精神障害 学習支援

履修登録

履修登録で支援が必要な場合

精神障害のある学生が、新学期の履修登録についての支援を必要とする例として、前学期まで半年間以上にわたり休学してから、復学する場合があります。主治医から復学許可が出た場合でも、ある程度の時間をかけて段階的なリハビリテーションを進めることが大切です。
留年や休学をしていた学生は、学内でつきあいのあった友人や知人が少なくなるか、いなくなってしまうため、通常なら他の学生から得られるであろう、履修や課題、試験に関する情報が得にくくなります。
さらに、病状が不安定になることが懸念される学生の場合、学期を通じて体調を維持することが大きな課題となります。具体的な支援を検討する上で、まずはゆとりある履修計画となるようサポートすることが重要です。実践的な教務関連の情報を把握している学部教育担当教員などと連携することも大切です。

履修登録時の支援例

うつ病と診断されていったん通院した後、治療を中断した学生の例です。学生本人は、体調はよくないけれど休学するほどうつ症状がひどい訳ではないと考えて支援は希望していませんでした。通院した経験から服薬に抵抗があり、主治医との面談も途切れがちでした。学期始めの履修登録は意欲をもって行ないましたが、ほどなく不調を自覚するようになり、講義は欠席がちとなり、試験やレポートをこなすのも困難となりました。単位不足のため留年を繰り返すのを心配した保護者が学生相談室に来談しました。カウンセラーは、それまでの経過を把握した上で、電話での相談を保護者を介して本人に提案しました。その相談が実際に実施されると、学生は、修学支援を希望しました。
学生は、新学期を迎えるにあたり、履修相談を余裕をもってその前月から受けました。カウンセリングに通うようになって、体調の維持には定期的な通院が有効だと考え、主治医に支援を受けるための診断書を書いてもらいました。履修科目を選ぶにあたり、興味や意欲を優先しながら、出席や試験の評価方法や欠席時の配慮も考慮し、不明な点があればシラバスを確認してから教員に照会しました。

シラバスへの具体的な記載と疑問点への対応

学生はシラバスの情報を読んだ上で履修科目を決めるので、支援のための履修相談を行なう段階で、授業目標、授業内容、授業形式、評価の基準・方法などをシラバス上で明確に理解しておくことが望ましいと考えられます。シラバスに網羅されていない点で疑問を見つけた場合は、担当教員のオフィスアワーやメール相談を介して情報が得られるような学生との対応方法が用意されていると良いでしょう。
また、必修科目を履修する場合は学生にとって選択の幅が狭いこともあり、支援の内容について指導教員と相談する機会を持つことが有用です。具体的には、優先的な履修登録を許可する、指名をしない、発表をレポートに代替するなどの支援が考えられます。こうした支援では、学生が教員に内容について打診する機会が必要となるため、履修科目決定前の支援内容に関するアンケートや個別支援会議などで検討すると良いでしょう。

継続的な確認、ピア・サポート等の体制作り

支援開始後、履修に関する相談は、各学期に行なわれます。講義や実習が継続する学期の期間中、一定の体調を維持する必要がありますので、日々の健康管理が重要な課題となります。
学期の始めは意欲的に履修科目を多めに選ぶ学生がいますが、その後に体調が不安定になることも考えられますので、無理のない履修計画を立てることが大切です。学部教育担当の教員、教務担当職員だけでなく、ピア・サポートのメンバー、チューターなども必要に応じて相談を手伝います。

講義・演習

講義形式の授業における困難と支援

(1)欠席・遅刻が多い
気分障害、特にうつ症状のために朝方の不調が目立つ場合や夜間の睡眠障害が持続していると、午前中の授業に出席することがしばしば困難となります。また、通院中に治療薬の効果が安定するまでの期間や処方が変更された直後など、睡眠のリズムや体調が不安定になって寝起きに影響することがあります。このような時期は、欠席や遅刻の回数について猶予が必要と考えられるでしょう。

(2)ノートテイカー
統合失調症や気分障害のうつ状態が継続する場合は、集中力の低下や思考力の抑制をきたすことがあり、授業に出席しても通常のテンポで内容を理解し、ノートをとることが難しくなる場合があります。また、上記の疾患に限らず不安症状を伴う病態では、教室に学生が多数いる時や指名されて発言しなくてはならない状況や選べない座席で緊張を余儀なくされる場合などに、教室内で落ち着かない気分になったり、手指が震えたり、息苦しさや動悸を感じたりといった症状を呈し、授業に集中することが難しくなります。このような場合に、ノートテイカーの支援が要望されることも考えられます。

(3)情報保障
欠席や遅刻を繰り返すと、配付資料や試験・レポートなどに関する情報を入手することが難しくなります。そのような場合は、レジュメやハンドアウトの配付を支援内容に含めたり、障害学生支援室や教務課から授業で教員が伝達した試験やレポートに関する情報を集約して学生にメールで伝達したりすれば、評価に関わる情報内容を確実に伝達することができます。

演習形式の授業における困難と支援

不安障害などのある学生は、人前で発表したり議論をしたりすることにしばしば困難を感じます。薬物治療を併用することで多くの場合は日常生活が可能ですが、発表などで緊張が高まると、過呼吸、動悸、冷汗、手のしびれ、めまい、声がれ、意識が遠のく感じ等が現れることがあります。予防のために、事前に治療薬を服用することが推奨されますが、症状が出た場合に休養することができる空間(保健センターなど)を確保しておくと安心です。発表や試験など、人前での行動に困難があれば、支援としては、単独での発表やレポートで代替をする方法が考えられます。
気分障害のうち、躁状態では、多弁や多動が目立ち、一方的で周囲の存在を考慮しない発言が多くなるため、集団でのコミュニケーションや行動に支障が生じがちです。周囲の学生などがその変化に気づいたとしても、実際の対応が困難なこともあります。状況を理解している教員からの体調確認等の声かけや、環境からの刺激の軽減、学内外の専門家との連携、家族への連絡など、適宜対応する必要があるでしょう。

実験・実習

実験の授業における困難と支援

症状により、あるいは服薬している薬の影響により、注意力や集中力が低下する場合がありますので、危険物質や有害な薬品などを取り扱う場合は、指導にあたる教員だけでなく、実験のパートナーやティーチングアシスタントに事情を説明した上で、可能な範囲で協力してもらうことが必要になります。とくに専門課程のコアカリキュラムに相当する科目などは合理的配慮の範囲を検討することも重要です。病状によってはひとまず無理な履修をすることは見合わせ、体調が回復してから再履修するという方針をとる場合があります。

学外実習や対人の実習における困難と支援

専攻する学部や学科のカリキュラムによって海洋実習、介護実習、保育実習、教育実習、臨床実習などが卒業要件となることがあります。支援に関わる事情を理解している学内の担当教員だけでなく、実習先の機関で学外の担当者の協力を必要に応じて得ながら、学生の健康や安全ならびに教育効果に配慮すると良いでしょう。
実習中は、学生にとって特別な意味をもった期間であり、緊張や不安を感じやすくなっても不思議はありません。その傾向があれば事前に主治医に伝え、頓服薬を処方してもらうのも良い対策方法といえます。躁状態の傾向があって実習中に逸脱した言動や何らかのトラブルが生じることが懸念されるようであれば、主治医にも情報を伝えて判断を仰ぎ、実験や実習の可否は慎重に検討すべきです。

情報の開示範囲についての方針

実習前に、担当の教員が学生と相談する機会をもち、学生の考えを確認することが大切です。実習に参加するかどうか、参加するのであればどのような局面で支援が必要と考えているか、実習先の外部機関に何らかの配慮を依頼するかを話し合うことが適切です。教育や医療に関わる現場での実習では、学生が園児、生徒、学生、患者などの注目にさらされます。実習に参加するにあたり、現場の責任者に事情を説明した上で、支援を要する可能性があることを伝えておくべき場合があります。同行する学生たちに、障害名等を開示しておきたいという気持ちがあるかどうか、本人と相談しておく必要があります。

病状の多様性と変化可能性を考慮した支援変更の必要性

大学としての支援は、障害学生支援室や障害学生支援委員会に支援を申請して、支援内容が決定されることから始まります。
精神障害のある学生で、数週間や数カ月間の間に病状が変化して、それに伴い支援のニーズが変わることもあるため、学期中に定期的な面談を行なうなどして、支援内容の変更(追加や一部中止を含む)を検討すると良いでしょう。支援内容が合理的であるためには、学生自身が病状を理解した上で支援を要望し、さらに教職員がその学生とコミュニケーションをとり、病状の変化に留意しながら、適切な支援内容を調整することが重要です。

成績評価における配慮

試験における配慮

高校やセンター試験・入学試験で配慮を受けた経験がある学生には、その時の状況について学生本人や出身高校に説明してもらうと参考になります。診断された時期が大学入学後なら、大学が状況を見ながら支援内容を決定することになります。
不安障害などのために通常の教室における試験を受けることが難しい場合は、教室は変えないとしても座席指定(トイレに近い、または退室しやすい席)をしたり、別室での試験に代替したりする対応が考えられます。うつ病や統合失調症があるため集中力が低下し、または周囲の声や物音に対する感覚過敏がある場合は、室内の人声や物音が少ない別室での試験は適切な代替方法と考えられます。いずれにしても、個別に検討する過程が必要です。学内の専門家の意見を参考にするほか、具体的な支援について主治医に照会するのも一つの方法です。

追試験の対応

試験の直前に症状が悪化したり、本来の試験当日になんらかの理由で試験が受けられなかった場合に、学生が追試験の受験を希望する場合があります。病状により試験が受けられなかったことについて診断書を提出してもらった上で、追試でも別室受験としたり、レポート課題に変更したりする方法が考えられます。

評価方法の公開

各授業でどのように評価が行なわれるかという基準は、多くの学生が履修科目を選択するにあたって、判断の材料とする重要な情報です。精神障害のある学生は、同級生や部活動の友人と疎遠になったり、休学などにより学年がずれて知人が減ったりするため、評価に関わる情報を十分に得ることに困難があります。したがって、授業の目標や内容、さらに評価方法や評価基準がシラバスに明記されることが大変役立ちます。

評価における留意点

成績評価においては、その授業で設定されている「学ぶべきもの」を学生が修得したかどうかが重要になります。もともと決められていた評価方法によっては、障害がある学生の到達度を判定することが難しい場合もあるため、授業において学生が獲得した能力をなんらかの方法で表現できるように工夫して評価することが大切です。

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