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(1)概要

精神障害には症状が目に見えにくいという特徴があります。軽症で軽微な違和感が持続する状態が続くなら修学支援の対象となることは比較的まれです。それでも病状が長期にわたり持続するとなると、学業や社会生活において必要な遂行能力に支障を来す可能性があります。社会的な予後の観点からは、医療や修学支援の適応を検討するのは早めが望ましいでしょう。医療機関の受診や支援要請までに、病識(病状の自覚)を持って障害を受容するという心理的なプロセスが伴うことが重要となります。

精神障害の分類は、「国際疾患分類」及び「精神障害の診断と統計マニュアル」に依拠します。大学等に在籍する学生に比較的多い精神障害として統合失調症、気分障害、不安障害があります。以下、これらの障害を念頭に、修学支援を行なう上で留意すべき点について述べます。

統合失調症は、睡眠障害、情動の不安定さ、興奮、幻覚・妄想、思考障害、発動性低下といった症状を呈することがあります。

気分障害は、うつ状態を中心とする症状を多様な程度と周期で呈するもので、意欲低下、興味や喜びのの喪失、自信喪失、希死念慮、睡眠障害、不安感、胃腸症状、易疲労感、更に多彩な身体症状を伴うこともあります。また、躁状態を従う病状も含まれます。

不安障害では、パニック障害や全般性不安障害では心臓が止まって死ぬのではないかと思うほどの不安感に襲われ、動悸、四肢の震え、冷汗、過呼吸発作、めまい、吐気、意識が遠くなる感じ等を経験します。症状が改善しやすい一方、周囲に人が多数いる状況で発作が再発することがあります。

(2)修学において起こりがちな困難さの例(制限・制約)

睡眠-覚醒リズムがずれると授業や実習への欠席や遅刻が目立つようになります。入眠困難のため睡眠時間が短縮したり寝起きが悪くなったりして午前中の出席に影響します。

  • 睡眠導入剤や精神安定剤を服薬している場合、薬物治療が定着して体調が安定するまでの治療初期等に、午前中の早い時間の講義や実習、あるいは体育科目の身体運動が大きな負担となることがあります。
  • 精神症状の程度や内容は変動する可能性があります。その変動は、一日のうちでも、また週や月の単位で周期的あるいは不定期です。気分の日内変動(朝や午前が不調なことが多い)が生じると、通学することや授業に集中をすることが難しくなります。
  • 情動の不安定さ、思考力、記憶力、集中力の低下を来すことがあり、物事に意欲的に取り組むことや予定どおりに課題を遂行することが難しくなります。
  • 講座やゼミで、人前での発言やグループワークでの作業が思うようにできない場合には、授業や実習も欠席しがちになります。
  • 他人との関わりが苦痛に感じる状態になり、ひきこもり気味の生活が続くと、友人、教職員、家族から連絡が取りにくくなります。
  • 抑うつ気分や気分の易変性・不安定さがあると、些細な出来事や他人の発言に過敏に反応したり被害的な捉え方をしたりしがちとなります。イライラ感があると攻撃的な発言をしてしまい、思いがけない対人関係上のトラブルが誘発されることがあります。

(3)合理的配慮の例

試験時

  • 公共交通機関の利用が難しい場合は主治医と相談の上、自動車での入構許可を検討します。
  • 試験中に頓服薬の必要性がある場合、服薬と飲水を許可します。
  • 試験を欠席した時に追試験や再試験を設定します。
  • 教室での試験の際、動悸・冷汗・過呼吸等の症状を呈する可能性が高い場合や周囲の受験者への影響が避けられない症状(独語、チック*等)がある場合、別室での受験を許可します。
  • トイレに頻回に行く可能性があるなら、トイレまで近い試験室、そして通路や出口に近い座席・場所を優先的に指定します。
  • 書字や読字に時間を要することが明らかなら、試験時間の延長や解答方式の変更(チェック式にするなど)を行ないます。
  • 試験監督の説明や指示について、一度聞いただけでは理解が難しい症状がある場合に、注意事項等の伝達を文書(書面や板書)で行ないます。
  • *チック障害:不随意的、急速で反復的、非律動的な運動あるいは発声(ICD-10)(音声チックの主な症状は、咳払い、鼻鳴らし、唸り、同語反復、同響言語、汚言、が挙げられる。運動チックの主な症状は、瞬き、肩すくめ、同響動作などが挙げられる。)

授業時

  • うつ状態や不安障害等の治療初期や復学直後等に、体調がやや不安定になる可能性があり、欠席や遅刻が避けられない場合があります。このような体調不良が懸念される時期は、あらかじめ欠席や遅刻の可能性について支援担当スタッフや指導教員に相談することができれば、当日の連絡や配付資料の提供等、具体的な情報保障について決めておくことができます。
  • 通学に従う体調不良の程度や日数について、主治医に理解してもらうことが有用です。特に実習や実験の場合、学校側は実習先やパートナーへの配慮も必要になりますので、主治医からの意見や助言が必要と判断されることがあります。
  • 授業で欠席や遅刻をする場合、担当教員にそれらの回数の猶予や代替課題の提示、又は試験や評価の変更点を個別に検討してもらうことになります。担当教員が学術的要件をどのように求めるかによって、多様な個別的対応が提示されると考えられます。
  • 急激に精神症状(強い不安や恐怖等)が生じた場合、速やかに服薬や退室をしてよいことを、あらかじめ本人に伝えておきます。
  • 授業中の不安や聴覚過敏への配慮として、周りが空いた静かな席や壁に近い最前列の席を優先的に確保します。
  • 教員に指名されると極度に緊張し、意見を述べることが困難になる場合は、指名を控え、個別面談や代替課題等による評価を検討します。
  • 多人数の学生を前にした発表が難しい場合、教員の前で発表する機会を設けるか、代替方法により理解度を評価します。
  • 授業の内容を理解してノートを取ることが難しい場合、ノートテイカー依頼、レコーダー・デジタルカメラ・スマートペン等の方法を検討します。
  • 授業や試験に関する変更点の伝達、学生からの照会に迅速に対応するため伝達や照会の方法を確認しておきます。メールの場合、Cc/Bccの設定(支援者や責任者を含むかなど)について決めておきます。

その他

  • 精神状態の増悪因子を避けるようにします。例えば、長時間に及ぶ実験や臨機応変な対応が求められるグループワーク等では、体調に影響が生じる可能性があります。
  • 配慮を実施する過程で個人情報の取扱いに留意します。メールで学内外の支援者との連絡や学生の個人情報を扱うに当たり、パスワードをかけるなどの工夫をします。
  • 支援内容を決定するに当たり、情報の開示範囲について合意を形成することが必要です。授業や実習に一緒に参加している学生に、支援を受ける学生の障害について開示するかどうか、本人の意向を確認しておきます。

(4)指導方法の例

  • 学外実習に参加するに当たり、その期間中の体調管理について主治医にあらかじめ対応を依頼しておくと、頓服薬の処方が検討される等健康への配慮が確実にできます。また、病状の悪化やトラブルの発生が懸念されるときは支援者も主治医に助言を依頼するようにします。
  • 学外実習を準備に当たっては、事前に学生と相談する機会を設定します。実習参加の意思を確認するだけではなく、特定の場面で支援が必要であるかについて確認し、受入れ機関に具体的な配慮を依頼するかを相談します。
  • 学外実習先に、支援を要する可能性がある学生がいることをあらかじめ伝えておくほうがよい場合があります。受入れの準備段階で先方にどのような説明をするのかについて、事前に相談し、合意を得ておくとよいでしょう。
  • 専門課程のコアカリキュラムに相当する科目について、合理的配慮の範囲を学校側が検討する必要が生じる場合があります。症状が軽快するまでは難易度が高い履修を先送りにして、体調の回復してから履修するという方針が適切と考えられることもあります。
  • 履修に関する相談を丁寧に行なうことにより、講義の詰め込み過ぎを避け、無理のないスケジュールを組むように促すことが大切です。難易度が高い科目は体調が回復してから再履修する方針が望ましいでしょう。体調や服薬の影響で午前の早い時間の授業や体育科目に取り組むことが難しいようなら、履修計画の段階で工夫します。
  • 集中講義や演習が長時間にわたることが明らかであれば、学内で休息できる場所を確保することも有効な配慮となります。
  • 注意力や集中力の低下が懸念される学生が、危険物質や有害薬品を取り扱う実験を準備する段階で担当教員だけでなく実験のパートナーやティーチング・アシスタントに配慮依頼を含めた協力を依頼して安全を確保します。
  • 精神症状が数週間ないしは数カ月間のうちに変化するに従い、支援ニーズも変わる可能性があるため、定期的に現況を確認して支援の在り方を調整します。
  • 修学支援を受ける中で病状が悪化することもあります。不調が一定期間続く場合、通学を続けることが限界に達していると考えられることもあります。懸念される事態があれば支援スタッフは主治医の意見を参照しながら、無理のない履修計画を再確認し、やはり休学を検討すべき局面もあります。学生が休学を望めない場合もありますが、卒業や進路決定といった大目標の達成に向けて、望ましい選択を検討しましょう。
  • 発達障害が併存している場合、精神障害に特化した治療に加えて、発達障害の障害特性を考慮した環境調整と適切な関わりが求められます。精神障害が改善した後は、発達特性をより重視した支援内容へ移行します。

執筆者:丸田 伯子

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