第14回 新入生への合理的配慮の提供

こんなときどうする?障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第14回 新入生への合理的配慮の提供

ファシリテーター

第14回は、入学が決まった障害のある学生に対して、大学等はどのように対応していけば良いのか、その中で障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、入学前、入学後の対応について考えます。
このテーマについてワークショップ形式で検討します。参加者は、大学等の支援担当者です。


検討課題

  • 出身校での支援内容に関する情報取得の方法
  • 支援の申し出への対応プロセスの構築
  • インテークにおける建設的対話とは

参加者紹介

国立大学Aさん

公立短大Bさん

私立大学Cさん


出身校での支援内容に関する情報取得の方法

ファシリテーター

障害のある学生の入学が決まると、皆さんの部署には様々な支援を求める申し出があることと思います。まずは、Aさんから、事例を紹介していただきます。

国立大学Aさん

本日ご紹介するのは、本人ではなく保護者から申し出のあった事例です。この学生は、自分が発達障害であることを知らないまま、保護者の申し出によって、小・中・高と支援を受けてきたという学生で、保護者から、大学でも同じように支援をして欲しいという申し出がありました。本学としては、本人からの申し出がなく、本人に困り感もないのに、いきなり支援を開始するというのも難しく、非常に対応に困った事例です。学部に、保護者からこういう申し出のある学生がいるという情報だけ伝えて、様子を見守るという対応になりました。

私立大学Cさん

本学でも、過去に同じような事例がありました。そのときは、とりあえず出身高校に連絡して、これまで、どんな支援をしてきたのか情報をもらって、その後は、やはりしばらくの間は見守りということになったのですが、結局、本人ではなくて、回りの教員や学生から相談があって、本人と面談して支援につなげていったという事例ですね。

公立短大Bさん

高校までの支援の情報と言えば、個別の教育支援計画がありますが、これは、参考になることも多いのですが、特別支援教育と大学での障害学生支援とでは考え方が違うので、同じような支援を期待されても応えられないことが多いんですよね。

国立大学Aさん

支援計画が作成されていないケースもありますよね。この事例の場合、本人に自覚がないこともあって、その場その場で、保護者が学校に連絡して、担任や保健室の先生の裁量で支援していたようでした。

ファシリテーター

障害のある学生が入学してきて、まず必要になるのは、これまでにどのような支援を受けてきたのかという情報ですね。出身校の担任や特別支援教育コーディネーターと連携して、情報を入手することが必要です。この事例では、本人に自覚がないということで、難しかったと思われますが、入学が決まったらできるだけ早い時期に、本人や保護者との面談を実施し、希望する配慮内容を把握できるようにし、必要な情報を入手したいですね。また、配慮内容を円滑に把握するためには、そのためのフォーマットを用意しておくことも重要です。入学手続き書類と一緒に提出できるように、配慮希望書の様式を用意しておくといいでしょう。

支援の申し出への対応プロセスの構築

ファシリテーター

では、合格発表から入学までの間にできること、しておくべきことには、どのようなことがあるでしょうか。これに関連して、Bさんから事例を紹介していただきます。

公立短大Bさん

はい、ご紹介させていただくのは、難聴の学生の事例です。この学生は、普通高校の出身で、高校までは補聴器と読唇で対応できていて、特に支援を受けていなかったんですね。ですから、入学時も、支援の申し出はありませんでした。ところが、いざ入学して授業が始まってみると、高校とは教室の規模も違いますし、聞き取れないことが多く、授業についていけなくなって、相談に来たというケースです。結果的にはノートテイカーをつけることになったのですが、その学期のノートテイカーのシフトも組んだ後だったので、実際に支援を開始するまでに時間がかかってしまいました。

国立大学Aさん

肢体不自由の学生の場合なども、キャンパスや施設内の移動、教室への出入りなど、実際に試してみないとわからないことが結構ありますよね。本学でも同じような経験をして、現在は、入学前にキャンパスや教室などの施設を見学してもらったりして、どんな支援が必要かを確認するようにしています。

私立大学Cさん

それは、障害のある入学者全員に行なっているということですか。Bさんの事例のように、本人が支援の必要を感じていない場合などは、見学などが必要かどうかわからないですよね。

国立大学Aさん

全員ではないですね。まずは、本人や保護者と面談して、障害の内容などを詳しく聞きながら、入学する学部での授業内容なども説明して、見学などが必要かどうか、本人と話し合って決めています。

ファシリテーター

事前に、配慮内容を十分に把握しておかないと、学生が必要な支援を受けられないまま、授業始まってしまうということですね。必要な配慮内容を円滑に把握するためには、やはりなるべく早い時期に、面談を行なうことが重要です。この面談には、本人、保護者、支援部署の担当者のほかに、入学する学部学科の教員や場合によっては施設・設備の担当部署にも参加してもらうといいですね。配慮実施に関わる関係者間で情報交換することで、必要な配慮が見えてきます。本人が、大学等での学生生活がどんなもので、自身にとって必要な配慮は何かということを理解し、自身で「配慮願い」を作成することも重要です。合格発表から入学までに支援部署がすべきことには、配慮を提供するための具体的な準備だけでなく、この「配慮願い」作成のための支援も含まれます。その際できるだけ本人が中心になって「配慮願い」を作成していくことが重要です。大学では保護者による意思決定から学生本人の意思決定へと重点を移していくことが重要となります。

インテークにおける建設的対話とは

ファシリテーター

では、本人が希望する配慮を提供できないケースには、どんなものがあるでしょう。Cさんから事例を紹介していただきます。

私立大学Cさん

この事例では、是非、皆さんのお知恵を拝借したいのですが、難病の学生から、体調不良のために授業に出席できないので、映像や資料など、自宅で授業内容を見たいという申し出があったんですね。学部の担当教員に配慮の依頼をしたのですが、「本学は通信教育課程ではないんだから、そういう対応はできない」と断られてしまったんですね。こういうケースでは、他の学校さんではどうしていらっしゃるのか、是非教えてください。

国立大学Aさん

通信教育課程じゃないからビデオ等はダメというのは、明らかに誤解ですね。ビデオ等でもその授業の本質が満たせると考えられる場合、それは合理的配慮の提供になりますよ。本学では、病弱の学生や、精神障害で通学に支障を生じることのある学生に対して、そういう配慮を提供しています。

公立短大Bさん

本学では、体調不良で頻繁に授業を欠席することが予想される学生について、入学前の話し合いの中で、通常2年間のところ、3年かけて単位を取得して卒業するという制度を適応することにした事例がありますよ。ビデオ受講がダメなら、そういう方法も検討してみてはどうでしょうか。

ファシリテーター

このようなケースでは、教育部門に合理的配慮の提供についての理解を深めてもらうことももちろんですが、「そんなことはできない」という一方的な判断を受け入れるのではなく、まず、配慮の提供を前提とした建設的対話の場を設けることが求められます。対話の場には、本人や保護者、そして支援担当部署のスタッフも加わって、担当教員だけでなく、学部学科の責任者に同席してもらい、学生のニーズの本質は何か、教育の本質を満たして配慮を提供するためには、どんな方法があるか、両者にとって納得のいく配慮の提供を探っていくことが重要です。当面の配慮内容を決定した後も、結果をフィードバックしながら配慮内容に必要な修正を加える等、継続的な対話を維持していくと良いでしょう。


ファシリテーター

いかがでしたでしょうか。障害のある学生の入学が決まったら、まずは、出身校からこれまで受けてきた支援についての情報を入手すること。その情報を、学生が入学する学部学科等、必要な部署と共有し、提供する配慮内容について検討することが必要です。ただし、学内における個人情報の共有については、その内容と範囲について、学生本人に必ず了解を得ましょう。そのためにも、できるだけ早い時期に、学生や保護者との面談を実施する必要があります。必要な情報を入手し、配慮内容を円滑に把握するためには、本人や保護者、そして出身校と密度の高い連携ができるような信頼関係を築くことが重要です。

参考情報

紛争の防止・解決等のための基礎知識(1)大学等における基本的な考え方

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次回予告

第15回「自己理解と意思表明支援」は12月4日公表予定です。

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