事例No.134(難聴)映像視聴授業でのビデオ貸し出しについて

【事例紹介】

事例が起きた時期

過去5年以内

事例が起きた学校

私立大学、学校規模:5,000から9,999人

対象学生

学科(専攻):保健(医・歯学を除く)、2年次、聴覚・言語障害(難聴)

相談、不満・不服の申し立て、または支援の申し出

1.場面等

授業・研究指導

2.内容

難聴の学生が履修している科目で映像の視聴があり、文字起こし支援のため映像を借りたいと学生本人が教員に依頼したが「古いビデオで、無事に返してもらえるか不安だから貸せない」と断られた。文字起こしができないなら、パソコンテイク支援を受けたいと思い、テイカー調整のため具体的にいつ見るか尋ねたが「予定は未定」と言われ、大まかな予定しかわからず困っている、と障害学生支援担当者へ相談に来た。普段はFM補聴器で聞き取り可能な科目のため、映像を見る数回のみ文字起こしあるいはパソコンテイク支援をする予定だった。

学校の対応

1.関わった部署

障害学生支援部署、学生生活支援担当部署(学生課等)、その他(支援学生(パソコンテイク担当))

2.対応内容

障害学生支援担当職員から教員に相談するも「もう断りました」と言われ、映像は過去のテレビ放送を録画した私物で「古いビデオなので作業中にテープを巻き込んで使えなくなると困るため貸せない」と同じ返事だった。映像の詳細や他に資料があるか尋ねると、「10分程度、面接やインタビュー場面の映像で、(テープを貸せない代わりに)関連する新聞記事と簡単な逐語録を配付して支援する」とのこと。
その後「次週映像を見る」と授業内で予告いただき、障害学生がテイカーを調整してテイク支援を行なったが、授業後に「やはりパソコンテイクは難しいのではないか、別の配付資料で補えばよい、(視聴途中でPC画面を見ずに)専門職員の細かい動作まで見逃さずにビデオに注目してほしい」と言われた。別の学生から、後で泣いているのを見たと情報があり本人に話を聞くと、ビデオ内の会話が聞き取りづらく、テイクの必要性を感じているのに否定されたとの印象を受けていた。教員の意図(細かい動作に注目)は理解できるが、言い方がショックだったとのこと。以前の障害学生支援担当(障害学生支援委員である教員)に今までの例を尋ねて今後の対応を検討した。障害学生は映像が流れている間は見ることに集中し、同時にテイカーはパソコンテイクを行なう。テイクした文章を確認するのは映像を見終わってからと決め、担当教員の意向を尊重しながらできるだけ多くの正確な情報が提供できると説明した。

理由、原因等 ※学校の回答

  • 教職員の理解
  • 具体的な内容

テレビ等の映像は一人が話す授業とは違い、パソコンテイクで支援するのは難しい。文字起こしは、事前に音声データを文字化するため確実な支援となり合理的配慮だと言えるが、音声情報を正しく理解するよりも映像の細かい部分をよく「見て」ほしいという教員の意図が始めは伝わらなかった。ビデオ視聴後に教員が「言葉だけで伝わらない細かい部分もある。ビデオを見て学んで、実習に行った際になるほど、と感じてほしい」と話したことで当該学生も理解でき、納得した。ビデオを貸せない理由だけでなく授業でビデオを見せる意図を伝えていただけたら、学生がショックを受けることを避けられたかもしれない。

学生等の反応

始めの依頼時に言われた「返してもらえるか不安だからビデオは貸さない」という先生の言葉は、大きなショックだったようだ。本人はわかってもらおうと熱心に説明したが断られ、聞く耳をもたないような印象を受けていた。
視聴後に教員の話を聞いてビデオを見る意図も頭では理解していたが、障害によって必要とする支援を提供してもらえないことが、授業内容の理解を深めたいと考えている自分を理解してもらえていないのだと感じ、気持ちの上で納得できなかった。授業内で傾聴・他者理解を勉強しているのに……、と精一杯支援してくれるテイカーに失礼だと怒りもしたが、「先生は以前から私のことをよく考えてくださっていて」と話す場面もあった。担当職員と面談する中で気持ちの整理がつき、教員の意図が理解できた。当日の支援については、PCテイクで可能な限りの支援を受けられたことに感謝していた。

その後の経過

翌週も映像視聴が予告されたが、「テイクなしでがんばってみたらなんとかなりました」と本人から報告を受けた。その後は、学年が上がるにつれて授業形態が変わり、パソコンテイクや文字起こし支援も不要となった。

【参照】