政策企画委員会(第12回) 議事録

1.日時

平成22年1月20日(水曜日) 10時00分~12時15分

2.場所

TKP大手町カンファレンスセンター EASTホール2

3.出席者

(委員)佐々木大輔委員、永井和之委員、日置政克委員、南砂委員、美馬のゆり委員、横田雅弘委員、和田寿昭委員、和田義博委員
(機構)梶山千里理事長、高塩至理事長代理、尾山眞之助理事、樫尾孝理事、大貫賢一理事、佐藤正行監事、清水勝士参与、梶原憲次参与、小見夏生政策企画部長、石矢正幸奨学事業部長ほか関係職員

4.議題

5.議事次第

6.配付資料

7.議事

資料に基づき機構側から説明を行った後、意見交換が行われた。概要は次のとおり。

(1)奨学金返還回収状況及び返還促進に向けた機構の取組について

(奨学金返還回収状況及び返還促進に向けた機構の取組について、小見政策企画部長から説明)

○永井委員 返還促進に向けた取組について、これだけのものを全部きめ細かく優等生的に、経費と手間等をかけて行うことが、果たして最適な方法と言えるのか。まず、猶予するに値するかどうかを的確に判断し、いかにそういう者を救ってあげるかが大事ではないか。それ以外の債権については、一括してサービサーに委託したり、売却して譲渡するべきではないか。

●梶山理事長 機構が行うということは国が行うということで、限界がある。例えば、平成20年度の延滞額は707億円、その債権額の全体は2,300億円から2,400億円だが、新聞報道等では2,400億円の数字が重視されてしまう。「国の債権」という概念の考え方なのかもしれないが、国の債権は償却できないのか。民間の会社であれば、100円返してもらうのに、500円かけるくらいであれば、一気に償却と考えるところであるが、国にはそれがない。個人的には、それが重要な問題だと思う。

●尾山理事 猶予制度が延滞者に知られていないという指摘はある。周知することによって猶予の申請が増えると思うが、それに対応できるような体制作りをしていかなければならない。サービサーについては、すでに回収委託を行っており、機構はそのマネジメントをしている。延滞3ヶ月までは電話による督促が効果があるという調査結果を踏まえ、延滞3ヶ月を超えたら全てサービサーによる回収を実施している。不良債権を全て売却できればよいのかもしれないが、償却ということになると、税金を使って行っている事業なので、なかなか難しい。しかし、債権償却の在り方については非常に重要な問題であると受け止め、今後とも財政当局とよく相談させていただきたいと思う。

●梶山理事長 永井委員の意見は非常に本質的な考えであると思う。ある程度期間のたった不良債権については、どこかで償却することが必要となってくる。また、猶予については、きちんと返還した人とそうでない人との公平性という問題にかかわるため、どこまで行うかの線引きをすることが大切である。あと、不良債権のうち、かなりの部分は日本育英会時代の古いものである。不良債権について、延滞期間ごとに輪切りにして解析を行ったところ、延滞3ヶ月未満のものに対して回収を実施すると効率的であるが、延滞1年以上経ってしまうと、ほぼ返還されないという結果が出た。よって、現実には古い債権に対して回収を実施しても効果はないと思われる。どこまでが「効率よく回収できるラインなのか」というデータを機構が持っていなければならないし、延滞1年以上経った債権の回収の実態がそのような状況であるということを、社会に認知してもらわなければならない。そうでなければ、外部からやみくもに回収しろと言われても、回収方策の効果が無い不良債権があるということが説明できない。

○永井委員 猶予制度の周知は、インターネット上で行っているか。

●梶山理事長 貸与開始時、各種通知を出す際、貸与終了前に行う返還説明会などの場で細かく周知はしており、もちろんホームページにも書いてある。私も国会に呼ばれ、「きちんと周知しているのか」ということを言われた。ただ、あまりに過剰なサービスを行うことは、人に責任を転嫁させることにもなるのではないか。返還は返還者が自ら行うものであり、機構が返還しろと言うから返還するというものではない。制度があるということは周知するが、返還者が自分で探すということも必要だと思う。

●尾山理事 猶予制度については、ホームページ上に情報を掲載しているため、アクセスすることはできる。今年度から、経済困難の認定の目安として年収300万円以下と示しているので、該当者は申請しやすくなったと思う。また、コールセンターができたことにより、電話のつながりが良くなり、以前より猶予の指導が行われやすくなった。サービサーへの委託に際しても、必要に応じ猶予の指導もさせている。

○和田(義)委員 平成20年度末の延滞額707億円のうち、返還期限の猶予を受けている者は含まれているのか。

●尾山理事 猶予を受けた場合、その者の債権は要返還額から除かれることになっているため、707億円の中には猶予を受けている者の額は入っていない。

○和田(義)委員 では、猶予を受けている者の額というのはどれくらいになるのか。みんなが猶予を受け始めると、大変な額になるのではないか。

●石矢部長 今正確な数字が手元にないが、猶予を願い出る者は毎年5~6万人おり、月々の割賦額は約1万2千円くらいといったことから、大体年間70億円くらいが、猶予を受けている者の額として計上されているのではないかと思う。

○和田(義)委員 それは累積するものではないのか。

●石矢部長 猶予の申請は1年毎なので、累積はしない。

●梶山理事長 猶予の5年限度が終了したらすぐに同じ金額で返還を再開するということは、現実を考えてみると困難なことであると思う。猶予後の返還再開時の割賦額を、元の割賦額の何分の1かにするなどの施策も必要と考える。

●小見部長 補足させていただくと、資料9の2ページ目「減額返還制度の創設」にあるように、月々の割賦額を減額すれば返還可能だという人のために、当初の割賦額の2分の1相当の金額を返還し、返還期間を延長するという減額返還制度を創設し、平成22年度中に実施する予定となっている。

○横田委員 猶予制度について、1年猶予して2年目から返還するものがどのくらいいるか、同様に2年猶予して3年目から返還するものの数はどのくらいか、それぞれデータはあるのか。猶予がどう有効に働いているか、という観点から伺いたい。

●石矢部長 猶予の制度では、猶予の理由が生活保護や病気といった場合には、猶予年数の限度はない。就職できない場合などは5年の限度がある。一度猶予願を出した者が、どれくらいで経済状況が復活するかというデータだと思うが、そういう調査は行っていない。現在の(経済)状況では、5年経ったからといって、年収が飛躍的に良くなることは期待できないと思われる。かつて猶予を受けていた3ヶ月以上延滞している者について、平成19年度末に調査したデータがある。それによると、1年以上(2年未満)者が12,935件、2年以上(3年未満)累積の者が7,279件、3年以上(4年未満)累積の者が4,978件となっている。

●梶山理事長 他のデータはないのか。

●石矢部長 今手元にあるのは以上である。

(参考データとして、平成20年度末:1年以上の期間返還猶予を利用した者が13,734人、2年以上の期間返還猶予を利用した者が8,078人、3年以上の期間返還猶予を利用した者が5,546人)

○日置委員 民間視点での感想になるが、委員会の開催前に、事前に機構から話を聞き、それを社内でも話したところ、やはり社員も永井委員と同じ意見であった。奨学金でなく民間での通常の債権ならば、債権の取立てにこのように多くの事情を勘案しない。機構の回収制度は、返還できない場合に様々な事情を考慮してもらえる制度だという印象を受け、こんなに費用をかけて取り立てを行うこと自体どうなのかというのが第一印象だった。そのような意味では、機構は取立てが本業ではなく、取り立てという業務に不向きであるのに、回収できないのが悪いという風潮があるために、回収ということにフォーカスしすぎなのではないか。新規の返還者については、返還率が高い、つまりきちんと返してくれる傾向にある。あとは古い返還者であるが、民間の場合は、費用対効果を考えると、返す約束をしているのだから払わない人が悪いという前提で様々な回収施策を行ったうえで、それでも返還されない部分は処理する。機構でも早い時期にこの業務と決別すべく、ある程度取り立てについては専門家に任せてみてはどうか。早期に債権の問題に決着を付けてこそ、今後学生・留学生のためにも学生支援という本来業務にポジティブに取り組めるようになるのではないか。弊社の新入社員には、奨学金は絶対に返すよう、社としても強く伝えることを約束する。

●梶山理事長 非常に力強いご意見、ありがたく思う。ただ、不良債権と決別を図る際に、返していない人が有利になるようなことになってはいけない。しかしながら、費用効率の悪い回収施策をずっと続けることにも問題がある。不良債権の処理に関しては、実施の時期を見極め、タイムリーに実施することが必要。

○佐々木委員 費用対効果の話が出たが、回収施策には学生支援の延長という考えもあるのではないか。世の中のルールを守るという、学生として、人間としての成長に対しバックアップが必要。多重債務者の相談には、カウンセラーの資格が必要だったと思うが、多重債務者には心の問題がある人が多い。そこまで踏み込んだ対応があれば、教育的観点からもよいのではないか。

○美馬委員 日置委員のご意見はわかる。悪意があって返還しない人は、第三者機関へ任せて回収するのがよいと思う。ただ、そうでない人を雇用の不安定な今の社会の中でどのように救っていくかということを考えなければならない。猶予制度の周知ということについてだが、例えばその人が猶予に該当するのかどうか等の情報を、どこまで詳細に知らせているのかが気になる。参考資料「奨学金ガイドブック」だけでは詳しくわからない。コールセンターでの指導やホームページに掲載している情報で対応できているのか。また、返還が困難であったことを証明できれば、何年か延滞金が累積されているものについても、過去に遡って延滞金の免除がされるのか。

●石矢部長 過去の所得証明等があれば、5年を限度に遡ることができ、その間の延滞金は生じない。

●梶山理事長 そのことは、返還者全てに周知しているのか。

●石矢部長 卒業年度に各学校で返還を開始するにあたっての説明会を開いている。その際に、資料として「返還の手引き」を卒業予定の奨学金貸与者全員に渡しており、その中に返還期限猶予のことの記載があり説明もしている。また、実際に返還を開始する直前の8月頃に「返還開始のお知らせ」の通知を新規に返還を開始する者全員に送付しているが、その際にも猶予制度についての紹介をしている。ただ、全返還者にあらためて通知等で周知することまではしていない。

●尾山理事 コールセンターに電話をいただければ確実に詳細をお知らせすることができるし、ホームページも以前に比べたら随分わかりやすくしたつもりである。

○美馬委員 佐々木委員がおっしゃっていたように、精神的な問題を抱えているというか、人間は追い詰められるといろんな状況が見えなくなるものだと思うので、取り立てるだけでなく、これは払えない、これからどうやって生きていくのかといった時に、返還者の立場にたって何かを紹介できるようなものを、機構以外の機関と連携することも含め、考えるべきではないか。

●梶山理事長 そのようなワンポイントサービスをどうするかということも重要である。機構だけでは無理だし、さらに根本的なことを言えば、教育の体制にも関わることである。借りたものは返すということを、きちんと知らせなければいけないし、何か問題があったら自分で情報を取るのは常識であるのに、情報を教えてあげないのがいけないのだという風潮には確かに問題があるが、情報を得ようとした時に、あちこちで調べるのではなくワンポイントサービスを実施することによって、答えにたどり着くことができることは重要であり、機構だけでは限界もあるため、省庁等にも音頭を取ってもらって是非実現させたい。また、多重債務の問題、メンタルの問題は非常に重要で、これらの行き着く先は自殺である。このことまで考慮して対策を考えなければならない。この間にあるのが雇用問題である。借りたものを返すという仕組みの前提として、雇用され収入を得られる仕組みがなくてはならない。そういったことを機構で全てできるわけではないので、国がワンポイントサービスとして実施しないと、困った人がもっと増えるだろう。

○和田(寿)委員 奨学金は、教育的効果として自分の道を開けるようにしている制度で更に充実が必要であるが、現在のように就職率7割という状況において、卒業する時点で返せない者がいるのも確かである。だからこそ、返還に関わるアナウンスを在学期間中にするべきである。在学期間中にどこまで周知をやられているのか、どの程度までできるのか。旧帝大では、学部生の半分くらいが修士課程へ進学し、修士課程でも奨学金の貸与を受けることが多いので、猶予制度を含め、返還に必要な情報をしっかり周知することが必要である。また、民間の立場として、企業からの支援も受けられたらよいと思う。具体的には、納税者番号のようなものを登録し、その者の給与から返還金を回収できるような仕組みを、企業の支援により作るといったことである。イギリスでは、所得に応じて返還額が増えるような制度もある。機構が人材の育成という本業に打ち込み、回収は社会全体で行い、それによって学生を守ることにもなる。今後の中期計画等で検討してもらいたい。

●梶山理事長 機構が把握している番号は奨学生番号だけであるが、本来は社会として国としてそういう管理をどこまできちんとやっているかということは、国の根幹に関わると思う。国民総背番号制について議論が出た時、国民の殆どが反対し現在のような状況になっている。納税者番号も実現できるかどうかわからない状況である。日本はそういう組織的に動くということにおいて、すごくお粗末である。私は、現在国民総背番号をつけてないために事務が煩雑になることで、年間に5兆円か6兆円損していると思う。効率のよい社会作りを考えるべきではないか。

○南委員 世の中の常識から言えば、借りたものは返すということに尽きると思う。ただ、私は留学生の相談を何十年も受けているが、ここ10年くらいで相談の質が変わってきており、特に近年、お金に関わる相談が多いということからも、学生をとりまく社会の状況が一変してきていることを感じている。高等教育の学費の問題をとっても、学費は近年ものすごく高騰しており、国公立でも厳しい状態である。そういう状況の中で、理事長のおっしゃるように、国としての哲学、どういう風に次の世代を育てるのかという信念に関わる根幹が、一時的な単年度ごとの財政状況や、最近で言えば事業仕分けのようなことで、非常に簡単に決められていることは、多くの国民が実感としているところだと思う。一昨年、私自身も社会保障国民会議で再認識したが、生活保護の状況なども昔とは一変しており、元気で働ける人が生活保護の支給を求めたりするような状況になっている。各論で論じるのは限界、という感じがする。例えば、学生という問題だから教育的な観点からやりましょうと言ってみても、個別の事例の中には性悪説で対応しなければならないものもたくさん混じっているのが現実で、教育的観点という本筋が、通っていかない例もたくさん見受けられる。根本的には、大きな流れとして少子化の問題かと思う。若い人達の置かれた状況は、実は同情すべきもので、「奨学金をきちんと返しなさい」と言ってくれる大人が周りにいない状況だということだ。回収が機構の大命題、というのは判るが、機構になってから回収率95%を超えている部分と、回収しきれていない古い部分はやはり分けて考えないと、絶対に無理だということを、わかりやすい形で示していった方がよい。学生支援機構という名のとおり学生を支援する機構なのだから、3本柱の、あとの2本を回収業務に引きずられることなく、きちんとやっていただきたい。あとの2本(留学生支援事業、学生生活支援事業)ができなくなってしまうことがないようにしていく必要がある。

●梶山理事長 温かい支援、ありがとうございます。皆様からいただいたご意見は精査して私どもの仕事に反映したいと思う。特に本日いただいた奨学金事業に関する意見は、100人いたら100人満足できるようなシステムはできないが、ある程度温かみを持った奨学金制度にできると思う。制度だけでなく、どのように奨学生に対応するか自体も重要。コールセンター開所式の時、オペレーターに対し、「一人一人は機構の職員ではないが、機構を代表しているという気持ちで対応してください。」という話をした。

(2)行政改革の動向等について

(行政改革の動向等について、小見政策企画部長から説明)

●梶山理事長 機構の来年度予算、組織と運営、経営に関して、効率化も含めてどうするべきかという問題について、5月以降問われていくことになるが、機構としては対応をきちんとしていかなければいけないと思っている。行政刷新会議では事業仕分けで「見直し」と言われたが、私は「いい方にやれよ」と言われていると思い、奨学金事業の無駄を議論したりすることではなく、給付型奨学金の創設のように、奨学金事業の改善という方向で積極的に受け止めている。その裏返しとして、回収強化ということになるのであろうが。返還する人には返還してもらうが、返還できない人がいるということも、社会的にはおかしいことではないと考えている。それに対してどう対応するかが問題である。ただ、返還できる人には返還させるということについては、性善説と性悪説のバランスをとってやっていくことが必要だと思う。

○和田(義)委員 奨学金を貸付から給付型に切り替える学校が多い。長期の貸付は今の時代に合わないのではないか。国が1兆円、これを10年とかそれ以上の長期に貸して返しなさいと言った時に、ありがたいと思うのか。昔は経済が成長していたから返せたが、今は返済するのが難しい。もともと学生は、貸付を受けるのがうれしいのではなく、高等教育を受けられるのがありがたいのであって、大学を卒業してしまえば残るのは債務だけである。このことを5年、10年、15年と返済の最後までありがたかったと感謝できるような社会なのか。生活困窮とかそういった状況の人を救うことは大事だと思うが、あとの不良債権の回収等はもう機構のやる仕事ではないのではないか。法的な措置もやむを得ないのではないか。ただ、国民的議論をすると必ず反論が出るので、今の時代においては、学生に1兆円をあげるという考え方もよいのではないか。債権管理は大変だし、貸倒償却にも理解をしてもらうべきではないか。

●梶山理事長 給付型奨学金に関しては、財政状況、制度、国民の理解等がないと実現しない。昨年マニフェストに書かれても平成22年度予算には反映されていない状況である。機構が奨学金の必要性を主張していかなければならないし、実際に機構理事長として、企業や地方にそのようなことを説明に行く等活動を行っている。機構にも、給付型に代わるものとして大学院の奨学生を対象とした業績優秀者の免除制度があるが、結局免除になるかどうかは3月の修了後の7月に決まるため、学生は博士課程に進学し、あるいは就職している頃に知ることとなり、あまり感謝の気持ちはないように思える。なぜ免除決定を入り口に持ってこないのか。また、現行の各大学への免除枠の割り当てではなく、各人で応募するシステムにすればよい。入学時に奨学生に選ばれればその誇りを持って勉強できる。その中から、日本のために誇りを持って働こうと思う人が出てくるのではないか。現行だと免除決定までは貸与と思っているため、ありがたみを感じられないのではないかと思う。また、無利子と有利子の内訳は、奨学金全体が10とすると、現行では無利子3:有利子7だが、これを給付2:無利子3:有利子5くらいにすべきである。アメリカなどは給付型の奨学金が多いが、将来の優秀な人材を確保できるという目的から、企業や大学の先生がスポンサーとなっていることが多い。日本においても、企業等からの出資を期待したい。最初はほんの数%からでも給付型奨学金を創設してみて、その後10年くらいかけて、制度を改善していけばよい。

○永井委員 例えばある大学等で給付型を増やす場合、希望する学生に行き渡らないのでは困るので、不足分はどうしても貸与となる。回収は大変なのでそんなに費用はかけられないため、実際心の中では給付型がよいと思っているが、多くの学生達には与えたいとも思う。つまり、奨学金を受ける学生の総数が減ることは、今の社会のニーズなのか疑問。現在の貸与に加えて給付が増えるのなら良い。

○佐々木委員 理事長のご提案の一つである「障害のある学生を対象とする奨学金」は給付型を想定しているのか。新たな給付型奨学金を創設するのであれば、この辺りから作るのが抵抗が少ないと思う。

●梶山理事長 ありがとうございます。これらの提案は、私が言っているだけで、機構内にも賛成している人がどれくらいいるかわからない。障害学生のための特別な枠を組み込むと、差別と思う人もいるかもしれないし、障害学生の中にも、自分が障害があると言って特別枠で申し込むことを必ずしも望まない人もいるかもしれないので、そういうことも考えながら進めなければならないと個人的には考えている。

○南委員 留学生支援事業の予算は削減されてきている。留学生の支援はいろんな局面でできるとは思うが、「国としての支援」は機構でしかできない。独法になったときの経緯を考えると、日本育英会以外の4団体は留学生事業を実施してきたわけだが、統合によって留学生支援事業の部分は非常に薄くなった。このことは現場にいると切実に感じる。留学生支援は、地方自治体や大学などいろんな所でやっていくべきであるのは勿論だが、「国として」はどういうことをするのかということを、ぜひ機構の事業の3本柱の一つとしてしっかり位置付けていただきたい。留学生の問題は、国の将来を握っている重大な問題と思っているので。

●梶山理事長 ありがとうございます。非常に重要な問題だと思う。留学生の受入れとは、どういう学生を受け入れてどういう風にするのか、受け入れるのか送り出すのか。大学のレベルを上げていくことも含め、入口から出口、最終的には日本を出るところまでどうするかという議論をしていかなければならない。

○横田委員 これまで先生方から出たご意見はかなり「機構は、本来やるべき業務に力を注いだ方がいい。そうなるように。」ということで、共通の部分があるように思う。ここで、全体の理念を明確に言葉にして出していただくのはどうか。奨学金事業については、例えば給付型ということについても、より積極的に時代に即したものとするということが掲げられるし、積極的なものということから言えば、猶予の条件を確定させ支払困難な者をきちんと救っていくことが非常に大事である。このように猶予の条件を確定させ、救うべき者を救った上で、給付型奨学金を作っていくということ。ここに機構にとって最も重要な仕事があると思う。一方、不良債権の処理の問題については、後ろ向きと言えばそうであるが、これをずっと引きずっていくと積極的な業務の方に力を入れられないということになってしまうので、どんなレベルで処理するかということを考えていかなくてはならない。やはりここでは、ある程度企業的観点も必要だと思うので、早く短期に処理をすること。そしてその時に出てくるであろう悪用を防ぐという手立てを取ること。回収率は高くなってきているとのことであまり心配はないと思うが、理念の元にシンプルに書いていただき、業務を進めていただければ、さらによくなるのではないかと思う。留学生のことについてだが、留学生の件で調査に関わっていたのでそれを踏まえて話すと、まず留学生は、日本という国を選んでから、その中でどこの大学に行こうかという考えでやってくるので、オールジャパンが一体となって情報を提供するべきである。この時に一般的な情報、つまり安全性や社会のシステムの仕組みといったホームページで提供されるものだけでなく、実際に生の情報がとても重要で、この二つが揃った時に初めて日本への留学を決意するという調査結果になっている。この辺のことは一大学ではなかなかできないことなので、ぜひ機構において、これからの留学生への積極的なリクルート、また彼らが他の学生にいい影響を与えられるような場を作っていただきたい。

●梶山理事長 ありがとうございました。どういう風に学生を育てるかというのが非常に重要で、やはり日本のために働けるという学生を育てるために奨学金を出すというのが重要だと思う。今の日本の貸与という概念は、財政的支援ということである。つまり、将来日本を背負う人材を作るという人材育成の観点からの発想は全くない。そこに着目すると、それが給付型の奨学金を出す理由でもある。そういった奨学金を出すという考え方や奨学金の意味、またどういった人材を育てるかということが、今おっしゃったことだと私は思っている。留学生のことは、時間がないため個人的にお答えさせていただければと思う。

○美馬委員 今の理事長のお話にあったように、機構の問題だけではなく、根本的には高等教育の政策、留学生の政策をどうするかという問題であると思ったので、積極的に関係機関と協力しながら、理事長には審議会等での発言をしていただければと思う。というのは、本日の議論を聞いて、より多くの学生にお金を貸し付けることは、学生にとって、また、人材育成という観点に鑑みて、最善の手段なのかと思ったからである。多く貸し付けるということは、回収の負担が大きくなっていくことが伴う。経済困難で優秀な学生をどう育てるかを考えると、旧国立大の学費も他国に比べてかなり高くなっているということも含めて考えていかなければならない。

○永井委員 奨学金というのは個別学生を見たものである。全体的に、大学教育等、その水準がどの程度のもので受けられるか、いわば学費の設定、そういったことからすると、個別学生に対する奨学金と機関に対する交付金、これらのバランスがどうなるべきかきちんと考えてもらう必要がある。個別のものだけでは、日本の社会全体の教育に係る費用システムとしてはおかしいと思う。奨学金の配分等について、私学の立場からいろいろ言いたいことはあるが、それは別の機会に意見させていただきたい。

○和田(寿)委員 パリで昨年7月に、ユネスコの高等教育世界会議が開かれ、そこで学生支援は、国の制度として強化・充実させることが重要ということがコミュニケに盛り込まれたという話を聞いた。各国においても学生支援の充実のために、様々な施策を講じていくこととされたので、これが世界的な流れになっていくのではないか。日本において、学生支援に取り組むのは機構しかないので、『JASSO』を拠点にしながら、日本の学生支援のレベルを高めていってほしい。ドイツの方の話を聞くと、ヨーロッパでは学生支援の面で国を超えた交流団体を持っているし、様々な施策が常に講じられている。それに比べて、日本を含めアジアはそれぞれの国の施策に留まっていて、アジアにおける国を超えた協力関係はまだまだ十分発達しているとは言えないので、これを世界レベルまで高めていくよう進めていかなければならないと実感している。

●梶山理事長 ヨーロッパのような、人材育成を目指した組織や制度が必要である。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの三極構造は、これから意識して、その中でアジアも組織立っていくべきだと思う。その中に人材育成と奨学金が入れば一番よいと思う。

(了)

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