(2)大学等における主な課題 4.関係機関との連携
【社会資源の活用】
地域単位・課題単位での多層的なノウハウ、人的・物的資源の柔軟な共有
- ICTの活用を含むアクセシビリティに配慮した教材活用・共有
- 教材の利用方法の研修
- アクセシビリティに配慮されたデータや講義の映像の蓄積・共有
- 一般教養科目における単位互換の活用等
支援担当者間の情報交換を行なうネットワークの構築、他大学への支援学生の派遣等
事例講評
本事例集では、他大学や社会福祉関係の事業所、地域や全国ネットワーク等との連携により問題の解決を図っている例が多数見受けられます。この中には、以下のような例が含まれていて、それぞれ目的に応じて活用することで、有効な支援を提供できるものと考えられます。
- 1.施設課など学内の各組織と連携を図るもの
- 2.手話通訳者や点訳者、介助者派遣といった専門的な支援を他機関に求めるもの
- 3.地域ネットワークや全国ネットワーク(AHEAD-Japan、PEPNet-Japan等)、障害学生支援に関する全国拠点(特別支援教育総合研究所、筑波技術大学等)等を通してさまざまな情報を得るもの
- 4.日本学生支援機構など、障害学生支援関連の研修会に参加して知識・技術を得るもの
- 5.他大学等と共同で人材養成を図るもの
- 6.特別支援学校やハローワークなど、関連分野の機関と協力して移行支援を行なうもの
一方で、事例の中では、このような関連機関との連携において課題を抱えるものもあり、今後検討していくべき問題であると感じました。
例えば、ある事例では、障害学生自身が学生の手による身体介助を希望していて、外部機関に介助者派遣を依頼することに難色を示しているということでした。合理的配慮の提供は、本人のニーズを最大限尊重しつつ、合意点を探していくのが基本ではありますが、このような事例ではどこまで本人の要望に応えるのがよいのか、大学としても悩ましいところだと思います。この点について、単純に答えを出すことは難しいですが、多くの大学ですでに取り組まれているように、本人の訴えの本質がどこにあるのかをじっくりと探りながら、学生と丁寧な話し合いを重ねて合意点を見出していくアプローチが求められるでしょう。この際、外部の人材に依頼することで、本人が周囲の学生と距離感を感じてしまうといった悩みについては、もしかすると、大学独自の取り組みとして、問題となっている支援以外の部分で他学生とつながりを持てる機会を確保したり、障害学生支援室を取り巻く学生コミュニティに帰属意識を感じられるような手助けを行なったりすることで、解消されていく可能性もあるかもしれません。同時に、学生の卒業後の生活を考えると、本人がさまざまな社会的資源を活用しながら社会生活を送れるよう支援していく側面も重要です。本人が学生に依頼をしたいと思う背景はさまざまでしょうから、一概にこうした方法を当てはめることはできませんが、大学としては学生それぞれに合った「自立」のあり方を思い描きながら、本人の歩みに合わせた支援を提供していきたいものです。
一方、地域で提供されている福祉サービスの中には、大学を派遣対象としていなかったり、必ずしも大学の存在を想定して制度設計がなされているわけではないものもあります。例えば、ガイドヘルパー等の移動支援サービスは、余暇や社会生活を送る上で必要な支援を提供することが主な目的となっているため、通勤や通学など、定期的かつ継続的な場面への派遣は対象外になっていることが多いでしょう。このため、大学としては障害学生が制度のはざまに置かれることがないように、サービスを提供する自治体や事業者と十分に調整を図っていく必要があります。
同時に、手話通訳や要約筆記などの情報保障者(意思疎通支援者)派遣制度についても、やはり大学の授業は対象外になっていることが多いでしょう。また、たとえ派遣ができたとしても、もともと病院への通院や役所手続きなど、地域生活支援を目的に作られた制度なので、大学の授業など、高度専門領域における支援には、対応が難しい部分がある点でも注意が必要です。せっかく支援者を確保しても、実際には学生のニーズを十分に満たすことができなかったというニーズと制度のミスマッチが生じないためにも、導入時の十分な検討と、提供開始後のモニタリングが必要と言えます。