第19回 学外機関との連携、社会資源の活用

こんなときどうする?障害学生支援部署の役割

「障害者差別解消法」施行に伴い、増加が懸念される紛争を防止・解決するために、大学等はどのような対応をしていけば良いのか、障害学生支援部署が果たすべき役割とは何か、架空の講座やワークショップの中で、様々な課題や解決方法について紹介していきます。なお、ここで紹介する事例は、大学等の対応を検討する上で必要な要素を盛り込むために、よくある状況や対応を想定して創作したものです。あくまでも架空の事例であり、ある特定の事例に基づくものではありません。

第19回 学外機関との連携、社会資源の活用

ファシリテーター

障害学生への支援や合理的配慮の提供は大学等が実施すべきものではありますが、現実問題としては、学内の資源で提供できるものは限られています。そのため、必要に応じて学外機関との連携や、社会資源を活用することが重要となります。今回のコラムでは、どのような場面でどのような連携、活用ができるかについて、ワークショップ形式で、具体事例を通して考えます。参加者は、大学等の支援担当者です。

検討課題

  • 通学支援(公共交通機関の利用、通学路の安全確保)
  • 生活介助(自治体の福祉サービス、医療機関等との連携)
  • 点訳、手話通訳、要約筆記等の支援団体との連携

参加者紹介

国立大学 Aさん

私立大学 Bさん

私立大学 Cさん

通学支援(公共交通機関の利用、通学路の安全確保)

ファシリテーター

では、まず通学支援について考えましょう。ある大学で、車椅子を利用している学生が、大学の最寄駅からキャンパスまでスクールバスを利用したいと申し出てきました。この大学では、バスの運行を委託しているバス会社の決まりで車椅子用のスロープの設置は運転手が行なわなくてはならないとされていたんですね。運転手がスロープを設置して車椅子の乗降を行なうには、バスを駐車しなければなりません。ところが、乗車場所になっている駅前ロータリーは、駐車禁止だったんですね。それを理由として、この大学は配慮を提供しませんでした。結局、この学生は、保護者が運転する自家用車で通学することにしたそうですが、この事例、ほかに対応方法はなかったでしょうか。

私立大学 Bさん

その学生がバスを利用する時間帯に、スロープ設置のための大学職員などの支援者がバスに同乗しておくことはできなかったんでしょうか。

私立大学 Cさん

毎日、その学生の履修に合わせて支援者を確保するのは、学校の規模によってはかなり難しいんじゃないかな。それに、スロープの設置者を運転手としているのは会社の規約だろうから、ほかの人間が設置してもいいのかという問題もあるよね。

国立大学 Aさん

バス停を移動させることはできなかったんですかね。駅前ロータリーが駐車禁止でも、そこから少し離れたところで、駐車しておける場所を探すとか、警察署に相談してみたらよかったんじゃないかな。

ファシリテーター

確かに、駅前ロータリーという公共の場所を利用する話なので、大学だけで解決しようとするのは難しいですね。Aさんがおっしゃるように、警察署に相談してみたら解決策が見つかっただろうと思います。例えば、この学生は車椅子利用者ということですから、おそらく身体障害者手帳を持っているでしょう。各警察署は、身体障害者等に対して「駐車禁止等除外標章」というものを交付していて、これを駐車中の⾞両の前⾯窓ガラスの⾒やすい箇所に提示しておけば、駐車禁止の除外対象になります。警察署に相談していたら、このケースがその対象になるかどうかも含めて、何らかの解決策が見つけられたかもしれませんね。

私立大学 Cさん

うちの大学ではないんですが、やはりスクールバスに関する話で、車椅子でのバスの乗降を介助してほしいという申し出があったけれど、事故が起きた場合の責任がとれないから断ったという話を聞いたことがありますが、これはどうなんでしょう。

ファシリテーター

合理的配慮の提供が義務となった以上、バスの乗降だけでなく、学内移動等、事故が起きる可能性のある場面はたくさんありますから、責任がとれないから配慮を提供しないとは言っていられないですね。配慮を提供せずに事故が起きたとしても、責任は追求されることになるでしょう。これは、平成元年、差別解消法ができる前ですが、中学校で同級生による車椅子介助によって起きた事故について、中学校を設置する自治体の損害賠償責任が認められた判例があります。腎臓機能障害で人工透析によって骨が弱っている生徒が、同級生の押した車椅子から転落して骨折したケースなのですが、判決によると、「中学校長は障害をもった生徒を受け入れる場合、その病状等について小学校や両親、本人から事情を聴取するのみでなく必要に応じて医者の診断書あるいは医者からの事情聴取をするべきであり、併せてこの生徒の取扱いについて助言を受ける方策を講じなかったのであり、この点に過失がある」としています。このケースがそのまま障害学生支援にも当てはまるかどうかはわかりませんが、障害のある学生を受け入れる以上、大学等は、合理的配慮の提供において、個々の学生への支援の仕方を正しく把握しておかなければならないといえるでしょう。

生活介助(自治体の福祉サービス、医療機関等との連携)

ファシリテーター

では次に、生活介助について考えましょう。ある大学で、トイレ介助に関する支援の申し出があったけれど、人的支援は難しいので、保護者にやってもらうということで、大学は施設改修だけを行なったという事例があります。みなさんの大学では、こうした申し出について、どう対応されていますか。

国立大学 Aさん

うちの大学で、普段は自治体の福祉サービスを利用している学生なんですが、夏休みに学外実習に行くことになって、夏休みは自治体サービスの対象外なので、大学で支援してもらえないかという申し出があった事例があります。このときは、夏休み期間でも大学が定めた資格取得のための実習なので支援してもらえないかと、学生本人から自治体に相談してもらって、サービスは受けられることになったんですが、月に何時間と決まっているので、実習全部はカバーできなかったんですね。そこで、足りない分については大学が負担することにして、委託契約をしている事業所からヘルパーを派遣してもらいました。

私立大学 Bさん

なるほど、大学が全てをやるんじゃなくて、自治体のサービスも利用しながら、という方法があるんですね。

ファシリテーター

自治体のサービスには、障害の程度などを勘案して支給が決定される「障害福祉サービス」と、自治体の裁量で柔軟に実施できる「地域⽣活⽀援事業」の2種類があります。この「地域生活支援事業」を活用することで、大学等だけではできない支援を学生が受けられるようになるケースも少なくありません。自治体の相談支援専門員とうまく連携して、学生とこうしたサービスを結びつける支援を行なうことも、大学等の支援担当部署の重要な役割です。平成30年度から始まった「重度訪問介護利用者の大学修学支援事業」についても知っておいたほうがいいでしょう。また、地域との連携という意味では、医療機関との連携も重要です。学生の主治医から学生の障害の状況や対処方法を聴取することはもちろんですが、発達障害や精神障害のある学生への対応について相談できる医師やカウンセラーが学内だけでは確保できない場合には、地域の医療機関と連携して相談先を確保しておくことも必要でしょう。また、発作等の緊急時に受け入れてくれる医療機関も確保しておきたいですね。

点訳、手話通訳、要約筆記等の支援団体との連携

ファシリテーター

では、次に点訳、手話通訳、要約筆記などの情報保障について考えます。ノートテイクやパソコンテイクについては、支援学生を養成している学校も少なくないと思いますが、点訳や手話通訳については、苦労されている学校が多いとも聞きます。皆さんの大学ではいかがですか。

私立大学 Cさん

うちの大学で、初めて全盲の学生が受験することになりまして、入試問題を点訳することになって点訳業者を探したんですが、費用の点でかなり難しくて、どうするか、今ちょうど検討しているところです。

ファシリテーター

点訳業者もいろいろで、かなり高額を要求されるケースもあるようですね。入試問題や定期試験問題の点訳については、全国高等学校長協会がやっている入試点訳事業部というところがあります。実績もあり、多くの大学等がお願いしているので、こちらに相談してみると良いと思いますよ。

私立大学 Bさん

うちでは、難聴の学生から、グループワークに手話通訳をつけてほしいという申し出があるのですが、ゼミのグループワークともなると、かなり専門用語も飛び交うものですから、普通の手話通訳者では対応できないことが多くて困っています。要約筆記についても、学年が上がるごとに難しくなっていて、院生ともなると学会参加のときの情報保障をどうするのかが、課題になっています。

ファシリテーター

それは、多くの大学等で課題になっていることですね。要約筆記については、その学科を専攻した先輩学生や卒業生にお願いして、支援チームを作って対応しているといった話を聞きますが、それでもなかなか人数を揃えるのが難しいようです。地域には手話通訳や要約筆記を派遣している支援団体がありますから、そういうところとうまく連携して、支援者を確保できるようにしていくことが必要になりますね。支援団体に所属する手話通訳者に、事前に教材などを渡して勉強してもらい、専門用語に対応できる手話通訳者のネットワークを構築中という大学の話を聞いたことがあります。また、近年は、国際会議などにも対応できる、学術手話通訳を育てようという動きも出てきているようです。こうした流れに、大学等の側からも協力できることはありそうですし、人材育成と障害学生支援がうまくつながっていくといいですね。


ファシリテーター

いかがでしたでしょうか。今回は、学内だけでは担保できない支援について、学外機関や社会資源をどう活用していくかについて考えました。みなさんの地域にも様々な福祉サービスや支援団体があります。学生のニーズが、大学等が提供できる配慮、支援だけではカバーできないときに、こうした学外機関や社会資源と学生をつなぐ橋渡し役になること、あるいはコーディネーターになることも、障害学生支援部署に求められている役割のひとつです。本コラムが、地域のさまざまな機関やサービスについて調べたり、今後のための連携の取組のきっかけになれば幸いです。

参考情報

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次回予告

第20回「障害のある留学生、障害学生の海外留学」は3月18日公表予定です。

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