発達障害 授業

発達障害のある学生が授業場面で感じる困難と必要な支援は、授業の形態によって大きく異なります。どこまで、学生の要望に応えられるかは、根拠資料のレベルによっても異なります。合理的配慮として、授業担当者がやり方や単位認定の方法においてなんらかの変更・調整を行なわなければならないのであれば、根拠資料が必要になります。ただし、変更するのは授業や単位認定の「やり方」の部分であり、その授業で学習目標として設定されている「学ぶべきもの」を変えることはできません。なお、授業担当者に負担とならないような支援、他の学習者に大きな影響を及ぼさないような支援は、根拠資料の有無にかかわらず、学生の要望に応じて柔軟に提供することができます。

授業(講義・演習)

授業(実験・実習)

講義形式の授業における困難と支援

(1)情報を取り入れること
主に講義形式の授業では教科書や資料を読んで理解したり、話を聞いて理解したりと、情報を取り入れることが重要です。情報をうまく取り入れることができない理由には様々な場合があります。
◆文字から情報を読み取ることに困難が大きい場合
文書を音声化する技術の利用が有効です。文書が電子化されれば読み上げソフトが使えます。図書館にある紙媒体の文献資料の場合は対応が難しいですが、論文等であればPDFファイル化されたものを利用することが可能です。音声化するソフトウェア(アプリ)は、無料のものもありますので、支援者が利用法を紹介します。また、インターネットで情報を集めることも多いでしょうから、ウェブページを音声化する機能なども紹介すると良いでしょう。
 

◆聞いて理解することが難しい場合、ノートを取ることが難しい場合
教員の話に注意を向け続けることが困難であるとか、なかなか記憶に残りにくいといった理由が考えられます。また、聞いて理解することができても、聞く作業とノートを取る作業の二つを同時にこなすことが困難な場合があります。このような場合、ノートを取ろうとすると話の内容についていけなくなる可能性が高くなりますので、できるだけ聞いて理解することを優先すべきです。授業担当者が、講義内容についてできるだけ詳しい配付資料を準備すると、話を聞いて理解できることに集中できるようになります。資料を配付すると発達障害のある学生だけでなく、すべての学生にとって学びやすい授業になるでしょう。
授業を録音し、あとで聞き逃した部分を確認できるようにするのも有効です。録音機器の使用は特別な理由がない限りできるだけ許可するようにしてください。また、メモした内容と、メモをしていたときに聞こえていた音声を関連付けられる機能がついたスマートペンもあります。こういった支援技術の利用は、ある程度使い方に慣れないと、効果的な学習につながらないこともあるので、支援担当者は機能の紹介だけでなく、実際に授業でうまく使えているかどうかについて、継続的に相談に乗るようにします。大学としてノートテイクのサービスを提供する制度があれば、その利用を認めてもよいでしょうが、その際はノートテイクの支援が必要となる根拠資料が必要となります。デジタルカメラ等で、板書事項を撮影することを認めることが有効な場合もあります。


(2)受講ルールの確認
講義形式の授業であっても、一般的な暗黙のルールがわかりにくいためにトラブルが生じる場合があります。例えば、一人の学生が個人の関心や疑問について多くの質問を繰り返したら、授業担当教員が予定したとおりに授業が進まなくなるでしょう。活発な議論や意見表明が推奨される場面もありますが、教員が情報伝達を中心に行なわなければならない部分もあります。授業の進行が著しく制限されたり、他の受講生の学習に支障が出たりするような状況であれば、質問の時間や回数に制限を設けることを、直接的に伝えることも必要になります。

演習形式の授業における困難と支援

演習形式の授業は、コミュニケーションが苦手な学生にとって力を発揮しにくい授業形態です。資料をまとめて発表することはできても、自分の考えを述べたり、質問に答えたりといった部分がうまくいかない場合もあります。
発達障害のある学生の場合、「あなたはどう思いますか」といった漠然とした質問だと答えにくいことがあります。「AとBではどちらが良いと思いますか?」「Aの方がBより優れている理由を挙げてください」といった、より具体的な形に質問を置き換えると答えやすくなります。また、議論の流れを無視して自分の関心のあることだけを質問したり、他の受講者が不愉快に感じるような質問をしたりといった傾向がある場合には、議論のルールを定め、それを明確に伝えることが必要です。
外国語の授業で、実際に授業内で会話をすることが必須となっている場合、それがうまくいかない場合もあります。演習で学生がやるべき活動を具体的に指示して、活動に参加しやすくする工夫が必要です。また、eラーニングのように自分のペースで学習を進められる選択肢がある場合には、そちらを選ぶことを勧めるとよいでしょう。

教師を囲んだ少人数の授業イメージ

実験の授業における困難と支援

実験の授業では実験器具や装置の使い方、手順がうまく伝わらないと事故につながることもあります。説明資料に図を多く取り入れるなど、わかりやすくする工夫に加え、実際の作業を開始する前に、注意事項が理解できているかをチェックリスト形式で確認するとよいでしょう。実際の作業では、グループのメンバーに協力を要請し、失敗が起きないよう注意を払ってもらいます。こういった協力の要請は、学生自らが行なえるよう指導します。ティーチングアシスタント(TA)を使える環境があれば、事前にTAに注意すべき点を伝え、必要に応じて補助してもらうようにできれば、より安心です。

学外実習における困難と支援

専攻によっては、学外機関での実習が卒業要件となっている場合もあるでしょう。学生にとっては、慣れない環境でどう振る舞うべきかよくわからないという場面に直面することになります。実習に先立ち、実習場面でやるべきこと、やってはいけないことを他の学生以上に詳しく伝えておきます。重要事項は文書にまとめて渡すとよいでしょう。
実習機関の受け入れ担当者も、学生のことを理解していないと対応に戸惑うことになります。学生の得意不得意の特徴や、想定される失敗や困難などをまとめ、どのような点に配慮すればうまくいく可能性が高まるのかを文書化して事前に伝えます。事前に実習担当または支援担当の教職員が学生と一緒に実習先を訪問しておくことはトラブルの予防に有効です。
実習の種類や、学生の機能障害の状態によっては、実習機関利用者(病院であれば患者、学校であれば子どもなど)への影響も考慮しなければならない場合もあります。実習受け入れ機関とも相談しながら、どのような準備をすれば実習が可能になるか、慎重に検討する必要があるでしょう。

どこまで情報を開示するか学生と相談する

演習や実験について前述したような対応を行なう場合、特別な補助が必要となる場合があることを、他の受講生にも伝えなければなりません。障害に関する情報をどこまで(どの範囲の情報を、どの範囲のスタッフ、学生まで)伝えるかの判断は重要な意思決定になります。学生の意向を尊重しながら、どこまで情報を開示すれば、どこまでの支援が得られるのか、支援なしでやっていける可能性はどの程度あるのかについて、支援者と学生で話し合う必要があります。この過程は、学生にとっても自分の力でどの程度できるのか、どのように支援を求めていくべきかを理解するためのステップとなります。

時間管理スキルの指導

スマートフォンスケジュール管理機能イメージ

あらゆるタイプの授業において、遅刻をしない、課題の提出期限を守るといったことは重要です。単位取得がうまくいかない理由として、遅刻や課題遂行の困難といった問題が見られる場合には、時間管理スキルの指導が必要です。
ビジネス手帳などを活用しながら「やることリスト」を作成し、1週間単位のスケジュール管理ができるように指導します。手帳にメモしても、手帳を見ることを忘れることもあります。計画どおりに行動できるように、携帯電話(スマートフォン)のスケジュール管理機能やアラーム機能を利用するよう指導するとよいでしょう。

時間管理スキルは単位を取るためだけではなく、大学卒業後、社会人となっても重要なスキルとなります。学生のために支援者が計画を立ててあげるということではなく、どのようにしたら現実的な計画が立てられるのか、どのようにしたら立てた計画を遂行できるのか、という点を学生本人と一緒に考えながら指導していくことが重要です。 

授業における支援のポイント

  • 授業の「やり方」は変更できるが、学ぶべきものは変更できない。
  • 障害名ではなく、その学生の苦手なこと、得意なことに応じた支援を考える。
  • 支援技術の利用を指導する。
  • コミュニケーションに関連する困難が大きい場合、周囲に説明し理解を求める。
  • 支援のために情報を開示するかどうかは学生の同意に基づいて行なう。
  • 場面に応じて、具体的にどう振る舞うべきかという点を指導する。
  • 学生自身が自分の得意不得意を説明し、必要な支援を要請できるようになるよう支援する。
関連ページ