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(1)概要
視覚障害とは、視力や視野等の視機能に障害があり、見ることが不自由又は不可能になっている状態です。視覚障害のある人は眼鏡やコンタクトレンズを使って矯正しても、十分な視力を得られません。
視覚障害は「盲」と「弱視」に分けられます。教育の分野では、この「盲」と「弱視」を、学習に使う手段によって分けています。
- 「盲」
- 視覚による情報を全く得られない、又はほとんど得られない人たちです。ただし、全く見えない人はわずかで、明暗が分かる人、色が分かる人、ぼんやりと形が分かる人等、見え方は様々です。学習には、触覚や聴覚等、視覚以外の手段を使います。文字は点字を使用します。
図は、触って理解する図(触図)にしたり、模型を使ったりして理解します。パソコンを使用する際には画面読み上げソフトや点字ディスプレイを利用します。 - 「弱視」
- 眼鏡等で矯正しても視力の低い状態ですが、保有する視力を活用しながら生活しています。見え方は、ぼやけ・視野狭窄・中心暗点・まぶしさ等、人によって様々です。当然、学習にも、保有する視力を活用します。文字は通常の文字(墨字)を使いますが、拡大したり、弱視レンズや拡大読書器等の視覚補助具、タブレット端末を使ったりして、読み書きを行ないます。パソコンやタブレット端末を利用する際もその画面上で文字等を拡大することが通常です。
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PCに点字ディスプレイを接続しイヤホンで画面読み上げソフトも併用して読み書きしている様子(筑波大学) |
在学中に病気やけがにより、急激に視力が低下したり、失明したりすることもあります。いわゆる、人生の途中で目が不自由になった「中途視覚障害」です。
視力が落ちて間もない場合は、墨字を使うことも難しく、けれども点字もまだ身に付けられていないという、自力で読み書きのできる文字を持っていないこともあります。このようなときは、パソコンの画面読み上げソフトを利用して読み書きを行ないます。中途視覚障害の学生の場合、見えない・見えにくい状態で日常生活・社会生活を行なう機能訓練のために休学してリハビリテーションを受けることもあります。
(2)修学において起こりがちな困難さの例(制限・制約)
視覚障害学生は、視覚的に表現された情報の入手が制限されます。この情報には例えば、以下のようなものが含まれます。
視覚的な情報、特に文字情報
- 教科書、資料、コンピューター画面等
- ビデオ・字幕(特に、外国語のビデオの日本語字幕が見えないのは困ります)
環境把握と移動に関する情報
- 通学路等の情報
- 相手の表情を基にしたコミュニケーション
(3)合理的配慮の例
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拡大読書器を使って本を読む(筑波大学)
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視覚障害学生への合理的配慮は、視覚障害の状態、使用文字、PCや支援機器・補助具の使用スキルの程度、学ぶ分野によっても、一人一人大きく異なります。以下に代表的なものを挙げました。
試験時(入試を含む)
盲学生
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点字携帯端末(筑波大学) |
- 点字出題
- 点字解答
- 点字盤・点字タイプライター、レーズライター(表面作図器)等の持ち込み許可
- 時間延長(センター試験では1.5倍)
(どうしても点字出題・点字解答が難しい場合) - [出題]テキストデータで問題を作成し、出題します。(学生はPCと画面読み上げソフトや点字ディスプレイ、又は点字携帯端末を使用して、問題を読みます)
- [出題](問題文が短い場合)監督者が問題を読み上げ、学生が点字で書き取ります。
- [解答]PCを用いて答案を作成し、データで提出します。(かな漢字変換ミスの可能性は残ります。)
- [解答]点字で作成した答案を学生自身が読み上げます。
弱視学生
- 拡大問題冊子の作成
- 解答用紙の拡大
- マークシートに代えて文字解答(解答用紙の問題番号に丸を付けて解答する方法です。試験終了後、出題側が通常のマークシートに転記します。)
- 視覚補助具、マーカー等の持ち込み許可
- 座席位置の指定
- 個別照明の持ち込み許可
- 時間延長(センター試験では1.3倍)
盲学生、弱視学生(共通)
- 広めの机の準備
- 別室受験
- 同伴者の許可と必要に応じて待機場所の確保(入試)
- 試験場最寄り駅やバス停から試験場内の案内(入試)
- 問題の訂正等で板書をする際には、視覚障害のある受験生が確実に確認できる方法で情報提供をする必要があります。
授業
- 視覚補助具・点字盤・点字携帯端末・タブレット端末・PC等の持ち込み許可
- 資料のデータでの配布
- 拡大資料の準備(弱視)
- 授業中に提出するコメントカード等のメール提出の許可
- 座席位置の配慮
- PC端末の配慮
- 画面読み上げソフト/ 画面拡大ソフトをインストール
モニターに目を近づけられるように、置く位置を変更(またはモニターアームの利用)(弱視)
- 板書の撮影許可、録音許可
- 図は、代わりに模型を用意したり、触図を作成したりします。(盲)
その他
- 授業で必ず使用する教科書の点訳は大学等の責任において行ないます。(点訳は専門点訳組織等に依頼します。)
- 教科書の書誌情報や使う順番は早めに情報提供します。(点訳には時間がかかるため)
- 授業開始前に、よく使う建物や教室を中心に学生と一緒に歩いて、オリエンテーションを行ないます。
- 通学ルート等については、出身の高等学校等又は視覚障害のリハビリセンター等に相談し、自立活動の教諭又は歩行訓練士による歩行訓練を行なってもらうとよいでしょう。
- よく使う教室やトイレへの点字又は拡大文字によるサイン貼り付け
- 宿舎の配慮(個別トイレ、風呂、台所のある部屋の割当て)
- 視覚障害学生が使える部屋(点字プリンタ、拡大読書器等を配置)やロッカーの配備
- 視覚障害学生が使える部屋(点字プリンタ、拡大読書器等支援機器を配置)やロッカーの配備
- 図書館と連携しての資料のテキストデータの提供(出版社に問い合わせて取り寄せる方法もあります。)
- 学生生活にとって重要な情報(休講や教室変更等)の掲示の伝達(直接本人に伝えます。)
- 支援者・支援学生の養成・コーディネート
校内の動線に点字ブロックを敷設(筑波大学) |
支援者は、下記の支援を行います。
- 1.資料のテキストデータ化
- 2.書類等の代筆
- 3.レポート等のレイアウト校正
- 4.対面朗読
専門的な図表を読んだり作成したりする場合等は、同じ分野の先輩学生・大学院生に支援学生となってもらうとよいでしょう。
なお大学図書館は、著作権者に許諾を得ることなく、著作権法第37条3項における「視覚障害者等のための複製等(点訳、音訳、拡大写本、電子データ化)」を行なう事ができます。加えて、内閣府 第25回障害者政策委員会にて文化庁著作権課は委員長からの質問に答える形で「障害学生支援室といった組織を「大学図書館及びこれに類する施設」に該当すると解釈できるのではないかと考えている」と述べています。
また、学習資料のデータでの配付や、教科書のテキストデータ提供は、SLD(発達性ディスレクシア)の学生や、上肢に障害があってページめくりが難しい学生にも有用です。
(4)指導方法の例(盲・弱視共通)
- 指示語「あれ、それ、ここ等」を使わず、具体的に伝えます。
- 黒板やホワイトボードを用いた授業の際は、板書をしながら読み上げます。プロジェクタに映したスライドの内容も、具体的な言葉で説明します。
- 少人数で行なうゼミ形式の授業の場合、全員が最初に名乗って、その場に誰がいるかを確認します。また、話者は自分の名前を名乗ってから話を始めます。
- 板書で使うチョークの色は弱視学生の見え方に配慮し、色の識別の困難な学生がいる場合、強調には色以外の囲みや下線等を活用します。
- 字幕付きビデオを使用する際には、貸し出して個別の視聴を認めます。字幕を読む支援者を配置することも検討します。
- 特に体育や実験・実習では、個別の支援者(TA)を配置するとよいでしょう。
- コンピューターを用いた授業では、特定のソフトのみではなく、同じ機能があり音声ソフトで使用可能な別のソフトの使用を認めます。
執筆者:小林 秀之・森 まゆ
リンク
- 視覚障害・盲
- 視覚障害・弱視
- 全国高等学校長協会入試点訳事業部(入試点訳、定期試験等の点訳)
- 外部サイトになります。
コラム がんサバイバーの学生への対応
視覚障害の原因となる疾患の一つに、「網膜芽細胞腫」という病気があります。これは、眼球の内側の「網膜」にできるがんです。症例の95%が5歳までに診断される小児がんの一種で、15,000人~20,000人に一人の割合で発症する病気です。片眼にできる場合と、両眼にできる場合があります。
大学生の段階では、視覚障害の原因となった網膜芽細胞腫の治療は既に終えていますが、抗がん剤等の治療の影響による晩期合併症や、二次がんが発症することがあります。二次がんとは、抗がん剤や放射線治療等の影響で、治療を終えた数年から数十年後に発症する、別の種類のがんのことです。この病気は、かつては眼球を摘出しての治療が多かったのですが、現在は眼球を温存して治療できることも多くなりました。眼球を温存した場合はその分、二次がんのリスクも残っています。二次がんを発症した場合、年単位で休学して治療したり、治療が一段落しても、化学治療・放射線治療の副作用や合併症で体調を崩したりする場合もあります。
このようなときは、視覚障害学生としての配慮はもちろんですが、更に、休学による学習空白への配慮、通院に伴う欠席への理解と配慮、体調不良への対応・支援が求められます。
執筆者:小林 秀之、森 まゆ