2023年 年頭のご挨拶
明けましておめでとうございます。
年頭にあたり、ご挨拶申し上げます。
新型コロナウイルス感染症が地球上に広がってから3年という年月が流れました。2020年春、私たちは疫病の激しさと感染力に強い恐れを抱きましたが、それがこれほど長く続くとは思っていませんでした。この3年間を振り返ると、私たちが経験してきた変化の大きさに驚かざるをえません。新型コロナウイルス感染症のパンデミックのみならず、気候変動による自然災害も想像を超える規模で広がっています。社会の亀裂と分断が深まり、ついにヨーロッパの地で本格的な戦争が勃発しました。国内においても少子化の進行はますます顕著になり、地域間・階層間の格差が拡大するなど多くの問題が累積しています。物価の高騰が家計に直接の打撃を与えていることは言うまでもありません。
私たちは今、人間はいかにあるべきか、自然との関係をどのように組み直していくのか、望ましい社会をどのように構想し作り上げていくのかという根源的な問題に改めて直面しています。人類の知的営みの歴史の真価が問われていると言っても過言ではありません。
現在の困難を乗り越え、より良い未来に向かうためには、それを担う次世代の人々に教育の機会が広く均等に開かれていなければなりません。学びたいという意欲、学ぼうとする意志を持つすべての人々が、ためらうことなく学びの道を選択し、安心して学業を継続できること。それが社会全体を安定的かつ持続的に発展させていくためには不可欠です。
コロナ禍のただ中にあって、学生が置かれた環境は厳しさを増しています。日本学生支援機構は、奨学金・留学生支援・学生生活支援の3つの事業を柱とした支援体制を拡充し、志ある人々の学びを確実に支えるべく、不断の努力を続けています。
- ◯奨学金事業
奨学金事業については、給付型と貸与型の奨学金に関する従来の取組に加え、緊急特別無利子貸与型奨学金の実施など新型コロナウイルス感染症に係る特例措置を引き続き行っており、また、奨学金返還に当たっては減額返還・返還期限猶予などのセーフティネットも運用しています。詳細はホームページ、パンフレット等をご参照いただきたいと思いますが、奨学生に対してはSNS等を利用して迅速かつ確実な情報提供を進めています。また、基準や手続きについても随時点検・見直しを行うことで、利用者の利便性の向上、事務処理の効率化を図っています。
現在、修学支援新制度の中間所得層への拡大や、大学院段階における「授業料後払い」制度の創設が国において検討されていますが、これらについても速やかに運用できるよう準備を進めてまいります。奨学金の利用者が拡大していく中、スカラシップ・アドバイザー制度等も活用しつつ、早い段階からの周知を図っていきたいと考えています。 - ◯留学生支援事業
留学生支援事業については、新型コロナウイルス感染症の拡大で停滞していた留学交流がようやく再開しつつあります。水際措置の緩和によって日本への留学生受入れも本格的に再開しました。日本語教育センターにも留学生が来日し、対面で授業が受けられるようになっています。また、日本人の海外留学も再開しつつあり、「トビタテ!留学JAPAN」も、来年度からの第2ステージがスタートします。
各大学が協定校を通じて展開する国際交流も活力を取り戻してきたなか、海外との大学間交流に資する情報提供をいっそう充実させていきます。留学情報提供や交流事業等の各種事業については、オンライン技術も活用してハイブリッド型の展開を進め、遠隔地に居住するために日本留学フェア等にこれまでは参加できなかった外国人学生にも的確に情報が伝わるようにしていきます。
学資の支給等の支援では、急激な円安対策の海外留学の特別奨学金や、外国人留学生の日本での定着促進に資する奨学金など新規の取組も実施していきます。 - ◯学生生活支援事業
学生生活支援事業については、まず、学生支援施策を検討するための基礎資料となる「学生生活調査」に関して、今まで半世紀以上紙媒体で実施してきたものを今回(令和4年)からオンラインによる調査と改善したところです。今後はオンライン化に伴う検証を行うなどさらなる充実に努めていきます。「大学等における学生支援の取組状況に関する調査」(令和3年度)は、コロナ禍において大学が学生支援の課題をどのように捉え、いかなる支援策を展開したかについての貴重な資料となっています。また、この調査を活用してとりまとめた「コロナ禍における学生同士の交流に関する取組事例集」もぜひお読みいただければと思います。
毎年おこなっている「全国キャリア教育・就職ガイダンス」や「インターンシップ専門人材セミナー」については、オンラインで実施するとともに、コロナ禍の就職状況について、産業界、政府とも連携しつつ、迅速な情報提供や課題分析をおこなっています。
「障害のある学生等への支援事業」に関しては、実態調査や「障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集」等のパンフレット、「障害学生支援理解・啓発セミナー」をはじめとするセミナーを展開していますが、特に改正障害者差別解消法が令和6年6月までには施行されることを踏まえ、セミナーの充実や実態調査の見直しなど、さらなる充実改善に注力していきます。
以上のほか、有志の企業や個人の方々からの寄附金を活用した緊急支援金については、関係機関との連携のもと、短期間に直接学生に届けることができました。また、大学等がコロナ禍で困窮する学生のために実施する事業に対しその事業の一部を助成する「新型コロナウイルス感染症対策助成事業」や、「物価高に対する経済対策支援事業」を実施しています。
私たちは、一人ひとりの学生が自らの可能性を最大限に発揮できる環境を整えることが、社会全体の豊かな未来を創造することにつながると考え、努力を重ねています。
本機構の事業活動への一層のご理解をお願いするとともに、本年も変わらぬご支援・ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2023年元旦
独立行政法人日本学生支援機構 理事長 吉岡 知哉