2.視覚障害(1)視覚障害とは

視覚障害の分類

視覚障害は、視覚活用の程度によって「盲」と「弱視(ロービジョン)」に大きく分けられます。

1.盲

「盲」に分類されるのは、視覚的な情報を全く得られない、あるいはほとんど得られない人たちです。しかし、「盲」といっても視力がゼロとは限らず、明暗の区別ができる人、目の前に出された指の数がわかる人など様々です。早期に失明した場合、文字の読み書きには点字を用い、単独で移動する際には白杖または盲導犬を使用している人が多いですが、中途失明では、読み書きや移動が困難な場合があります。

2.弱視

弱視の人は、保有する視力を活用しながら生活しており、墨字(点字に対し、通常の文字の総称)を使用することが可能です。ただし、ルーペ(拡大鏡)や単眼鏡などの弱視レンズや拡大読書器を用いたり、印刷物やパソコン等の画面を拡大するなど、網膜像を拡大して読んでいます。移動の際には白杖を利用しない人が多く、一見しただけでは弱視者と気づかない場合もあります。
弱視とは、視力や視野などの視機能低下が原因で、読み書きや移動等の生活機能に困難を継続的に伴う状態のことで、視力がおおむね0.3未満または視力以外の視機能障害が高度な場合とされています。視野が狭い、まぶしさがある等の見えにくさを抱えており、見え方には非常に大きな個人差があります。実生活のなかで見えにくいものの例としては、下記のものが挙げられます。

  • 細かい部分がよくわからない(複雑な漢字の判別、花の苗と雑草の区別など)
  • 大きいものの全体把握が困難(目の前にあるビルの形、広い講義室の座席等の配置など)
  • 遠くのものがよく見えない(景色、看板、黒板や掲示板の文字など)
  • 運動知覚が困難(飛んでいる鳥の姿、球技中のボールの動き、歩行者や自転車等の動きなど)
  • 境界がはっきりしない(ノートの罫線、壁とドアの境、一面ガラス張りの建物の入り口、段差、グラスの中の水面など)

なお、盲と弱視は必ずしもはっきりと区別できるわけではなく、重度の弱視者の中には、学習の効率や将来の視力の見通しなどから、点字を使っている人もいます。また白杖についても、普段から持っている人もいれば、不慣れな場所や混雑した場所、暗い場所でのみ使うという人もいます。

3.中途失明について

視覚障害の原因となる疾患はどの年齢でも発症します。中には、思春期から青年期に急激な視野障害や視力低下を起こす疾患もあり、大学在学中に失明する人も少なくありません。
視機能の低下が進行している学生や中途失明に至った学生は、その現実を受けとめられず、心理的に不安定な状態に陥りがちです。墨字が読めない上に点字も速く読むことができず、勉強が思うようにはかどりません。一人で目的地に行くことができず、日常生活の基本動作も困難な状態になります。
このような時期に最も大切なことは、本人をよく知る教員や事務担当者、保健管理センターのカウンセラーなどが視覚障害の専門家と連携してチームを作り、心理的ケアを含めた支援を行なうことです。日常生活技能や歩行、点字、パソコンの操作技術などを習得するためには、学外の専門機関でリハビリテーションを受ける必要があります。そのためには、医療機関、福祉事務所、そしてリハビリテーション専門機関、視覚特別支援学校(盲学校)等との連携が不可欠となります。

視覚障害学生の支援のニーズ

1.文字情報(図やグラフを含む)へのアクセスに関すること
2.環境把握と移動に関すること

1.文字情報へのアクセスに関する支援

視覚障害学生が通常の文字にアクセスするための支援としては、試験問題等の点訳・拡大、電子データの提供、印刷物のテキストデータ化、対面朗読などが有効です。また、支援機器類の整備も必要です。
弱視学生については、照明環境の整備が特に重要です。多くの弱視学生は明るい照明を必要とするため、机上に個別照明器具を設置する場合もあります。一方で、明るい場所では目を開けていられないほどまぶしさを強く感じ、室内でもサングラスが必要な人もいます。このような人は、机の表面を濃い色にしたり、パソコンの画面を白黒反転させたり、黒地に白文字のプリントを用いるなどの工夫によって、まぶしさを軽減します。最近ではタブレットPCを視覚補助具として活用しているケースもみられます。板書やスライドの内容を書き写せないときは、タブレットPCで撮影して、自宅での学習に生かすことも行なわれています。

2.環境把握と移動に関する支援

盲学生はもとより、弱視学生の場合も慣れない場所については丁寧なオリエンテーションが必要です。一方で、いったん地理的環境を理解すれば、一人で目的地まで移動することが可能です。しかし、広いキャンパスでは道に迷うこともあるため、視覚的・触覚的目印の整備や、周囲の人の手助けが必要となります。また、顔や声で相手がだれかを判断したり、表情から相手の気持ちを読み取ったりすることが難しいなどの対人コミュニケーション上の困難さがあるため、声のかけ方を工夫するなどの支援や障害に対する理解・啓発が必要となります。

なお、本ガイドでは上記2点のニーズを満たすために必要な具体的な支援内容と方法について解説していますが、必ずしもそれらの支援がすべて整わなければ視覚障害学生を受け入れられないというわけではありません。支援経験の豊富な大学や視覚障害の専門機関、そして障害学生本人と相談しながら、それぞれの大学で提供可能な支援を検討していくという考え方が大切です。