発達障害 履修登録

履修登録の仕方の理解に関する困難

入学後に発達障害のある学生が最初につまずく可能性の高い場面として、授業の履修登録が挙げられます。大学では自分が履修する授業を自ら決定して登録していくことになりますが、その際には必修科目、選択科目、選択必修科目別に単位数の上限を考えながら受講する授業を選択していくという作業を行なわなければなりません。発達障害のある学生の中には、こうした規則をうまく理解できないまま履修登録を行なってしまい、後になって必修単位の不足などの問題が生じる場合があります。例えば、自分の専攻に関係のない専門の科目ばかりを履修してしまう、単位数の上限を超えて履修してしまう、講義(2単位)と実習(1単位)の単位数の違いがわからず誤った計算をしてしまうといった困難を示す場合があります。特に、必修科目と選択科目の違いが理解できず、単位数は満たしているのに卒業・進級要件を満たせないといった問題も見受けられます。さらに、発達障害のある学生の履修登録上の特徴として、空き時間を作らずに授業時間割をきっちりと埋めてしまうという傾向があります。このような無理な時間割を組んでしまうと、授業が始まるとすぐに気力・体力とも限界に達してしまい、結果的に授業に出られなくなってしまう場合があります。
また、これは学部・専攻の選択や就労においても見られる問題ですが、発達障害のある学生の中には、自分自身が抱えている困難さや苦手さを克服しようとして、あえて自分の苦手とする内容の授業を選ぼうとする場合があります。例えば、人前に出るのが苦手なのにプレゼンの多い授業を選んだり、コミュニケーションが苦手なのにディスカッションの多い授業を選ぶなどがそれに該当します。こうした授業選択をした学生の多くは、授業開始後に極めて高いストレスにさらされることになり、その結果、当該の授業を落としてしまうだけでなく、他の授業にも悪影響が出てしまい大学生活全体が困難なものとなってしまうことがあります。さらに、こうした失敗経験がますます本人の自尊心を傷つけ、追い込むことにもなってしまいます。

履修登録時の支援例

しかしながら、入学時点で本人に発達障害があることがわかっている場合には、事前に対策をとることでこうした問題を防ぐことができます。例えば、履修登録では、必修科目などの優先度の高い授業を割り当ててから、次に本人の興味関心や意向を確認しつつ、選択必修科目や選択科目を順次割り当てていくといった対応が考えられます。さらに科目の性質上、前期の単位を履修しておくことが後期の受講要件となっているような授業については、履修時期も考慮に入れていかなくてはなりません。また、授業時間割をきっちりと埋めてしまうような学生に対しては、余裕をもった時間割を組むようにアドバイスをするなどの対応が必要となるでしょう。中には生活リズムが崩れやすく1時間目からの授業を受けることが難しい学生もいます。そうした場合には、2時間目や午後から始まる授業を中心に時間割を組むようにアドバイスをすることも有効でしょう。さらに、自分が苦手とする分野をあえて選ぼうとする学生に対しては、その気持ちを十分にくみ取りながらも、困難さや苦手さに立ち向かって克服しようとするのではなく、そうした状況を回避して自分が得意とする分野や他の学生と同等にできるような分野を選んで自分自身が成功体験を抱けるような方向に導いていく対応が求められます。

ある大学では、障害学生を支援する担当職員やピア・サポーターが本人と面接し、履修登録について本人の希望と必修科目とのバランスをとりながら、適切な履修登録が行なわれるように支援しています。また、別の大学では本人だけでなく保護者にも履修登録について説明を行ない、自宅では保護者と一緒に作業を進めてもらうようにしています。もちろん、この場合にも履修登録をする直前に、職員やピア・サポーターといった履修登録に詳しい担当者がチェックを行なう必要はあるでしょう。
このうち、ピア・サポーターによる支援については、教職員からは聞くことができない「学生の生の声」を伝えることができる、という利点が挙げられます。教員も人間である以上、学生の方も相性が合いにくいと感じる場合もあるかもしれません。そのため、発達障害のある学生の方も、ピア・サポーターからそれぞれの担当教員の「人となり」や「授業の雰囲気」を聞くことで、授業を選択する際の参考とすることができます。例えば、ASDのある学生の中には、授業中の学生の私語を苦痛に感じている学生もいます。そうした学生の場合には、厳しく私語を注意してくれる教員の授業の方が向いているかもしれません。逆に、不安を感じやすい学生の場合には、それほど緊張感の高くない授業を選択した方が良いかもしれません。こうした判断を行なうためにも、ピア・サポーターからいろいろな話を聞いて参考にすることは大切なことといえます。ただし、こうした情報を提供するためにはピア・サポーター自身が支援対象となる発達障害のある学生と同じ学部・専攻の先輩である必要がありますので、大学側も広くピア・サポーターを募集する必要があります。
なお、ピア・サポーターに対しては、シラバスやカリキュラムに関して誤った教務情報を発達障害のある学生に伝えることがないように、十分な事前指導を行なっておく必要があります。そのためには、発達障害のある学生の支援を行なう部署と教務関係の部署が密接に連携しておかなくてはなりません。 

シラバスへの具体的な記載

履修登録においては、授業目標や授業内容だけでなく、どのような形式で授業を行ない(授業形態)、どのように成績評価を行なうのか(評価基準・評価方法)も大きな判断材料となってきます。発達障害のある学生の中にはグループ討議やプレゼン等の演習形式の授業を苦手とする学生がいるので、そうした学生にとっては必修以外の授業では可能な限り演習形式の授業を回避した方が良い場合もあります。しかしながら、シラバスに書かれている授業形式の記述が不明確な場合、履修登録の段階で学生の方が情報不足から判断に困ることも予想されます。こうした問題を回避するためにも、教員側はシラバスの記載内容について、授業形式や評価方法・評価基準を可能な限り具体的に記述しておく必要があります。特に書字に困難のある学生の場合、試験のみで評価される授業は十分に実力を発揮できない可能性もあります。そのような場合には、レポートで評価をするような授業を選択するという方法もあるでしょう。そうした選択を可能とするためにも、教員側がシラバスの記載内容を具体化・明確化していくことが望まれます。

継続的な確認、ピア・サポート等のシステム作り

なお、履修登録は入学時だけでなく、入学後も学年・学期・セメスターごとに継続して支援していかなければなりません。支援する側も、一度でも履修登録がうまくいくと「もう大丈夫だろう」とか「同じようにやってくれるだろう」と考えて、支援の質や量が低下してしまう場合があります。こうした問題を回避するためにも、支援担当の教職員は継続的に本人と面談し、不都合が生じていないか確認する必要があります。もちろん、本人が一人でできる内容を確認しつつ、支援内容を減らして本人の自立を促していくことも教育的に大切なことです。しかしながら、あまりに性急に支援内容を削減しすぎないように注意しなければなりません。
大学によっては授業に履修制限があるために、本人の希望する授業が履修できないという問題が生じることがあります。海外では障害学生に対して優先的に履修登録を認めるという制度があるようです。日本においても今後検討すべき課題といえるでしょう。
また、発達障害のある学生の中には友人ができにくい者もいるので、ピア・サポーターが演習(ゼミ)選択や2年、3年次以降配当の授業選択においても積極的に情報提供を行なうなどの支援を継続していくことが望まれます。なお、ピア・サポーター制度については、ピア・サポーター自身が過度な負担を背負いすぎていたり、心理的重圧を感じていないか、担当する教職員が定期的に面談をしたり、ピア・サポーターからの相談を随時受け付ける体制を整えておくなどの対応が求められます。こうした問題を予防し、ピア・サポーターが安心して活動を続けられるためにも、ピア・サポーターを対象とした定期的な研修会の実施は必要不可欠なものといえます。

履修登録支援のポイント

  • 入学時点で発達障害のある学生を大学側が把握している場合には、事前に本人や家族と面談し、履修登録方法について説明する。
  • 余裕のある時間割を作るようアドバイスをする。
  • 時間割については必修科目のような優先度の高い授業から先に割り当てていき、その後本人の意向を確認しながら選択必修科目、選択科目と割り当てていく。
  • 苦手さを克服するのではなく、本人の能力が発揮しやすい内容の授業を履修するようにアドバイスをする。
  • シラバスの記載内容(講義・演習形式、評価方法、等)を具体的に書く。
  • 入学時だけでなく、入学後も履修登録ごとに必要な支援を行なう。
  • 履修登録について支援担当教職員やピア・サポーターが適宜支援を行ない、登録内容に誤りがないか確認する。
  • 授業の雰囲気や教員の人柄を知っているピア・サポーターを担当に選ぶ。
  • 担当するピア・サポーターに対してもサポート体制を事前に構築しておく。
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