聴覚障害 学外実習

学外実習では、実習担当部署と実習先の間で、障害学生支援についての共通理解・連携体制が重要になります。学内での授業とは異なり時間的・空間的・人的条件が複雑多様であるため、そうした条件における聴覚障害のある学生のニーズを把握し、支援体制・支援者の確保方法を検討します。一方で、学外実習は、現場で社会人及び職業人としての成長を目指す場でもあるので、種々の制約がある条件下で聴覚障害のある学生がどのように取り組んでいくかといった自覚や行動を促していくことも心がけておきましょう。

実習期間前に行なうこと

(1)聴覚障害のある学生のニーズ把握

聴覚障害のある学生に、実習における日程、場面、内容及び実習先が対応できる条件を可能な限り詳しく伝えて、どのような支援が必要と考えられるかを検討します。特に、実習で重要となる場面においては、実際の流れをシミュレーションしながらその時々で生じる問題への対応を講じておくようにすると、聴覚障害のある学生も自分自身のニーズや対応を明確化できます。

(2)実習担当部署との連絡調整

聴覚障害のある学生のニーズを、実習担当部署(例えば、実習委員会)に連絡し、実習先と実習期間における支援体制について相互調整を行ないます。障害について基本的なことを伝えるとともに、1.聴覚障害のある学 生のニーズにどのように対応するか、2.聴覚障害のある学生に対して望む自覚や行動は何か、3.実習先で万が一の事態が生じた時の連絡体制をどうするかを話し合います。

(3)後方支援

時間的・空間的・人的条件が複雑多様であるため、これらの条件に応じた支援方法や体制作りを検討する必要がありますが、その検討の困難さをカバーする専門的な支援・助言ができる人も必要になります。自分の大学または近隣の大学にいる障害学生支援室の職員、障害学生支援や特別支援教育を担当する教員に問い合わせする方法があります。また、実習が終了するまでの期間に そうした支援や助言をしてもらえるように協力を依頼します。

(4)支援者の確保と派遣

支援者は、学内の支援学生だけでなく、実習先に勤務している職員、一緒に実習を受ける学生、その地域の情報保障者も含まれます。それぞれの立場にいる者が、どのような場面でどのような支援をすることができるのかを検討しましょう。その上で、通訳を担う支援者をどこに何人派遣するかを協議して確保します。もし、 学内に他の聴覚障害のある学生が在籍しており、支援者の確保の面で影響を及ぼす場合は、他の聴覚障害のある学生とも相談して、学内における実習期間中の派遣体制をとりきめておく必要もあるでしょう。
なお、実習先に支援学生や情報保障者が派遣される場合は、あらかじめ実習先に外部者が出入りすることについての可否及び外部者が留意するべき事項を確認して、実習前に、支援学生や情報保障者に実習先での服装、振舞い方、マナー等の説明をしておく必要があります。
また、場合によってはインターネットを介した遠隔情報保障技術(パソコンノートテイク、手話通訳等)を用いることで、学内にいながら実習先にいる聴覚障害 のある学生に対する支援を行なうことなども可能です。この場合でも、パソコンノートテイクや手話通訳を担うことのできる情報保障者の確保は必要ですが、移動時間が不要になるため活用できる人材の幅が広がります。必要な機材やネットワークの条件等、詳細については学外の関係機関等に問い合わせをお願いします。

【遠隔情報保障の例】
実習先の教室などで話される音声を聴覚障害のある学生のスマートフォンなどでひろい、電話回線やインターネットを介して情報保障者に伝え、遠隔地で通訳します。そこで入力された字幕データが再度インターネット配信によって聴覚障害のある学生へ届くシステムです。インターネットを利用する上での負荷や機器のトラブルを最小限にするための改善がなされています。

遠隔情報保障イメージ

実習期間中に行なうこと

(1)実習日程の急な変更に対する対処
学外実習は、実習先の事情によって日程や内容に変更が生じることは珍しくありません。そうした変更の発生に対応できるように、実習先、実習担当部署と障害学生支援に関わる部署との間の連絡体制をあらかじめ作っておきましょう。

(2)実習先への視察および状況把握
実習先では、聴覚障害のある学生も職員も多忙であるため大学に状況を詳しく報告したり相談することが難しい場合があります。大学から担当者が視察したり、時間が許せば聴覚障害のある学生や実習担当の職員と現状について話し合う機会を持ちます。この視察や話し合いの後で、当初の支援方針を軌道修正したり、支援者へ追加説明を行なうことによって、時々刻々と変化する状況に応じた支援体制を続行することが可能になります。

実習期間後に行なうこと

(1)支援の成果および課題に関するデータの収集・整理
聴覚障害のある学生や支援者、実習先の職員、支援体制作りに関わった教職員にヒアリングを行なって、以後の実習における聴覚障害のある学生支援に活かせるように文書として残します。

(2)聴覚障害学生へのフィードバック・評価
聴覚障害のある学生は、実習先で様々な情報バリアや物理的バリアを経験したはずです。将来の就職に向けて、どのようなバリアがあったか、そのバリアに自分 はどのように対処したか、その成果と課題はどうだったか等を振り返って、聴覚障害のある学生が自分でバリアフリー環境を実現するための知識・技術をどのよ うに身につけたのかを評価・助言しましょう。

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