第1回 障害理解について(1)大学等の責務とは

一緒に考えよう!合理的配慮の提供とは

「障害者差別解消法」施行に伴い、全ての大学等についても、不当な差別的取扱いが禁止され、合理的配慮の提供が求められています。では、どんなことが不当な差別的取扱いにあたるのか、合理的配慮とは何なのか、その基本的な考え方について、わかりやすく解説します。

第1回障害理解について(1)大学等の責務とは

講師

第1回は講座形式で、障害者差別解消法の精神に基づく大学等の責務について考えます。受験時の事前相談における対応を題材に、障害のある学生を受け入れるにあたっての対応が、法に照らして「不当な差別的取扱い」になっていないか、「合理的配慮」の不提供となっていないかを踏まえ、どのように対応していけば良いのかを検討します。


検討課題

  • 不当な差別的取扱いの禁止
  • 合理的配慮の提供義務
  • 同等の機会
  • 建設的対話

まず、障害のある学生を受け入れるにあたっての対応から見ていきましょう。場面は入学試験後に行なわれた保護者面談です。



保護者

保護者:息子は発達障害のため、聞くことによる情報取得が苦手で、文字に書かれていれば理解できるのですが、話を聞くだけでは内容をうまく理解できないことがあります。また、二つ以上のことを並行してできないところがあって、授業を聴きながら板書を書き写すといったことが苦手です。それでも、今まで普通校で頑張ってきて、これからも、この大学で勉強したいと希望していますが、受け入れてもらえるでしょうか。

大学

大学:大学として協力できることは協力しますが、十分にはできないこともあると思います。肝心なのは、ご本人が障害を乗り越えて頑張る強い意志があるかどうかです。保護者の協力も大事です。頑張って勉強させるという強いお気持ちはありますか。

保護者

保護者:はい、本人にも頑張らせますし、これまで以上に私たちも応援して努力させます。よろしくお願いします。

大学

大学:わかりました。それでは学内で話を進めますので、ご本人に頑張って勉強に励むようにお伝えください。


講師

この保護者面談でのやりとりを見てどう感じましたか。一見、よくある面談風景のようにも見えますが、実は大きな問題が隠されています。このやりとりの中で、大学は「障害のある学生は障害のない学生よりも強固な意志がなければいけないこと」「保護者の協力なしには入学させられないこと」を確認しています。障害のある学生に、障害のない学生には課さない不要な条件を課しているのです。

不当な差別的取扱いの禁止

入学させるにあたって、障害のある学生にだけ不要な条件を課すことは、障害者差別解消法で禁じている「不当な差別的取扱い」です。同法は、その第三章第八条で「事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」としています。たとえ「頑張って勉強して欲しい」という善意の発露だったとしても、入学者選抜において、障害があることを理由に特別な条件を課すことは「不当な差別的取扱い」にあたることを覚えておいてください。教育熱心だからこそ陥りがちな例と言えます。

合理的配慮提供の義務

また「保護者の協力なしには入学させられない」としていることは、大学に課せられた義務の一部を放棄している、保護者に負わせているとも言えます。この場合、大学に課された義務とは、障害のある学生が障害のない学生と同等に学習できるよう、必要な合理的配慮を提供することです。これは保護者の責任ではなく、大学の責務であることを理解しておく必要があります。

さて、この学生は無事入学し、大学からは、授業のポイントを文字にして伝えるノートテイクや、教員による学習支援が提供されました。次の場面は、1年次の終わりに行なわれた面談でのやりとりです。


学生

学生:ノートテイクをつけてもらえたことで、授業の内容がとてもよくわかりました。それに、先生に受講内容や勉強の進み具合をチェックしてもらえたので、授業の中でわかっていなかったことがあったのも確認できて、とても助かりました。

大学

大学:それはよかった。でも、今年の成績評価を見ると、ノートテイクをつけた科目の成績があまりよくないね。もしかして、ノートテイクで記録が残るからと甘える気持ちがあるのかな。2年生からはノートテイクをつけないで授業をうけてみたらどうかな?自力で勉強に立ち向かう、努力する気持ちが大事だよ。

学生

学生:え……、あの……、わかりました。ノートテイクなしで頑張ってみます。ただ、そうなると、先生のお話を聴くことに集中しなくてはいけないので、ノートを取るのが難しいです。板書を撮影させてもらってもいいですか?

大学

大学:それだと、努力しなくても記録が残るという意味では同じじゃないかな。自分の力で頑張ることが大事だよ。

学生

学生:……、努力して頑張ります。


講師

今度のやりとりはどうでしょうか。1年次の間つけていたノートテイクを2年次ではつけないことになっていますね。その理由は、ノートテイクをつけた科目の成績が良くないからというものです。ノートテイクがつかない代わりに、学生から申し出のあった板書の撮影許可についても却下されています。


同等の機会

前項でも触れたとおり、大学等における合理的配慮提供の目的は、障害のある学生に障害のない学生と同等に学習できる環境を保障することです。つまり、スタートラインを整えるためのものと言えます。ノートテイクは「情報保障」という言葉で表現され、聴覚障害学生がほかの学生と同じ情報(授業内容)を取得できるようにするために、よく行なわれる支援です。すなわち「同等の機会」を提供するための手段と言えます。発達障害学生の場合には、リアルタイムでの情報保障とは少し意味合いが違いますが、音による情報だけでは理解が難しいという障害特性がある場合に、授業のポイントをテイクすることで内容を理解するための支援として、よく行なわれています。従ってノートテイクをつけた科目の成績が良くないからといってノートテイク自体をやめてしまうのは、学習の保障という意味では本末転倒でしょう。学生はノートテイクが提供されない代わりに板書の撮影許可を求めましたが、これも「自分で努力することにならない」という理由で却下されています。これは、学生の障害特性についての理解不足から来ています。この学生が二つのことを同時にできないのは障害によるもので、努力して克服できることではないのですから、このままでは、ほかの学生と同じようには情報が取得できません。この状態を放置するということは、大学の責務である「同等の機会」の提供ができていないことであり、すなわち合理的配慮の提供を怠っているということになります。

建設的対話

では、大学はどうすれば良かったのでしょうか。ここで重要になってくるのが「建設的対話」です。担当の先生は、ノートテイクをつけた科目の成績が良くないと話していますが、この原因は何なのか、学生とよく話し合うことが必要です。そもそも、合理的配慮を求めるということは、この授業には何らかの困難性があるということで、本人にとっては、ノートテイクを介して情報を得ることで、積極的かつ能動的に授業に参加しようとしていることがわかります。つまり、ノートテイクを利用することが、イコール、勉強する努力を怠り、他者に頼っているということではありません。もし、学生自身、ノートテイクに頼って授業に向き合う姿勢が真摯ではなかったと思うのであれば、合理的配慮を前提とした上で、授業に向き合う姿勢を改めるように指導すれば良いのです。また、本人が一生懸命勉強しているにも関わらず、成績に反映されていないのだとすれば、支援の仕方に問題があり、十分な障害保障ができていないのかもしれません。あるいは、授業の進め方や授業内容自体に学生の障害特性に合わない部分があるということも考えられます。このため、どうすれば授業の内容をほかの学生と同じように理解することができるか、学生とよく話し合いながら、提供できる支援を模索していくことが必要です。

講師

いかがだったでしょうか。本コラムの第1回は、「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供義務」を理解し、大学の責務について考えることをテーマにしました。障害者差別解消法は「障害者はいろいろと大変だから助けてあげましょう」というものではなく、障害者でない者との同等な機会を障害者に保障し、同等な機会が保障されないことを「差別」として、その解消に取り組むことを規定している法律です。大学がその責務を果たすために求められる障害理解とは、単純に「この学生は障害があって授業の聞き取りに困難がある」と理解するだけではなく、どのような場面でどのような困難があり、どうすればその障壁を除去できるのか、より具体的なニーズの把握と対処方法の模索までを含んでいると考えましょう。

以上の点について、詳細は、以下の「紛争の防止・解決等のための基礎知識(1)大学等における基本的な考え方」でも解説していますので、ご参照ください。

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