第12回 入学者選抜における同等の機会の提供

こんなときどうする?障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行から3年が経過し、関連するトラブルも増えつつある中、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、対応の留意点や活用できる社会資源等、現場レベルの視点でより具体的に解説します。

第12回 入学者選抜における同等の機会の提供

ファシリテーター

第12回は、入試(入学者選抜)において、障害のない受験者と同等の機会を障害のある受験者に提供するために必要な対応について考えます。このテーマについてワークショップ形式で検討します。参加者は、大学等の支援担当者、入試部署の担当者、教員です。


検討課題

  • 入試担当部署と障害学生支援担当部署の連携
  • アドミッション・ポリシーと合理的配慮

参加者紹介

私立X大学障害学生支援担当Aさん

私立X大学入試担当Bさん

私立Y大学障害学生支援担当Cさん

私立Y大学看護学部教員Dさん

私立Y大学教育学部教員Eさん


入試担当部署と障害学生支援担当部署の連携

障害のある入学志願者の入試対応時に、こんなことがありました。聴覚障害のある入学志願者がAO入試の面接試験で、手話通訳かPC要約筆記の利用を試験時の合理的配慮として申請しました。申請を受けた大学では、初めてのケースであり学内の規程がなく、「手話通訳やPC要約筆記を利用するとひょっとしたら他の障害のない入学志願者よりも高い点数になってしまうのではないか」と懸念したため、手話通訳やPC要約筆記が提供できないと入学志願者に伝えました。結果的に、この方は出願をしなかったのですが、大学等としては、このような申請が来た時にどのように対応すべきでしょうか?

聴覚障害のある受験希望者にとって、面接は口頭で聞かれることがほとんどだから、手話通訳やPC要約筆記などの情報保障手段がないと、障害のない学生と同等の機会は提供されないですよね。なんでこんな対応したんだろう?わからないなぁ。私たちの大学では障害学生支援部署があるので入学してからの配慮については主体的に動けるのですが、入試での配慮など入学する前の対応は基本的に入試担当部署が動くことになっているんです。だから、実際には入試での配慮対応に関する情報が障害学生支援部署に届いていないこともよくあります。その点、Bさんいかがでしょうか?

そうですねぇ。最近では、障害のある受験希望者からの事前相談が増えてきているので、どのような障害の場合にはどのような配慮を提供するのか、大学入試センター試験での配慮を参考に、ある程度の対応マニュアルを作ってはいます。うちは事務スタッフばかりで専門のスタッフがいないのでマニュアルがないと動きづらくて……。ただ、手話通訳とPC要約筆記のどちらも必要という申請が前にあって、「どっちかだけあればいいんじゃないの?」と思ったり、なかなか専門的知識がないと対応できないことも多いです。うちの大学は通信教育課程もあるので、全国各地に会場があって情報保障をどうやって地方の受験会場で手配するか、そのノウハウもないんです。こういう入試に関係するものも、もう少し障害学生支援担当の方と連携が取れるといいのかもしれませんね。どうでしょう、Aさん?

そうですね。今度、試験時の配慮対応について連携方法を検討しましょう!いつがいいですかね?

今回のケースでは、障害のある入学志願者から手話通訳やPC要約筆記の配慮申請があったにもかかわらず、「他の入学志願者より高い点数になるかもしれない」という抽象的な理由により合理的配慮を提供しませんでした。これは、法律の下で禁止される差別になりうると考えられます。「学内の規程がないからできない」という主張についても、学内規程がなければ合理的配慮を提供しなくて良いわけではありません。文部科学省「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(二次まとめ)」によれば、合理的配慮の内容の決定手順は障害学生支援室等の専門部署が関与せず、学内の様々な場面・手順で、合理的配慮の提供が求められる場合があることに留意すべき、と示されています。学内規程を設けることは組織的対応として必要ですが、それ以前に個々の障害のある入学志願者から合理的配慮の申請があれば、その時点で学内規程がなくても検討する必要があります。
ただ、このような問題の一因として、入試担当部署と障害学生支援担当部署が分掌していることも影響していたかもしれません。入試での配慮は、センター試験などで公的な手続きが定められていますが、二次試験や推薦、AO入試など大学等が行う入試における配慮は大学によって対応が様々です。大学によっては同日に複数の会場で入試を行うこともあり、地方の会場に人員を配置するなど過重な負担に感じられるかもしれません。障害学生支援に関係する教職員だけでなく、全学の入試担当者や各学部の入試担当者にも試験時の合理的配慮に関するリテラシーが求められるでしょう。例えば、入試担当部署や教育組織の入試担当者向けに障害学生支援担当部署が講師となり、合理的配慮に関する勉強会やFD/SD等を行うなど、障害学生支援部署が主体的に入試担当者と連携を取ることができると良いですね。また、入試形態別(筆記試験、小論文、面接、集団討論等)で、よく用いられる合理的配慮の例をまとめておくことも有効でしょう。障害学生支援の担当者は日頃から他の地域の障害学生支援の担当者とネットワークを作っておくことで、自分だけで対応できない時は外部の力も借りながら、多様な障害のある入学志願者に同等の機会を保障できるよう考えていく必要があります。

アドミッション・ポリシーと合理的配慮

もう1つ、こんな事例もありました。看護学部の受験を希望する自閉スペクトラム症(ASD)のある入学志願者で、「コミュニケーションが苦手だから面接試験時に応答するまでの時間を他の学生よりも延長してほしい」ことを合理的配慮として申請しました。その際、看護学部の入試担当者は「コミュニケーションが苦手な学生はコミュニケーションが必須の看護学では学ぶことが難しいだろう。とは言っても、合理的配慮の申請は断りづらいので、アドミッション・ポリシーに『コミュニケーション力』を求めることが書いてあることを断る理由としよう」ということで、この入学志願者からの合理的配慮の申請を認めませんでした。結果、その学生は看護学部以外の学部の受験を検討するようになりました。この事例について、みなさんどう思いますか?

私たち看護学部は、患者さんなど利用者の方とのコミュニケーションが最も大事なところで、それが教育の本質なのだと感じています。そのような教育の本質が入学志願者にもちゃんと分かるように、アドミッション・ポリシーに記載をしていこうという動きが実際に学内にもあります。看護の分野ではコミュニケーションの中でも、利用者の方と会話をするだけでなく、病状や気になる所がないかなど利用者の方が言葉では語らない暗黙な部分を察知する力も求められています。なので、今回のような対応はしょうがないかなとも思いました。仮に入学しても実習で上手くいかなくて退学してしまうかもしれませんし。

ちょっと待ってください。この入学志願者は、自閉スペクトラム症(ASD)のある生徒さんなんですよね?自閉スペクトラム症は対人関係やコミュニケーション上の質的な障害です。たしかに、アドミッション・ポリシーに記されたコミュニケーション力は、看護学部での教育の本質部分をなしていて、この事例でもそのポリシーを理由に配慮を断っています。しかし、一般的・抽象的にコミュニケーション力がないことだけを理由に配慮を断ってもよいのかなと感じました。

この法律は合理的配慮を求めていますが、教育の本質部分を変更するような配慮は合理的配慮にはなりません。今回のケースでは、断るという判断をする前に、障害のある入学志願者に、「実際にどのようなコミュニケーション上の困難があるか」を聞く必要があったかもしれませんね。例えば、ASDの方の中にも音声によるコミュニケーションは聞き取りが苦手だが、書面であれば理解しやすいという方もいますので、その場合は時間延長ではなくて質問内容を文字で示すという配慮だったら良かったのかもしれません。他にも、不安や緊張の度合いが高くてスムーズな会話が苦手な方の場合には、今回のような時間延長が必要だったと思います。入学志願者が抱える障害の程度や内容は何かを細かく聞きながら、併せて、アドミッション・ポリシーで示される『コミュニケーション力』とは何かを学部教員と一緒に考える作業も必要かもしれませんね。

なるほど。たしかにうちの学部でもアクティブ・ラーニングとかを進めていることもあって、アドミッション・ポリシーにも『コミュニケーション』が必要っていう記述があるけど、大学4年間の内にグループワークや実習などを通して自分なりのコミュニケーション方法を学んでいく学生もいるから、あまり高校卒業の段階でいきなり色々な人と会話が上手にできるとかを強く求めるわけではないなぁ。どっちかと言うと、国際化を重視している大学だから、英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)を高校生の段階できっちり身につけてほしいところかな。

コミュニケーションと一口に言っても、学部の先生方で考え方が違うようですね。障害のある入学志願者からの申請を受けると、学部での教育の本質とは何かを議論するきっかけにもなって、それは大学等にとって大切なことだと思います。障害学生支援の側面から国立大学におけるアドミッション・ポリシーの傾向を分析した研究によると(真名瀬ら,2017;2019※下記参考情報参照)、アドミッション・ポリシーには、コミュニケーション能力を求める学部が多いものの、具体的にどのような能力を求めているのかが不明瞭なものも多いようです。抽象的にコミュニケーション能力を要求して、合理的配慮を提供しないと安易に決めてしまうと、聴覚障害やASDのある学生などコミュニケーション上の障害を有する学生に対する差別につながりかねません。合理的配慮があれば看護職に必要なコミュニケーションができる可能性があるわけで、「どのようなコミュニケーション上の困難があるか」細かく確認することが大事です。また、「コミュニケーション能力」が「言語能力」であるのか、「非言語コミュニケーション」であるのかは明確にしておくことも大事ですね。いきなりポリシーを変更することは難しい作業かもしれませんが、アドミッション・ポリシーや募集要項に「障害を理由として目標への到達が困難と感じられる場合には、修学上の相談や合理的配慮の申請を行うこと」など追記したり、合理的配慮の例を示したURLリンクを貼り付けるだけでも、障害のある入学志願者にとっては助けになると思います。


いかがでしたでしょうか。入試における配慮では、大学教職員と障害のある受験者との間で話をする機会や時間が十分に取れないことも少なくありません。合理的配慮の不提供により、障害のある受験者が不服・不満を訴える機会も少ないため、軽視されやすい側面もありえます。日頃から、学内外の連携を密にして、入試での配慮対応を考えていくことが望まれます。

参考情報

※ファシリテーターが紹介している(真名瀬ら,2017;2019)は、以下の文献です。

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次回予告

第13回「障害学生支援における教育部門との連携」は10月23日公表予定です。

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