平成28年度第2回運営評議会(平成29年1月24日開催)

1.日時

平成29年1月24日(火曜日)14時~16時

2.場所

アルカディア市ヶ谷(私学会館) 5階 穂高の間

3.出席者

(委員)

清原 正義 委員、小林 雅之 委員、小林 光俊 委員、佐野 元彦 委員、高柳 元明 委員、南 砂 委員、宮本 久也 委員、毛利 衛 委員、山本 健慈 委員

(JASSO)

遠藤 勝裕 理事長、髙橋 宏治 理事長代理、米川 英樹 理事、大木 高仁 理事、吉田 真 理事、谷合 俊一 政策企画部長、皆川 秀徳 財務部長、藤森 義夫 奨学事業戦略部長、鈴木 美智子 留学生事業部長 ほか関係役職員

(文部科学省)

川村 匡 学生・留学生課課長補佐

4.議題

・平成29年度予算案について
・奨学金事業の拡充について

5.議事次第

6.配付資料

7.議事録

資料に基づきJASSO側から説明を行った後、意見交換が行われた。概要は次のとおりである。
 (○=委員、●=JASSO、■=文部科学省)

○給付型奨学金制度(以下「給付型」という。)を創設するにあたって、JASSOに取り崩し型の基金を造成するとのことだが、この基金を運用することはできないのか。

●独立行政法人の資金運用は、独立行政法人通則法で厳しく制限されており、基本は安全運用のみとなっている。したがって、その法律の枠内で運用していくことになるだろう。

○新たな制度が導入される度に、奨学金制度が非常に複雑になってきている。今後の周知については、高等学校等にファイナンシャル・プランナー(以下「FP」という。)等を派遣することで対応するとの説明があったが、私は非常に懸念を抱いている。例えば、今後は高校生の段階で、従来の定額型か新所得連動返還型奨学金制度(以下「新所得連動」という。)のいずれかの返還方法を選択しなければならないが、新所得連動を選択した場合は、人的保証ではなく機関保証を利用することとなる。貸与終了時までに定額型から新所得連動に変更することは可能だが、定額型で人的保証を選択していた場合は、機関保証に新たに加入することが必要となり、一括で約10万円もの保証料を支払う必要が生じるため、支払うタイミングになってから、そのようなことは聞いていない、説明を受けていない等のクレームがつくのではないか。後々のトラブルを招かないためにも、周知・広報の対策を十分にとっていただきたい。JASSOのホームページを拝見すると、現時点では、概要説明のチラシが掲載されているだけである。制度の詳細について、いつ頃から、どのような周知をされるのか、ご教示いただきたい。

●現在、学生向けの奨学金案内や手引書の改訂を進めているところであり、ご指摘の点については明記しているが、それだけでは不十分であることは承知している。今後は、スカラシップアドバイザー(仮称)の派遣をはじめ、各都道府県の高等学校に出向いて説明することを予定しており、折に触れて、周知を行ってまいりたい。JASSOとしては、保証料が確定してから、きちんとした情報を周知すべきではないかと考えている。

●学校等への周知徹底については、私どもも最も重要と考えており、様々な工夫をしているところ。1つは、高等学校段階での周知である。これまでは、教員の皆様にお任せしていた部分もあったが、教員に制度をご理解いただくことが生徒や保護者への理解に繋がると考え、現在は各都道府県の教育委員会にご協力いただき、教育委員会が主催する説明会に職員を派遣し、奨学金に関する説明をさせていただいている。実際にご協力いただいているのは47都道府県のうち半数程度であるが、JASSOの努力として、引き続き高等学校等の現場への浸透にしっかりと取り組んでまいりたい。もう1つは、高等教育機関に対する説明であるが、こちらも残念ながら、参加しない学校がある。全ての学校等の教員や奨学金担当者等一人一人にJASSOから働きかけて奨学金制度についてご理解をいただくのは現実的に不可能だと思う。あらゆる機会を通じて、奨学金制度は、JASSOまたは国が一方的に実施しているものではなく、現場サイドである学校等との共同作業であるということを申し述べている。学校の協力的な姿勢がなければ、奨学金制度は完璧とならない。私どももパブリックサーバントの精神で、誠心誠意業務を遂行していくが、ステークホルダーである国、学校等、学生及び保護者の全員が一致協力しなければ、この奨学金制度は維持できない。泣き言ではなく、どうか皆様にご理解いただき、ご協力をお願い申し上げたいのである。私どもの説明だけで制度を理解するのは大変だと思うが、学校等とJASSOが一体となって、奨学金制度を円滑に進めてまいりたい。

●お尋ねの新制度の周知については、ホームページ等を通じて、皆様の疑問が解消されるような仕掛けを整備していきたい。例えば、一問一答形式のQ&A以外にも、動画を掲載する等、新制度の創設を機に、これまで以上に周知に注力してまいりたい。

○周知・広報にも関係するが、フェイクニュースや誤情報がSNS等で発信されていることについて、対策を考える必要があるのではないか。

●フェイクニュース等については、即座にJASSOのホームページ等に訂正記事を掲載するなど、適宜対応している。また、理事長が積極的にプレス対応を行い、正確な情報発信に努めているところ。引き続き充実させていきたい。

○奨学金の英文名称についてはどうなるのか。JASSOはこれまでは、「ローン」ではなく「スカラシップ」であるという説明をしてきたが、給付型が創設され、今後は紛れもない「スカラシップ」ができることになる。国際的にも非常に分かりにくくなっているので、その辺りも含めて考えていただきたい。

●貸与型と給付型のそれぞれの英文名称が必要になると考えている。今後の英文名称については、英語の専門家を交えて検討してまいりたい。

○給付型は短期間で制度設計されたため、不断の検証と手直しが必要だと思っている。給付型奨学金制度検討チーム(以下「検討チーム」という。)においても、最初の申請の段階で、生徒本人に進学後の学費調達等まで含めたファイナンシャルプランを作成及び提出させ、それを将来検証することで、給付型の効果を把握するべきだという意見があった。いきなりここまでやるのは大変だと思うが、少なくとも申請書の在り方や適格認定の仕組みを設けること、また、可能であれば、受給者が卒業後に社会でどの程度活躍しているのかを示すような工夫が必要である。このような取組によって、給付型に税金を投入することは本人のみならず社会全体への貢献になるということを示せると思う。今後、検討していただきたい。

●ご指摘の不断の検証及び見直し並びに卒業後の活躍状況の件に関しては、多額の税金を投入することからも、当然実施しなければならないと考えている。実施方法等については、委員の皆様方のお知恵等を拝借させていただければと思う。

○今はまさに、奨学金制度の大転換期であると思う。中でも無利子奨学金の成績基準の実質的撤廃については、非常に大きな変革である。裕福な家庭の方が、教育費に多くを費やせるため、当然、裕福な家庭の子供の方が成績優秀者になる可能性が高く、無利子奨学金の対象者となり得たわけだが、成績基準の撤廃により、経済的な理由で学習時間が全く取れなかった子供たちが無利子奨学金の対象者となることは格差是正にも繋がることだと思う。内閣総理大臣も施政方針演説で、誰もが希望すれば進学できる環境を整えると述べており、学ぶ意欲がある人全体にその恩恵が行き渡るようにしたいという意向である。JASSOはその意向を受けて大変な努力をしてくださっている。先程、JASSOと学校現場は二人三脚で奨学金制度を実施していかなければならないとの話があったが、私もそのとおりだと思っている。私どもの団体も我が事として、今まで以上に学校経営者や先生方へ訴えていきたい。大きな改革を進めていただき感謝している。

○給付型の創設が非常に大きな改革となるのではと期待している。資料14ページの検討チームの議論のまとめに「(その他)学生の地方定着促進のために各自治体が行う返還支援制度の充実や各大学・民間団体が行う給付型奨学金の充実」とあるが、具体的にどのようなことか。総務省で既に制度が創設されているかと思うが、それを指しているのか。

■まず、「学生の地方定着促進のために各自治体が行う返還支援制度の充実」についてはご指摘のとおり、総務省が実施している地方定着のための奨学金の支援制度のことである。「充実」とは、本制度の具体的な見直しまでは進んでいないが、総務省と連携してさらに周知をし、制度を促進させていくことを指している。「各大学・民間団体が行う給付型奨学金の充実」については、昨年の税制改正で国立大学に税額控除の仕組みを導入し、修学支援のための各大学等に対する寄附については、税額控除と所得控除から選択できるようになった。このようなことを含め、各大学等での奨学金が非政府部門でも拡充されるように政府としても後押ししていきたいということで、記載している。

○保護者や子供たちの代表として、JASSOを始め、学校等の現場では大変なご努力をされていることは重々承知しており、感謝申し上げたい。周知については、教育委員会や学校等のルートに、私どもの高等学校PTA連合会を通じて保護者に働きかけるルートも加え、様々な方面から同じ情報が届くように努力してまいりたい。ただ、一番のポイントは、進学意欲はあるけれども経済的な課題を抱えている当事者の方たちが問題意識を持ち、それを解決するために自らが考えることだと思う。進路担当の教員の指導は進学が中心であると思うので、あくまでも当事者の意識涵養を図ることが重要だと考える。例えば、FPがファイナンシャルプランを示してあげるのではなく、生徒や保護者自身にファイナンシャルプランを作成させ、それに対してFPがアドバイスをすることが有効なのではないか。また、JASSOにおいては、ファイナンシャルプランの作成支援ツールとして、JASSOのホームページにシミュレーションソフトやフォーマットを載せていただけないかと思う。JASSOのホームページでは各大学の奨学金情報も収集できるので、「自分の学費に関わるファイナンシャルプランを作りたい場合はJASSOのホームページに行けば良い」という状況があるとよい。この作業をすることで、仮に、従来型の定額制の返還方法から新所得連動に変更したいと考えた場合、恐らく自主的に制度の内容について調べるようになるだろう。このような当事者意識を持たせるような仕組みを作るべきであり、ひいては、延滞者の減少にも繋がってくるのではないか。

○アメリカでは、各大学が学費シミュレーションソフトをホームページに載せることが義務化されているが、各大学で統一されていないことが問題となっていた。オバマ政権では、ショッピングシートという共通のフォーマットを作成したが、学生本人がシミュレーションを体験するのではなく、大学がシミュレーションをした結果を学生に提示してしまったため、学生にはあまり普及しなかった。アメリカの事例を踏まえ、その辺りを考える必要がある。既にJASSOのホームページにある返還シミュレーションを学生に体験させたところ、自分が借りている奨学金の金額を実感として認識できたようである。学生本人に実際にシミュレーションをさせるような取組は、今後実施していく必要があるだろう。

○高等学校の家庭科の「家庭基礎」や「家庭総合」の授業の中に、自分のライフデザインを考えるという単元があり、教員の中には、FPからご提供いただいた資料を使ったり、また、実際にFPを招いて授業を行う者もいる。同様の授業を全ての高等学校で実施するまでには至っていないが、私も、生徒自身がこの先生きていくために必要なお金や自分が稼げるお金について考えることが最も大事だと思う。高等学校における周知については、他の委員がおっしゃっていたとおり、進路指導担当者は、なかなか、学費面まで含めて指導しなければならないという意識にはならないので、まずは我々校長が制度を知り、周知に対する意識を高めていかなければならないと考えている。給付型の創設等、奨学金に関するニュースが増えており、教員の関心は非常に高くなっている。今が教員に制度の内容を理解してもらうチャンスだと思っているので、この機会を上手く活かして、高等学校においてもしっかりと周知してまいりたい。また、生徒だけでなく、保護者の方とも連携しながら、奨学金制度を定着させていくことが非常に大事であり、そういう意味でも今はとても良いチャンスだと思っている。

●ご指摘のシミュレーションソフトについては、検討してみたい。本人向けだけでなく、保護者向け等、様々なバリエーションについても考えてみたい。

○奨学金に限ったことではないが、本人に当事者意識がないために、学生と大学の担当者との間で混乱が生じたケースを随分経験した。昨年は18歳選挙権が導入され、学生等が自ら教育を受ける権利や教育の機会均等が大きなテーマになった。奨学金制度も学生等自らが生活の自立者として成長していく過程では非常に重要であり、社会的なテーマとしても取り組んでいく必要がある。そのようなメッセージを様々なレベルから発していく必要があると改めて思った。

○私どもの大学では、医学部限定の独自の修学資金制度を設けており、一定条件をクリアすれば、就職先が修学金を返還する、つまり、学生本人にとっては返済が免除される仕組みとなっている。このように特殊な給付型奨学金制度となっているため、まず、当事者に制度を理解していただくために、説明にはかなりの時間を費やしている。学生本人に、この奨学金を借りたらどうなるのか、将来は返済が必要になる場合もある、という意識を持ってもらうことが重要であり、お金の問題については、当初より遠慮なく説明させていただいている。

●給付型については、平成29年度は私立大学で先行実施するため、私立大学の学校関係者の皆様においては、手続等の作業が生じることになろうかと思う。ご協力をよろしくお願いしたい。

○奨学金制度の当事者とは、生活に困っている世帯の方たちだけではなく、国民全体ではないかと思う。今の社会においては、誰しもいつ生活が苦しくなるかわからない。奨学金制度に限らず、介護保険制度や医療制度等の国の制度について、国民が平均的に正しく理解することは非常に重要である。これらの制度はたしかに難解ではあるが、一方で、人々は長文を読まなくなり、短い文章しか読まない。易きに流れる世の中となっており、制度等を丁寧に理解するという空気にはなっていない。問題を国民が共有する必要があり、このままではせっかく様々な制度があっても利用できない。普及啓発が必要であることは言を俟たないが、学校現場の置かれた実情を良く知らずに、「義務教育の中で教育するべき」などと簡単に言うのは無責任なことであると審議会の議論をきいていて実感することが多い。他の委員が、今が良いチャンスとおっしゃっていた通り、給付型という制度が日本で新しく生まれるというこのタイミングで、正確に情報発信を行うことが必要であると強く感じる。また、先程フェイクニュースの話があったが、社会の様々な事象がインターネットやサイバーの問題に関与している。そろそろ国民もメディアリテラシーを持たなければならないということだろう。奨学金のことであれば、やはりJASSOが先導的に正確な情報を発信して、一般国民の理解を深めていく必要があると思うし、新聞等のメディアも協力しなければならないと考えている。あらゆるチャンスを捉えて、適正な情報を発信し、国民にしっかりと読み取っていただくという一続きの取組を戦略的に考えていく必要があると思っている。

○給付型という本当の意味でのスカラシップが日本で初めて創設されるわけだが、奨学金の使途や、受給者のその後をJASSOの発想だけで調査しても、未来への投資にはならないのではないかと思う。奨学生が、自分の今があるのは奨学金のおかげであり社会に恩返ししたいと思えるように、学生の身になってフォローアップしていくのが重要ではないか。私もかつては奨学金のお世話になっていたが、奨学生一人一人は、自分は社会から期待されているという意識を持っているので、JASSOには学生に、社会から期待されているということを常に思い出させ、社会全体があなたをサポートしているのだというメッセージを発信していただきたい。特に、新たに始まる給付型においては、約130万人もの奨学生がいる中、あなたは特別に選ばれた2万人の1人であるということと、社会は税金を信頼のある使い方をして次の未来社会に投資しているということを非常にクリアに発信できるのではないか。元奨学生として、JASSOにも期待をしているし、頑張っていただきたいと思う。

○非常に重要なご意見だと思う。私どもの大学では、卒業時に全学生に対して大学の教育を評価するという調査を実施しており、その項目の一つに、税金で教育を受けた意識があるかという質問がある。回答は、毎年図ったように半分に分かれるのだが、何故そのような意識が持てないかと問うと、授業料が高すぎるためという答えが返ってくる。これは理系でも文系でも差がない。これは非常に問題であり、国公私立問わず、学生は、自分が通う学校等には多額の税金が投入されているという意識を持たなければならない。受益者負担論もある中、これはJASSOの奨学金だけではなく、教育費全体をどのように負担するかという非常に大きな問題だろうと思う。

○給付型の選考基準について、JASSOが提示するガイドラインに沿って、各高等学校等が推薦基準を定めるとのことだが、各高等学校等にはこの推薦基準を開示していただきたいと思っている。プライバシーの問題もあるかもしれないが、公平性の観点から、推薦基準を開示しなければ問題になるのではないか。給付型を受給できるか否かは非常に大きな問題であり、各高等学校等には、この生徒は自信を持って給付型の対象者として推薦できるという基準を開示していただきたい。ガイドラインについても、見直しを重ねることでより良いものに改善されていくと期待している。他の委員がおっしゃっていたとおり、高等学校の現場は大変であるため現実的に実施可能かどうか、開示の可能性について、ご意見を伺いたい。

○今現在も、大学進学に係る指定校推薦等、各高等学校から特定の人数を推薦するケースはある。これらの募集を生徒に周知する段階で、選考基準も併せて提示しており、給付型についても、各高等学校は選考基準を提示した上で募集すると思われる。一人一人の生徒については、当然プライバシーの観点から開示はできないが、基準の開示は十分可能だと思う。

■文部科学省としても、基準を開示する方向が望ましいと考えているが、義務化されるかどうかは、今後の法案審議での議論を踏まえ、生徒や保護者の納得が得られるような方法があるかということも含めて検討したいと思っている。

○新たに創設される給付型は、予約型であるため、進学の背中を押すことにはなるが、先程他の委員より、この先誰がどうなるかわからないというご発言があったとおり、進学後に家庭の経済状況が急変した場合、貸与型における「緊急採用」のような仕組みがない。授業料が支払えずに除籍になってしまう学生が増加しており、家計が急変した学生についても、公的な支援が必要ではないかと考えているが如何か。

■ご指摘のとおり、今回の給付型の創設に当たっては、進学断念者の後押しが制度趣旨である。一方、中退防止の観点からの支援の必要性を感じている。給付型の在学採用については、財源や選定方法の問題等があり、今後、制度を運用しながら必要に応じて見直しを行い、その中で検討していきたいと思っている。

○給付型を拡充するに当たって、最も問題なのはやはり財源だろう。拡充が困難な理由の一つは、財源を国に頼っていることだと思う。企業は、高等教育機関を卒業した人材を確保するため、いわば受益者であり、就職先の企業が財源を提供する仕組みを作れば良いのではないか。

●現在もJASSOへの寄附金は税制上の優遇措置が認められており、ご寄附をいただいている。給付型の創設に伴い、基金が造成されるため、今後は寄附者等の希望に応じて給付型の財源に寄附金が活用されることになるだろう。ただし、寄附金の割合が増えると、恐らく、国からの財源はその分減額されるという厳しい実態があろうかと思う。給付型が継続的に実施できるよう、引き続き国からの財源措置はお願いしたいと思っている。

以上