第6回 社会資源の活用について

一緒に考えよう!合理的配慮の提供とは

「障害者差別解消法」施行に伴い、全ての大学等についても、不当な差別的取扱いが禁止され、合理的配慮の提供が求められています。では、どんなことが不当な差別的取扱いにあたるのか、合理的配慮とは何なのか、その基本的な考え方について、わかりやすく解説します。

第6回社会資源の活用について

ファシリテーター

第6回は、社会資源の活用について考えます。通学支援や生活介助、あるいは学生ノートテイカーでは対応できない専門的な情報保障等、学内の支援体制だけではカバーできない支援については、社会資源を活用することも視野に入れる必要があります。どんな社会資源をどのように活用すればよいかについて、ワークショップ形式で意見交換していきます。ワークショップの参加者は、いずれも、大学の障害学生支援の実務担当者です。

検討課題

  • 通学支援の現状と課題
  • 学内移動支援、生活介助
  • 情報保障の専門性

参加者紹介

国立大学Aさん

私立大学Bさん

私立大学Cさん


Bさん

Bさん:では、事例を紹介させていただきます。上下肢と体幹の機能障害で電動車椅子利用の学生が入学し、通学支援、学内移動支援、生活介助等について申し出がありました。通学支援については、本学では行なっていないことを説明し、これについては理解してもらいました。学内での移動支援と生活介助については、本人の希望もあって、学内でサポーターの募集をしたのですが、人が集まらず、ヘルパーを雇用しました。本人は、「ヘルパーさんに介助してもらっていると、他の学生と話す機会がなく、友達もできない」と言って、引き続き、学生による支援を希望しているのですが、現在のところ、対応できていません。

通学支援の現状と課題

 ファシリテーター

ファシリテーター:ありがとうございます。従来、通学や生活に関する支援は、多くの大学等で、修学に直接関係しないから支援対象範囲ではないとされてきました。一方で、学生が地域の福祉サービスを利用しようとしても、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)が定める訪問介護等には、「通年かつ長期にわたる外出」には利用してはならないという制約があり、通学はこれに該当するとして、支援を受けられませんでした。一部の大学等の独自の工夫や負担、自治体の裁量で行なわれる地域生活支援事業等によって支援を受けられる学生もいましたが、長年この問題は制度の空白と呼ばれ、課題とされてきた部分です。皆さんの大学ではどうされていますか。

Aさん

Aさん:うちの大学にも電動車椅子利用で介助が必要な学生がいますが、入学が決まったときに相談を受けて、一緒に市の福祉課に相談に行きました。そこの相談支援専門員の方がとても頑張ってくださって、特例として市の福祉サービスが受けられるようになったので、通学と学内の介助にヘルパーを派遣してもらっています。

Cさん

Cさん:うちの場合は、学内での移動や生活の介助は、職員や支援学生がやっています。通学については、大学ではできないことをお伝えしました。地域の支援も受けられなかったそうで、ご家族が車で送迎しています。

ファシリテーター

ファシリテーター:ありがとうございます。この問題については、平成30年度にようやく厚生労働省の「重度訪問介護者の大学修学支援事業」によって、重度障害のある学生が支援を受けられる道が開かれたところです。

Bさん

Bさん:それはどんな事業ですか。

ファシリテーター

ファシリテーター:訪問介護を受けている重度障害者が、大学等への通学支援や学内での生活介助を受けられるサービスです。詳しくは、今回の最後に、関連するウェブサイトをご紹介しますので、確認してみてください。通学や生活に関する支援が、大学等における合理的配慮の範疇かどうかについては意見の分かれるところですが、文部科学省の、障害のある学生の修学支援に関する検討会でも、「障害学生への支援として、大学等において考えるべき重要な課題」としており、大学として支援が難しい場合でも、障害学生が何らかの支援を受けられるようにコーディネートすることが求められています。Aさんのご紹介にあったように、地域の福祉サービスを受ける場合にキーパーソンとなるのは相談支援専門員です。大学等の支援担当者としては、こうしたキーパーソンと連携し、学生が支援を受けられるように手助けすることも重要です。

学内移動支援、生活介助

ファシリテーター

ファシリテーター:学内の移動支援や生活介助については、Bさんの大学ではヘルパーさんに委託しているということでしたが、Cさんの大学では職員や支援学生がやっているということですね。具体的にはどんな様子ですか。

Cさん

Cさん:電動車椅子利用の学生がいるんですが、学内には、彼1人では開けられないドアもあったりして、移動のときにも一部支援が必要なのですが、これは同じ授業を履修している学生たちが自発的にやってくれています。学食を利用する際の食事介助などはある程度ノウハウがいるので、登録している支援学生を配置していて、トイレ介助については職員が対応しています。

ファシリテーター

ファシリテーター:なるほど。生活介助等は、内容にもよりますが、学生や職員が対応できない場合は、地域の福祉サービス等を活用することも視野に入れておきたい分野ですね。ただ、事例の学生のように、そのために孤立感を感じてしまっているとしたら、どうしたらいいでしょう。

Aさん

Aさん:直接的な支援という形でなくても、交流会を開くとか、他の学生と親しむことのできる機会を設ければいいんじゃないでしょうか。そういう機会を増やしていけば、学内移動の際に自然と手を貸してくれる学生が現れたりするものですし、今は、入学したばかりで不安なんじゃないでしょうか。

ファシリテーター

ファシリテーター:そうですね。障害のある学生が孤立することのないように、他の学生と交流できる場を提供することも、障害学生支援の一環として考えていけるといいですね。学生の申し出内容を、そのまま配慮として提供できない場合でも、建設的対話を通じて、学生とよく話し合い、その申し出をした理由、つまりニーズの本質を理解できれば、別の形の配慮を提供することで、ニーズを満たすことができるかもしれません。それも合理的配慮の提供といえます。

では、次に、情報保障の課題に関する事例を紹介していただきます。

情報保障の専門性

Aさん

Aさん:はい、紹介させていただきます。聴覚障害のある学生が理系学部から大学院に進学したのですが、授業の内容がより専門的になったために、今まで配置していた学生ノートテイカーでは、的確な情報保障ができないという状態になってしまったんですね。 元々ノートテイカーに登録しているのは文系の学生が多くて、理系学部でも募集はしたのですが、なかなか集まらなくて。今はどうしても間に合わないときは、学部の先生にお願いしているような状態です。

ファシリテーター

ファシリテーター:ありがとうございます。学部でも学年が上がるにつれて専門性が高くなり、情報保障が難しくなっていくという話はよく聞きます。皆さんの大学ではいかがですか。何か良い取組がありましたら、ご紹介ください。

Cさん

Cさん:うちの大学でも、専門分野のノートテイカーや手話通訳者の確保は課題ですね。その授業を履修した先輩学生やOBにお願いするくらいしか対応策がなくて、なかなか必要な人数を揃えられないのが現状です。

Bさん

Bさん:うちの大学では、講義式の授業については、音声認識ソフトを活用しています。今、使っているソフトは、用語などをあらかじめ登録できるので、学生が所属する学部に協力してもらって、講義で使われる専門用語などを登録して、より正確な変換ができるように、ソフトを学習させています。

ファシリテーター

ファシリテーター:ありがとうございます。支援機器だけでなく、既存のソフトや機器の中にも、障害学生支援に活用できるものがありますね。人的配置が難しい場合には、これらも視野に入れると、提供できる配慮の選択肢も広がります。地域の福祉サービスや支援団体、企業だけでなく、技術や機材もまた、活用できる社会資源です。学内だけでは解決できない問題も、社会資源を活用することで解決できるケースもあるので、こうした情報も支援担当者間で共有できるといいですね。


以上の点について、詳細は、以下の「紛争の防止・解決等のための基礎知識(2)大学等における主な課題」でも解説していますので、ご参照ください。

障害のある学生が利用できる障害福祉サービスについては、以下の、厚生労働省「平成29年度障害者総合福祉推進事業_大学等に通学する重度障害者に対する支援体制構築の体系化成果報告書」が参考になります。

厚生労働省の「重度訪問介護者の大学修学支援事業」については、以下のウェブサイトでご確認ください。

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