視覚障害 移動環境整備

視覚障害学生は、オリエンテーションを受けて道順を覚えた場所については、基本的に単独での移動が可能です。ただし、安全かつ効率的に移動するためには、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」や「移動等円滑化整備ガイドライン」等に記載されている環境整備を行なう必要があります。特に、以下に紹介するような環境の整備や配慮は、視覚障害学生にとって不可欠です。なお、これらの法律やガイドラインは最低限整えるべき内容や事例を記したものであり、施設の新築や改修を行なう際には、当該学生、教職員、視覚障害支援の専門家等で話し合いながら、配慮内容の詳細を決定する必要があります。

(1)視覚障害者誘導用ブロック

視覚障害者誘導用ブロック(通称:点字ブロック)には、誘導を目的とした線状ブロック(誘導ブロック)と警告・予告を目的とした点状ブロック(警告ブロック・注意喚起ブロック)があります。JIS規格(JIS T 9251)により、突起の形状やサイズ等が決められています。

必要な支援・配慮事項

  • 点字ブロックの敷設にあたっては、視覚障害学生の動線を確認したり、本人の希望を聞いたりしながら、設置場所を選定する。
  • 点字ブロックの規格、敷設場所、敷設方法の詳細については、国土交通省が定めるガイドラインや自治体の条例に準拠した上で、歩行訓練士の資格を持った教職員のいる視覚特別支援学校(盲学校)やリハビリテーション施設などに相談して決める。
  • 全盲学生だけでなく、弱視学生も点字ブロックを利用していることがあるため、ISO規格(ISO 23599)で規定されている「セーフティ・イエロー」を選ぶことが望ましい。また、敷設する場所の地色によって、輝度コントラストを確保する。
  • 警告ブロックは国土交通省が定めるガイドラインや自治体の条例に準拠する必要があるが、誘導ブロックは学内のすべての通路に敷設する必要はなく、1)危険な場所、2)広場やロータリー等、方向や位置関係を理解しにくい場所を優先する。
  • 車いす使用者の移動経路の確保と両立させるために、道の中央ではなく端に寄せて敷設する場合もある。

他の手がかりがなく歩きにくい広場に敷設した例

点字ブロック他の手がかりがなく歩きにくい広場に敷設した例の写真

(2)教室表示

視覚障害学生が教室を確認できるように、点字や拡大文字による教室表示が必要です。

必要な支援・配慮事項

  • 業者に依頼して、点字と拡大文字のついたプレートを作成し設置する。
  • 点字を打刻できるラベルライターなどを用いて点字シールを手作りし、最低限必要なところに貼る。
  • 弱視学生が見つけやすいように、壁面やドア面とのコントラストをはっきりさせる。
  • 複数のドアがある場合は、教室名表示だけでなく、前ドアか後ドアかなども合わせて表示する。

教室入り口の教室名表示に点字を表示しているイメージ

※教室名の点字表示例

(3)エレベーター

視覚障害学生は階段の利用が可能であるため、視覚障害学生が入学する際にエレベーターを新設する必要はありません。ただし、既存のエレベーターを視覚障害学生にとって利用しやすくするためには、いくつかの配慮が必要です。なお、エレベーターを新設する場合には、音声案内、点字表示、見やすい操作ボタン等を備えたユニバーサル・デザイン仕様の製品を選択する必要があります。

必要な支援・配慮事項

  • 操作ボタンに、点字と拡大文字の表示をつける。
  • 行き先(上か下か)、到着階の音声案内をつける。

エレベーターの操作盤に点字表示をしたイメージ

※エレベーターの点字表示例

(4)盲導犬

必要な支援・配慮事項

  • 盲導犬の同伴を拒んではならないことは「身体障害者補助犬法」に規定されているため、基本的に、使用者が利用するすべての場所への同伴を認める。
  • 盲導犬使用者が、盲導犬に関するマナー(触ってはいけない、食べ物を与えてはいけない、犬の注意を引いてはいけない)をクラスメイトなどの前で説明する機会を設ける。
  • 盲導犬に関するマナーを示したポスターやチラシを作成して、理解・啓発を図る。
  • 盲導犬の排便ができる場所を確保する。
  • 体育の実技など、視覚障害学生が盲導犬から長時間離れなければならない場合には、盲導犬が安全に待機できる場所を確保する。

(5)その他

必要な支援・配慮事項

  • トイレの入り口には、男性・女性用の別を点字と拡大文字ではっきり表示する。なお、視覚障害学生は「多機能トイレ」ではなく、一般のトイレを利用することが多いため、点字や拡大文字表示は、一般のトイレに対して行なう。
  • 建物の配置図やサイン等は、文字サイズやコントラスト等の見やすさに留意し、弱視学生が接近して確認できるようにする。
  • 階段の各ステップや手すりに塗料や蛍光テープで印をつけ、弱視学生にも認識しやすくする。
  • 弱視学生の中には、他の人が少し暗いと思う程度の暗さでも見えなくなってしまう状態(夜盲)の人がいる。そのような学生が主に利用する建物内や通路については原則点灯とし、むやみに消灯しないよう、教職員や学生に周知を図る。また、センサー式の照明は消灯までのタイマー設定をなるべく長くし、弱視学生がその照明を頼りにしている時に消灯してしまわないように配慮する。
  • 視覚障害学生が道に迷っていたら、周囲の人の方から声をかけ、必要に応じて目的地まで誘導する。
  • 通学路の安全確保に関して、自治体の関係部局と必要に応じて話し合いの機会を持つ。視覚障害学生から安全上の必要性が訴えられた市道について、大学が自治体に点字ブロックの敷設を依頼し、実現した事例もある。
  • 不慣れな場所や遠方への外出の際には、必要に応じて国や自治体が提供する移動支援サービス(タクシー券の交付、移動介助者の派遣等)の利用を勧める。
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