7.精神障害(2)主な精神障害

1.統合失調症

どのような疾患か

統合失調症は、病初期に幻覚や妄想などの陽性症状を呈することが多く、思考の障害や情動面の不安定さを伴うこともあります。さらに不安や睡眠障害も伴うことがあります。生活リズムの乱れ、対人関係のトラブル、言動の変化などの症状行動が目立つと周囲が異変に気づきやすくなりますが、自覚的な病感や病識が乏しい場合は治療への導入に時間がかかります。また、経過中に入院することがあっても入院期間は以前より短くなっており、復学し、卒業・就労するケースもあります。
急性期は陽性症状が見られますが、その後の経過において、活動性が低下したり感情の表出が乏しくなったりする陰性症状が顕在化することがあります。修学や就職活動など社会生活への復帰の時期を見定めるには、陽性症状と陰性症状が適度に消退していることが重要です。
思春期から青年期に発症することが多いのですが、治療薬の進歩により、副作用が少なく、症状が改善されるようになりました(参考:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス)。

どのような困難があるか

陽性症状が活発な急性期は幻覚や妄想が目立ち、不眠や生活リズムの昼夜逆転をきたしやすく、しばしば些細な刺激によって情動が不穏となり、興奮したり異常な言動が現れたりします。この時期は一人暮らしや通学に困難をきたしやすく、自宅療養や入院が必要になります。急性期を脱して陽性症状が概ね消退すると退院が検討されますし、さらに日常生活ができるほどになれば一人暮らしや復学を検討することが可能になります。

どのような支援・配慮が必要か

(1)通院と服薬への配慮
服薬が長期間必要となることが多いため、定期的な受診を前提として履修スケジュールを組むと良いでしょう。いったん症状が消退した後も、安定した状態を維持して再発を防止するために服薬は重要です。
また、症状悪化を短期的に抑制するために頓服薬が必要となる場合があります。講義中に服薬の必要があれば、服薬とそのための水分補給をあらかじめ許可しておくと良いでしょう。

(2)増悪因子を避ける
身近な生活環境に発病のきっかけがあると考えられる場合(サークルやゼミの人間関係など)には、発病状況に戻ることをしばらくは避けるように環境を調整する一方、学生本人には苦手な状況やストレスを自覚して身を守ることができるように生活指導をします。病状が安定している時期には認知行動療法も行なわれます。

(3)出欠席や配付物など
修学支援としては、体調が不安定になる可能性があることを念頭におき、生活リズムの管理に留意する必要があります。遅刻や欠席がやむを得ない状況にあることへの十分な配慮が必要でしょう。例えば、欠席時の配付物の手渡し等が考えられます。また、薬物治療の初期は、スポーツに取り組むことが困難な場合がありますので、体育や部活動の運動について配慮が必要です。長時間に及ぶ実験や、グループワークで臨機応変の対応を求められることは病状悪化をもたらすこともあるため、これらのリスクを回避することも修学支援の一環となります。履修計画を立てるにあたり、講義を詰め込みすぎないよう無理のないスケジュールを組むという助言も有効です。

ノートを開いて学習している学生のイラスト

2.気分障害(大うつ病性障害、双極性感情障害を含む)

どのような疾患か

気分障害の多くは経過の中でうつ症状を伴いますが、比較的深刻な身体の症状を伴う内因性うつ病に伴ううつ症状はその一部です。他方、ストレスへの反応や環境変化への適応障害の場合に比較的軽度のうつ病状態を呈することがあります。うつ病と診断されても、比較的軽症のうつ状態なのか中等度以上の内因性うつ病なのかは鑑別が難しい場合もあります。さらに、うつ病や双極性感情障害を発症しても、すぐに医療機関を受診するとは限らず、あるいは受診までに年月を要するので、一般集団の中に未治療の事例が多くあると考えられています。
内因性うつ病やうつ状態では、眠れない、食欲がない、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない、などの症状が持続します。精神的・身体的ストレスが重なるなど、様々な理由で脳の機能障害が起きると、ものの見方が否定的になり、自分が駄目な人間だと感じて意欲が低下します。いつもなら乗り越えられるストレスも、よりつらく感じられるようになりますので、休養をとらずに無理に活動を続けると悪循環に至ってさらに自信を喪失することがあります。また、不安や焦燥感が強くなる一群では希死念慮が生じることもあるため、特に衝動性が高い若年層では、抗うつ剤による治療を受けている期間に注意が必要です。
気分障害の中で、うつ状態に加えて躁状態を伴うものは双極性感情障害と呼ばれ、躁状態とうつ状態を一定の周期で繰り返します。躁状態やうつ状態のいずれかが重症である場合や混合状態が著しい場合は入院の適応となります。
気分障害は、うつ状態で治療に導入される場合が多いのですが、治療経過の中で躁状態に転じることがあります。躁状態の初期は、本人にも症状を自覚することが難しいのが特徴です。
このように、うつ病と躁うつ病はうつ状態を呈するという点で共通していますが、それぞれの治療薬が異なるため、鑑別が必要です。うつ状態で治療を受けている経過の中で躁状態の兆候があれば、早めに治療薬の変更を行なうことが必要です。明らかな躁状態を呈していることが支援者にわかったら、すみやかに専門家や保護者に連絡をとって治療につなげましょう。

どのような困難があるか

気分障害は、軽度であれば病感や病識が十分にないまま年月を経過することがありますが、多大なストレスに遭遇するなどのきっかけにより、社会生活や体調の面で急激に支障が生じることがあります。試験や授業への出席が困難になって欠席が続いたり、教職員や家族からの連絡に無反応になったりします。うつ状態があると、集中力や意欲が低下して修学が全般的に困難になり、さらに対人関係を避けたり、物事を決断できなくなったりします。深刻な状態の時期に講義や試験が重なった場合、支援を申請して変更・調整を講じてもらうか、あるいは進学や卒業を延期することもあります。また、就職活動をしている時期に不調に陥ると、就職、卒業論文、履修などが予定どおりにこなせず、留年や休学を余儀なくされる場合があります。このような場合、なるべく早急に診断書を提出して休養や休学、あるいは支援つきの試験を受けるなど、具体的な支援を選択することが大切です。

どのような支援・配慮が必要か

(1)通院と服薬への配慮
服薬が一定期間必要となるため、定期的な受診を前提に履修スケジュールを組むと良いでしょう。症状が消退した後も、安定した状態を維持して再発を防止することが重要です。うつ病の治療では、症状が安定してから少なくとも半年以上は服薬を継続することが再発防止に重要とされています。
症状悪化を短期的に抑制するために頓服薬が必要となる場合があります。講義中に服薬が必要であれば、服薬やそれに伴う水分補給もあらかじめ許可しておくと良いでしょう。

(2)増悪因子を避ける
対人関係のストレス、睡眠不足、過労、飲酒などが増悪因子となります。特に飲酒は、飲んだ直後は気持ちがリラックスして睡眠が得やすくなっても、酔いが醒めた後の気分の落ち込みと、睡眠の質の悪化、処方薬との相互作用もあるので控えるべきです。夜の飲酒を伴いやすい会合には参加しないような配慮が必要です。
また、完全主義や過度の徹底性も増悪因子になりますが、認知行動療法を用いた思考のクセを修正するトレーニングが有効な場合があります。

(3)出欠席や配付物など
うつ病の日内変動(朝や午前が不調)のため、または内服薬の影響で午前中は身体的にも精神的にも鎮静されることがあります。登校自体が困難だったり、講義に出席しても十分集中できなかったりする場合は、午前の講義を避けた履修計画を立てるなどの支援も有効です。

3.不安性障害

どのような疾患か

強い不安、動悸、呼吸困難、手足のしびれ、めまい、気が遠くなる感じなどが突然に出現する「パニック障害」、対人恐怖が強く生活に支障をきたす「恐怖症」、何度も確認しないと落ち着かないなどこだわりが強くなる「強迫性障害」、犯罪などを契機とした「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」などがあります。

どのような困難があるか

教室や講義棟に近づくことでトラウマ記憶が想起されてフラッシュバックが生じたり、極度の不安のため集団内に身を置くことが非常に困難となったりする場合があります。

どのような支援・配慮が必要か

(1)通院と服薬への配慮
薬物治療が奏功することが多いため、早めの受診が望ましいと考えられます。統合失調症や気分障害と同様に、定期的な受診が可能な履修スケジュールを組むと良いでしょう。
また、症状悪化を短期的に抑制するために頓服薬が有効な場合があります。講義中に服薬の必要があれば、服薬と同時に必要な水分補給も許可しておくと良いでしょう。

(2)座席や口頭発表など
強い不安・恐怖が生じた時には容易に退室できること、あるいはそれが許可されていることが必要となる場合があります。なお、統合失調症やその他の障害に伴う不安や感覚過敏でも、周囲の雑音が非常に気になってしまい、講義に集中できない場合があります。こうした場合は周りが比較的空いていて静かな席や、壁に近い最前列の席を優先的に確保することが有効です。
大勢の前で発表したり議論することが、極度の不安と恐怖のために困難な場合は、教員が個別に聴いたり、可能なら代替手段で理解度を評価することを検討します。
IT技術の進歩により、講義をウェブ上で受講できる場合には、eラーニングを選択することも検討すると良いでしょう。

4.睡眠障害

どのような疾患か

睡眠になんらかの問題がある場合ですが、なかなか寝つけない場合や早い時間に目が覚めるという場合もあれば、夜間は熟睡できず、たびたび目が覚めて延々と寝返りをうち続けるという場合など、睡眠障害といっても様々なパターンがあります。
また、睡眠リズムが乱れ、眠るべき時間帯に眠ることができず、起きているべき時間帯に起きていられないという、概日リズム睡眠障害や、十分な睡眠をとっても日中に居眠りをしてしまい、さらに脱力発作(笑ったり怒ったりしたときに力が抜ける)や金縛りを伴う中枢性過眠症(ナルコレプシー)もあります。

どのような困難があるか

就職活動や進学のための試験勉強を集中的に行なう時期など、睡眠の障害があると大事な面接への遅刻や、勉強の効率が上がらないなどの支障をきたすことがあるため、薬物治療が選択されることがあります。医療機関で診察や検査を受けた上で、生活リズムの見直しを行ないつつ、睡眠障害のタイプに合った睡眠導入剤などを処方してもらいます。
中枢性過眠症の場面は、授業中に起きていることが難しく、脱力発作が生じることもあり、学生生活に支障をきたすことがあります。専門の医療機関で詳しい検査を受けて治療薬を処方してもらうことが大切です。

どのような支援・配慮が必要か

(1)通院と服薬への配慮
睡眠が安定するまでの期間は、定期的な受診が可能な履修スケジュールを組むと良いでしょう。

(2)増悪因子を避ける
生活リズムを規則正しく保つことが大切です。夜遅くまで実験をしたり調べ物をしたりするなど、遅い時刻の活動を慢性的に行なうことは避けるべきです。同様にディスプレイの光を遅い時刻まで見つめていると睡眠リズムが乱れやすくなります。短時間睡眠を続けたり、アルコールを飲用したりするのも睡眠によくありません。毎日のスケジュールが不規則な場合でも、モーニングコールをしてもらうなどの形で家族に協力を仰ぐことも大切です。

(3)履修のスケジュール
午前中の早い時刻ばかりに講義が集中していると、不本意な遅刻や欠席のリスクが高まります。睡眠のリズムや体調を考慮して一週間の講義の履修計画を立てると良いでしょう。

5.高次脳機能障害

どのような疾患か

大学生の年代では、スポーツ中の事故や交通事故に遭遇する可能性があります。頭部外傷や脳血管障害を受傷した場合に、高度な医学技術を駆使したより高いレベルの治療が受けられたとしても、脳の損傷の後遺症として、記憶・注意・遂行機能・社会的行動などの障害をきたすことがあります。
高次脳機能障害のリハビリテーション過程では、障害を改善するために工夫された訓練を受けたり、障害を補う方法を身につけたりすることが必要となります。本人が自覚するまで時間を要する場合は、まず家族が障害の内容について正しく理解し、適切な接し方をすることが大切です。家族から離れて単身で生活している大学生の場合なら、日常的に接する教職員や身近な学生に状況を把握してもらうことが役に立ちます。

どのような困難があるか

高次脳機能障害があると、社会復帰訓練を経た退院後の生活で様々な問題点が明らかになります。この障害は外見からわかりにくいこともあり、また自覚されることが難しい場合もあって、学校に戻ってから周囲が対応に戸惑うことがあります。他方、本人が障害について認識している場合には、実生活に戻った後で本人の悩みが深まることがあります。

(1)記憶の障害
新しい出来事を覚えられなかったり、過去の記憶を思い出すことができなかったりします。具体的には、日時や自分がどこに居るのかわからない、行動したことを忘れる、予定を覚えられない、といったことが起こります。

(2)注意の障害
物事に長時間集中することができなくなったり、ぼうっとしたりします。注意力散漫になって、ケアレスミスが目立つこともあります。また、1つのことを始めると夢中になってしまい、他のことに注意を向けられなくなります。あるいは、1つずつならできることを2つ以上同時にしようとすると混乱します。

(3)遂行機能障害
目標を設定し、それを達成するための計画を効率よく実行し、その結果を評価して次の行動に生かすことが困難になります。すなわち、計画することと物事の優先順位を決めることが苦手になります。間違いを指摘された時に、それ自体を理解することはできても、自分の障害を正しく認識することが難しいため、その後に生かすことができずに間違いを繰り返します。

(4)社会的行動障害
感情や行動を抑制したり、調節したりすることが難しくなるため、感情の起伏が激しくなって、突然興奮したり些細なことで攻撃的になったりします。あるいは感情が平板化するなど、自発的に行動することが困難になります。また、他人の気持ちを理解することが難しくなります。

(5)その他
失語症:言葉による意思疎通が困難になります。
失行症:手足を動かすことができるのに動作がぎこちなくなります。
失認症:ものは見えているのに、それが何であるかよくわからなくなります。
半側空間無視:自分の前の空間の半分に注意を向けにくくなり、対象を見落としがちになります。

どのような支援・配慮が必要か

在学中に受傷した場合、受傷後しばらくは、本人が学校と打ち合わせをしたり交渉したりするのは困難な場合がありますので、家族が専門家(主治医や学校医)と相談しながら復学の道筋を決めることが望ましいといえます。
大学としては、学生を受け入れる準備の段階で、家族が学校医やカウンセラーに面談を始めるなどして、高次脳機能障害についての知識や当該学生に関する情報を関係者が共有しておくと良いでしょう。復学を検討する際は、身体的機能だけでなく精神的機能や学力の変化がないか、記憶力や注意力の状態、などを把握することが修学支援の内容を決めるにあたり重要となるでしょう。入院中にWAIS(ウェクスラー成人知能検査)などの検査を実施していることが多いため、学生の同意を得た上で修学支援が目的と明示し、主治医から検査内容を提供してもらうことも有用です。
記憶障害、注意障害、遂行機能障害など高次脳機能障害特有の症状がある場合には、授業についていくのが困難になります。「授業中、ノートがとれない」「試験を受けても以前と違って時間が足りない」「忘れ物が多い」「疲れやすく授業中に寝てしまうため教員から不真面目と誤解された」などの問題が起こります。修学支援としては、「レコーダーを活用してノートの補助とする」「試験時間を延長してもらう」「試験をレポートに代替してもらう」「メモリーノート(※)の活用で忘れ物を少なくする」などが考えられます。
さらに、進路や職種の選択、あるいは就職活動をする時点で、学生は大きな決断をすることになります。必要に応じて相談できるリソースを提供することも大事な支援となります。職種を考えるにあたり、GATB(厚生労働省編一般職業適性検査)を参考にすることもできます。

※メモリーノートとは
高次脳機能障害のある人などが用いる記憶障害に対する補完手段で、1.今後の特定日のスケジュール(予定)、2.当日判明した、その日のうちに行なうべき内容、3.翌日以降、一定の期限までに行なうこと、4.重要事項、などを盛り込むことが推奨されるノート。(幕張版などがある。)

その他配慮を要する障害の例

性同一性障害(性別違和)
社会生活上の配慮が必要になります。戸籍名の変更、性別の変更など学生の希望によって配慮の内容も変わってきます。周囲の学生に対する説明は、必要に応じて学生本人からしてもらうとスムーズに理解が得られるようです。
一般に、性同一性障害のある学生への配慮内容は、入学直後からトイレの利用方法(ユニバーサルトイレの利用)、学籍名簿に登録する氏名、健康診断や体育実技などの更衣室の用意などがあります。健康診断の受診時に男子学生、女子学生とは別の時間枠を設けて対応するなどの配慮をします。また、入学後の呼称については、学籍簿の性別に準じて配慮しますが、一般に男子と女子を「君」「さん」で二分するよりもいずれかに統一することが望ましいと考えられます。