第18回 事前的改善措置

こんなときどうする?障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第18回 事前的改善措置

ファシリテーター

事前的改善措置とは、施設のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービスや人的支援、情報アクセシビリティの向上など、合理的配慮を提供するための環境の整備のことです。障害者差別解消法は第五条で「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない」としています。第18回は、この事前的改善措置において、障害学生支援部署が果たすべき役割を、ワークショップ形式で検討します。参加者は、大学等の支援担当者です。

検討課題

  • 教職員の理解啓発
  • 防災・災害対策
  • ユニバーサルデザイン

参加者紹介

国立大学Aさん

公立大学Bさん

私立大学Cさん

教職員の理解啓発

ファシリテーター

障害学生に合理的配慮を提供するためには、その学生に関わる教職員の理解はとても重要です。しかし、すべての大学等の教職員が、障害者差別解消法についてよく理解しているとは言えないのが、現状ではないでしょうか。みなさんの学校ではいかがですか。

公立大学Bさん

うちの大学では、新入教職員研修をはじめとして、毎年FD・SDを実施していますが、自由参加の研修にはなかなか人が集まらなくて困っています。参加してくれるのは、ある程度関心のある方ばかりなので、本当に来てほしい人は来てくれないんですよね。それに、うちは専門部署がないので、担当部署の中にもあまり理解がない職員がいたりするという、お恥ずかしい状況です。

私立大学Cさん

うちの大学でも同じような状況です。FDやSDは分野によって枠が決まっていて、うちの部署は、年1回しか枠がないので、この限られた枠の中でやろうとすると、どうしても概論的になってしまうので、なかなか理解を深めるところまでいかないのが悩みのタネです。

国立大学Aさん

全学的な規模でやる研修はどうしても概論的になってしまうよね。非常勤の先生方とかになると、ほとんど不参加だし。ただ、差別解消法ができてからは、合理的配慮の提供は義務だという認識は広まってきているので、むしろ、個別に質問が来ることが増えてきました。そこで、うちでは、障害学生が在籍する学部や学科に対して、どのように対応すべきかのコンサルテーションをしますよというアナウンスをして、声がかかれば出かけていって相談にのるという形をとっています。実際に目の前に障害学生がいるという状況の中で、より具体的な話ができるので、自然と関心も高くなるし、理解を深めることもできます。

ファシリテーター

同じ学校の中でも、理解度の格差が広がってしまっているという話はよく聞きます。具体的な課題についてのコンサルテーションというのは、良い方法かもしれませんね。教授会の中に時間を設けてもらうといった方法で理解啓発をしているという取組も聞いたことがあります。障害者差別解消法では、事業者、いわゆる私立の場合は、合理的配慮の提供は努力義務ですが、いずれ近いうちに法的義務になるとも言われています。こうした情報も含めて、まずは、合理的配慮の提供には全学的に取り組まなければならないということへの理解を図ることが必要ですね。

防災・災害対策

ファシリテーター

次のテーマは、防災、災害対策です。障害学生の中には、災害時に自ら避難できない、あるいは災害に関する情報が入手できない人も少なくありません。そこで、障害学生支援部署としては、障害学生に特化した防災、災害対策マニュアルを作成したり、避難訓練を実施したりということも、事前的改善措置として取り組む必要があります。皆さんの学校では、避難訓練などはどうしていますか。

国立大学Aさん

うちの大学では、今年初めて、障害学生の特性に配慮した避難訓練を実施しました。学内の防災対策担当部署と協力して企画したもので、教職員やピア・サポーターの学生が参加しました。地域の消防署の指導のもと、毛布などの身近な道具を使った搬送方法や、道具を使わない搬送方法を学んだ後、実際にそうした方法を使った避難訓練も行ないました。

公立大学Bさん

うちの大学は、数年前の地震で、大きな被害こそありませんでしたが全く準備がない状態で、障害学生の身近にいた学生や教職員のそれぞれの機転でなんとか避難させたという経験があります。そこで地震後に、障害学生や一緒にいた学生、教職員に体験レポートを出してもらって、防災マニュアルを作るという取組を行ないました。ただ、全学的な避難訓練も行なっていない学校なので、マニュアルは作ったものの、これをどう活かしていけばいいのかが課題となっています。

私立大学Cさん

うちの大学では、学校にいるときはまだ対応できるけれど、県外から来て一人暮らしをしている学生などが、自宅で被災したらどうなるんだという話が出ています。それは大学の支援の範囲を超えるだろうと言う人もいますが、実際には、住民票を実家に残しているため、自治体の障害者関係の緊急対応名簿には載っていない学生がいるんですよね。

ファシリテーター

そうですね。マニュアルがあっても、災害時にそれを知っている人がそばにいるとは限りません。災害が起きてから読んでいては間に合いません。また、搬送や誘導についてマニュアル化しても、実際には、障害学生それぞれに必要な助けは違います。緊急時に、障害学生自身が、自分に必要な助けをいかに具体的に簡潔に求めることができるかも重要です。事前にそうしたことについて確認したり、障害学生も参加しての避難訓練を実施したりすることが必要なのですが、そうした取組を行なっている学校は少ないようです。これからの課題と言えそうですね。

ユニバーサルデザイン

ファシリテーター

環境の整備という意味では、大学の施設や設備、あるいは教材等についても、障害学生にとってのアクセシビリティを考えることは重要ですね。施設・設備の整備などは、障害学生だけでなく、すべての学生、教職員に関わることなので、障害のある人も含め、あらゆる人にとって利用しやすいユニバーサルデザインという考え方が、近年では特に重要視されています。みなさんの学校では、ユニバーサルデザイン化について、何か取組がありますか。

私立大学Cさん

うちの大学では、今UDフォントの導入が検討されています。はじめは、附属の小・中学校のインクルーシブ教育の中で、識字障害のある子にも読みやすいということで使われていたのですが、最近は大学の授業でも投影資料やタブレットの使用が増えてきているので、大学全体でこのフォントを使用してはどうかという方向で話が進んでいます。

国立大学Aさん

それはいいですね。フォントの導入くらいなら、うちの大学でも予算が取れるかもしれない。校舎とかキャンパスの整備となると、すぐには話が進みません。うちなどは敷地自体が傾斜地にあって、古い校舎はバリアフリーにはほど遠いのが現状です。キャンパスも広いので、そのときにいる学生の移動範囲をフォローするので手一杯です。毎年、視覚障害学生のガイドヘルプをしている学生や、車椅子移動の介助をしている学生に集まってもらって、段差や溝など、キャンパス内で改修が必要な場所を調べてもらって対応している状態です。

ファシリテーター

国立大学の場合は、施設設備補助金という仕組があって、障害学生への合理的配慮についても考慮された仕組なので、一度調べてみるといいでしょう。

公立大学Bさん

うちの大学は、新キャンパスに移転することになって、今、設計について検討の最中です。バリアフリー法や県のまちづくり条例にのっとったユニバーサルデザインになるという話なのですが、検討会に呼ばれて出席してみたら、それだけでは障害学生にとってアクセシビリティとは言えないところが結構あるんですよね。せっかくの機会なので要望書を作って積極的に参加しようということになって、今、障害学生や支援学生向けに、施設や設備に関するアンケートを作っているところです。


ファシリテーター

ファシリテーター

いかがでしたでしょうか。大学等においても、継続的に障害学生を受け入れていくことを考慮した事前的改善措置を行なうことは、今後ますます重要になっていくでしょう。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」は次のように述べています。

法は、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(いわゆるバリアフリー法に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)については、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとしている。新しい技術開発が環境の整備に係る投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待される。また、環境の整備には、ハード面のみならず、職員に対する研修等のソフト面の対応も含まれることが重要である。

なお、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、後述する環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。

参考情報

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次回予告

第19回「学外機関との連携、社会資源の活用」は2月26日公表予定です。


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