発達障害 注意欠如多動症

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(1)ADHDの概要

注意欠如多動症(ADHD)は、不注意、多動、衝動性といった3つの主症状からなる発達障害です。これらの主症状の背景として、脳機能の特異性による注意や情動をコントロールすることの難しさが想定されています。また、年齢発達や置かれた状況によって、行動上に現れる特徴の程度や頻度が変化する場合があります。大学等では、不注意や衝動性による困難さが目立ちやすいと考えられます。また、ASDやSLD、二次障害としての精神疾患等といった、複数の特徴や症状を併せもつ場合も少なくありません。したがって、ADHDの特徴に対する支援のみならず、それぞれの特徴に対する支援も必要になることが多いと考えられます。以下に示す修学上の困難さは、ADHD以外の特徴を持っている場合にも見られることがありますが、原因によってアプローチが異なるため、適切なアセスメントに基づいて、支援を提供することが大切です。あわせて、本章の合理的配慮の内容や指導方法の例についても、本人のニーズや特性、大学等の状況などを勘案して適切な支援内容を選択する必要があります。

筑波大学の校舎の様子(筑波大学)

(2)修学において起こりがちな困難さの例(制限・制約)

  • レポートや試験における誤字脱字、計算間違い等のちょっとしたケアレスミスが他の学生よりも多いことがあります。メールについても宛先の間違いや添付ファイルの付け忘れ等が多く、本人も気を付けなければならないことは分かっていますが、注意を受けても、自分一人ではなかなか修正できないことが多く見られます。
  • 学生証や提出すべき書類等、大事なものを頻繁に忘れてしまったり、紛失してしまったりすることがあります。
  • 研究室の机の上やカバンの中等、整理整頓することや、きれいな状態を保つことが難しく、周囲からだらしない学生と誤解を受けることがあります。
  • 時間の感覚を持ちづらく、見通しが甘くなりがちであったり、時間管理がうまくできなかったりするため、授業に遅刻したり、約束の時間に間に合わないことがあります。特に慣れてきた頃に、それが頻繁に見られるようになります。
  • やる気や集中力が続かない、あるいはすぐに飽きてしまい、根気よく続けることが難しいことがあります。特に興味の持てないものや、単調な繰り返し作業、長期間にわたって取り組む必要のあるものではそれが顕著に現れます。一方で、興味のあるものに対しては、過剰に集中し、やめられなくなってしまうこともあります(この状態を過集中と呼びます)。
  • 取り組むべき課題等をつい先延ばしにしてしまい、締切りの前日等、ぎりぎりになってから取り組むために、締切りに間に合わないことや、不完全なまま提出してしまうことがあります。
  • 複数の課題の管理が必要とされる場合に、どれも重要と考えてしまい、まだ重要なことが終わっていないのにもかかわらず、次のことを始めてしまうなど、重要度や進捗状況に合わせて優先順位を付けながら実行することが難しいことがあります。そのため、結果的に全ての作業が中途半端になってしまうことがあります。
  • ディスカッションの時間等に、思わずしゃべりすぎてしまったり、人の話をさえぎってしまったり、言わなくてもよい余計な一言をうっかり言ってしまうことがあります。反対に、うまく説明しなければならない状況では、言いたいことや伝えたいことを整理して伝えることが難しいこともあります。
  • どうすればよいかを十分に理解していても、自分の思ったとおりに行動することが難しく、同じ失敗を繰り返すため、注意されたり、叱責されたりする経験が多くなりがちで、自己効力感が低い学生が多く見られます。

上術の困りごとは、周囲からやる気がない、能力がないと誤解されてしまうことがあります。これは、いつも同じようにできないわけではなく、場合によってはうまくできることもあり、本当はできるのにわざとやらないのではないかと思われてしまうことがあるためです。このように、行動上のパフォーマンスにおけるムラ(例えば、レポートや試験の出来、1日の作業量、集中できる時間等が両極端な場合を指します)が大きいことは、本人が不全感を感じやすく、精神的な不安定さにつながりやすいため、特に周囲の理解が必要です。

(3)合理的配慮の例

試験時

  • 本人にとって気が散るものの少ない、静かな教室での受験が望ましい場合があります。学生の状態によっては、パーティションの使用や、別室受験を検討してもよいでしょう。
  • レポートや課題の評価に当たって、締切りを延長するといった措置が必要な場合もあります。ただし、これらはいずれも、それらの配慮を行なうことで本人の能力を最大限に発揮できることが分かっている場合に限って実施するべき配慮です。ADHDのある学生によっては、締切りを何度延長してもレポートや課題の提出が難しい場合もありますし、レポートや課題の作成のスケジュールを一緒に考える方が有効な場合もあります。
  • あわせて、特に試験やレポートといった評価に関わる部分での合理的配慮については、周囲の学生から説明を求められることがあるかもしれません。その場合に、なぜこのような配慮が必要か、またこの方法が公平な評価であるかを周囲の学生に説明する必要がある場合があります。そのために、誰に何をどこまで伝えるかについても本人と事前に確認をしておくことが必要です。

授業

パーテーションのある自習スペース(筑波大学)

  • 注意集中が難しい場合の授業内容の保障として、授業の録音や板書の写真撮影のための支援機器(例えば、ICレコーダーやスマートペン、スマートフォンのカメラアプリ等)使用の許可が挙げられます。ただし、これらの支援機器は、本人のニーズに合っていれば使用される可能性が高い一方で、必ずしも全てのADHDのある学生に有効とは限りません。
  • レポート課題の内容や締切り等、重要なことや覚えていてもらいたいことは、配布資料など形に残るものの中にも記述しておくと、本人が頭の中では忘れてしまっても、それを見ることで思い出すきっかけになることがあります。
  • 1日を通した集中講義等、長時間にわたって座って授業を聞く必要がある場合には、休憩をこまめにとる、あるいは、途中退席並びに途中参加しやすい環境を設定することで、授業に集中しやすくなることがあります。
  • 授業担当教員のオフィスアワーを活用するなどして、学生が授業中に曖昧になっている内容(授業の内容やテスト等の重要な情報)を質問したり、確認したりするための時間を提供することが望ましいでしょう。

その他

  • 授業の構成や資料の作成、事務連絡のための掲示板のレイアウト等において、ユニバーサルデザインに基づく対応を行なうことで、講義の中でADHDを含めた様々な特徴のある学生に対応することができる可能性があります。
  • 学外実習等で学外の担当者に配慮を求める必要がある場合には、本人の特性等に関する情報を誰にどの範囲まで伝えてもよいか、あらかじめ本人と相談しておくことが必要でしょう。

(4)指導方法の例

  • 重要なことを伝える際には、繰り返し確認できる機会を設ける、あるいは、「これから重要なことを伝えますので、よく聞いてください」と言ってから伝えるなど、学生の注意がこちらに向いていることを確認してから伝えることで、本人が聞いていなかったということを防ぐことができます。
  • 指示は、1回で1つずつ内容を伝えるなど、明確で簡潔な方が伝わりやすいことが多いです。
  • 卒業論文や修士論文等、長期間にわたっての取組が必要になる場合には、タスクを細かく区切り、少しずつ進めていけるよう、ゼミ等でタスクの進捗状況を定期的に報告する機会を設けると、何もできなかったという結果になりにくく、本人にとっても達成感を感じることができます。また、それによって、その後の取組に対する動機づけが上がり、本人の能力を十分に発揮できる場合があります。
  • 研究室の役割分担やチームで研究を進めるときなど、たくさんのやるべきことがあるときは、先に手順を整理し、優先順位を確認しておくとうまくいく可能性が高まります。
  • ADHDに起因した失敗については、本人を叱責しても改善しにくいため、できたところまでを評価する方が、お互いにとって、よりよい関係性を長く保つことができます。
  • 本人が修学上で困ったことを相談できる場所を学内に準備し(例えば、障害学生支援室のスタッフや保健管理センターのカウンセラー等)、その情報を本人に対して、周知しておくことが必要です。本人の困り感が強い場合には、学内のしかるべき相談窓口を紹介することで問題解決につながる場合もあります。
  • あわせて、本人の修学における自助スキルを向上させるために、学外のリソースを含めて、支援機関を紹介することが必要となることがあります。また、自助スキルの獲得や向上のための指導に当たっては、その機会を設けるだけでなく、本人がそうすることに対するメリットを自身で感じられることが重要です。その中で、本人自身が自分の認知特性を理解し、それに合った方法を支援者と一緒に探していくプロセスを経ることが有効な場合があります。

執筆者:岡崎 慎治、青木 真純

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