視覚障害 情報環境整備

視覚障害者は「情報障害者」とも言われ、視覚的に示される様々な情報へのアクセスに困難を抱えています。ここでは、視覚障害学生が効率的に情報にアクセスするための具体的な支援内容について述べます。

(1)掲示

掲示は、大学の一般的な伝達手段として使われていますが、数多くの掲示内容から必要なものを選択して読まなければならないため、視覚障害学生が独力で情報を入手することは困難です。

必要な支援・配慮事項

  • できる限りウェブサイトを活用して情報伝達を行なう。
  • 視覚障害学生が確認に行けばいつでも掲示物の内容を教えてもらえる窓口を設置し、そのことを本人に周知しておく。なお、弱視学生には、掲示物を印刷して手渡すことも効果的である。
  • 弱視学生にも見えやすいように、できるだけ目の高さに掲示をする。または、掲示物を事務室等で閲覧できるように配慮する。
  • 特に、当該学生に関わりの深い情報(休講、実習関連の情報等)や、個別連絡のための呼び出し等については、本人宛のEメールなどで直接知らせる。

(2)ウェブアクセシビリティ等

履修申請手続きや成績の閲覧、各種情報の閲覧、課題の提出等、様々な情報のやり取りをオンラインで行なう大学が増えています。一般的なウェブアクセシビリティのルールが適用されていれば、視覚障害学生もそれらのオンライン情報に独力でアクセスすることが可能であるため、大学としてネットワーク上での情報提供システムを構築する際には、ウェブアクセシビリティへの配慮を行なうことが重要です。
例えば、PCの画面音声化ソフト(スクリーンリーダー)でアクセスできるように、写真にはaltタグを付けたり、PDFは透明テキスト付きにしたり、スパムメール防止のための画像認証を用いる場合には必ず代替措置を行なう等の配慮が必要です。
具体的なウェブアクセシビリティのチェック方法や対応については、「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)」や、「JIS X 8341-3:2010 高齢者・障害者等配慮設計指針」を参考にしてください。

(3)視覚障害者支援機器

近年のめざましい情報技術の進歩により、視覚障害学生も、パソコンやタブレットPCを利用して通常の文字の読み書きやインターネットへのアクセス、電子辞書の検索等が独力でできるようになりました。ただし、そのためには通常のパソコンにいくつかの支援機器及びソフトウェアを組み合わせて使用する必要があり、一般の学生用のパソコン端末をそのまま利用することは困難です。そこで大学では、視覚障害学生の効率的な学習を支援するために、以下に紹介するような支援機器とソフトウェアを準備することが必要です。また、パソコンやタブレットPCを有効活用するためには、それらを授業等で利用することへの理解・啓発が必要です。なお、視覚障害学生の中には、支援機器について十分な教育を受けていないために、人的資源やローテクのみに頼るケースがあり、修学・就労に役立つ支援機器の指導が必要な場合もあります。

注意

  • 以下の支援機器類がすべて整っていなければ、視覚障害学生が入学し学習できないというわけではない。
  • 入学後も、視覚障害学生本人や専門家と話し合い、優先順位の高いものから順次整えていくことが望ましい。
  • 各ハードウェアやソフトウェアは1種類ではなく、本人が使い慣れたものが既にある場合も多いため、購入時には本人や専門家と慎重に相談することが不可欠である。
  • 支援機器、ソフトウェアともに日進月歩で改良が進んでいるため、最新の情報については常に専門家のアドバイスを求め、適宜バージョンアップを行なう。

ハードウェア

ア.点字プリンタ

点字プリンタイメージ

教科書や配付資料などの内容を点字で印刷するための装置。点図の印刷ができるものもある。点字使用学生がいる場合は設置必須。機能や印刷速度により価格は異なる。(約100万円から)


イ.点字携帯端末

点字携帯端末イメージ

電子手帳の機能に加え、Word等で作成された通常の文書ファイルの読み込み、漢字・かな混じり文書の作成、インターネット接続、音声ファイルやデジタル録音図書の再生等の機能を搭載した複合機器。点字ディスプレイに加え、音声出力で画面情報を確認できる。パソコンに接続して、点字ディスプレイとして利用することも可能。(約70万円)


ウ.点字ディスプレイ

点字ディスプレイイメージ

パソコンに接続し、画面上の文字をリアルタイムに点字で表示する装置。音声のみの出力に比べ、より正確な情報確認ができるため、画面音声化ソフトと点字ディスプレイを併用するのが一般的。表示できる点字の文字数により価格は異なる。(約30万円から70万円)


エ.立体コピー作成機

立体コピー作成機イメージ

触ってわかる図やグラフを作成するための装置。熱を吸収した部分が盛り上がる専用の紙(カプセルペーパー)に原図をコピーし(またはサインペンなどで直接描き)、装置に通して熱を加えると黒い部分が盛り上がる。理数系の学部では設置必須。(約20万円)


オ.拡大読書器

文字や図などをカメラでとらえ、モニターに拡大表示する装置。弱視学生の個々の見え方に応じて、拡大率、照度、コントラスト等を調整可能。また、カラーのモノクロ化や白黒反転の機能もある。携帯用の読書器もあり、教室や図書館などに持ち込んで、その場で必要な資料を読んだり、遠方の黒板の文字などを手元で読んだりすることができる。拡大率、その他の機能により価格は異なる。(約15万円程度)

据え置き型拡大読書器イメージ

◆据え置き型拡大読書器◆

携帯型拡大読書器イメージ

◆携帯型拡大読書器◆

カ.デジタル録音図書再生機

デジタル録音図書再生機の写真

点字図書館などで借りられる録音図書の再生に用いる。デジタル録音図書の国際標準規格であるDAISY(Digital Accessible Information SYstem)に対応している。また、すべての操作に音声ガイドが付いているため、視覚障害者にとって利用しやすい。ポータブルで、講義やゼミ、フィールドワーク等での録音にも使える。機種によっては、テキストファイルを音声で読み上げられるものもある。(約4万円から)


キ.タブレットPC・スマートフォン

最近は、タブレットPCやスマートフォンをルーペや単眼鏡、拡大読書器として活用するケースが増えている。視覚障害者用に開発された電卓や辞書等のアプリも豊富にある。事前に配付された授業用の資料のPDFファイルを閲覧したり、時間を要するためにどうしても書き取れない板書を撮影して自宅学習に活かしたりすること等で、学習の効率を他の学生に近づけることに役立つ。

ク.ドキュメントスキャナ

最近は、一般向けに発売された安価で高性能なスキャナを用いて活字文章を電子化し、画面音声化ソフトで文章を読み上げたり、ファイル整理をすることが可能になった。スキャナとOCRソフトを使って紙媒体の活字を電子化(テキストデータ化)することにより、書籍等へのアクセスが可能になるだけでなく、資料整理等も容易になる。

ソフトウェア

ア.自動点訳ソフト

パソコンで作成された漢字・かな混じりの文書ファイルを自動的に点字データに変換するソフト。点字データは、点字プリンタで出力する。変換の精度が高く、手軽に点訳できることから、多くの大学で用いられている。ただし、誤変換があったり、レイアウト処理が不十分な場合もあるため、校正が必要である。特に、試験問題のように正確さや読みやすさが求められる際には、その分野の専門家及び専門点訳者による校正が不可欠である。(約8万円)

イ.OCRソフト

紙に印刷された文書をスキャナでパソコンに画像として取り込み、文字認識をしてテキストデータを作成するソフト。印刷品質や内容、レイアウト等により文字認識の精度は異なるため、テキストデータと原本を見比べながらの校正作業が必要。OCRソフトには、視覚障害者の操作性を考慮した専用のソフトもある。(約3万円、視覚障害者専用ソフトは約10万円)

ウ.画面音声化ソフト

パソコンの画面上の情報を、合成音声で読み上げたり、点字ディスプレイで表示するために必要なソフト。「スクリーンリーダー」、「画面読み上げソフト」とも呼ばれる。機能により価格は異なる。なお、オ.「その他」に記載のソフトウェアとあわせて購入を検討する必要がある。(約4万円から)

エ.画面表示拡大ソフト

パソコンの画面上の情報を拡大表示するためのソフト。画面のコントラストを調整したり、マウスの動きを見やすくする機能もある。(約6万円)

オ.その他

  • 視覚障害者用メールソフト、ウェブサイト閲覧ソフト、読書支援ソフト、辞書検索ソフト等(視覚障害者が効率よく操作できるように設計されている。画面音声化ソフトとの併用を想定し開発されているが、組み合わせ方によっては利用できない場合もある。)
  • 点字編集ソフト
  • 辞書や六法などのCD-ROM
    (視覚障害者が利用できないフォーマットの辞書類もあるため、専門家に相談して購入する必要がある。)

(4)視覚障害学生用学習支援室

大学には、上記の支援機器類を設置した視覚障害学生用の学習支援室を設けることが望まれます。学習支援室の機能と整備上の留意点は、主に以下のとおりです。

支援室の機能

  • 視覚障害学生の自習の場
  • 学習支援者による教材作成の場(印刷物のテキストデータ化、点字印刷等)
  • 視覚障害学生と学習支援者の作業の場(対面朗読、代筆、テキストデータ化の打ち合わせ等)

支援室整備上の留意点

  • 視覚障害学生用学習支援室と、その他の用途の部屋は分ける。
    (視覚障害学生が対面朗読などの支援を受けるためには静かな環境が必要なため。また、点字プリンタにはかなりの騒音があり、他の業務の妨げになるため。)
  • 施錠できる部屋にする。
    (室内には高価な機器類が多いため。なお、視覚障害学生が授業の空き時間などにいつでも入室できるよう、鍵の受け渡し方法を工夫する。)
  • 支援機器類の他に、障害学生用のロッカーまたはキャビネットを設置する。
    (点字や拡大文字の教材はかさばり、一般の学生用のロッカーには収まらないため。また、支援機器類は高価で壊れやすく大型のものもあり、持ち運びが困難なため。)
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