1-1.「障害のある学生」とは

(1)大学等における基本的な考え方 1.「障害のある学生」とは

【学生とは】

我が国における大学等に入学を希望する者及び在籍する学生。学生には、科目等履修生・聴講生等、研究生、留学生及び交流校からの交流に基づいて学ぶ学生等も含まれます(「第一次まとめ」、「第二次まとめ」)。

【障害のある学生(以下、障害学生)とは】

障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある学生(「第一次まとめ」、「第二次まとめ」)。ここでいう障害は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を意味します。「その他の心身の機能の障害」には難病に起因する障害などが含まれます。また、「継続的に」には、断続的に又は周期的に相当な制限を受ける状態にあるものも含まれます(平成24年版『障害者白書』)。

【社会モデル】

障害学生の定義は、障害学生が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁(社会的障壁)と相対することによって生ずるものという、いわゆる「社会モデル」の考え方を取り入れています。社会的障壁を除去するための手段のひとつが合理的配慮の提供です(平成24年版『障害者白書』、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」、「第二次まとめ」)。

【障害学生以外の障害者】

「第二次まとめ」は次のように記しています。「障害者差別解消法等において、大学等に不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮等の提供が求められている障害者の範囲は、例えば、障害学生以外の、大学等が主催するシンポジウムや学会への参加者、附属学校に在籍する児童生徒、病院等の附属施設への訪問者等も含まれ、本検討会の対象範囲よりも広くなっている。このため、実際には本まとめの内容よりも広い範囲での対応が求められることに十分留意することが必要である。」

事例講評

「「障害者差別解消法」施行に伴う障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集」(以下、本事例集)に所収された事例は平成29年度は483件、平成28年度は210件(以下、平成28年度の数字はカッコ内)あります。このうち大学等の事例が447例(182例)で、これを障害種別に分類すると、視覚障害35件(7件)、聴覚・言語障害99件(48件)、肢体不自由94件(33件)、病弱・虚弱31件(11件)、重複14件(4件)、発達障害88件(31件)、精神障害60件(36件)、その他の障害※47件(12件)、障害種別記載なし9件(0件)となります。重複とその他の障害を除くと、視覚障害と病弱・虚弱の件数が比較的少ないことがわかります。
※その他障害:発達障害と精神障害の重複等

障害学生の範囲は、障害者手帳や診断書の所持者に限られず、より広い対象者を含むことがあります。この点につき、「第二次まとめ」は、次のように記しています。「障害の内容によっては、これらの資料[手帳や診断書など]の提出が困難な場合があることに留意し、障害学生が根拠資料を取得する上での支援を行なうことや、下記の建設的対話等を通じて、学生本人に社会的障壁の除去の必要性が明白であることが現認できる場合には、資料の有無に関わらず、合理的配慮の提供について検討することが重要である。」この記述は、障害者手帳や診断書の有無ではなく、むしろ社会的障壁の問題性(とそれを除去する合理的配慮の必要性)を特に強調する「社会モデル」の視点を採用している、と考えられます。本事例集においても、発達障害・精神障害のある学生が手帳や診断書を有しているかどうか定かではない事例が含まれています。

また、今日では、性別に違和を感じる学生が精神障害のある学生のなかに含まれるべきか否かという議論もなされていますが、より大切なのは、そのような学生をとりまく社会的障壁の問題性に目を向けることです。「社会モデル」の視点を応用していえば、「障害学生に該当するか否か」はいったんカッコに入れた上で、性別違和のある学生の直面する社会的障壁を除去し(合理的配慮を提供し)、就学機会を平等に保障していくことが重要です。この点、本事例集には、たとえば性別違和により学内のロッカールームを使用できず、着替えや教材の管理に苦慮した学生に対して、大学側が一定の配慮をした事例なども含まれています。こうした性別違和のある学生の事例は、さしあたり本事例集では、「精神障害」の項目に分類されています。

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