発達障害 入学から授業開始まで

窓口の明確化

発達障害に限らず、障害のある学生を大学等が受け入れる際に重要なことは、これらの学生が相談に行く窓口を明確にし、その窓口を学生に周知しておくこと、また、これまでどのような支援の例や支援体制があるのか、どのような過程を経て支援内容や方法を決定しているのかなどを説明できるよう整理しておくことが重要です。これは、合格後の対応としてだけでなく、オープンキャンパスや受験前相談を行なう際にも必要な事項となります。

情報発信と受験前相談

発達障害のある入学希望者にとって、入学後の学生生活がうまくいくかどうかの鍵を握るのは事前の情報収集です。最近の例では、障害学生の支援についてホームページやパンフレット等を冊子として整理している大学などもあります。大学等は、ホームページ上で、見つけやすく、わかりやすい形で必要な情報を提供することが望まれます。必要な情報は多岐にわたりますが、発達障害のある入学希望者にとって、役に立つ情報は、障害のある学生が利用可能な相談窓口や具体的な支援内容、そして志望学部における入学後の授業の様子です。
最低限、以下の内容について、ホームページ等で公開することが重要でしょう。

  • 障害学生受け入れ方針
  • 支援体制と利用手続き
  • 利用可能な支援の種類
  • 相談窓口と連絡先

発達障害のある学生が入学後に経験する困難の中に、入学後にどのような授業があるのかがイメージできないために生じる、自身の得意分野と授業で求められるスキルのミスマッチがあります。例えば、文系だと思って入学した専攻で数学の授業が必修であったり、コミュニケーションに苦手さがあるにもかかわらず、学外実習が必修であることに気づかなかったりといった場合です。このようなミスマッチを減らすためには、ホームページやオープンキャンパスでの学部説明では、卒業までに取らなければならない授業の概要についての説明、特徴的な授業の様子がわかるような説明などの情報提供をすることが重要です。また、提供することが可能な配慮や支援だけでなく、受験を考えている学生に対して大学生活を快適に送るために求められるルールや、卒業に必要な特徴的科目(実験、実習、インターンシップなど)なども説明し、それが自分に向いているのか検討する材料となるような情報の提供も重要であると考えられます。

オープンキャンパスと入学前相談

オープンキャンパスにおいて障害学生支援の担当者が説明会を開くなどの取組を行なっている大学もあります。ホームページやパンフレットなどによる情報提供に加え、学生が授業の様子を実際に体験する機会や、個別に相談する機会があると、ミスマッチは起こりにくくなります。オープンキャンパスで、障害のある受験生向けの相談コーナーを設けたり、オープンキャンパスとは別の機会に障害のある受験生向けの説明会を開催したりすることは、入学希望者にとって大学を知る良い機会になります。また、入試に関する問い合わせについては障害学生支援関係部署が入試課等と連携し、入試時の受験上の配慮等に関する問い合わせに十分答えられるようにします。入学後の支援についての個別相談にも、可能な限り応じるようにすることが重要です。

入学決定後の相談

入学試験の際になんらかの配慮の要望があった受験生については、入学が決定した後で担当部署から本人や保護者に連絡し、修学上の支援について話し合いの機会を入学式までに持つことができます。その際、大学の施設や設備面の状況、相談体制、本人が望む支援の内容等を話し合い、今後どのような支援を大学で行なうのかを決めておくことにより、大学生活にスムーズに移行できるでしょう。場合によっては、在学した高等学校等の教員にも同席してもらうとこれまでの支援について話を聞くことができます。加えて、入学手続きの際に、入学後の配慮や支援希望の有無、希望する配慮や支援の内容などを記入する書類を用意することで、入試において配慮された情報について、部署を超えて情報を共有しやすくなります。
入学試験の際に特に配慮の申し出がない場合でも、大学のオリエンテーションにおいて、口頭及び書面で、大学での障害学生支援について紹介・説明することが必要です。入学手続の書類に、相談窓口を明記し、「障害に対応する」旨のチラシを同封したことにより、チラシを見た保護者から相談が寄せられた事例もあります。相談窓口を明確にした上で、入学者に周知するために多様な取組を行なうことが重要です。
学生に知らせる内容としては、これまで大学でどのような支援を行なった例があるのか、可能な支援の例としてはどのようなものが考えられるのか、などを具体的に示すと、発達障害のある学生にとってもイメージが持ちやすくなります。また、どこまでの支援が可能であるのかについては、前述したことと同様に、本人(必要があれば保護者も同席して)と話し合うことが必要です。このような話し合いの場には、窓口となっている担当者の他、教務担当、学生生活担当、所属学科の教員、教務関係の委員会委員、場合によっては、保健管理センターの職員や学生相談の担当者など、学生が関わる可能性がある教職員が集まることができると支援のネットワークを築きやすくなるでしょう。

入学後の健康診断

健康診断の際に、UPI(大学精神健康調査)などの自己記述式の質問紙を用いて、学生のメンタルヘルスチェックと、その結果から、支援の必要性が疑われる学生の面接を実施している大学もあります。また、UPIに加えて、AQ-J(自閉症スペクトラム指数)などの質問紙を用いたり、独自のチェック項目を設けたりするなど、発達障害を視野に入れた質問紙を利用している場合もあります。
自己記述式の質問紙では、自己認識が困難な学生も一定数みられるため、発達障害か否かを判断することや支援の必要性に対する判断を決定することは困難ですが、自身の困難に気づきのある学生に対しては、面接し、話を聞くきっかけとして利用することが可能です。現状では学生に面接の連絡をしても、すべての学生が保健管理センター等に来談するわけではないのですが、入学後に行なわれる健康診断は、その後の学生生活を支えるための重要な役割を担っているといえます。この他、自身の困難になんらかの気づきのある学生が、気軽に相談に訪れることができる仕組みを構築することが重要です。

支援のコーディネーション

大学等での支援は、実施しながら見直していく必要があります。そのため、障害のある学生や関係の教職員が集まって定期的もしくは必要に応じて話し合いをすることが求められます。窓口となっている担当者がコーディネーターとなって、学内の支援の調整を行なうことが必要です。

入学式イメージ

入学前後の時期における支援のポイント

  • 受験前相談やオープンキャンパスの段階から、配慮や支援の情報、大学生活に求められるルールや修学や卒業後の進路が自分に適しているかを検討できる情報などを提供する。
  • 入学手続きの際に、入学後の配慮や支援希望の有無、希望する配慮や支援の内容などを記入する書類を配付したり、オリエンテーションにおいて、口頭及び書面で、大学での障害学生支援について紹介・説明したりする。
  • 支援内容や方法については、本人を含めた話し合いの場で決め、その後も支援を見直すために、定期的もしくは必要に応じた話し合いの場を設定する。
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