平成30年度 障害学生支援理解・啓発セミナー 開催報告

平成28年4月に「障害者差別解消法」が施行される以前の平成26年度から平成29年度までの4年間に渡り、本機構では、文部科学省の要請を受け、障害学生支援のための全国障害学生支援セミナー「体制整備支援セミナー」を開催してまいりました。平成29年3月には「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」が文部科学省で取りまとめられ、今後大学等が取り組むべき主要課題が示されましたが、未だ障害のある学生が在籍しない、思うように取組みが進まない大学等も多数あります。そこで本年度は、「障害学生支援理解・啓発セミナー」と名称を改め、障害者差別解消法施行後の大学等での合理的配慮の提供に関する対応等について、ご理解を深めていただくため、大学等の管理者及び教職員の皆様を対象に、障害者差別解消法の基本的な考え方について講演するとともに、国公立学校と私立学校の2つに分けた分科会で、話題提供者と参加者の皆様で意見交換をしながら、障害学生支援体制の理解を深めていただくためのセミナーを全3回開催しました。

障害学生支援理解・啓発セミナー1

  • 開催日時:平成30年9月20日(木曜日)11時00分から17時00分(受付開始10時30分)
  • 会場:タイム24ビル(東京都江東区青海2-4-32)
  • 参加者数:182名

はじめに、日本学生支援機構頼本維樹学生生活部部長から、本機構の障害学生支援事業の取組、大学等の支援場面別の事例等情報提供の展開、社会で活躍する障害学生支援プラットフォーム形成事業の概要について説明しました。続いて、文部科学省高等教育局学生・留学生課成相圭二課長補佐が、障害者施策の動向と障害のある学生の推移、これらの学生に対して障害者差別解消法において高等教育機関に求められる取組内容について解説しました。
午後からは、基調講演と事例紹介、国公立大学等と私立大学等に分かれた分科会が行なわれました。基調講演では、筑波技術大学の白澤麻弓准教授から、障害者差別解消法で大学等に求められている取組についていくつか具体的な課題事例を挙げて詳しく解説し、これらの課題事例解決の出発点として建設的対話の必要性を解説しました。次に同志社大学の土橋恵美子障害学生支援チーフコーディネーターから、同志社大学での取組事例を基に合理的配慮までの流れについて、5つの段階に分けて具体例を提示の上解説がありました。
国公立大学等分科会では、基調講演の白澤准教授と岡山大学の原田新准教授の進行で行なわれ、まず原田准教授から、岡山大学の障害学生支援について解説し、その後会場から簡単なアンケートを取り意見交換を行ないました。そこでは、学内の啓発活動について、白澤先生から「もっとこうしてくれれば助かる」「これを活用することは難しいと感じた」といった学生の生の意見を集めたパンフレットを作成したところ好評だったことなどが紹介されました。
私立大学等分科会では、同志社大学の土橋チーフコーディネーターと関西大学の神藤典子事務グループ長が進行役となり、最初に関西大学の障害学生支援の取組を神藤事務グループ長が紹介、土橋チーフコーディネーターから意見交換のポイントをいくつか提供した後、参加者同士での意見交換に移りました。最後に会場から進行役への疑問を受ける時間を設け、参加者からは「大学に来ない学生への対応はどうすればよいか」など、解決策が定まらない課題が出され議論されました。
セミナーの参加者は182名。セミナー全体の満足度は95.6%で、「十分満足した」が32.4%、「概ね満足した」が63.2%でした。「障害者差別解消法、合理的配慮、不当な差別的取扱いのポイントをわかりやすく説明いただき、基本的なことから学ぶことができた」「合理的配慮の考え方、希望する配慮について対応できない場合、代替案を一緒に考えることで、支援可能な配慮を探ることが必要だと理解できた」などの感想が寄せられました。

配付資料

掲載資料は著作権により保護されています。各掲載資料の著作権は資料作成者に帰属し日本学生支援機構は資料作成者の利用許諾に基づき掲載しております。著作者に無断で掲載資料の転載、二次利用を行なうことは禁じられています。また、参考文献、引用部分については出典元に著作権が帰属します。

分科会での質問
分科会では以下のような質問があげられました。(時間の関係でお答えできなかったものも含めています。)

  • 入学前、または入学直後の相談の流れについてどのようにするのか。
  • 教員に配慮依頼すると、配慮上の問題点や疑問、時には抗議を受ける。どうすればよいか。
  • 合理的配慮の依頼には強制力が伴うものか。
  • 障害学生支援体制の機能状況や、教職員の配慮提供状況をモニタリングする方法について、具体的な調査方法を知りたい。(例えば、学生のアンケートをするとして、該当学生が在籍しない場合など)
  • 教職員への効果的な理解・啓発方法が知りたい。(例えばFD・SD研修の活用、障害学生支援に関するパンフレットを作成して配付するなど)
  • 障害学生支援担当者、支援者の育成や機材の確保、予算措置はどのように推進すればよいか。(継続的な支援技術のある学生の確保等)※
  • 指導方法の改善である「教育的配慮」と、障害のある学生の社会的障壁を除去する「合理的配慮」を混同している教職員へ理解を求める方法が知りたい。
  • 学生本人や保護者が配慮の必要性を感じていない状況で、教職員から配慮の必要性があると訴えられたときはどうすればよいか。
  • 合理的配慮の範疇を超えた配慮要望への対応に悩んでいる。(本来、教育機関の業務に付随しない生活介助の要望等)

障害学生支援理解・啓発セミナー2

  • 開催日時:平成30年10月23日(火曜日)11時00分から17時00分(受付開始10時30分)
  • 会場:新大阪丸ビル別館(大阪市東淀川区東中島1-18-22)
  • 参加者数:132名

はじめに、日本学生支援機構頼本維樹学生生活部部長から、本機構の障害学生支援事業の取組み、大学等の支援場面別の事例等情報提供の展開について説明し、続けて「社会で活躍する障害学生支援プラットフォーム形成事業」について、採択校の1つである京都大学の舩越高樹特定准教授より、概略の説明と情報提供、相談事業についてのメーリングリスト登録を呼びかけました。そして、文部科学省高等教育局学生・留学生課成相圭二課長補佐から、障害者施策の動向と障害のある学生の推移、これらの学生に対して障害者差別解消法において高等教育機関に求められる取組内容についての説明が行われました。
午後からは基調講演と事例紹介を行い、その後、国公立大学等、私立大学等の2つのグループに分かれた分科会を行ないました。基調講演では日本福祉大学の柏倉秀克教授から、日本福祉大学の肢体不自由学生の入学エピソードなどを交えて、医学モデルとされてきた障害者政策が、社会モデルへと変化したことを説明するとともに、障害者差別解消法の施行により、障害者への差別禁止や合理的配慮の提供は、従来の「(障害者への)配慮」という厚意から「(社会的障壁の除去を行なわなければならない)法令遵守」に当たる義務に変わったことを示しました。次の事例紹介では、津田塾大学の柴田邦臣准教授から、津田塾大学の取組事例について、簡単な設問にしながら、ケーススタディー形式で解説がなされました。
事例紹介の後は各分科会に分かれて、参加者同士の意見交換や登壇者との質疑等が行われました。国公立大学等分科会では、本セミナーの冒頭で「社会で活躍する障害学生支援プラットフォーム形成事業」の解説を行なった舩越特定准教授が、参加者へ設問形式で話題提供を行ない、その後、大阪市立大学にて障害者差別解消法施行に向けた体制整備を担当した事務職員の木下ゆかり氏から、教科書購入における同行事例等の実例を交えて、学内支援における事務職の立場からの取組みを紹介しました。最後に5人程度のグループに分かれて情報交換を行ない、参加者間の交流の場を設けました。一方の、私立大学等分科会では基調講演講師の柏倉教授と事例紹介講師の柴田准教授が進行役となり、事前に参加者から登録のあった質問内容を、「障害学生支援体制のモデル」「支援の必要性」「情報の共有と個人情報の保護」「合理的配慮の内容と決定について」「その他」の5つのカテゴリーに分けて取り上げ、情報提供と参加者との意見交換を図りました。
セミナーの参加者は132名。セミナー全体の満足度は97.5%で、「十分満足した」が36.5%、「概ね満足した」が61.0%でした。「基本事項や具体例を含めた説明で理解が深まった」「事務職員の方の実際のお話が聴けて良かった。『自分に今出来ること』を心がけて行きたい」などの感想が寄せられました。

配付資料

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障害学生支援理解・啓発セミナー3

  • 開催日時:平成30年11月29日(木曜日)11時00分から17時00分(受付開始10時30分)
  • 会場:福岡リーセントホテル(福岡市東区箱崎2-52-1)
  • 参加者数:87名

はじめに、日本学生支援機構の障害学生支援事業の取組みについて、頼本維樹学生生活部長より障害のある学生と支援コーディネーターとの一連の建設的対話の架空事例を用いて紹介するWebコンテンツ等、特徴ある取組をいくつか取り上げながら、今後の本機構の戦略、展望を含めて解説しました。
続いて、文部科学省高等教育局の成相圭二学生・留学生課課長補佐から、国における障害者権利条約への賛同と、障害は「障害者当事者の個人の特性」から「障害のない者を前提とした社会の側が作り出す障壁」と考え、社会に障壁の除去を求めていくという国の障害者支援施策の転換について触れ、合理的配慮においては当事者である学生本人からの申し出の尊重と、当事者の納得できる説明が重要であることを呼びかけました。さらに、高等教育において取り組むことが求められる課題について、「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」を踏まえて説明しました。
午後からは基調講演として、「高等教育における障害者差別」と題し、岡山理科大学の川島聡准教授が具体的事例を取り上げた講演を行いました。この講演では6つの事例について障害者差別解消法が禁止している「不当な差別的取扱い」、「合理的配慮の提供」として取り得ることをいくつか挙げ、具体的な課題にも触れながら、「不当な差別的取扱い」「合理的配慮の提供」の考え方、合理的配慮の提供に不可欠となる建設的対話と、その対局となる紛争についても詳しく解説しました。
基調講演の後、大学における事例紹介として九州ルーテル学院大学の佐々木順二准教授と坂本美樹学生支援センター課長から、学内での障害学生支援組織の現状や支援までの流れ、支援における課題点等を振り返り、九州ルーテル学院大学としての特徴的な取組や具体的事例について、これまでの支援事例や支援学生の協力を得て実現している授業支援や生活面での支援等を個別に紹介しました。事例紹介のまとめとして、教育機関として問われる教育の到達目標や本質、事前に準備できることと、障害学生が実際にいなければできないこと、規定の整備による学内の共通理解形成の重要さ、組織や業務のあり方、配慮依頼の書式等の当事者からの意思表明を支える仕組みづくり、情報交換・共有・蓄積の方法等についての考えを示しました。
最後のプログラムの分科会では、国公立大学等と私立大学等に分かれ、登壇者の進行のもと参加者間で意見交換等が行われた。国公立分科会では長崎大学のピーターバーニック助教と広島大学の森まゆ講師が進行役となり、まず、大学における実際の支援体制、合理的配慮を提供するまでのプロセス、シラバス、学外実習等について、各自が経験に基づいて情報提供した後、小グループに分かれて参加者同士の情報交換を行ないました。分科会の最後に各グループが意見等を発表しあって、分科会全体で意見等を情報共有しました。
私立分科会では、基調講演で登壇した川島准教授、事例紹介を行なった佐々木准教授と坂本課長による進行で、障害学生支援の実現に不可欠な教職員の理解、講義の到達目標、教育の本質にかかわる「合理的配慮による変更・調整ができない内容」、日常生活の支援にはなかなか入っていけない現状等について参加者と情報交換・共有を図りました。
本セミナーの参加者は87名で、セミナー全体の満足度は97.4%。「大変満足した」が16.9%、「おおむね満足した」が80.5%でした。「事例を丁寧に解説してくれており、現場の教職員には大変役立つ」「小規模な大学での対応・事例を知ることができた」「分科会でもっと意見交換がしたかった」等の意見が寄せられ、参加者の障害のある学生に対する修学支援へ意識が高まっていることがうかがえました。

配布資料

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