4.肢体不自由 (3) ニーズ一覧・(部位別)

1.上肢

上肢障害 イメージ

両上肢の障害か一側(片側)の障害かによって、あるいは上肢のどの部分の障害かなどによって、生活の困難が異なります。欠損だけでなく、まひや萎縮などによって物の操作が困難な人もいるため、外見上の障害はなくとも、思うようにコップやペンを持てない、力が入らない等の困難を示す人もいます。
ノートテイク、機器操作、図書館利用、資料整理、ドアや鍵の開閉、荷物の持ち運び、食事等の面でニーズがあります。特に両上肢に障害がある場合には、配慮すべき場面が多くなると思われます。また、介助者の利用も必要となることがあるでしょう。
体育や実習などあらかじめ困難が見込まれる場合には、本人と関係者が協議して対応します。
試験時の配慮は、学習時の配慮に準じることとなります。筆記解答が困難な場合は、パソコンによる解答などの対応を含めて検討します。

◆場面別参照

2.下肢

●杖、義肢等補装具の利用

 クラッチ装用イメージ

体幹(胴体)や上肢(腕)、下肢(脚)それぞれの状態に応じて杖等を使います。上肢や体幹の支える力がどの程度あるかなどによって選択されます。
移動、実験室・実習室や特殊施設の利用、自転車、段差・溝、駐車場、電車・バス、通学等の面でニーズがあります。車いす利用者よりも段差などのバリアとなるものは少ないものの、困難さは人によって大きく異なることに留意します。また、授業間の移動などを含め、素早く長距離の移動を行なう際には難しいことがあるので、授業計画や教室配置などを確認します。自動車の利用が可能な場合は、駐車場について検討します。体育や実習などあらかじめ困難が見込まれる場合には、本人と関係者が協議して対応します。


◆場面別参照

●手動車いす利用

下肢が不自由で歩けない人だけでなく、少し歩けても長距離移動など困難な人も車いすを使う必要があります。上肢とそれを支える体幹の力が十分な人は手動車いすとなります。(障害の程度が重度である場合や、自分で車いすを操作せず介助を利用する場合には、【電動車いす利用】【上肢】【上肢・下肢の障害から全身性障害】の項も参照してください)

手動車椅子イメージ

車いす利用者の困難は、移動場面のバリア(段差、斜面等)や、利用設備が合わないこと(机の高さが違う、入れない等)、空間が十分確保されていないこと(入れない等)によって生じることが多くあります。
移動、部屋の入退室・利用、エレベーター、自転車、段差・溝、駐車場、電車・バス、実験室・実習室や特殊施設の利用、通学等の面でニーズがあります。利用の想定される教室などについては、車いす利用を前提としてあらかじめ調整します。例えば実験室・実習室では、室内での机の調整や、他の学生との動線交差が少ない配置を検討することで、リスク軽減を図りつつ授業参加させることができます。
屋外移動については、主な移動経路の検討(動線確保)を手始めに範囲を広げていきます。設備改修を含む大きな課題は入学前から検討することが必要です。その際に入学式前後やオリエンテーション時期など大学生活に慣れるまでの対応を検討できると良いでしょう。しかし入学後に改めて行動範囲・動線に沿った課題の確認が必要となることがあります。なお、傘をさせないため、雨天時の屋外移動に困難があります。上肢に障害のある人は、独力で合羽を着ることも難しいかもしれません。また雨の中、車いすを操作することは容易ではありません。
トイレや褥瘡(じょくそう)(床ずれ)の配慮が必要なこともあります。また、教室・研究室だけでなく、図書館の利用、食堂、喫茶室、購買店舗、実習施設、講堂等の利用についても検討の必要なことがあります。部屋のドア開閉が困難な場合があることにも留意しましょう。
試験時の配慮は、学習時の配慮に準じることとなります。

◆場面別参照

●電動車いす利用

自分で車いすを操作する筋力は十分ではないが、軽いレバーなどを(手あるいはその他の部位で)コントロールできる人は電動車いすを利用できます。手動車いすに近い形状で簡易な駆動装置(バッテリーやモーターなど)を付けたタイプの電動車いすもあります。また、ハンドル形電動車いす利用者も含みます。
ニーズは手動車いすと同じ部分もあるので、【手動車いす利用】の項も参照してください。(上肢の障害による困難については【上肢】の項も参照してください。)

電動車いすのイメージ

加えて、以下の点に注目します。
電車・バス利用の際には手動車いすよりも重量があるので介助などの検討をします。一定時間動けますが、定期的に充電が必要です。また、上肢・体幹等の不自由が大きい場合が多いので、ドアの開閉や図書館・食堂等の施設利用の際にはいっそう困難があることも留意します。また、学習・研究、食事、トイレ利用を始めとして介助者を利用する機会も多くなります。そのため介助者の確保と調整・マネジメントの体制を整える必要が大きくなるかもしれません。
試験時の配慮は、学習時の配慮に準じることとなります。筆記解答が困難な場合は、パソコンによる解答などの対応を含めて検討します。


◆場面別参照

3.上肢・下肢の障害から全身性障害

上肢・下肢・体幹等の障害が重度で、介助者を利用しながら学習・研究・生活をする人は、【手動車いす利用】【電動車いす利用】の項と同様のニーズがあるとともに、介助者マネジメント(募集、介助方法の伝達、介助ローテーションの調整、その他調整管理)などが重要になります。また、生活支援とのかかわりがいっそう強くなります。

全身の障害が重度の場合、嚥下(飲み込み)やかっ痰(痰を出す)、呼吸、体温調節等の種々の困難が伴うことがあります。
試験時の配慮は、学習時の配慮に準じることとなります。筆記解答が困難な場合は、パソコンによる解答などの対応を含めて検討します。

 車椅子スロープ移動イメージ

全身性障害移動イメージ

4.その他

発語の困難やコミュニケーションにニーズがある人もいます。口~あご・のど・体幹周囲の筋肉等(構音器官)や呼吸のコントロールが困難なために聞き取りにくくなることが主な原因です。コミュニケーションボード(文字盤)、携帯用補助装置など様々な工夫でやりとりできますので、活用してください。

また、内部機能障害と感覚障害、高次脳機能障害等を併せ持つこともあります。

さらに知覚障害への配慮が必要な人もいます。図地弁別(※)が困難なために、同時に提示された複数の情報の中から必要な情報を取り出すことが難しい場合や、空間認知の困難から、慣れた構内でも迷う場合があります。同時に提示する情報量を絞る、注目してほしい箇所を色で区別する、移動ルートで目印となるものをあらかじめ確認しておく等の工夫を、本人と関係者が協議して検討します。

【※図地弁別(ずぢべんべつ)】
私たちがものを見たり聞いたりするときには、背景からその対象を分離して知覚します。この際、背景から切り離して知覚される部分を図といい、背景として退けられる部分を地といいます。
例えば、板書された文字を知覚する場合、文字が図であり、黒板(文字が書かれていない部分)が地となります。
この図と地を区別して捉えることを図地弁別といいます。

場面別参照