聴覚障害 ゼミ・グループ討議

ゼミ・グループ討議のようなディスカッションに聴覚障害のある学生も参加できるように、教員だけでなく、司会者、発表者、参加者の立場である者も、配慮することが大切です。また、聴覚障害のある学生のニーズにあわせて柔軟に支援することも必要です。
特にゼミの場合は、平日夜や土日のように授業以外の時間で実施したり、学外で研究活動することも少なくないため、情報保障者の確保が困難になり、聴覚障害のある学生が孤立してしまう状況が生じやすくなります。そこで、聴覚障害のある学生のニーズや研究室の特色を踏まえて、教員や学生たちで実践できる方策を作っていくことが求められるでしょう。
また、次のような配慮をとっても十分に保障できない情報については、できる限り個別指導の時間を確保して教育にあたったり、ゼミの学生同士でわからない部分を尋ねあえる雰囲気を作るなど、聴覚障害のある学生にも専門分野の知識が十分身につけられるような教育環境を作ることも大事です。

発表者の立場で配慮すること

【発表前】
ゼミやグループ討議で配付される資料を読みながらノートテイク・手話通訳を見ることは、聴覚障害のある学生にとって大変疲れる作業です。そこで、発表当日に使うプレゼン資料、配付資料、発表者が使う口頭原稿は、できるだけ事前に聴覚障害のある学生や情報保障者に渡しておきます。

【発表当日】
聴覚障害のある学生または情報保障者がききとれるような大きさと明瞭さで話します。
パワーポイントやOHCのスライドを変えるときは、聴覚障害のある学生や情報保障者が次の説明をきく状況になっているか確認します。この配慮は、発表者の説明と投影されている内容とのつながりがわかるようにするためです。

司会者・参加者の立場で配慮すること

【発表当日】
司会者は、ディスカッションを始める前に以下の配慮の説明をします。

  • 発言者が誰かわかるように、挙手して自分の名前を言ってから発言します。
  • 情報保障者が先の発言を通訳し終わったかを確認してから発言します。情報保障者の通訳が終わるのを待たずに発言すると、情報保障者も慌てて最後まで通訳できず、新たに発言された内容の通訳も十分にできなくなってしまいます。

上記のルールに沿わないで発言してしまう参加者がいた場合、司会者の方から再度配慮の説明をして協力を促すと、聴覚障害のある学生や情報保障者は助かります。


その他の配慮事項

会場レイアウトの検討
聴覚障害のある学生が、ゼミやグループ討議の進行の様子を把握できるように、司会者、情報保障者、参加者の座席位置やスクリーンの配置を検討します。例えば、聴覚活用が困難な学生の場合は、司会者や発表者などの主要なメンバーと通訳の両方が視野内で見られるようにしたり、聴覚の活用が可能な学生は、きき取りやすい方の耳(良耳)で音声情報を獲得できるように、その学生の良耳側に発言頻度が多い者を配置する方法があります。

補聴援助システムの活用
発言が飛び交う集団会話の場では、聴覚活用が可能な学生でも音声情報の獲得が困難になることがあるため、聴覚補償の面から補聴援助システムを活用すると効果的なこともあります。

情報保障の質的保障

ゼミにおける情報保障は、大学の支援の中でも最も難しいとされている内容の一つです。特に情報保障を担う支援学生が他学部の学生であったり、同じ学部でも 学年が下の学生である場合、話されている内容を理解することができず、情報保障が困難な場合も少なくありません。これは、外部の手話通訳者やパソコンノー トテイカーに支援を依頼した場合でも同様です。
しかし高等教育にとっては、ゼミのようなディスカッションの場は大変重要です。そのため、聴覚障害のある学生にも同様の教育を保障していけるよう、担当教員とともに方策を練っていく必要があるでしょう。
こうした問題に対する解決法は、まだ十分見いだせているとは言えませんが、大学によっては以下のような取組が行なわれています。また、どのような場合でも ゼミに参加している学生や教員の協力が不可欠です。聴覚障害のある学生とともに積極的に周囲の人々を巻き込み、全員で環境改善のアイディアを出し合えると 良いでしょう。

情報保障者を対象とした勉強会の開催
専門分野に詳しい情報保障者が確保できない場合、情報保障を担ってくれる学生や外部の手話通訳者等を対象に、事前勉強会を開催することが可能です。もちろんゼミに参加する学生と同レベルの知識を身につけることは困難ですが、専門分野の基本的な理解が得られれば、情報保障の質も飛躍的にあがることがあります。大学によっては、わかりやすいテキストや参考文献を提供したり、ゼミに参加している学生や聴覚障害のある学生が率先して勉強会を開催する等の取組を行なっている例もあります。

専門知識を持った支援者の確保
上記の工夫とは逆に、専門知識を持った情報保障者を確保し、ノートテイクやパソコンノートテイクといった情報保障のスキルを伝授して、支援を担当してもらう例も見られます。情報保障者としては、関連するゼミの先輩や大学院生、助手等に声をかけるほか、地域の広報誌等に募集広告を出して人材を確保する等の取組が行なわれています。また時間帯によっては、関連企業のエンジニアや大学OB・OG等の力を借りることも可能かもしれません。

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