1-8.意識啓発・理解促進

(1)大学等における基本的な考え方 8.意識啓発・理解促進

【心のバリアフリー】

  • 障害学生へのハラスメントは障害や関連の制度への理解不足から生じるということの意識の徹底
  • 学内のものに留まらず、外部の研修等の機会を積極的に活用する

障害学生自らが合理的配慮の提供を含む正当な権利を主張できるようにする

  • 障害学生への関連情報の提供
  • 自己選択・決定の機会の提供
  • 自己選択・決定能力向上の場の提供

支援学生への研修

障害のない学生を含めた学生全体の障害への理解促進のための取組の実施

事例講評

障害学生が合意できる合理的配慮を提供するには、学生の障害特性や個々のニーズを教職員や支援学生が的確に理解していることが前提となります。そこには当該学生の心理面への配慮(例えば支援を受けていることをオープンにしてほしくない学生への配慮等)も含まれます。大学等は学長がリーダーシップを発揮し、障害学生に対する支援体制の整備を進めるとともに、障害学生に対する理解の促進を目的とした研修・啓発活動が重要です。
障害学生のニーズは一人ひとり異なるので、配慮が必要な学生は必要な支援を適切に伝えることが支援内容の質を高めることにつながります。大学等から寄せられた報告の中には障害学生に対する理解不足、合理的配慮の提供に向けたシステムに対する理解不足が原因で支援に支障をきたしている事例がみられました。

例えば、障害学生に対する支援体制が学内に整っているにもかかわらず適切な情報保障に至らなかった事例があります。文字起こしや字幕付けには一定の日時が必要となりますので、余裕をもって支援を実現するための環境を整える必要があります。さらに依頼する側、支援する側(非常勤教職員を含む)の両者が、障害学生支援(仕組みや手続き)について理解を深めておくことが重要です。

障害者差別解消法では難病、高次脳機能障害が新たな支援対象に加わりました。持病のある学生への学内対応をめぐって、ある大学では、本人・保護者からの依頼を受け、学内の関係諸機関が対応を協議しました。さらに保護者の了解を得て文書による情報共有を進めました。学生の疾患に関する情報を事前に共有し、体調の急変や発作のリスクに備えることが大学等に求められています。

また、合理的配慮の提供においては、支援の当事者となる教員に、学生が求める合理的配慮を真摯に受け止めてもらう必要があります。例えば、身体障害がある学生が、授業における合理的配慮の申し出をした事例では、学生の依頼を受けた支援担当者が当該教員に配慮内容を伝えたものの同意は得られず、最終的に学生は配慮をあきらめることになりました。このような対応は、障害者差別解消法が定める合理的配慮の不提供にあたる可能性があります。この事例は障害者差別解消法施行前の事例ですが、施行後においては、法の趣旨について当該教員に理解を求め、解決する必要のある事例です。

実技を伴う授業の履修における合理的配慮は、よく課題とされる分野です。例えば、障害等がない学生の場合は実技クラス(クラスによって実技内容が異なる)を自由に選択できるのに、障害のある学生の場合、障害を理由に希望クラスの受講が認められないといったことが起きがちです。ある事例では、当該学生は、希望クラスの受講は認められず、別の(障害に支障のない)クラスを薦められましたが、級友と離れることとなるため履修そのものを辞退しています。大学等では障害者差別解消法や同法の対応指針に基づき、同法や障害学生に対する理解を促進するとともに、適切な合理的配慮の決定プロセスを学内に位置づけることが重要です。実技担当教員の障害学生に対する理解や支援室による合理的配慮に向けた提案を真摯に受け止め、協議する姿勢を培うための取組が重要になります。

また、配慮をしたつもりが、かえって障害のある学生に心理的負担等を与えてしまう例もよくあります。例えば、学生が順番に発表する授業場面で教員が聴覚障害学生の発表を飛ばしてしまい、学生に不快感を与えてしまったという事例があります。学生から相談を受けた支援室は当該教員が所属する講座に改善を求めるとともに研修を通じた理解啓発を進めました。このように、問題発生後速やかに学生、教員、支援室による話し合いを持つことが重要です。担当者間での調整を適切に実施しないことによってその授業への学生の参加が困難になってしまう場合があります。

障害のため実技授業に参加できない学生に対し、教員が他の学生と異なる課題を与えるということは、実際によく行なわれていることと思います。こうしたケースでは、授業において障害学生が参加しやすくするための配慮がなされているか、代替課題を与える際に当該学生の心理面への配慮がなされているかといった点で検証が必要です。他の学生と異なる課題を行なうことは当該学生にとっては心理的にストレスとなる場合があります。当該学生の心理面に与える影響への配慮が重要です。教員は受講する障害学生の障害特性等に対する知識・理解を深めるとともに、年度当初から学生に配慮した授業計画(障害が参加可能なメニューを含む)の作成が求められています。

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