聴覚障害

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(1)概要

聴覚障害は、音を聞く、感じる経路に何らかの障害があって、話し言葉や周囲の音が聞こえなかったり、聞きづらくなったりする状態を指します。
障害の程度は様々で、固有名詞や専門用語を聞き間違える程度の状態から、補聴器や人工内耳を利用すれば、言葉の聞き取りが可能な状態、聴覚ではなく手話や文字などの視覚的な手段を必要としている状態まで多様です。また、単に音が小さく聞こえるだけでなく、ひずんだり途切れたりすることも多く、補聴器等で音を増幅しても、必ずしも明瞭に聞こえるわけではない点で注意が必要です。
一方、聴力レベルの低下は見られなくても、音は聞こえているのに言葉として理解できなかったり、周囲に雑音があると内容がつかめなくなったりする学生もいます。これらは、聴覚情報処理障害(APD)と呼ばれ、中枢系の障害が関与していると言われています。

  • 「きく」という表現には「聞く(音が耳に入ってくる)」「聴く(集中して耳を傾ける)」など、いくつかの漢字が用いられます。ここでは、こうした複数の意味合いを込めて「きく」という表現を用いています。

(2)修学において起こりがちな困難さの例(制限・制約)

  • 授業中、教員や学生が話している内容がつかめなかったり、きき間違いやきき漏らしが生じたりします。
  • 試験や課題・予定変更等、音声で伝えられる連絡事項や指示、説明が理解できず、状況に応じた対応が取れないことがあります。
  • 特に、ゼミやグループディスカッション等、集団での会話は、発言者の特定や内容のきき取りが難しく、議論への参加・発言に困難を抱えることが多いです。
  • 非常ベルやアラーム、緊急時の館内放送等がきこえなかったり、電話や音声による即時的なやりとりに困難があったりするなど、緊急時に情報バリアが生じやすいです。
  • 場面や音質・話し方等によって、きこえやすい時と、きこえにくい時があるため、障害の状態が周囲の人々に理解されにくく、また、本人もどのように伝えてよいか分からないことが多いです。
  • ちょっとした情報が耳に入らず、自分でもきき逃しに気付けないことがあるため、「分かったつもり」で行動してしまったり、状況によっては「わがまま」「空気が読めない」などと見られたりしてしまいます。
  • コミュニケーションの不自由さや経験不足、又それを補うための教育支援の不足から、周囲の人にうまく自分の状況を伝えたり、関係性を築いたりしていくことが苦手になりがちです。
  • 高校までの教育段階で支援を活用できる環境になかった学生も多いため、学生によっては、自分自身のニーズに気付いていなかったり、意思表明が困難だったりする場合があります。
  • 聴覚障害があると日本語の習得に大変な困難を生じるため、学生によっては、助詞や語の用法に不自然さがみられたり、言葉の概念がずれたりすることがあります。
  • 学生によって情報リテラシーの習得度にばらつきがあるため、たくさんの情報の中から要点をつかんで理解していくことが難しかったり、網羅的な学習になったりしがちです。
  • APDのある学生の場合、聴覚的記憶の苦手さから、一度に2つ以上の指示が理解できないことがあります。

(3)合理的配慮の例

試験時(入試を含む)

  • 注意事項の板書・文書による伝達
  • 情報保障者の配置(ノートテイク、パソコンノートテイク、手話通訳等)
  • 補聴援助システムの利用(ノイズ軽減イヤホン等を含む)
  • リスニング等、聴覚を用いる試験に対する代替措置
  • 座席位置の配慮

授業

  • 情報保障者の配置(ノートテイク、パソコンノートテイク、手話通訳等)
  • 補聴援助システムの利用(ノイズ軽減イヤホン等を含む)
  • 資料の事前配付
  • 授業内容の録音許可
  • 座席位置の配慮
  • 視聴覚教材への字幕挿入
  • リスニング等、聴覚を用いる授業に対する代替措置

その他

光警報機(筑波大学)

  • 非常用呼出装置の設置(光警報器、非常用文字情報受信機器等)
  • 緊急時連絡体制の確保
  • 支援者の養成・コーディネート
  • コミュニケーション環境の確保
  • 学習支援のためのチューター配置
  • 学外実習、インターンシップ、就職活動等に向けた特別指導

(4)指導方法の例

  • 学生のコミュニケーション状況に合わせて、口の動きが見える状態で、大きな声でゆっくりはっきり話します。情報保障者が配置されている場合には、情報保障を通して話の内容が伝わるようにゆっくりした速度ではっきりと話します。
  • スライドや話の変わり目で一呼吸置いて、学生の様子を確認します。
  • 重要な内容やキーワードは、紙やホワイトボード等に書いて伝えます。
  • 話をした後は、学生に復唱を促す、ノートテイクのノートを確認するなどして、どの程度の情報が伝わっているかを把握し、不足があれば補足資料や個別指導等で補います。
  • 集団での討議場面では、情報保障の伝達速度に気を配りながら、一人ずつ手を挙げ、名前を言ってから発言します。
  • 補聴援助システム等を利用している場合は、発言者にマイクをまわしたり、マイクを持っている人が発言を復唱したりするなど、音声が確実に届くように配慮します。
  • 授業資料はできるだけ事前に配付し、本人や情報保障者が事前に内容を把握できるよう配慮します。

情報保障の様子(筑波大学)


執筆者:白澤 麻弓

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コラム 吃音のある学生への対応

吃音は、繰り返し・引き伸ばし・ブロック(難発)を中核症状とした発話非流暢性障害です。通常2~5歳くらいに発症し、約70%の者は自然治癒しますが、慢性化した吃音は年齢とともに悪化しやすいことが知られています。特に就学後は大勢の前で話す機会が増え、周りの反応によっては、つっかえて話すことに罪悪感を感じたり、不安や恐怖心を持つようになることもあり、発吃初期の頃に比べると、心理面での困難さはより進んだ状態になるとも言われています。一方、これらの問題は、適切な支援や配慮により予防、改善されることも報告されています。

大学等の授業では、吃音のある学生が受講する場合は出席の返事の仕方、指名して当てること、プレゼンテーションの仕方について、あらかじめ本人と話し合っておくことがまずは必須ではないかと考えます。しかし、現状では支援を受けられると思っている学生が少ない印象があります。また、いくつかの調査で、吃音のある者が望む支援の在り方については、個人差が大きいことも分かっています。授業時に「当てないでほしい」と望む者、「みんなと同じように当ててほしい」と望む者、様々です。ステレオタイプに行なわれる配慮は、本人にとって必要でない場合もあるようです。

飯村(2016)は高等教育機関への在籍経験のある吃音者を対象とした調査で、「吃音者が困難を抱える場面は、入学、授業、対人関係、就職活動など、幅広い場面に及ぶことが示され、その背景には、面接、発表、音読など、心理的負荷の高い状況で発話を行なう場面に集中していることが分かった」と報告しています。また、この調査で得られた自由記述式回答からは、多くの者が吃音への理解を求めていることが分かっています。吃音を専門とするゼミには、自身に吃音のある大学生が集まって来ます。吃音がある学生、ない学生にかかわらず、相手の話を最後まで十分に聞いてから発言する、というルールが全体的に守られることで、学生間のコミュニケーションが円滑になるのではないかと考え、指導するようにしています。吃音があるために議論に入るのを躊躇している学生も、段々と参加できるようになります。

もちろん、こういったことも十分に議論されて行なわれるべきだと考えます。他の障害に比べると特に高等教育段階での吃音のある学生へ配慮については実践が少なく、発展途上の段階ですが、ニーズの高まりに応じ、今後は実践される大学等が増えると予想しています。

引用文献:飯村大智(2016)高等教育機関における吃音者の困難と合理的配慮について.聴覚言語障害,45(2),P67-78


執筆者:宮本 昌子