肢体不自由

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(1)概要

高さ調節機能のある養護机(筑波大学)
高さ調整機能のある養護机(筑波大学)

肢体不自由とは、四肢や体幹に何らかの姿勢や運動の障害・欠損等があり、そのため日常生活に不自由の続いている状態を言います。四肢とは上肢(手・腕)と下肢(足・脚)を指し、また体幹とは胴体を意味します。また障害学生支援において参照できる定義としては、身体障害者福祉法第4条及び同法施行規則別表第5号「身体障害者障害程度等級表」、並びに学校教育法及び同法施行令第22条の3などがあります。しかし必ずしもこれに限定されるわけではありません。
肢体不自由のある学生は、手や足がない、動かせないなどだけでなく、動いても自分の意図とは違った動きになったり、あるいは少し動かせるが肩から上には上がらないなど、大変多様な困難を来します。肢体不自由は一見して分かる障害(ビジブルな障害)と言われますが、しかし実際には見ただけでその人の不自由さや困難は分かりません。障害の状態について他者が安易に判断するよりも、どのような支援が必要かを聞くほうが、より適切な支援につながることが多いと言えるでしょう。
障害や不自由の程度にも幅があります。例えば神経筋疾患等を原因とする重度の不自由がある人は、呼吸や摂食、嚥下、体温調節等が困難な場合もあります。
加えて修学上の支援だけでなく、食事や排泄等を含む生活上の支援を必要とする人もいます(コラム参照)。

一方、障害の程度としては軽度でありまた定義としては肢体不自由の範疇といい難くとも、運動・移動や操作上の不自由や困りごとが大きいこともあります。例えばキャンパス内には、手を使うときに振戦(振え)や痛みが出る書字に困難を来す障害(書痙)、あるいは発達性協調運動障害(DCD)のように知的程度や視覚障害等では説明できない不器用さを示す学生のいる場合があり、肢体不自由であるかどうかの範疇は別として、継続的に修学上の支援を必要とすることがありますので、注意が必要です。
このように様々な困難とニーズを含んでいる肢体不自由ですが、障害学生支援の観点からは、不自由の部位(上肢の不自由、下肢の不自由、上下肢を含む全身性障害等)で整理したり、修学上の場面(入学、学習、移動等)で見ていくことが分かりやすいでしょう。これについては、日本学生支援機構の「教職員のための障害学生修学支援ガイド」に紹介されています。(リンク参照)

(2)修学において起こりがちな困難さの例(制限・制約)

操作の制約

キャンパスでは、操作を行なうに当たって、例えば次のような制約があります。

  • 物を持つ、運ぶ、操作する、書く、パソコン等機器を使う、実験・実習の器具の使用
  • ドアを開ける・閉める、エレベータのボタンを押す、壁のスイッチの操作(押せない、届かない)
  • 本を読む、紙をめくる、筆記用具や荷物を取り出す・しまう、図書館で資料閲覧する、コピーする。
  • 食事をする、食器を運ぶ、配膳する、蛇口やレバーの操作、自動販売機のボタン(押せない、届かない)、お金を入れる、取り出す、服の着脱、急いでレインコートを着る、傘をさす。

移動の制約

  • 坂や傾斜、段差、凸凹などは、想像以上にバリアとなります。障害のある学生を支援する教職員は、半日程度、車椅子利用の体験をお勧めします。
  • 車椅子の場合、窓口のカウンターが高くて使えないこともあります。
  • バス・電車の乗降は、物理的バリアの解消と、支援への理解が重要です。
  • 杖やクラッチの場合は、滑りやすい路面や、水溜りも行く手を阻みます。
  • 距離そのものがバリアになります。短い授業間休憩では、全てを移動に費やしても間に合わないこともあります。

生活上の制約、健康管理上の制約

  • 食事や水分補給が単独では困難な場合があります。
  • トイレに介助や設備改修の必要なことがあります。
  • 通学に困難のある場合があります。
  • 体温調節が難しく、エアコンを必要とすることがあります。
    これらは学習上の困難ではありませんが、配慮が不十分だとキャンパスライフの継続が難しくなります。

(3)合理的配慮の例

学習時

  • アクセスしやすい教室への変更。また必要な動線の確保
  • 身体や車椅子利用に適した机を用意します。
  • 資料を事前に提示、あるいはPDF等のファイルとして提供します。
  • 用具の出し入れなどについて介助の許可
  • 持ち運びを軽減するためのロッカー等の手配
  • ノートの代筆を認める。あるいは教員の許可を得て、録音や板書の写真撮影の許可
  • 実験等におけるティーチング・アシスタントの配置
  • 修学に伴い必要となる学内での生活支援への配慮(支援者の手配等)。内容や程度は相談によります。

試験時(入試を含む)

  • アクセスしやすい受験場・教室の割当て(駐車場、トイレ、動線等の配慮)
  • 車椅子での受験の許可。その際、車椅子利用者の使用に適した机の使用
  • 多目的トイレに近い受験場の割当て
  • 拡大解答用紙、時間延長の許可(拡大倍率や延長時間は相談によります。)
  • 筆記以外の解答の許可(PC、代筆等、方法は相談によります。)
  • 物理的改修(段差・スロープ、エレベータ、ドア、トイレ、教室等)は、事前的環境整備として取り組むことを基礎とします。

車椅子用昇降機(筑波大学)

車椅子用のスロープ(日本福祉大学)

(4)指導方法の例

  • 車椅子利用者に適した机を教室の空き空間に置くと、板書やスクリーンが見えにくくなることがあります。本人に確かめてもらいます。
  • 移動に時間がかかる、服薬、排泄等の都合により、遅刻せざるを得ないことがあります。あらかじめ本人と相談し、必要な場合は遅刻を認めます。また移動時間軽減の措置(教室の変更、時間割の変更や配慮等)は、学内で協議します。
  • 十分に筆記ができないことがあります。本人と相談し、ノートの代筆、録音、板書の写真撮影等について認めます。また資料の事前提供や、PDFファイルに変換した資料を提供するなどします。それらの資料は、必要に応じて本人のみに使用を制限するなどの指示を行なうことができます。
  • グループ実験に際して本人が操作できない場合、グループでの役割分担を配慮します。この場合、実験の目的、操作手順、結果の理解と考察等を十分に理解させることにより、実験学習における本質的な達成を評価できる場合があります。また、器具や設備を工夫して、操作しやすくすることもできます。ティーチング・アシスタントを配置して、実験参加を援助することもできます。
  • 修学に伴い必要となる学内での生活支援への配慮(支援者の手配等)については、学内で調整します。コラムに事例が紹介されていますので、参照してください。

学生のグループpワークの様子(日本福祉大学)


執筆者:名川 勝

リンク

  • ほか、「搬送法」の検索語で調べてください。
  • 車椅子利用者に適した机は、「リハテーブル」「養護机」の検索語で調べてください。

コラム 地域連携

重度の障害のある学生の生活面の支援(例:通学、学内におけるトイレ利用等の支援)は、障害学生支援に関わる重要な課題の一つです。ここでは、重度の肢体不自由のある大学生Aさんの支援を題材に、大学等と地域の支援リソースとの連携の在り方について考えてみたいと思います。

Aさんは、脊髄損傷により上肢・下肢に機能障害があり、日中は常に電動車椅子で過ごしています。入学時に相談のあった生活面の支援ニーズは多岐にわたりましたが、特に問題となったのは、下記の2点です。

1、通学やトイレ利用に関する支援ニーズに大学だけで応えることが難しいこと、2、国・自治体から提供される障害福祉サービス等は通学や大学内での利用に対応していないこと、つまり、重度の肢体不自由のある学生への生活面の支援は、言わば「支援の空白」になっており、支援体制を一から考える必要があったのです。

「Aさんの主な生活面の支援ニーズと対応」は、Aさんの「通学」と「学内のトイレ利用」に関する支援ニーズと、それに対する対応をまとめたものです。これらの対応は、既存の大学の支援リソースだけでは実現が難しく、通学や学内でのトイレ介助に公的サービスを利用することを、自治体が条件付きで認めてくれたことが極めて大きな意味を持ちました。
1、学生及び家族が主体的に自治体と交渉し、本人・大学・自治体が丁寧に話合いを重ねたこと、2、福祉サービスや地域の資源を熟知している相談支援専門員の協力を得ながら支援体制の構築を進められたこと、上記の点が重要なポイントと言えそうです。

学生生活が始まると、「バスの運転手に説明する機会が欲しい」「もっと柔軟にサポートが使えるとよい」といった要望がAさんから出されるようになりました。公共交通機関との情報交換や学外研修の受講は、こうした声に対する試みです。公的なサービスだけで生活の全てを支えることが難しい現状において、支援の担い手を増やしていくための取組を積極的に行なっていくことも、大学等に求められる役割なのかもしれません。

Aさんの主な生活面の支援ニーズと対応

  • 本人・家族が自治体に相談し、大学も交えた話合いの末、暫定的に市の裁量で提供可能な「移動支援」サービスを学内のトイレ介助に利用できることになった。
  • 障害学生支援担当部署のスタッフ、希望する学生が、学外で介助技術に関する研修を受けた。外部のサービスと合わせて、より柔軟な支援体制を目指すことになった。

車椅子をそのまま昇降できる機能を持つ福祉タクシーに乗る様子(筑波大学)

車椅子を福祉タクシーに乗せる様子(筑波大学)

歩道と車道に仕切り段差がある道路で、車椅子が路線バスに乗り込むために車道に出られるように仕切りを一部なくした様子

車椅子で路線バスに乗り込むための車道への侵入経路の確保


執筆者:五味 洋一