聴覚障害 災害時の緊急対応

災害時の緊急対応では、避難発令情報や救援情報などの緊急情報発信のあり方が、被災者の生死を分けるほどの重要な問題になります。しかもその情報の大部分が音声メディアでなされるため、聴覚障害のある学生はいかに情報を入手し、自分の生命や生活を守っていくかが重要な課題になるといえます。

緊急情報配信の体制

災害発生時は、ドアを叩く音、館内放送、車内放送、非常ベル、防災無線、津波情報、水の流れる音など多岐にわたる音声情報が発信されますが、それらをリアルタイムで文字や手話によって伝達するシステムは非常に少ないのが現状です。
そこで大学として、こうした情報を聴覚障害のある学生に伝えていく取組が求められます。例えば、聴覚障害のある学生の持つ携帯端末に文字等で緊急情報を配信し、リアルタイムに送受信できるような体制を整えるなどがこれにあたります。緊急情報の配信は、大学が避難発令を構内放送する際に、総務課あるいは障害学生支援室が聴覚障害のある学生にメールを送信します。例として表1のメール内容を参照してください。この例では、避難発令のメールをした後、総務課あるいは障害学生支援室に聴覚障害のある学生が返信して安否確認をとっています。ただ、一斉送信メールや災害関係のメールに対しては「すぐ返信する」という意識が薄い場合があるので、注意喚起が必要です。安否確認後は、障害学生支援室等の関係者が聴覚障害のある学生の救援活動や生活情報の情報提供等を行なう体制作りが求められるでしょう。

○○県沖を震源とした大地震(訓練)が発生しました。
余震の恐れもあり大変危険な状態ですので、建物から退避し陸上競技場に避難してください。もし学外にいる場合、安否確認をしたいので、以下について返信してください。

学年、所属、氏名
ケガをしましたか?
・無事です。 
・軽傷ですが心配いりません。
・その他(    )
どこにいますか?
避難所に向かいますか?
(向かう場合)どこの避難所ですか?
被害(物損)はありますか?
その他連絡事項

スマートフォンイメージ

表1 東北地方の某大学の防災訓練で配信するメールの例

なお、東日本大震災では、携帯電話がつながらず、メールも送信後届くまで数時間から十数時間を要しました。また停電により、字幕やテロップがつくテレビは映らず、携帯電話のワンセグ放送などもバッテリーの問題から使用時間を制限せざるを得ない状況でした。しかしリアルタイムで参加者の投稿内容が順次表示されるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)など、インターネットを通じた情報提供は安定的に作動していたことから、FAXによる災害情報配信、聴覚障害者用情報受信装置、電話回線を用いたメール等の手段だけでなく同サービス等を使って情報配信する方法もあわせて行なうと良いでしょう。

構内に携帯端末での送受信が困難なエリアがないとは限りませんので、施設課と共同で調査し、アンテナ等の追加設置を行なう取組も大切です。他に、FM文字多重放送を受信できる「文字放送掲示板」(図1)、津波を光や文字等で知らせる「警報器(文字表示機能付戸別受信機)」(図2)を設置したり、構内各所に設置している「電子掲示板」等で緊急情報を発信する方法もあります。

図1 文字放送掲示板

図1 文字放送掲示板 イメージ

警報器(文字表示機能付戸別受信機)イメージ

図2 警報器【文字表示機能付戸別受信機

災害時に備えて用意するコミュニケーション・ツール及び情報機器の活用

災害時に聴覚障害のある学生が一人になっても、初対面の人々と会話したり情報を収集できるように必要なコミュニケーション・ツールを備えておくと良いでしょう。例えば、携帯電話などの端末は聴覚障害のある学生にとって非常に重要なツールになり得るため、停電下でもこうした端末の充電できる機器を用意しておくこと(図3、図4)、繰り返し使用できる筆談用ボードやタブレット(図5、図6)、暗所で文字や手話で話すときに必要となる照明用具(図3、図7)、聴覚障害があることや伝達方法をすぐに伝えるカード(図8)などが活用できます。
また、多機能携帯端末(スマートフォン)では、情報収集や情報伝達に使える様々なアプリが開発されています。聴覚障害のある学生がそうしたアプリの使用方法を身につけるようにサポートする取組も大事です。

充電のできる懐中電灯のイメージ

図3 充電のできる懐中電灯

手まわし充電器 イメージ

図4 手まわし充電器

筆談用ボード イメージ

図5 筆談用ボード

筆談用タブレット イメージ

図6 筆談用タブレット

ソーラー型照明用具イメージ1

図7 ソーラー型照明用具

ソーラー型照明用具イメージ2

カード「呼ばれても聞こえません」 イメージ

図8 聴覚障害があることを伝えるカード(一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会)

カード「耳が不自由です」 イメージ

大学における防災訓練および防災教育の実施

「緊急情報配信の体制」で述べたことを防災訓練で実施することは、聴覚障害のある学生だけでなく周囲の学生や教職員の防災意識を高めさせる上でも意義のあることです。また、防災訓練の実施後、聴覚障害のある学生たちから改善点や課題を収集することで、防災訓練の充実化と防災体制の強化につなげることもできます。さらに災害時では、聴覚障害があっても自分で情報を集めて判断したり、地域のつながりを活用して生命や生活を守っていくことも重要であり、そのために日頃から聴覚障害のある学生に対する防災教育を実施していくことが求められるでしょう。こうした取組は、災害時だけでなく平時の情報保障に対する聴覚障害のある学生の意識や行動を高めることにつながり、エンパワーメント効果も期待できます。

防災訓練・防災教育の取組内容
コミュニケーション・ツールおよび情報機器の活用の指導
地域(近所、町内会、聴覚障害関係団体)との関係形成への支援
避難所マップやハザードマップを活用した避難方法の検討
ロールプレイングやクロスロード等防災シミュレーションの教材を活用した教育

こんな取組もできます
災害で事態が落ち着いて復興期に入り、学期が再開しても、学内における聴覚障害学生支援のインフラが欠如・不足していることが少なくありません。これについて、先の東日本大震災発生後は、大学間でインフラ不足を補って遠隔情報保障支援を行なう取組が行なわれました。
また、被災した聴覚障害のある学生同士が地域で集まり、語り合う場を設けたり、テレビやラジオの情報が思うように得られない聴覚障害のある学生に有益な情報を届けるような取組も行なわれました。
こうした取組は、日頃の大学間のつながりがないと実現が難しいものです。平時から聴覚障害関連の情報に詳しい大学や専門機関と連絡をとり合い、何かあった時に協力して対応できるよう備えておくと良いでしょう。

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