1-3.不当な差別的取扱いとは

(1)大学等における基本的な考え方 3.不当な差別的取扱いとは

【不当な差別的取扱い】

障害のある学生(以下、障害学生)に対して、正当な理由なく、障害を理由として、

  • 財・サービスや各種機会の提供を拒否する、
  • 財・サービスや各種機会の提供に当たって場所・時間帯などを制限する、又は
  • 障害のない学生に対しては付さない条件を付ける

(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下、「基本方針」)、「第二次まとめ」)

【不当な差別的取扱いが禁止される場面】

不当な差別的取扱いは、入学前相談、入試、授業・ゼミ・研究室の選択、試験、評価、単位認定、実習・留学・インターンシップ・課外活動への参加等、修学や学生生活のあらゆる場面で発生する可能性があります(「第二次まとめ」)。

【「不当な」の意味】

「不当な」というのは、当該取扱いに正当な理由がある場合には、本法(障害者差別解消法)により禁止される不当な差別的取扱いには該当しないとの意味内容をもった文言です(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律Q&A集<地方公共団体向け>」)。

【正当な理由の判断】

正当な理由に相当するのは、障害学生に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合です(「基本方針」)。
正当な理由に相当するかどうかは、個別の事案ごとに、障害学生や大学等や第三者の権利利益(*)の観点から総合的・客観的に判断します。事故の危惧がある、危険が想定されるなどの一般的・抽象的な理由に基づく対応は適当ではありません(「基本方針」、「第二次まとめ」)。
大学等は、「正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい」でしょう(「基本方針」)。

*権利利益の例:安全の確保、財産の保全、教育の目的・内容・評価の維持、損害発生の防止等

事例講評

ある1つの事案において、不当な差別的取扱いの問題と合理的配慮の問題とが同時に発生することがしばしばあります。そのため、ある事案において不当な差別的取扱いが生じているかどうかを判断する際には、合理的配慮の問題も同時に考えておくことが大切です。ここでは、「「障害者差別解消法」施行に伴う障害学生に関する紛争の防止・解決等事例集」(以下、本事例集)を参考に、このことを確認していきましょう。この事例集には、不当な差別的取扱いにあたりうるものとして、たとえば次の3つの事例が含まれています。いずれも合理的配慮の概念と無関係ではありません。

1つ目は、英語の授業で他の学生は指名をされているにもかかわらず、聴覚障害のある学生だけが聴覚障害を理由に指名されず、悔しい思いをしたという事例です。この事例では、障害学生支援室が授業担当教員に配慮依頼文書を配布していたので、英語の担当教員は合理的配慮のつもりで、そのような対応をしたのかもしれません。しかし、この担当教員が学生の意向を尊重せず、学生と話し合うこともなく、自分だけの判断で、その学生を聴覚障害ゆえに指名しなかったのであれば、もはやそれは合理的配慮とは言えず、不当な差別的取扱いが生じる可能性があります。

2つ目は、聴覚障害のある学生が、卓球とバレーボールの授業を履修したいとの希望を有していたにもかかわらず、障害を理由にこの履修を認められなかった、という事例です。この事例で、大学側は、合理的配慮の提供可能性を検討しましたが、「体制の不足」などを根拠にして当該授業の履修を認めませんでした。もしこの「体制の不足」などが過重な負担にあたるのであれば、大学側が当該授業の履修に関する配慮を提供しなくても、合理的配慮義務に違反しません。また、ここでいう過重な負担は正当な理由になりますので、大学側が配慮を提供せず当該授業の履修をこの学生に認めなかったとしても、不当な差別的取扱いをしたことにもなりません。なお、この事例において実際に過重な負担(正当な理由)があったかどうかは、必要な情報を欠くため、この講評では判断することはできません。

3つ目は、ある障害学生が入寮を希望した際に、寮でヘルパーを利用することを求めたため、入寮を断られたという事例です。この事例で、大学側がこの学生の入寮を拒否した理由とは、寮内へのヘルパーの立入が許可できないということと、この学生が掃除や行事参加など寮生としての役割を果たすことが難しいということでした。これらのことを合理的配慮の問題として理解した場合、もしも過重な負担があれば、大学側はヘルパーの立入許可や掃除免除といった配慮を提供しなくても、合理的配慮義務に違反しません。また、もしもそうであれば、ここでの過重な負担は正当な理由になりますので、大学側は配慮を提供せず学生の入寮を断ったとしても、不当な差別的取扱いをしたことにもなりません。この事例についても、実際に過重な負担(正当な理由)があったか否かは、必要な情報を欠くため、この講評では判断することができません。

なお、不当な差別的取扱いは、障害を理由とする区別や排除や制限などを意味しますが、それのみならず、障害のみに関連する事柄(盲導犬、車いす、介助者など)を理由とする区別や排除や制限などを意味することがあります。たとえば、大学が視覚障害を理由に学内行事の参加を認めないような場合は前者にあたり、大学が盲導犬を理由に学内行事の参加を認めないよう場合は後者にあたります。先にみた3つの例では、1つ目と2つ目(聴覚障害)が前者にあたり、3つ目(ヘルパー)が後者にあたります。

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