「紛争」等の概念について

紛争とは

障害学生支援の場で「紛争」という言葉を聞くと、例えば非難応酬などの感情的にこじれてしまったトラブルや、裁判などの大きな揉め事をイメージする方もいるかもしれません。しかし、本調査における「紛争」の概念は、そのイメージとは異なります。本調査では、大学等と学生等とが対立した状況で、自己の利益の実現のため、相互に要求と拒絶を行なっているプロセスを、「紛争」と理解します(注)。例えば、学生がエレベーターの設置を要求したのに対し、大学がコストを理由にその要求を受入れない状況(対立した状況)で、学生と大学が一歩も譲らず、エレベーターの設置に関して相互に要求と拒絶をしているプロセスが「紛争」です。

建設的対話とは

これに対して、「建設的対話」とは、学生の抱える困難を解決するため、大学等と学生等がお互いに協調するプロセスをいいます。例えば、学生がエレベーターの設置を要求したのに対し、大学はコストを理由にその要求を受入れず、学生の困難を解消しうる代替案として教室変更措置を提案したとします。学生は、その提案を納得して受入れるも、教室変更措置に加え、必要に応じてインターネット中継を実施することも希望し、大学がそれを受入れる、といったプロセスが「建設的対話」です。ここでは、双方の意向と事情が考慮に入れられつつ、学生の困難の解決に向けた協力がなされています。

紛争をコントロールする

大学等が、学生からの申し出を受付け、話合いをするプロセスでは、「紛争」の側面と「建設的対話」の側面が混在することがあります。そのような場合、「紛争」を適切にコントロールし、「建設的対話」を図ることにより、学生も納得できる合意の形成を目指すことが、大学等に求められます。また、大学等が、「紛争」が継続し全面に出ることを防止し、「建設的対話」による相互理解に努めることは、感情的にこじれる事態や裁判に「紛争」がもちこまれる事態などを防ぐうえでも重要です。それらの事態の解決に要するコストはけっして小さくありません。

紛争の防止、解決

たしかに、大学等と学生等との話合いの場で、一時的・局所的な「紛争」が発生するのは、ある意味では仕方がないことかもしれません。しかしながら、学生の機会の平等の点からも、大学等のリスクマネジメントの点からも、「紛争」の継続化・全面化(対立した状況において要求と拒絶のプロセスが長期間継続し、話合いの場が「紛争」一色に染まること)を防止する必要性は高いといえます。そのような意味での「紛争の防止」に役に立つ情報を収集し提供するのが、本調査の目的です。加えて、継続化・全面化してしまった「紛争」が学内でどのように解決されているか、また裁判所を含む学外機関に「紛争」がもちこまれた場合に、それがどのように解決されているか、という意味での「紛争の解決」に関する情報を収集し提供することも、本調査の目的です。
(注)例えば、六本佳平『法社会学』(有斐閣、1986年)では、「『紛争』とは、1)具体的かつ特定的な行為主体の間における、2)生活上の真剣な利害の対立に基づくあらそいであって、3)相手方の行為自体に対する働きかけを伴う直接的なあらそいであり、(3)を意味の次元でとらえれば)要求とその拒絶という伝達を伴うあらそいである」と記されています。
※「障害者差別解消法」及び合理的配慮の提供についての詳細は、以下の内閣府ウェブサイト「障害を理由とする差別の解消の推進」ページでご確認ください。

合理的配慮の提供をめぐる紛争発生についての概念図