高等教育における障害のある学生支援の基本的な考え方

平成26年度「教職員のための障害学生修学支援ガイド」の見直しに係る協力者会議
議長 大谷大学教授 木舩 憲幸

改訂にあたって

「平成23年度障害学生修学支援メニュー見直しに関する検討委員会」(以下、「平成23年度検討委員会」と略記)における「教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成23年度改訂版)」作成から3年が経過し、その間には障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)の批准に向けて障害者基本法の改正や障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)の制定などの国内法令の整備が行なわれました。そして、平成26年1月20日には障害者の権利に関する条約が批准され、平成26年2月19日には障害者の権利に関する条約が我が国について効力を生じました。
「平成26年度教職員のための障害学生修学支援ガイドの見直しに係る協力者会議」ではこの様な時代背景を受けて、「障害のある学生支援の基本的な考え方」については「平成23年度検討委員会」で作成した内容を基本的には踏襲しつつ、障害者の権利に関する条約の批准に係る我が国の取組と高等教育における障害のある学生支援の動向について書き直しを行なうことにいたしました。

1.支援に関わる基本理念

(1)障害者の権利に関する条約の批准に係る我が国の取組と高等教育における障害のある学生支援

高等教育機関における障害のある学生への支援に携わるにあたっては、国連において制定された障害者の権利に関する条約とこの条約の批准に係る我が国の取組について理解しておく必要があります。これらの取組についての主な内容を以下に示しました。

(1)国連、障害者の権利に関する条約
(採択:平成18年12月13日)(我が国の署名:平成19年9月28日)(発効:平成20年5月3日)
(2)政府の取組
ア.障がい者制度改革推進本部設置(平成21年12月8日)
イ.障がい者制度改革推進会議設置(平成21年12月15日)
ウ.「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」閣議決定(平成22年6月29日)
(3)法律の改正等及び検討会における取組
エ.障害者基本法の改正(平成23年8月5日、公布・施行)
オ.障がいのある学生の修学支援に関する検討会「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」(平成24年12月21日)
カ.障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定 (平成25年6月26日公布、一部の附則を除き合理的配慮規定等は平成28年4月1日施行)
(4)障害者の権利に関する条約の批准
キ.障害者の権利に関する条約、国会において批准の承認(平成25年12月4日)
ク.障害者の権利に関する条約、批准(平成26年1月20日)
ケ.障害者の権利に関する条約、我が国について効力を生ずる(平成26年2月19日)

以下、「障害者の権利に関する条約」と「(3)法律の改正等及び検討会における取組」について概要を述べてみます。

ア.障害者の権利に関する条約
この条約の目的は第一条において「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」と定められています。
「障害に基づく差別」について第二条では「障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義されています。合理的配慮については第二条において、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されています。第四条では締約国の一般的義務として、この条約において認められる権利の実現のため、すべての適当な立法措置、行政措置、その他の措置をとること、及び障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること、障害を理由とする差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとることなどを定めています。
教育に関しては第二十四条において、障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること等を目的とした、あらゆる段階における障害者を包容する教育制度(筆者注:インクルーシブ教育システム 英文:an inclusive education system)及び生涯学習を確保することを定めています。ここでいう「あらゆる段階」には、初等中等教育及び高等教育、職業訓練、成人教育が含まれています。そして、これらの教育と生涯学習のために合理的配慮が障害者に提供されることを確保することが述べられています。

イ.障害者基本法の改正
平成23年8月5日に公布・施行された障害者基本法は、全ての国民が障害の有無にかかわらず共生する社会を実現するため、国、地方公共団体等の責務を明らかにして、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としています。以下に、障害者基本法の主なポイントのいくつかを要約してみます。
障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に係る基本的な考え方について第一条では、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を目指すこと、そのために国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを定めています。第三条では、障害者は、社会を構成する一員としてあらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと、そして、可能な限り、意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られることなどを定めています。第四条では、社会的障壁の除去のために必要かつ合理的な配慮がされなければならないことを定めています。
教育に関しては第十六条において、国及び地方公共団体は、障害者が十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならないことなどが定められています。
                    
ウ.障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律は平成25年6月26日に公布されました。施行は平成28年4月1日です。
この法律の目的は第一条において、障害者基本法の基本的な理念に基づいて、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより障害を理由とする差別の解消を推進し、障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会の実現に資することが定められています。
第三条では、国及び地方公共団体は障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し実施しなければならないことが定められています。第四条では国民の責務として、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならないことが定められています。
第七条では、国及び地方公共団体といった行政機関等における障害を理由とする差別の禁止と、「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」ことが定められています。また、第八条では、事業者(注)における障害を理由とする差別の禁止と「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。」ことが定められています。なお、平成28年4月1日の附則の一部を除く合理的配慮等の施行後には、国公立大学等は第七条の、私立大学等は第八条の適用対象となることに留意する必要があります。また、第八条の規定の施行に関して、主務大臣は、特に必要があると認めるときは、報告の求め、助言、指導、勧告を行なうことができます。
注.第二条の七「事業者 商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。」

エ.障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)
平成24年6月6日付けの文部科学省高等教育局長決定に基づく「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」(以下、検討会と略記)では、障害者の権利に関する条約に係る我が国の取組や大学等における障害のある学生支援の整備が喫緊の課題となっていることを受けて、今後の高等教育段階における障害のある学生の修学支援の在り方について検討・報告を行ないました。高等教育段階における障害のある学生の修学支援に携わる際に非常に参考となる報告です。詳細にお読みいただくようお願いいたします。
検討会報告では「障害のある学生」の範囲として「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生」と定めています。また「教育上の合理的配慮等」を検討する上で対象とする学生の活動の範囲は、「授業、課外授業、学校行事への参加等、教育に関する全ての事項」となっています。なお、学内移動やフィールドワーク、教育実習等での移動については、課外授業や学校行事への参加に含めています。一方、教育とは直接に関与しない学生の活動や生活面への配慮については、一般的な合理的配慮として検討会における検討の対象外としています。
合理的配慮の定義については、障害者の権利に関する条約や障害者基本法等に照らして次のように定義しています。『大学等における合理的配慮とは、「障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」』検討会報告ではこの定義に基づいた大学等において提供すべき合理的配慮の考え方について述べています。以下に検討会報告及びその概要より抽出・要約したものを示します。

(1)機会の確保
(基本的な考え方)
○障害のある学生が障害を理由に修学を断念することがないよう修学機会を確保することが重要。
○高い教養と専門的能力を培えるよう、教育の質を維持。
○受入れに当たっては、障害のない学生と公平に判定するための機会を提供。
○受入れ後は、個々の学生の障害の状態・特性等に応じて、学生が得られる機会への平等な参加を保障。
(学生が得られる機会への平等な参加を保障する配慮)
○学生に提供する様々な機会において、障害のある学生が障害のない学生と平等に参加できるよう、合理的配慮を行う。ただし、教育の本質や評価基準を変えることや他の学生に教育上多大の影響を及ぼすような教育スケジュールの変更や調整を行うことを求めるものではない。
○様々な機会にあたるものとしては、講義や演習などの正課教育、図書館や学生寮等の学生支援関係施設の利用、大学等が主催する入学・卒業式やオリエンテーションなど教育活動の一環としての学校行事、学生相談や就職指導・修学指導などの正課外教育、これらの機会に参加するための学内移動やフィールドワーク、教育実習等における移動及びこれらに密接に関連する入試・履修登録・試験・休講等の各種情報の入手・奨学金の申請など。
(2)情報公開
○障害のある大学進学希望者や学内の障害のある学生に対し、大学等全体としての受入れ姿勢・方針を示すことが重要。
(3)決定過程
○権利の主体が学生本人にあることを踏まえ、学生本人の要望に基づいた調整を行うことが重要。
(合理的配慮の合意形成過程)
○学生本人の教育的ニーズと意思を把握する際には、障害のため学生が単独で大学等との意思疎通を行うことが困難な場合があることなどにも留意。必要に応じ、障害に関する専門家の同席や学内外のリソースや支援に関する情報を提供するなど、意思表明のプロセスを支援することが重要。
(合理的配慮の決定)
○合理的配慮は、学生本人を含む関係者間において、可能な限り合意形成・共通理解を図った上で決定し、提供されることが望まれる。
○合理的配慮の決定過程においては、必要に応じ、学外の専門家等の第三者による意見を参照することも重要。
○合理的配慮の決定に当たっては、他の学生との公平性の観点から、学生に対し根拠資料の提出を求め、それに基づく配慮の決定を行うことが重要。
(4)教育方法等
○情報保障、コミュニケーション上の配慮、公平な試験、成績評価などにおける配慮の考え方を整理。
(5)支援体制
○大学等全体として専門性のある支援体制の確保に努めることが重要。
(6)施設・整備
○安全かつ円滑に学生生活を送れるよう、バリアフリー化に配慮。 

大学等が障害のある学生に合理的配慮を提供するためには、大学等のみならず、国や独立行政法人等の関係機関による取組が必要不可欠であり、検討会報告では関係機関が取り組むべき事項について短期的課題と中・長期的課題として以下のように整理しています。

(1)短期的課題
1)各大学等における情報公開及び相談窓口の整備の促進
2)拠点校及び大学間ネットワークの形成
(2)中・長期的課題
1)大学入試の改善
2)高校及び特別支援学校と大学等との接続の円滑化
3)通学上の困難の改善
4)教材の確保
5)通信教育の活用
6)就職支援等
7)専門的人材の養成
8)調査研究、情報提供、研修等の充実
9)財政支援

(2)共生社会の一員としての高等教育機関の責務

我が国は共生社会、つまり障害者基本法(平成23年8月5日に公布・一部を除き施行)の第一条でいう「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」を目指しています。また、障害者権利条約の第二十四条(教育)では、あらゆる段階におけるインクルーシブ教育の制度を確保することがうたわれています。あらゆる段階には当然のことながら大学等の高等教育段階が含まれます。
大学等においては障害のある学生を受け入れて、修学のための必要かつ適切な支援を行なうこと、ならびに障害者の自立及び社会参加へ向けての支援等を行なうことが求められています。ひいては障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生社会の実現を目指すことが求められています。

(3)修学のための本質的かつ具体的な支援を

多くの場合、大学等での授業は、大多数を占める障害のない学生を基準にして構成されており、同じ教授法や同じ形式の試験では、障害のある学生の修学に困難が生じる場合があります。そこで、障害のある学生の修学を可能にするために、障害に対応した具体的な方策を講じる必要があります。このように、障害のある学生が修学の目的を達成するために講じられる対応策こそが、障害のある学生に対する支援の本質であるといえます。
学校の施設・設備のバリアフリー化にあたっても、障害のある学生が学修の目的を達成するための環境整備という観点が必要です。誰にとっても利用しやすい、ユニバーサル・デザインというコンセプトで設計されたキャンパスをもつ学校は別として、多くの学校の校舎は古く、車いす用のトイレやエレベーターを全学に整備することは困難な場合があります。そのような場合には、障害のある学生が学内をどのように行動するかを具体的に検証した上で、その動線を確保するために重点的に整備していくことが期待されます。
例えば、肢体不自由のある学生のニーズは多様であり、標準的な多目的トイレを整備すれば済むというわけではありません。そのトイレを使う障害のある学生のニーズに合わせた個別的な対応や修繕が必要になることはしばしばあります。その意味でも、一般的なバリアフリー化ではなく、在籍している障害のある学生のニーズに対応するための重点的な整備をすることが大切です。

(4)成績評価のダブルスタンダードは設けない

大多数を占める障害のない学生に合わせた授業の中で、特別なニーズのある障害のある学生には個別的な対応が必要になることを先に述べました。この場合でも、特別扱いは最小限にして、できるだけ、障害のない学生との共通の場で学修ができるようにすることが大切です。
例えば、点字を使用している視覚障害のある学生の試験をレポートで代替することは、学生に便宜を図っているように見えますが、必ずしも良いこととはいえません。レポートでの代替はやむを得ない場合に限り、できるだけ障害のない学生と同じ試験を点字で受けられるようにすることが大切です。障害があるために障害のない学生と同じ試験が受けられないと、対等に扱われていないという気持ちになることもあります。また、定期試験が終わって多くの学生が解放感に浸っている中で、障害のある学生だけが多くのレポート課題を抱えているのも辛いことかもしれません。
障害のある学生の試験に、時間延長・別室受験等の配慮をすることが必要な場合がありますが、いつでも一律に時間延長や別室受験にすると決めてしまうのでなく、試験の内容や解答に要する時間等を考慮して、柔軟に対応することが必要です。入学試験の場合は、問題の形式や量を考慮して、時間延長の受験上の配慮がとられるのが一般的です。一方、学期末試験などの学内試験の場合、問題形式や問題の量によっては別室での受験が必要とは限りません。障害のない学生が比較的短時間で終える試験内容であれば、障害のある学生が障害のない学生より時間がかかっても授業時間内に終わることが可能かもしれません。また、試験会場となった教室をそのまま続けて使える場合は、障害のある学生に時間延長の配慮をとったとしても、障害のない学生と同じ教室での受験が可能です。
成績評価のダブルスタンダードは設けないことが大切です。例えば、障害のない学生の合格点は60点であるが障害のある学生は40点でよいとか、全員が受けることになっている試験を障害のある学生は受けないでよいなどということには問題があります。障害のある学生は、障害のない学生と対等に勉強しようと思って大学等に入学しています。「あなたには障害があるから、他の人と同じにやるのは無理でしょう。あなたはその程度で合格にしてあげましょう」というのは、親切なようですが、実は、障害のある学生の学ぼうという気持ちを萎縮させてしまいます。

2.障害のある学生の自立と、障害のない学生の成長

(1)障害のある学生の自立につながる支援

障害のある学生の自立につながる支援をすることが大切です。なんでもやってあげるのではなくて、やり方を教えながらできないところを手伝い、次第に自分でできるようにしていく支援です。具体的な支援方法については、障害別の章を参照してください。
自立のために最も必要な能力は、自分の障害の状態や、何ができて何ができないかを、周りの人にわかりやすく説明できる力であるといえます。困ったことがあるときに、その改善を自分から申し出ることができる、何かをしてもらったら感謝の意を表明できることなど、社会生活を送るためのコミュニケーション能力を、様々な体験を通して育てることも、障害のある学生の支援活動の重要な側面です。

(2)障害のある学生との共学が周りの学生を育てる

大学等における障害学生支援においては、障害のある学生との共学が周りの学生を育てるという視点をもつことが大切です。すなわち、障害のある学生への支援は少数の障害のある学生だけのための活動ではなく、すべての学生にとって教育的な価値がある活動であるという位置づけです。 大学等は、学問だけでなく、社会生活の常識やものの見方を身に付ける場所です。1人の障害のある学生がいれば、周りの多くの学生がなんらかの関わりを持ちます。 障害のある人と喜びや悲しみをともにする中で、周りの学生は多くのことを学びます。障害のある人をひとりの人間として理解する人が増えることは、障害のある人の社会参加にとって、大きな力になります。
どの大学等でも障害のある学生は少数ですから、その支援経費は、厳しい財政状況の中では後回しになりがちです。障害のある学生への支援は障害のない学生をも育てる教育活動であると位置づけることによって、障害のある学生への支援経費が多くの学生の利益につながる経費であることの説明が可能になります。

(3)ピア・サポート、学生ボランティア制度

障害のない学生による障害のある学生への支援活動は基本的にはボランティア活動ですが、ボランティアだけでは支援の量と質に限界があることも事実です。また、支援活動に意欲をもちながらも経済的な理由からアルバイトに時間を割かざるをえない学生もいます。そこで、学校が、学生の支援活動に一定の基準を設けて謝金を支払う制度が、多く導入されるようになってきました。この制度は、学生の誰もが忙しい試験や論文締め切り前でも、あらかじめ約束した支援者を確保できることや、質の高い支援を、責任を持って行なってもらえる点で、障害のある学生に喜ばれている制度です。また、ボランティア活動としてのやりがいとアルバイトが両立できる魅力は、支援学生の確保につながります。学校の責任で開催する支援技術講習会への出席を支援学生に促したり、支援活動に従事した証明書を発行することなどにより、支援学生の意欲と技術の向上をさらに促すことができるでしょう。
支援活動を学生だけに任せていると、特定の支援学生に過度の負担がかかることになりがちです。多くの学生が無理なく支援活動にも関わるためには、教職員による適切な指導と監督が不可欠です。

3.支援体制

(1)全学的な支援組織の必要性

障害のある学生への支援を、全学に平等に行き渡らせるためには、障害学生支援センターや障害学生支援室などの全学的な支援組織が必要です。
全学的な支援組織は、障害のある学生の履修に関して、全学の学生・教職員に対して基本方針を提示するとともに、障害のある学生に関わる教員の相談に応じたり、点字による試験などの実務を担当するなど、教育組織による障害のある学生への支援のバックアップにも重要な役割をもちます。
また、障害のある学生にとっては、相談窓口が一元化されていることが大切です。何か困ることがあるときや、支援サービスを受けたいときに、どこに相談すれば良いかがわかっていることは、障害のある学生が安心して学生生活を送る上で非常に重要なことです。

(2)各教育組織の主体的な関わり

障害学生支援センターや障害学生支援室などの全学的な支援体制が整うと、障害のある学生への支援に関わる課題はすべてその組織に任せる傾向が生じがちですが、障害のある学生への支援の主体は、障害のある学生の所属する学部・学科等の教育組織であることを忘れてはなりません。学部・学科が支援活動で主体的な役割を担うよう、各学部・学科には障害のある学生への支援担当者を置き、全学的な障害のある学生への支援組織との連携におけるキーパーソンになってもらうことが必要です。また、障害のある学生が専門科目を履修する際には、そのカリキュラムに責任を持つ各専攻の教員の柔軟な対応と支援が最も大切になります。
障害のある学生の入学が決まったら、学生と保護者を囲んで、クラス担任、外国語センター、体育センター、障害学生支援センター、関係事務局など、障害のある学生の教育に直接関わる人たちが一堂に集まって、入学後の授業や学生生活の支援について相談します。この相談会は、教育組織の取組として実施することが大切です。特に、専攻の授業や実験・実習などの支援には、各専攻の教員の主体的関与が不可欠です。

(3)学内の連携、学外資源の導入

障害のある学生への支援にあたっては、事務関係者との協力も重要です。教務担当部署や学生担当部署、当該の学部・学科の事務局だけでなく、守衛、警備員、食堂の職員、あるいは学生宿舎の管理人等、常勤非常勤を問わず、学生に直接関わる人たちに、障害のある学生の存在と具体的な支援について周知することが大切です。
障害のある学生の多くは、学外の支援組織やボランティアから支援を受けています。学校として、障害のある学生個人が受けている支援に対しても、感謝の気持ちを表明することが大切です。また、学外の支援組織やボランティアから専門的な支援技術の提供を受ける場合には、感謝の気持ちの表明だけでなく、契約に基づき、支援に対する金銭的な対価を支払うことが一般的です。

4.障害のある学生の主体的な関わり

支援にあたっては、障害のある学生と話し合ってニーズを把握することが大切です。しかし、特に入学当初などに本人から出される要望事項は適切であるとは限りません。本人の言うことを、そのまま聞くのがニーズへの対応ではなく、その問題を解決するために必要な対応策がニーズです。また、その解決には、周りの人による支援だけでなく、本人の問題解決能力や障害を軽減する技術の習得等も視野に入れる必要があります。
同じ障害のある学生同士のつながりを作るために、障害のある学生が集まる場所を用意することや、困ったときに相談する窓口を決めておくことで、障害のある学生が主体的に関わりやすい支援環境になります。

5.完璧を期すよりも、改善する姿勢を

障害のある学生への支援には、完璧な支援というものはありません。試行錯誤の末に、これで良いと思うやり方ができたと思っても、人によって障害の種類、程度が違うので、また初めからやり直さなければならないところが出てきます。
支援には、すぐにでもやれること、大きなお金をかけなくてもできることもあります。まずは入学試験の受験を許可して、合格したら受け入れ、可能なことから支援を始める姿勢、そして徐々に改善するということにより整備できる場合もあると考えられます。

6.各学校の個性を生かした支援体制

学校によって必要な支援体制は異なります。すべての学校が横並びである必要はありません。学生たちがボランティアとして障害のある学生への支援をした歴史があり、それを基にして全学的な支援システムが作られた学校では、学生の主体性を重視するシステムが作られています。そういう風土が無く、学校主導で障害のある学生への支援を始めた場合には、学校による学生の指導体制を重視したシステムが作られるでしょう。事務職員を中心に障害のある学生への支援を行なっている学校もありますし、教員中心の支援が行なわれている学校もあります。
各校が、その資源や個性、歴史を生かして、その学校にふさわしい支援体制を作り、点検と改善を繰り返しながら、支援活動を長く続けていくことが求められています。他校の支援体制の模倣ではなく、目の前にいる障害のある学生と話し合い、知恵を出し合って、障害のある学生が障害のない学生と同じ授業に出て単位をとり、卒業研究や卒業論文をまとめて卒業し、就職していくことができるような支援の在り方を、具体的に考えることが最も大切なことといえるでしょう。