1-4.合理的配慮とは

(1)大学等における基本的な考え方 4.合理的配慮とは

【合理的配慮】

  • 障害のある学生が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が行う必要かつ適当な変更・調整で、
  • 大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるものであり、かつ、
  • 大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担(以下、過重な負担)を課さないもの

(「第一次まとめ」「第二次まとめ」)

【合理的配慮の対象事項】

合理的配慮は、教育・研究等に関する事項(入学、学級編成、転学、除籍、復学、卒業、授業、課外授業、学校行事への参加等)を中心として、後述する「本来業務付随」の考え方などをふまえて判断することが必要です。ただし、学生の活動や生活面については、仮に大学等において合理的配慮の対象事項と考えにくい場合でも、自治体等との連携を通じて、学生が福祉サービス等を利用できるような働きかけが大切になるときもあります。

【過重な負担の有無】

大学等は、ある配慮が過重な負担となるか否かは、個別の事案ごとに、以下の諸要素を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断します(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下、「基本方針」))。

  • 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  • 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  • 費用・負担の程度
  • 事務・事業規模
  • 財政・財務状況

大学等は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましく、他の実現可能な措置を検討・提案する必要があります(「基本方針」、「第二次まとめ」)。

【本来業務付随、同等の機会、本質変更不可】

以下の3つの要素は、過重負担の文脈において判断されるべきであるか、あるいは過重負担の文脈とは独立して判断されるべきか定かではありませんが、いずれにしても、ある配慮が合理的配慮だといえるためには、これらの要素も満たす必要があります(「基本方針」)。

  • 本来業務付随(事務・事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること)
  • 同等の機会(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること)
  • 本質変更不可(事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと)

【性別と年齢】

障害者差別解消法は、「障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて」合理的配慮を提供しなければならない、と定めています。合理的配慮を提供する際には、障害の状態に加えて、性別や年齢を考慮に入れることも必要です。

事例講評

1.個々のニーズ

合理的配慮は、個々の障害学生のニーズを満たすものです。たとえば、建物の入口にある段差を取り除いてほしいという車いすを利用する学生Aさんのニーズ、墨字の印刷物の内容を知るために情報保障をしてほしいという視覚障害のある学生Bさんのニーズ、音声言語で提供される授業の内容を把握するために情報保障をしてほしいという聴覚障害のある学生Cさんのニーズなど、障害学生のニーズは個人ごと、場面ごとに異なります。

2.社会的障壁の除去(の実施)

合理的配慮は、社会的障壁の除去を実施するものです。たとえば、車いすを利用する学生Aさんのニーズを満たすために、大学が建物の入口にある段差にスロープをかけることにより、物理面の社会的障壁が除去されることになります。また、視覚障害のある学生Bさんのニーズを満たすために、職員が墨字の印刷物をテキストデータにしてBさんに手渡すことにより、Bさんのパソコンでテキストデータを読み上げることができ、情報面(あるいはコミュニケーション面)の社会的障壁が除去されます。聴覚障害のある学生Cさんのニーズを満たすために、大学がノートテイカーを授業に導入することにより、情報面(あるいはコミュニケーション面)の社会的障壁が除去されます。

3.非過重な負担

合理的配慮は、過重な負担を伴わないもの(非過重な負担のもの)を意味します。ここでは、過重な負担の例を2つ紹介します。ひとつは、公共交通機関と自転車による通学のみを認めている大学で、両下肢機能障害がある学生が、自動車通学と大学敷地内の駐輪場利用とを希望したところ、大学側が、自動車通学を認めたものの、「大学敷地内に貸出可能な駐車場がないこと」などを理由に駐車場利用を認めなかった、という事例です。この事例では、「大学敷地内に貸出可能な駐車場がないこと」が、とくに「実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)」の観点から、過重な負担にあたるかどうかが問題になるでしょう。

もうひとつは、聴覚障害のある学生が、手話通訳や文字通訳を可能にする機材等の導入を希望したところ、大学側が、可能な限り、本人が希望する授業・学会等への参加の際は、手話通訳者や同時通訳を可能にする機材等を導入するとしたものの、「金銭的な理由により、全ての対応は難しい」と判断した事例です。この事例で、大学側は「金銭的な理由」という「費用・負担の程度」の観点から、本人の希望に全て対応することは過重な負担になる、と判断していますが、具体的にどの程度の金額を超えると過重な負担といえるかが問題となるでしょう。

4.意向の尊重

合理的配慮は、障害学生の意向を尊重したものです。たとえば、発達障害のある学生が、書くことと聞くことを一度にすることに困難さを感じており、教員にパワーポイントをできるだけ紙の資料にして渡してもらうよう依頼した事例があります。この依頼は聞き入れられたのですが、教員がこの資料を他の学生がいる前で渡したため、この学生は、自分が特別扱いされているように思われるのではないかと不満(不安)を抱きました。そして、この学生は、教員に資料を封筒に入れて手渡すことを求めたところ、この意向は尊重され、採用されることになりました。

ただし、学生の意向は常に採用されるわけではありません。たとえば、全介助が必要な学生が、1.男性、2.直接雇用、3.一人専属、4.学生を抱えきれる体力の4条件を満たす介助員を希望した事例があります。この事例で、大学側は次のように対応しました。「関係者、学生及び保護者との話し合いを繰り返した。直接雇用かどうかについては、大学の判断とさせて欲しいこと、一人専属については、業務委託先の人員の状況に依存するため、意向は尊重するが実現できないこともある旨伝達したが、なかなか同意が得られなかった」。この事例では、学生の意向は尊重されていますが、(過重な負担により)完全には採用されませんでした。

意向の尊重は、プライバシーとも関係します。大学は、学生の意向を尊重して、他の学生からの視線に注意を払ったり、プライバシーを守ったりしながら、合理的配慮を提供することも求められています。ただし、他者の視線やプライバシーを考慮に入れると、大学が提供しうる合理的配慮の範囲が狭まってしまうこともあります。たとえば、「できるだけ障害について知られたくない」「特別な下着を装着していることを知られたくない」という学生の意向を考慮に入れた結果、級友のサポートや学生ボランティアによる支援ができなくなったという例があります。

5.本来業務付随

合理的配慮は、大学の本来の業務に付随したものです。たとえば、大学は、大学の教育とはまったく関係のない、学生のプライベートにおいて必要な配慮を、その学生に提供する必要はありません。また、トイレ介助や食事介助という配慮が、大学の本来の業務に付随するかどうかが問題となりますが、現時点では、この問題についての結論は出ていません。

6.機会平等

7.本質変更不可

合理的配慮は、学生間の機会平等を実現するものであり、また教育の本質を変更するものではありません。機会平等が損なわれる事態と、事柄の本質が変更される事態は、必ずしも常に同時に生じるわけではありませんが、しばしば同時に生じます。ここでは、機会平等と本質変更不可の両方に関わる事例を3つ取り上げます。

1つ目は、学生が、得意科目で習得した単位を、不得意な語学系科目・情報系科目の単位として認定してほしい(卒業要件を変更して単位認定をしてほしい)と要望したところ、大学が、ディプロマ・ポリシーの観点から、この要望を認めなかったという事例です。この事例では、学生の要望が、ディプロマ・ポリシーに照らして教育の本質部分を変更するか否か、他の学生との機会平等を損なうか否かが問題となります。

2つ目は、文学部の受験を希望する学生が、聴覚障害ゆえにリスニングが難しいため外国語科目での支援を問い合わせたところ、大学が、「リスニングやスピーキング以外の手段で学ぶということでは、学部の教育目標の到達を保障でき」ず、リスニングやスピーキングはカリキュラム上は避けて通れないため、代替措置等の個別支援は不可能である、と判断した事例です。この事例では、学生の要望が、入試内容の本質部分を変更するか否か、他の受験生との機会平等を損なうか否かが問題となるでしょう。

3つ目は、学生が、子宮頸がんワクチンの接種による後遺症により、学習障害や記憶障害があるため、試験科目や問題の変更をして欲しい、と申し出たところ、大学が、「試験科目や問題内容を変えることは、本学の教育内容を踏まえた入学試験としてできない」と判断した事例です。この事例でも、学生の要望が、入試内容の本質部分を変更するか否か、他の受験生との機会平等を損なうか否かが問題となるでしょう。

さらなる留意点

以上において、本事例集に寄せられた事例を参考にして、合理的配慮の7要素がどのようなものであるかを概観してきました。この講評の最後に、合理的配慮に関してさらに留意すべき事柄を3点ほど触れておきます。

まず、大学等は、ある配慮が過重な負担にあたるか、本来の業務に不随するか、事柄の本質を変更してしまうかなどを、主観的・抽象的・一面的ではなく、客観的・具体的・総合的に判断することが必要です。なお、平成28年度事例集に寄せられた事例のなかで実際に客観的・具体的・総合的な判断がなされたか否かは、この講評では一切評価していません。

次に、本来業務不随、本質変更不可、機会平等に関する問題は、「事務・事業への影響の程度」の観点から、過重な負担の文脈で判断することができるかもしれません。もっとも、このことは形式的な問題です。いずれにしても重要なのは、客観的・具体的・総合的な判断がなされているかどうかです。

最後に、学生のプライバシーは、合理的配慮のみにかかわる問題ではなく、そもそも大学が個人情報保護の観点から守らなければならないことでもあります。たとえば、教員がある学生に摂食障害があることを授業中に他の学生の前で話してしまい、授業への参加ができなくなった、と保護者より申立があった事例もあります。

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