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(1)合理的配慮とは

  • 障害者の権利に関する条約では、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されています。
  • 障害者差別解消法において合理的配慮の規定は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないとき」にその社会的障壁を除去することとなっています。
  • 例えば、運動機能に障害があって車椅子を使っている学生がいたとします。受講したい授業の教室が階段を使わないと行けない場所にあったとすると、階段が「社会的障壁」となり、授業への参加が制限されます。この授業で使う教室を車椅子でアクセス可能な教室に変更すれば、社会的障壁が除去されたことになります。この場面での教室変更が、合理的配慮に当たります。

(2)合理的配慮の内容の決定の手順と留意事項

合理的配慮の内容を決定するための一般的な手順をまとめます。

障害のある学生からの申し出

  • 合理的配慮の検討は、原則として学生本人からの申し出によって始まります。
  • 障害のある学生で、配慮が必要であるにもかかわらず、申し出がうまくできない状況にある場合には、本人の意向を確認しつつ、申し出ができるよう支援します。

根拠資料

  • その学生にとってどのような配慮が有効か、その配慮が妥当かを判断する材料として根拠資料を求めます。
  • 根拠資料の例として「第二次まとめ」で示された項目を下記に示します。これらの全てが必要ということではなく、何らかの資料で機能障害の状況と必要な配慮との関連が確認できるということがポイントです。例えば、手先が不器用で書字に時間がかかるという機能障害が確認できれば、多くの文字を書かなければならない試験において試験時間を延長するのは妥当な配慮と言えます。

根拠資料の例

  • 根拠資料の求め方としては、大学入試センター試験も参考になるでしょう。発達障害のある受験生がセンター試験の受験上の配慮を受けるための根拠資料を見てみると、診断名に加え、申請日3年以内の心理・認知検査や行動評定の結果とともに、配慮が必要な理由を記述するようになっています。
  • 合理的配慮の提供において、根拠資料は必須の条件というわけではありません。提供する人にとって負担とならない場合、特別な資料がなくても障害の状況が明らかな場合等は、根拠資料がなくても問題ありません。

配慮内容の決定と建設的対話

  • 合理的配慮の内容を検討する際、大学等が一方的に決めるのではなく、障害のある学生本人の意思決定を重視します。
  • 障害のある学生の困り感やニーズを丁寧に聴き取るとともに、大学等としてできること、できないことを伝えるなど、建設的対話を重ねて双方が納得できる決定ができるようにします。この際、本人が具体的にどうしたらよいか分からない場合、自ら意思決定を行なうことが困難である場合は、配慮の受け方について支援します。「やってあげる」支援ではなく、「自分で決められるようになる」支援であることが重要です。
  • 合理的配慮の決定手続きについては、学内規定を定め、それに沿って行ないます。
  • 合理的配慮の内容は、授業担当者や特定の教職員の個人判断ではなく、委員会等で組織として最終決定がなされるようにします。

内容決定の際の留意事項:教育の目的・内容・評価

  • 合理的配慮の内容が妥当かどうかの判断基準として、教育の目的・内容・評価の本質を変えないという原則があります。合理的配慮としてできること、できないことの基準が明確となるよう、これらの本質は明確にして公開される必要があります。具体的には、次に挙げる教育に関する三つのポリシーや授業のシラバスがそれに当たります。判断の基準になるよう、抽象的で形式的記述ではなく、具体的であることが期待されます。

三つのポリシーとシラバス

  • 例えば、ある大学の医学部でディプロマ・ポリシーとして「患者や医療者の意図、感情、考え等を理解し、自身の考えを相手に効果的に伝えられるコミュニケーション能力」を身に付けた者に学位を授与するとし、アドミッション・ポリシーでも「他者の意見を理解し自分の考えを伝達する能力のある人」を求め、それを面接試験で評価しているとします。この場合、コミュニケーション能力の評価を免除することはできません。機能障害のために一般的な面接のやり方ではコミュニケーション能力を発揮しにくいということであれば、面接のやり方を工夫し、意思疎通をしやすくなるような配慮をした上で、評価することになるでしょう。「できないなら、やらなくてよい」というのは、合理的配慮ではありません。
  • 各授業においては、シラバスに達成目標、授業の内容、評価方法、評価基準等を具体的に示すことが求められます。そうすれば、事前にどのような配慮が必要か、判断する材料になります(「合理的配慮を踏まえたシラバス」も参照してください)。

内容決定の際の留意事項:過重な負担

  • 提供する側にとって過重な負担となる場合は合理的配慮とは言えませんが、どの程度の負担なら「過重」なのかについては、明確な基準があるわけではありません。
  • 授業担当者が個人的に負担と感じるとか、障害学生支援部署の予算が限られているからといった理由のみでは、必ずしも過重な負担とは言えません。予算に関しては、障害学生支援部署の予算のみならず、大学等全体でどうしていくかを考えていくことが望ましいと思われます。
  • 要望のあった配慮とは異なっていても、同等の効果が得られるよりコストのかからない方法を学生と共に考えるという対応は、建設的と言えるでしょう。その際、「予算がないからこれだけしかできません」と、一方的に結論を伝えるような形にはならないようにしましょう。
  • 財政的人的資源が限られた中で必要な対応をするためには、地域連携、大学間連携等外部の資源を活用する方法も有効です。

合意形成が難しい場合

  • 決定された合理的配慮の内容に学生が納得できない場合、学生が差別的取扱いを受けたと感じた場合に、相談できる窓口を準備しておく必要があります。
  • 相談窓口、調整を行なう部署は、障害のある学生の支援を担当する部署や委員会とは独立していて、中立的な立場で調整が行なえるような第三者組織であることが求められています。また、「第二次まとめ」では、その組織に「障害者が参加していることが望ましい」とされています。
  • 学内に第三者組織が整備されていない場合や、第三者組織で調停ができなかった場合に、障害のある学生が相談できる学外の窓口として、文部科学省高等教育局学生・留学生課、法務省人権擁護局、障害者差別に関する条例を制定する地方公共団体、障害者差別解消支援地域協議会などがあります。学生には、相談できる窓口の情報を伝えておきましょう。

結果のモニタリング

合理的配慮は、ずっと同じことを続ければよいというものではありません。授業の種類によって、ニーズも異なってきます。学生、教員双方から配慮の結果について聴き取り、必要があればやり方を変えていけるようにしましょう。

(3)合理的配慮と卒業後に向けた支援

  • 正式な手続きを踏んで提供される合理的配慮は、卒業後の進路にもつながっていきます。公的な資格試験や公務員試験なども、実施者が公的機関であれば合理的配慮の提供が法的義務となります。大学等での配慮実績は、こうした試験で配慮を求める際の根拠にもなるでしょう。
  • 合理的配慮は障害学生支援における重要な要素の一つですが、それが全てではありません。自己管理しながら健康な生活を送れるようになること、自己理解を深め、自己決定ができるようになること、大学等卒業後の就職のために必要な力を身に付けること等は、社会的障壁の除去だけで実現するものではありません。学生がこうした力を伸ばしていくためには、教育的支援・指導、カウンセリングやキャリア相談等、多様な学生支援サービスを組み合わせて利用できるようにすることが重要です。

卒業式の様子。パソコンノートテイクの投影があり手話通訳者が壇上で通訳している。(筑波技術大学)

卒業式の様子。パソコンノートテイクの投影があり手話通訳者が壇上で通訳している。(筑波技術大学)

(4)合理的配慮を踏まえたシラバス

合理的配慮の判断に当たっては、教育の本質を明らかにしておくことが前提となります。教育の本質があいまいな場合は、合理的配慮を的確に判断することが難しいため、大学等においては、教育の目標や方法・評価基準等を明確にし、その情報を学生に伝えていく必要があるでしょう。例えば、大学等においては、各授業のシラバスで、これらの情報を明確にしておくことが望まれます。

全ての学生にとって、シラバスに記載されている情報は授業を選択・履修する上で重要な情報となっています。ただし、現状では授業の大まかな内容や方法が記載されている、また、到達目標や評価方法等については、授業の中で適宜アナウンスされているような場合も多いのではないでしょうか。障害のある学生にとっては、授業の内容等はもちろん、どのような方法で授業が行なわれるか、また、使用教材等についてもより詳しく知っておくことで、授業を選択する際の参考情報となります。もちろん、授業について詳細な情報をシラバスに記載することは、全ての学生にとって有効な情報であると言えるでしょう。

講義の形式等に関する情報

  • レクチャー形式、ゼミ形式、フィールドワーク等
  • 履修定員(大人数、少人数等)、履修対象(学年等)
  • 履修学生による参加の程度(ディスカッション、プレゼンテーション、ディベート等の有無)
  • 板書やスライドの活用の程度 ※量・頻度を含む
  • 授業環境(バリアフリーの状況、固定席・自由席、授業中に移動が伴うか等)

教材に関する情報

  • 教科書、参考書の活用状況
  • 資料の活用状況(媒体、配布の有無・方法、言語等)
  • 配付資料の内容(文章、写真、イラスト、数式、図表、地図等)
  • 視聴覚教材の活用状況(音声教材、映像教材等)※使用頻度を含む

評価に関する情報

  • 授業の本質(到達目標、評価基準等)
  • 評価方法(小テスト、提出物、中間・期末試験、レポート等、それぞれの有無や形式)

グループワーク形式の講義(日本福祉大学)

グループワーク形式の講義(日本福祉大学)

(5)障害のある学生と関わるときの基本的心構え

アドボケイト(advocate)としての役割を意識する

このように、障害のある学生は、学生生活の様々な場面で、自分の心身や生活スタイルの有様が前提となっていない環境だと感じることが少なくないことが想像されます。合理的配慮は、決してわがままではなく、本来当たり前に求めてよいことであり、他の学生と平等な学びのフィールドに立つために必要なことです。しかし、障害のある学生本人にとってみれば、ちょうど異国の地のようにアウェイな環境の中で、自らの有様とその権利を大学等に訴え、要望を主張することで、はじめて得られることとも言えます。しかしながら、障害のある学生はそれまでの教育課程で、合理的配慮を求める行為を自分自身の自己決定に基づいて行なった経験がないことも少なくありません。その結果、何が合理的と言えるのか考えることが難しく、自分のわがままではないのかといった不安や恐れが先立ち、自信を持って要望を述べることが難しいケースがほとんどではないでしょうか。

日々の生活の中で、障害学生支援を担当する教職員は、障害のある学生にとって、最も身近な味方となってくれる人間です。大学等の利害を代表する役割の前に、障害のある学生のアドボケイト(ともに権利を主張してくれる存在)としての役割があることを、忘れるべきではないと言えます。そうでなければ、障害学生支援の営みは、障害のある学生ではなく、大学等の利害を代表するものとなってしまいます。結果として、障害者権利条約や障害者差別解消法といった法の精神を遵守する営みとはとても呼べないものとなってしまうかもしれません。

公平な態度を持つ

とはいえ、障害のある学生の立場に立ち、味方となったとしても、社会正義に基づいた公平な態度を持つことは不可欠です。アドボケイトとしての役割を意識した上で、大学等での学びや生活について、公平な視点からの助言ができることが求められます。そのような助言は、障害のある学生が何を大学等に求めていきたいのかについて、障害のある学生本人が理解を深めたり、自己決定をしていくことの支援につながるはずです。
しかし、公平な態度を育てていくためには、支援担当の教職員個々人が、障害学生支援についての専門的な知識を深め、経験を重ねていくことが求められます。そうでなければ、ある支援者個人の思い込みに過ぎない、とても公平とは呼べないような助言や態度、支援内容になってしまうことがあるからです。

雨の中、傘をさして車椅子を押す。(筑波大学)
雨の中、傘をさして車椅子を押す。(筑波大学)

具体的には、障害者権利条約や障害者差別解消法等の関連法についての適切な理解を出発点として、様々な障害の個別の状況を理解するための知識や経験、障害から生じている困難に直面している学生を支援する様々な方法についての知識・経験・技能の蓄積は不可欠です。また、個別のケースで、その障害のある学生が参加する授業や活動が求めている本質的な要件について、担当の教職員と共通理解を図っていくコミュニケーション・スキルも求められます。これらの知識と経験、技能に基づいてはじめて、障害のある学生と、ともに公平な学びの環境を作るための合理的配慮の在り方を考えていくことができます。
このハンドブック全体で述べられている事柄について学ぶことで、障害学生支援の役割を学内外で果たされる教職員に、アドボケイトとしての役割と、公平な態度の在り方について、それぞれの考えを深めていただけることを期待します。


執筆者:近藤 武夫、高橋 知音、村田 淳


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