第2回 障害理解について(2)社会モデルの考え方等

一緒に考えよう!合理的配慮の提供とは

「障害者差別解消法」施行に伴い、全ての大学等についても、不当な差別的取扱いが禁止され、合理的配慮の提供が求められています。では、どんなことが不当な差別的取扱いにあたるのか、合理的配慮とは何なのか、その基本的な考え方について、わかりやすく解説します。

第2回障害理解について(2)社会モデルの考え方等

ファシリテーター

第2回は、障害者差別解消法が示す「社会モデル」の考え方について考えます。性別違和の学生からの申出に関する事例を基に、社会的障壁とは何か、また、大学が取り組む社会的障壁の除去とは等について、ワークショップ形式で、意見交換していきます。
ワークショップの参加者は、いずれも、大学の障害学生支援の実務担当者です。


検討課題

  • 入学後、すぐに対応が必要な課題
  • 授業、実習等で生じる課題
  • 学外への情報発信、情報開示等に関する課題

参加者紹介

事例提供者・私立大学Aさん

参加者・私立大学Bさん

参加者・国立大学Cさん


 Aさん

Aさん:では、性別違和のある学生から相談があった事例について、紹介させていただきます。この事例は、最初は障害学生支援室ではなく、カウンセラーへの相談から始まりました。性別違和でロッカールームが使えず着替えの場所に困っている、教材等の荷物も置き場がないために毎日持ち帰っていて、とても大変だということでした。相談内容がメンタルのことではなくて物理的なものだったため、カウンセラーから障害学生支援室に連絡があり、支援室で対応することになりました。学生が所属する学部の先生方とも協議し、配慮を提供することになりました。着替えについては多目的トイレを使ってもらうことにし、荷物の保管用には、学生が使いやすい場所に鍵のかかる専用ロッカーを設置しました。学生は納得して、問題なく修学しています。以上です。

性別違和は障害か

Bさん

Bさん: 最近よく話題になるLGBTのT、トランスジェンダーですよね?これは障害なんでしょうか。実際「我々は障害者ではない!」と発言している当事者をテレビで見たこともあります。障害学生支援室が扱う問題なのかというところが、ちょっと疑問なんですが。

Aさん

Aさん:障害かどうかは私もよくわかりませんが、実際に困っていて、メンタルを扱う相談室では対応できないとなると、うちの部署くらいしか適当な窓口がないんですよね。

ファシリテーター

ファシリテーター:性別違和がいわゆる障害かどうかについては専門家の間でも議論があります。そこで重要なのは「社会モデル」の考え方です。「社会モデル」とは、「機能障害」ではなく「社会的障壁」の問題性に着目する視点です。性別違和のある学生の直面する社会的障壁の問題性に着目し、教育を受ける同等の機会を保障していくことが重要となります。

学生生活上の支援

Cさん

Cさん:ウチの大学でも障害学生支援室で対応していますね。性別違和のある学生の場合、入学後すぐに対応が必要となるのは、やはりトイレや着替えの場所、それと健康診断での配慮ですね。健康診断は、他の学生とは別に単独で保健室で実施しました。

Bさん

Bさん:ほかにはどんな対応が必要になりますか。ウチではまだそういう学生からの申出は受けたことがないので、ぜひ教えてください。

Aさん

Aさん:はい、事例の学生の入学時の申出は、性別違和があることをほかの学生には知られたくないので、学内でも通称名を使って、自認する性別で通したいということです。そこで学籍簿や講義の履修者名簿は通称名を使うことにしました。ただ、卒業証書などの学外に出す書類については戸籍上の氏名と性別を使うということで、本人にも了解を得ています。それと、大学のホームページに、毎年度の入学者数が男女別に公表されていたんですが、これも学生からの依頼があって、男女別に分けるのをやめました。

ファシリテーター

ファシリテーター:公的な書類における氏名や性別をどう扱うかは、学校によっても判断が異なるでしょうね。以前、卒業証書を通称名とした大学のことがニュースで話題になったことがありますね。ほかにも、必要な配慮は何かありますか。

Cさん

Cさん:宿泊研修のときにも配慮が必要ですね。部屋割りとか入浴とか。ほかの学生にも関係することなので、本人ともよく話し合って、結局、その学生だけ、普段は教員が使う浴室付きの個室にしました。新入生合宿だったので大人数ですし、まだ学生同士がよく知らなかったので、特に目立つこともなかったのですが、これが少人数のよく知っている同士で、他の学生には性別違和のことは知られたくないと言われたらちょっと困ったかもしれませんね。

学外への情報発信、情報開示等に関する課題

Bさん

Bさん:なるほど、そういう問題もあるんですね。では、学外実習などでも、実習先に情報開示するかどうかという問題も出てきそうですね。学内と同じような配慮をしてほしいと実習先にお願いするのだとすれば、実習先にも情報開示しなくてはいけないし、学生が実習先に知られたくない、通称名で通したいといったときに、そのまま送り出すのかといったことも検討しなくてはいけないですね。

Aさん

Aさん:はい、この事例の学生の場合、学内の授業でも、一つ懸案になっていることがあります。この学生が履修している中に、発表課題のある授業があるんですが、声を出すと周囲の学生にわかってしまう可能性があるので、発表課題を免除してほしいという申出があったんですね。でも、この学生だけ発表を免除すると、ほかの学生にも説明が必要になってしまいますし、かといって発表させてしまうと、これまでずっと周囲の学生には開示せずに通称名で通してきたことが無になってしまいます。授業の先生からは、発表課題そのものをやめて他の課題にするという意見も出たのですが、学部では、それでは教育の目的が果たせなくなるという意見もあって、まだ結論が出ていません。

Bさん

Bさん:難しい問題ですね。同じ授業を履修している学生たちに情報開示できればいいのですが、こればかりは本人が望まないのであればできませんしね。本人にとっても納得のできる結果になるように、本人とよく話し合って方法を模索していくしかなさそうですね。また、教育の目的が果たせなくなるとの意見が出たということですが、一旦立ち止まって、発表課題を他の課題に変更することが本当に教育目的の実現を妨げることになるのかを、改めて客観的・具体的に検証することも必要でしょう。

Cさん

Cさん:就職活動でも同じような問題が出てきます。成績証明書や健康診断証明書は、基本的にはやはり戸籍上の氏名で出すことになりますから、就職を希望する企業には情報開示せずに、というわけにはいかないだろうし。

ファシリテーター

ファシリテーター:いろいろな事例やご意見をありがとうございました。性別違和のある学生が学生生活を送る上で、様々な社会的障壁があることがよくわかりました。こうした障壁を一つ一つ取り除いて、他の学生と同等に修学できる環境を整えていくためには、いろいろと創意工夫も必要だということだと思います。また、情報開示の問題や他の学生への影響なども含めて、検討すべき課題もありました。今年7月、お茶の水女子大学が、「自身の性自認にもとづき、女子大学で学ぶことを希望する人(戸籍上男性であっても性自認が女性であるトランスジェンダー学生)の受入を決定した」と発表しました。これから設備整備などの準備を始め、2020年度の入学者から受入を実施するそうです。性別違和のある入学希望者が皆さんの学校の門戸を叩くことも、今後はそう特別なことではなくなっていくかもしれません。本コラムでの検討が皆さんの参考になれば幸いです。


以上の点について、詳細は、以下の「紛争の防止・解決等のための基礎知識(1)大学等における基本的な考え方」でも解説していますので、ご参照ください。

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