後ろにずらす調整は必要です。

コーディネーターBさん
Bさん

この「タイムラグ受講」の良いところは、難聴の学生だけではなく、その他の障害のある学生にとっても、とても便利だということです。一度、トランススクリプトに文字起こししてしまえば、視覚情報の方が学びやすい傾向のある障害のある学生がスクリーンリーダーで読み上げる、視覚障害のある学生にとっても点訳がしてもらいやすい、日本語の理解が不得手な留学生の方が印刷して教材に使うなど、応用範囲は劇的に広がります。

ディレクターAさん
Aさん

教員にとっても、録画データから文字起こししたトランススクリプトがあるのは、学生の復習にも役立ちそうですし、記録・忘備録としてとても便利ですね。課題提出を1週間後ろにずらすだけで、定期試験の作問にも役立ちそうだ。

支援室スタッフCさん
Cさん

はい、授業によっては、担当の先生が希望されることがあります。録画を動画サイトに限定公開し、その際に挿入する字幕として使えば、難聴や聾の学生向けの配慮にもなりそうです。

学生ボランティアDさん
Dさん

一つの「モニタリング」の結果が、このように幅広い可能性を持つこともあるんですね。通年にわたるリモート教育は弊害が大きいと思っていたんですが、障害学生支援にとっての飛躍のきっかけにもなり得るんですね。

ディレクターAさん
Aさん

このように授業の環境が変わったり、それにあわせて教員が授業を改善し続けたり、さらに学生の側も工夫したりしていくと、「合理的配慮」の内容もどんどん変わっていくことになり、キリがないということはないんですかね。

コーディネーターBさん
Bさん

おっしゃるとおりで、だからこそ継続的な「モニタリング」が重要ということになります。ただし、できそうなことを全てやればいいというわけではありません。「タイムラグ受講」が良かった点は、それが「多くの学生にとって、わかりやすくなる」支援であり、「教員にとってもわかりやすく伝える」手助けとなっているところにあるでしょう。

ディレクターAさん
Aさん

確かに、それは、「学びたい人に、学ぶべきことを、学べるように」教えるという、教育の「本質」そのものだと言えるかもしれませんね。

学生ボランティアDさん
Dさん

「合理的配慮」は、そのような教育の「本質」を支える一部なんですね。

支援室スタッフCさん
Cさん

「モニタリング」はその意味で、「合理的配慮」、先生方の「授業」、そして大学での「教育」そのものが、その本質を忘れないようにするための道しるべと言えるのかもしませんね。

コーディネーターBさん
Bさん

いかがでしたでしょうか。全3回にわたって、合理的配慮のモニタリングと調整について考えてきました。ポイントを「主体性」「公平性」「持続性」「本質性」の4つに整理し、それぞれ学生、教員、そして支援者の立場から議論してもらいましたが、いずれも、「モニタリング」のような継続的な取組が重要なことを理解いただけたと思います。合理的配慮を単に企画したり実施したりするだけではなく、建設的な対話、幅
広い連携、そして教育の本質的改善につながる契機として、ぜひ考えてみてください。


参考情報

JASSOの専門テーマ別セミナーの記録がまとめられています。最新の知見に基づく資料を入手できます。

同じくJASSOが委託した調査研究です。本コラムでは十分触れられなかった、学生本人による評価についての貴重な研究成果です。

公益社団法人全国脊髄損傷者連合会がまとめた報告書です。本コラムで触れられなかった通学という観点ですが、モニタリングの必要性が豊富な観点から言及されています。

国立情報学研究所がCOVID-19による大学のオンライン化のために、2020年に開催したシンポジウムの記録集です。障害学生への情報保障でも参考になる情報が集められています。

Judit Kormos, 2017, “Assessing the Second Language Skills of Students with Specific Learning Difficulties”, The Second Language Learning Processes of Students with Specific Learning Difficulties, Routledge.
配慮、アセスメント、モニタリングの関係が簡潔にまとめられています。

ご意見募集

本コラムへの感想、ご意見等を募集しています。以下のメールアドレス宛てに「ウェブコラム第25回について」というタイトルでお送りください。
メールアドレス:tokubetsushien【@】jasso.go.jp
(メール送付の際は、@の前後の【】を削除してお送りください)

次回予告

第26回「建設的対話とは(参考対話)」は3月10日公開予定です。

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