聴覚障害 外国語の授業

外国語の授業は、通常のノートテイクやパソコンノートテイクでは支援がしづらい授業の一つです。語学に長けた情報保障者の確保も難しい場合がありますし、例え情報保障者が確保できても、外国語を正しくきき取り、忠実に文字や手話に置き換えて表示するためには、相当の技術と時間が必要です。また、聴力をある程度活用できる場合には、その学生に応じた支援が必要になりますし、リスニングや発音など、これまでどういった方法で学習をしてきたかによっても支援の内容が変わってくるでしょう。
そのため、学期開始前には、学生本人や授業担当教員と十分に打ち合わせを行ない、どのような形で授業を受講するのが良いのか検討していく必要があるでしょう。

本人との打ち合わせ

リスニングやライティング等、授業形態に合わせてどのような情報保障を希望するか話し合いを行ないます。リスニングが中心となる授業の場合は、その他の授業(ライティングやリーディングなど)に代替する例も多く見られますが、この場合、学部・学科で求められている本質的な要件を免除することにあたらないか確認が必要となるでしょう。また、発音やリスニング・会話等の指導についても、本人がそれを望んでいるのか、これまでどのような指導を受けてきたのか等について確認をしておくと、授業の進め方の参考になります。授業が始まれば「英語でプレゼンテーションするとき、質疑応答にはどのように応えれば良いのか?」など新たな課題も出てくることと思われますので、本人とはその都度打ち合わせを重ね、状況に応じた支援方法の工夫が必要となります。

授業担当教員との打ち合わせ

外国語の授業は、成績や学籍番号によって少人数のクラスを組む例が多いのではないかと思われます。学生によっては、上記のように授業を代替したり、リーディング中心の授業を希望する場合も多いので、支援が必要な学生がいる場合には、あらかじめ担当部署にその旨を伝え、最終的なクラス編成が決定される前に語学科目全体の責任者となる教員や担当教員と調整を図ることが大切です。また、授業を進める上では、授業担当教員の協力が不可欠なので、以下のような配慮について、事前に十分な打ち合わせを行なうことが必要になります。

音声教材を使用する場合

・音声を文字化した資料を用意し、聴覚障害のある学生に配付する。
前もって、支援学生に文字起こしを依頼し、これを元に配付資料を作成したり、出版社に問い合わせてテキストデータを提供してもらう等。学生によっては、発音やアクセント記号を書き込んで欲しいという要望が出る場合もある。

・補聴援助システムを活用したり、きき取りやすい環境を整える。
聴力が活用可能な学生の場合、補聴援助システムを用いることできき取りやすくなる場合もある。学生によっては、イヤホンやヘッドホンを使用したり、テープ音声ではなく、口の動きを見ながら音声をききたいという要望を持っている場合もある。

資料の解説が中心の場合

・情報保障者に資料を渡す。
資料を用いて授業を進める場合、情報保障者がこれに書き込みながら情報を伝えることができる。ある程度、余白をとった方が書き込みやすかったり、資料の作り方に工夫が必要な場合もあるので、作成方法は支援者や聴覚障害のある学生本人と相談をすると良い。
・OHCやプロジェクターで読み上げ箇所を示す。
資料を読みながら解説を加える場合、資料の内容をOHC等を用いてホワイトボードに投影し、読み上げる箇所を示したり、説明をホワイトボードに記入していくとわかりやすい。この方法は、聴覚障害のある学生以外の学生にとっても効果的。

外国語と日本語の説明が入り混じる場合

・教員と支援学生の役割分担を相談する。
一般的に、外国語部分の書き取りは負担が大きいため、外国語の発話は教員ができるだけ板書するか、あらかじめ文字資料を用意しておく形にする。こうすることで、日本語での説明を支援者が書き取り、伝えることができるので、効率的な情報伝達が可能になる。
・外国語が得意な支援者を確保する。
外国語が得意な支援者が確保できる場合、その支援者が外国語部分を入力し、もう1人の支援者が日本語の部分を入力する等の方法で、情報を伝えることもできる。特に留学生等、ネイティブの支援者が確保できる場合に有効。

こんな工夫もできます
リスニングや発音の指導方法は、学生の聴力やこれまでに使用してきた学習方法、授業のねらいや教員の指導スタイルなどによって変わってきます。この内容はさまざまですが、例えば、以下のような工夫が可能です。

「きこえづらいけど、リスニングにも挑戦してみたい」という学生の場合、文字化しておいた文章を穴埋めで提示し、空欄を埋めていく練習をするなどの工夫も可能です。音と文字を照らし合わせながらきき取れるよう、支援学生等に指でなぞってもらいながら、きき取る練習をすると良いでしょう。

「リスニングは難しいので、それに代わる指導を望んでいる」という学生の場合には、ビデオ字幕のようにきこえるスピードに合わせて文字を提示し、速読をさせるのも一案です。パソコンノートテイクの機材も有効に活用できるので、支援学生やコーディネーターと方法を検討してみましょう。

発音の学習には、カタカナや発音記号を用いている学生もいます。一般的に外国語の指導にカタカナを用いることは避けられていることが多いのですが、聴覚を通して音が入りづらい学生の場合、カタカナ表記のある辞書なども有効に活用できるので、本人と相談をしてみると良いでしょう。

情報保障者の確保

情報保障の方法について方向性が定まれば、次は情報保障者を確保しなければなりません。外国語の支援はその言語に対しての専門性が求められるため、留学生や帰国子女、外国語学科の学生など、一定の言語の力を有した学生の確保が求められます。そのためには、以下のような工夫ができるでしょう。

  • 語学担当教員に当該科目を履修済みの学生を紹介してもらう
  • 国際系学部の学生向けの募集チラシを作成し、集中的に呼びかける
  • 留学生支援などに取り組むサークルに所属する学生に呼びかける
  • 支援学生の登録カードに語学履修経験を記す欄を設けておく

また、集まってきた学生を対象に、語学教材などを用いて外国語の入力練習をしたり、外国語部分を入力する学生と、日本語部分を入力する学生の役割分担などについて、練習をしておくことも重要です。語学の授業は専門性が高く、情報保障者の確保も難しいと思われがちですが、「自分の得意分野を活かして役に立てるなら手伝いたい」と考える学生は意外に多いものです。支援学生と教員がこの「スペシャル・チーム」への自負をもてるよう促すことは、支援の安定化につながるでしょう。

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